別行動は大体片方がピンチになるよねって話。
「空想具現、解析」
「データにない魔導士……収集する時間はない、仕留める」
「……なるほどね。皆、調律を。あれなら彼女の芸当に対処できるわ」
「そういや三葉ちゃんが言ってましたね、あの人は時間を自由自在に操るとかなんとか!《空想具現!」
「何をする気か知らないが……」
「つまり弍乃はんに対象を合わせればええって事やな!調律!」
何やら私達とは体系の違う呪文を使っているようだがやる事は変わりない。彼女らを倒しても次がいるとはいえあれらは大した障害にならない、此処でリソースを多少解放しても問題はない。
「さあ、来なさい?」
「……!」
時空加速を十倍速で起動。動かれる前に始末……を……
「な、に?」
「なるほど……間一髪、かな」
「頭痛がすげぇが……何が起きた?」
……不意打ちで起動し、致命傷を負わせる筈だった一撃は何故か同じ速度で動いたピンクの魔導士に受け止められていた。おかしい、何故あちらも時空加速を起動できる?
「彼女に合わせて私達も一時的に時間の流れから放り出されたみたい。調律がなければ一方的に戦闘は終わっていたんじゃないかしら」
「えらい初見殺しなこって。サンドリヨンが居なきゃ全滅まっしぐらだったわ……逆にあの子達はようこれに対処できたな」
「あの子達もこれを使えるって話ですから……私達の限界が来るまでどうにか足留めして、後は任せちゃいますかね!」
「それは美しくないわ、私達だけで彼女を取り戻すくらいの気概を持ちなさい。《c空想具現、光流」
「っ!」
困惑している隙に放たれた光の膜を間一髪で受け流し、体勢を立て直す。なるほどどうも彼女らは時空加速を使っている訳ではない、私が変速するとそれに引っ張られているのを見るに私に身体の状態がシンクロしている、と言うわけか。最初に様子を窺ったのは失敗……だが身体は慣れていないようだ、このまま負荷を与え続ける。
「プラン変更……」
「近接仕掛けてきたと思ったら今度は引き撃ち?舐めてくれるなぁオイ!」
「一人で突っ込まないでよレッドフード。空想具現、光流!」
「行ったれブライア!空想具現、鼓舞!」
「挟み撃ちで行きましょう!空想具現、置換!」
「芸がないわね、本当の貴方はそんなものじゃないでしょう。空想具現、反射」
「……効果なし」
消耗狙いでレーザーの引き撃ちに切り替えたがあまり効果がない、点でしかない光弾の大半は面である光の膜に相殺され、それをすり抜けた一部は逆に跳ね返って此方へ向かってくる。どうもこういう攻撃は対処し慣れているらしい、ならば。
「捕まえたぞオラァ!」
「不意打ちは悪役の特権じゃないんですよっ!」
気付けば引き撃ちの速度に追いつかれ、逃げ場のない位置で挟撃を貰おうとしている……此処だな。
「ストライ……なっ、パンドラ!?」
「と、止まれぇ!?」
「これは……っ、位置を入れ替えたのか」
「その通り」
「ぐっ……やっぱり芸がないわね、貴方っ!」
被弾する直前で後方支援をしていた1人と位置を入れ替え。そのまま支援を潰そうと先程から的確な邪魔しかしてこない銀の戦士に大剣を振り下ろす。
「だったらこっちもやるよ。空想具現、置換!」
「いきなりぶっつけ本番かよ!相変わらずだなパンドラ!」
「私達にアドリブは付きものでしょ」
「言えてますねそれっ!じゃあ行きますよ、名付けてシャッフル戦法です!」
「いやもうちょっと捻った名前にせえや!」
「随分と、余裕だな」
「ふふっ、貴方はただ強いだけだもの。それだけで単純すぎて芸がないし……」
剣は確かに銀の戦士に直撃した。確かに傷も負わせた……だが怯まず、寧ろ笑みを浮かべる余裕すら持っている。彼女らとは明らかに場数が違う、なんだ、こいつらは?
「何より自分が強者であるという傲慢を捨てきれていない、それで寝首を掻かれるのはテンプレよ!」
「っ、ゼロ距離!?」
「さあ、爆ぜなさい!」
「効くとでも……!」
再び振り上げた大剣を掴まれ反射で見据えた銀の戦士は自分諸共巻き込む勢いで光弾の充填を始めていた。一体何を見ていたのか知らないが不意打ちでもなければ転移で同士打ちに持ち込める、露骨な攻撃など……
「……なーんてね、ブラフよ」
「撃ってこない……!?」
「やっぱりウチと入れ替わってくると思ってたわ、今やで!」
「その寝ぼけた頭を目覚めさせてやるよ、弍乃ォ!」
「後輩ちゃん達をこれ以上泣かせないでもらえますか!」
「チイッ!」
してやられた、疑うべきだった筈なのに迂闊に入れ替わったのは明確なミスだ。支援役同士を潰そうとしたのはあちらにとっても想定済み、今度こそタイミングの合った奇襲が飛んでくる。
「……反応が遅れた、反省点だな」
「嘘だろオイ、これも防ぐのかよっ!」
「フラグ回収とか特にしてませんよねぇ!?」
「迎撃再開」
「っ……!」
ただ、時空加速の負荷は想定以上に彼女らを蝕んでいるらしい。微妙に動きがブレた隙に大剣を合わせて防ぎ、返しの薙ぎ払い……
「2人とも、こっちも無限に置換を使える訳じゃないよ」
「悪りぃパンドラ……助かった」
「あっちもこっちも入れ替わってばっかだと頭がこんがらがりますね……なんか頭すっごく痛いですし」
「それはこの空間の負荷だろうね……でも私達の勝利条件は彼女を倒すことじゃない。消耗は最小限に、いいね?」
「……慣れてきた?」
……が直撃したのは置換された瓦礫。此方の動きが読まれている、という訳ではない。だが……タイミングは確実に合わせられている。
「んなこたぁ最初から承知の上や。そもそもウチらはずっと敵を倒すためじゃなくて……」
「終わりのない物語を終わらせるために戦ってきたのよ、いつも通りの事だわ」
「そうだね、私達が戦うのは終わりのため、そして終わりのない物語に苦しむ誰かを助けるため。だから……」
不幸中の幸いで一時的に距離は離れた。思考を整理すべく呼吸を整える。
「仲間と戦うなんて望まない物語を終わらせる、そのために今は戦うよ!」
「……余計なお世話だ」
負荷は確実に蓄積している。時間稼ぎなどすれば……先に倒れるのは、そちらだ!
