そういう展開はニチアサにしても30分早いでしょって話。
「……久方ぶりに、平和ね」
『送り出した魔導士が文字通り手も足も出ずにやられたんだ、あちらとて対策を練るまでリソースの無駄遣いはしないだろう』
「1ヶ月くらいそのまま作戦会議してればいいのよ、1ヶ月以上も廃棄処理押し付けてきて良い迷惑だわほんと」
『全くだ、余計なタスクが増えるのは迷惑極まりない』
あの子達にイキリムーヴをかましてから数日、奇妙というか当然というかゲートが突然開かなくなった。原因は私が何代目かしらないけどアポロをボッコボコに叩きのめしたのと……あの子達も通常の機獣を苦もなく撃破できるようになってきたからだろう。となればそろそろ大型の機獣、ないし魔導士と機獣の同時投入といった所だろうか。
でもそのおかげでこうして休憩できる。本来こうして行きつけの店でコーヒーを頼むくらいの贅沢は許されて然るべきなのだ、許すまじタルタロス。
「……とはいえ破壊しておきたかったわね、アポロのディーデバイス」
『4つをあの羊が奪取したとはいえ依然6つはタルタロスに残っている。できる限り減らしておきたかったが……あの横槍は想定外だった』
アポロ、マルス、ウルカヌス、メルクリウス、ネプトゥーン、バッカス。タルタロスの有するディーデバイスはこの6つ。
私が戦ったことがあるのはマルス、ウルカヌス、アポロ、ディアナ、ケレス、バッカス……そして一度倒したのがウルカヌス、アポロ、ディアナ。アポロが変わってたのだから少なくともウルカヌスも代替わりしてると見て良いだろう。
にしても……
「あの横槍、間違いなく私の攻撃を「見て」から放ってたわ。あんなギリギリで間一髪なんてタルタロスらしからぬミスだし」
『私も同意見だ、だがディーデバイスでは間違いなく間に合わない。よって考えられるのは……』
「第一世代を持ち出したとか?」
『それこそあり得んな。確かに第一世代を大幅にデチューンして作られたのが第二世代だがあれは通常の適合率とは別にデバイス単体との適性も必要になる。そうそう見つかるなど考えられん』
テルス曰く第一世代は第二世代はおろか第三世代すら遠く及ばない圧倒的なスペックを持つらしい。その分適合者も限られる……というよりは今の適合者基準はその第一世代の使用者がベースになっているらしい、どんだけ強かったんだその人。
まあそういう訳で第一世代を持ち出す事などあり得ず、となると……
「……第三世代の2機目ができたのかしらねぇ」
『そう考えた方が自然だ。何せ1機目である私が君の手に渡ってから5年が経つ。設計図ごとロストした筈だったが……それだけの時間があればサルベージ、ないし再設計くらいはできて然るべきだ』
「思えば唐突だったわねぇほんと……」
5年前偶然裏路地で拾ったスマホと携帯がこんな非日常へと誘うとは思っても見なかった。今となっては日常となってしまっているのがかなり面倒だが……ああ、回想フェイズはキャンセル。
こういうので一々尺稼ぎとか面倒にも程があるじゃない、やるならOVAとかそういうのが筋……って何の話よこれ。
「……ただ、幾ら何でも遅くないかしら?タルタロスの技術力ならこれをもう一個作るのに然程時間はかからないと思うし……」
『恐らくは適合者探しに難航したのだろう。第三世代は第一世代の機能を可能な限りそのまま移植したデバイス、大元程ではないとはいえ適合者は選ぶ。君が適合したのは本当に類稀な偶然である事を忘れるな』
「はいはい……」
正直適合したせいで面倒ごとが増えてばかり……っていうとテルスに怒られるので適当に返しておく。あの時テルスは助けを求めていた、それをスルーする方が面倒だった、それだけ。
「……いつか礼を言わないとね、貴方をこの世界に逃した人に」
『無事であれば、な』
でもテルスと出会った事を面倒だとは思っていない。こいつはノンデリで一言多くて親かってレベルであれこれ言ってくるけど……
一緒に居るとなんやかんや楽しい相棒だ、人生1人はこういう相方が居ても悪くない……人じゃないけど。
「ゲホッゴホッ!?」
『格好つけようとして一気飲みなどするからだ……』
……訂正、やっぱりちょっと面倒だったかも。
「はあ!?なんでよ!?あいつさえ足留めすれば後は弱い魔導士しか居ないし別にいいでしょ!?」
「良くありません。世代が違うとはいえたった1人の魔導士に完膚なきまでに叩きのめされたのです、私が助けていなければ今頃貴方のディーデバイスは破壊されていましたよ?」
「それは……」
「何も言い返せませんか、そうでしょう……当分の間貴方の単騎出撃を禁じます、アポロ」
「チッ……」
組織本部の会議室にて勝手な行動をした魔導士アポロを詰め終わり、今後について思案する。
アポロを再起不能寸前まで追いつめた彼女……魔導士ユノ。5年前に一度失われた第三世代の担い手、記録だけでしか知らないが今までに3人もの魔導士を撃破した現在最も警戒するべき相手。
「……アポロでは敵わない、それに先代のアポロとディアナを単騎で撃破していることを踏まえると通常の魔導士をぶつけるにしても3人以上……」
地球はオリンピアと同時に侵攻している以上貴重な魔導士を偏って割く訳にはいかない。かと言って彼女の存在を無視し続けていれば被害は拡大する。
故、打てる手は……
「別に単騎出撃を禁じただけで地球に行くな、とは言っていません」
「は?じゃあ何アンタがお目付け役として来たりする訳?随分と暇を持て余してるのねぇオリンピアにも行ってないのに」
「私は非常用戦力だという話をもう何回したでしょうか、それとも組織の輪を乱す不穏分子として廃棄処分とでもされたいですか?」
「っ……そういうところが気に入らないのよ!」
「勝手に嫌っておけばいい。それとお目付け役というのは半分正解であり半分間違いです」
「はぁ?」
……魔導士ユノ、私が知る中で最も強い適合者。
「あの銀の魔導士は……」
相手にとって不足はない。
「私が倒します」
この世界のために、私が彼女を討つ。
「……何日休憩できたのかしらね、我々」
『合計5日だ。ちょっとした連休だったな』
「そもそもあいつらが出てこなきゃ毎日休日よ……はあ、面倒だわ」
悲しいことに休息期間は全然長くなかった。多少身体を休める事はできたとはいえ流石に短すぎる、日刊世界の危機じゃないんだぞ。
「……何よ、作戦会議してた割には今日も普通の機獣じゃない、あいつら考える脳あるの?」
『まだ決めあぐねているのではないか?今回の被害を見て改めて判断する気かもしれん』
「テストみたいなノリでゴミを投下されても困るのよ……テルス」
『ああ、行こう』
「変身詠唱、ユノ」
いつものようにいつもの如く着身。今日の1体目である鳥型の機獣をさっさと始末するべく鎌の投擲態勢に入る。久々にパフェでも食べようかななんて思ってた所にこれだ、食い物の恨みを思い知れ。
「二重詠唱、|属性付与:迅雷《エンチャント:プラズマ》、追尾……焼き鳥になりなさい!」
雷を纏わせ高速で投擲した鎌は避けようとする機獣を追いかけるように軌道を変え、瞬く間に両断。飛んでいる相手にはこれが1番楽だ、攻撃までの余裕があるのなら手っ取り早いし一瞬でケリが付く。
「二重詠唱……テルス、後2つはどうなってる?」
『片方のゲートは既に彼女らが戦っている、もう一つを優先するべきだ』
「相変わらずそういうのは早いのねあの子達。なら私達もとっとと終わらせましょうか、輝かしい引退のために」
『またそれか……』
いいじゃないか別に。5年だぞ5年、競走馬だったらもう繁殖入りしててもおかしくない年数だぞ。
「それくらいの報酬は望んだっていいじゃない……次」
いつも通り記憶処理と補修を終え、次の結界へ。こうして変わり映えのない無駄な労働を繰り返すよりはさっさと後を託して……
「……これは……」
『転移前は確かに機獣の反応はあった筈だ、だが……これはどういう事だ?』
……おかしい。次の結界内部に機獣はおろか人の気配すら一切ない。よくよく見れば街中ではなく郊外だし何故こんな所にゲートが?