「ようやく着いた……此処だよ!」
「……何処か、窪んだ所とかあります?」
「位置情報では間違いなく此処みたいだけど……」
「私にバレたからもっと精巧に隠したんだよ、あの子人見知りだからさぁ」
「んなペットみたいな……」
「まあ機獣は動物モチーフだしペットと言えばペットじゃない?」
「ペットというには可愛くない戦闘能力ですけどね……二美さん、では」
「分かってるよ……せー、のっ!」
莉亜さん達が時間稼ぎしてくれている隙に走りに走ってようやく辿り着いた砂浜。位置情報を頼りに着いたなんの変哲もない場所に二美さんが勢いよく拳を打ち込んだかと思ったら……
「……海が、割れた?」
「どういう仕組みなんですかこれ……?」
『呪文に似ているようで違う……環境の再構築か?』
「細かい事は私も知らないそれつまり気にしなくていい。そういう訳で行こう皆!」
……音を立てて海の水が引いて、道が離れた小島へと続いている。エキドナっていうのは此処に居るんだろう。多分これもその子の力なんだと思う。
「……大丈夫なのかな、私達の話通じるかな?」
「私が居るから心配ご無用。私の友達ならあの子の友達、つまり皆友達でハッピーエンドって事!」
「友達の友達は他人だと思うけど……」
「細かい事は気にしない!さっさと終わらせて狼奈達の助太刀行かないとだし急ぐよ!」
「助太刀……そうだ二美さん、これをっ」
「んっ……何これ、量産型テルス?」
現れた道を走り続ける中シルウィアさんが二美さんに何か手渡した。あれは……ティタノデバイス?
「似たような物です、弍乃さんと戦うのなら……必要だと」
『使い方は君ならすぐ理解できる筈だ、ながら作業でもな』
「なるほどなるほど……あーそういう?パワーアップアイテムなら2年前に欲しかったなぁ」
ティタノデバイスを握りしめて目を閉じた二美さんはまた一瞬で使い方を理解したみたいでやれやれみたいな顔をして笑った。多分自動詠唱を使ったのだろう。
「まあなかった物を嘆いても仕方ない、まずはエキドナが優先!疲れたら言ってねおんぶするから!」
「流石にそこまで貧弱じゃないですよっ!」
ともかく今は急ごう、この異変を終わらせるために。
「ぐ……わ、りぃ」
「レッドフードッ!?」
「次だ」
「危ないブライアッ!がああっ!?」
「オズ!」
……時空加速、それも十倍速の負荷だ。元々対応できるように作られていないだろう彼女達のデバイスではすぐに限界を迎える事は分かりきっていた、だからこうして負荷で動きが鈍くなった所を突けば容易い。
「やらせ、ない……!」
「遅い」
「っ……!」
あれほど厄介だった置換を使う気力ももうないらしい、狙いがブレにブレた光弾を弾き、銀の戦士を袈裟斬りで飛ばす。
「まだ、で、すっ……!」
「無理だ」
「それはど、う……がっ……」
続いてまともに動けなくなった緑の戦士を薙ぎ払う。これでピンクの戦士以外は全員戦闘不能、って所だろうか。
「後は、お前だけだ」
「……はは、結構、ピンチだねこれ」
「いいや、もう終わりだ……っ!」
最早動く体力すら残っていないだろう彼女の排除は容易い。トドメの平突きで仕留め……
『お姉ちゃん危ないっ!』
「な、に?」
「……ごめん、助かった、メアリー」
……確実に急所を穿つ筈だった一撃が突如現れた本のデバイスに弾き返された。なんだ、あれは?人工知能には見えない、意思を持つ……デバイス?
「それと助けてもらって早々だけど……力、貸してくれる?」
『勿論!誰かのためになら遠慮なく力を貸すって、あの時そう言ったからね!』
「ふふ、そうだったね……じゃあ、行こう」
「させるか「それは、此方の台詞よ……!」……チイッ!」
あのままではマズイ、と直感が判断した。止めにかかるが最後の足掻きと言わんばかりの光弾に邪魔される。
「ライターズノート、メアリー・スー!執筆準備ッ!」
「何を……!」
『「執筆開始ッ!」』
……邪魔しきれなかった、奴の変身を止められない。
「構成!」
『下書き!』
「推敲!」
明らかに先程とは桁が違う、魔力の高まり。
『「脱稿ッ!」』
……なるほど。
『「願い彩る理想の記憶!」』
此処からが。
『「魔導士、パンドラ・メアリー!」』
……本番か!