「……テルス、解析お願い。結界があるってことは魔導士か機獣は存在する」
『ああ、任された』
誘い込まれた、という可能性も充分ある。2人までなら同時に相手しても勝てるだろうが流石に魔導士3人がかりでこられるとこっちも怪しい、万が一のために逃げる準備も……
「呪文詠唱」
「っ!」
『ユノ!』
「分かってる、二重詠唱ッ!」
「雷霆」
「障壁、水流!」
……先日と同じように降り注ぐ豪雷を展開した真水のバリアで受ける。幾ら呪文とはいえ基本的に自然現象と原理は同じ、絶縁体の純水で受ければこうして防げる。問題は……
「……やはり防ぎますか」
「考えてたら出て来たわね……」
『やはり待ち伏せだったか。君の惰性を上手く利用されたようだな』
「惰性とは失礼ね……さっさと姿を見せなさい。見に徹するだけの面倒な時間はそちらもお望みじゃないでしょう?」
この呪文を放ったのは私とテルスの考察が正しいのなら第三世代の使い手。即ち今までゴリ押しできたデバイスのスペック差が埋められているということ。
「そうですね、あの4人にはアポロを向かわせています。故様子を見る理由もなく」
「……へえ」
『……』
少し挑発すればあちらも乗り気のようですぐ姿を現した。見た目は私と同じ高校生くらいだけど……
『……馬鹿な』
「テルス?」
「魔導士ユノ、私が知る中で最も強き戦士。闇雲に戦力をぶつけても此方が疲弊していくだけ……組織はそう判断しました」
「今更が過ぎるわね。2年前にとっとと気付くべきだったのよ。チマチマチマチマと時間だけ奪っていくような弱い機獣ばっか持って来て……」
「それはアポロとディアナを撃破した貴方を組織が一時的に放置したためです。2年前の時点で地球に侵攻する理由は貴方の持つカオスデバイスの回収以外になかった」
「だったら何もしてくれなくても良かったんじゃないの?」
「情報収集も兼ねていましたので」
売り言葉に買い言葉の口論を繰り広げるがさっきからテルスの様子がおかしい。いつもなら皮肉混じりの考察を垂れ流している筈なのに。
「しかしディーデバイスを奪ったオリンピアの住人が此方に来た事で事情が変わりました。組織はディーデバイス奪還において貴方を最大の障害と判断した」
「そう、舐められたものね。魔導士1人でどうにかできると判断されるなんて」
『いや……彼女ならば、あり得ない話ではない』
「さっきからどうしたのよテルス……」
口を開いたと思えば今度はなんだこいつ。
「いえ、なります」
『彼女を、私は知っている』
「どういう……っ」
予想通り、彼女が取り出したのは第三世代。
『彼女の名はシルウィア・ウヌス。第一世代の開発者、ロムルス・ウヌスの実娘』
「……それが、何?」
『ロムルス・ウヌスの妻レムス・ウヌスは……その第一世代の適合者、彼女がその適性を受け継いでても何もおかしくはない』
「……」
……要するに序盤で出て来ていいキャラじゃない、と。というかなんでそんな事知ってるんだこいつは。
「私の適合率は85%、貴方の78%を上回りデバイスの世代も同じ。負ける道理は何もない」
「適合率を上回ってるだけなら何人も居たわ。それでも私を倒すには至らなかった」
「それはデバイスの世代格差があったからです。それもなくなれば貴方が勝てる道理は1つもない」
「言ってくれるじゃない……ねえテルス、なんであの子の事知ってるの?」
カオスデバイスを構える彼女に警戒しながらテルスに疑問を投げかける。こいつがこんな反応を示すのは初めてだ、きっと理由がある筈。
『……彼女は』
「では始めましょうか、同じ第三世代の担い手として」
『5年前、私を搭載したカオスデバイスと当時11個存在したディーデバイスの1つを地球に転送した……』
「変身詠唱」
『謂わば、私と君を引き合わせた人間だ』
「ユピテル」
「……そう」
そっか、あの子……私にとっては恩人のようなものなのか。それがタルタロスに記憶改竄されて今は敵、と。
『ユピテル、着身完了』
……ねえこの展開ニチアサはニチアサでも時間帯間違えてない?




