初幹部戦は大体1クール目終盤って話……え、30分違い?
「……33日目ね、何連勤させるつもりかしら」
『此処までくると本当に疲弊させるだけが目的になってきているのだろうな、君はともかく彼女達も最近は容易に機獣を倒せるようになっている』
「まあそれはいいことなのだけど……そろそろ幹部が出てきてもおかしくないわね」
『最後に幹部を倒してから2年だ。君と対峙するというリスクより彼女らを排除しオリンピア住人を確保するというリターンを優先しても何らおかしくはない』
「あいつらのディーデバイス1個も破壊できてないし代替わりしててもおかしくないのが癪だわ……」
呪うべきことについに機獣の連続出現記録が1ヶ月を超えた。幾ら秒で終わるからとはいえ流石に疲れが溜まってきて非常に面倒である、私の魔力無限じゃないんだぞ。
『それに2年前と違い奥の手を封じるための時間結界まである、強襲を仕掛けるにはこれ以上ない状態だろう……尤も奴等が君を倒したいというのなら最低3人以上の魔導士で強襲するべきだが』
「だから何でそんな身内贔屓な訳? 確かに2年前は2対1でもどうにか勝ったし時間結界で奥の手が封じられてるのはあっちも同じだけど、流石に此処までみみっちい嫌がらせしてきたんだし何らかの対策はしてるでしょう」
……もしくは私を足留めするための何かを用意しているか。今までの機獣が戦力評価のための捨て駒だというのならそろそろ3年前に相手した龍型のような巨大な戦力を投下してきてもおかしくない。
少なくとも今タルタロスにとってこの世界で最も脅威なのが私であることは確かなのだ、間違いなく合流されないよう手は打たれるだろう。
「……ひとまず今日は帰りましょう。今日はもうゲート開かないでしょうし」
『戦力は無限に近いとはいえゲートを開くためのリソースは有限だからな。彼女達を倒すだけならばこのタイミングで追撃を仕掛けるのが1番だが君が居る以上そんな策に出る訳が……待て』
「テルス?」
修復と記憶処理を終わらせてさあ変身解除……と言った所でテルスが黙った。もしやこのパターンは……
『……はあ、どうやらタルタロスは下策に出たらしい。ディーデバイス反応だユノ』
「嘘でしょ」
『事実だ、どうする?』
さてどうしたものか。結果だけを考えるなら即座に私が介入した方が1番楽だ。対魔導士の心得は今も忘れていないしこんな仕掛け方をしてきたのだからタルタロス内で情報共有がされていない、もしくは私と戦っていたメンバーがもう居ない可能性だってある、だったら勝てない道理はない。
……ない、のだが此処で即介入した場合待っているのは確実に追加戦士√である。あの子達は4人揃ってしまったから第三勢力ですアピールとかできる訳がないしなんやかんや色々あって追加戦士に収まるのだろう。それは可能な限り避けたい、物凄く面倒だ。
とはいえ今のあの子達がタルタロスの魔導士に勝てるとも思えないのも事実。彼女らはカオスデバイスの適性こそないが最適化で基礎戦闘力を底上げされている。弱い機獣しか相手していないのに勝てる訳がないだろう。
となると……
「……ギリギリまで静観してダメそうならちょっとだけ手助けするわ。あの子達にはもう少し強くなってほしいもの」
『考え方が上司のそれだな。そこまで引退したいか』
「当然。5年も戦い続けてるのよ?何度も言うけどそりゃあ休みたくもなるわ」
流石にこれだけワンオペが続くと文句の1つも出るよそりゃあ。
『それは否定しないが……まあそういう事なら行こうかユノ。戦力評価の時間だ』
「ええ、行きましょう。三重詠唱」
唱えるのは追跡、転移、そして潜伏。
「何処までやれるかしらね、あの子達は……」
『必殺詠唱を引き出せれば上々程度だろうな』
「辛辣ね……はあ、面倒だわ」
最低限の期待すらしていないテルスとなるべく面倒事を押し付けたい私では考えている事は違うのだろう。でも使える戦力になってほしいのは事実だ。
「ま……お手並み拝見と行きましょう」
頼むから相手にすらならないとか勘弁してくれよ、ニチアサ主人公。
「あれ……?」
最後の魔導士、ウェヌス……五葵ちゃんもメンバーに加わりようやく機獣との戦いにも慣れてきて。さあこれからだ!ってなったのが一昨日の事。相変わらず毎日のように現れるあいつらの相手は疲れるけど皆力を合わせて頑張ろう!ってなって。
「結界が……」
「解除されない?」
今日もいつも通り敵を倒して終わりだと思ったんだけど何故か倒しても結界が解除されない、こんな事は初めてだ。
「結界は機獣のコアによって維持されてる筈、破壊した以上解除される筈なのに……まさか!?」
「どうしたのファウヌス?」
「皆構えて!此処に居たのは機獣だけじゃない!」
「えっ?」
「ちょっと待ってどういう事!?」
急に慌て出したファウヌスの言うように戦闘態勢は崩さない。でも一体何が……
「はーいその通り、御名答」
「っ!」
「誰……?」
ファウヌスの言葉に答えるように響く拍手、そして足音。聞こえてくる方向に視線を向けると……
「ひいふうみい……あーあー、大事なディーデバイス4個もパクられちゃってたんだ。酷いなぁ、今もう全部で10個しかないんだよ?」
「女の子……!?」
「それにディーデバイスの事、なんで……」
そこに居たのは黒尽くめのローブを纏った女の子。ディーデバイスの事も知ってるし一体何者……?
「ま、御託はいいや。要件だけ簡潔に言うよ……君達のディーデバイスは元々私達の物なの、返してくれる?あとついでにそこの羊も」
「そう言われて渡す訳ないでしょ。ファウヌスもって言ってるし余計に」
「落とし物なら返すのが筋ですけど……誘拐までしようとしてるなら渡せません!」
「あーらら残念。素直に返してくれるなら穏便に終わったのに。機獣倒した後で消耗してるでしょ」
「なんで機獣の事……!?」
世間話でもしてくるようにとんでもない提案をしてくる彼女は一体……いや。
(ねえファウヌス、タルタロスの魔導士って言ってたけど……向こうの戦力は機獣だけじゃないの?)
(魔導士は……元々タルタロスで開発された力なんだ。僕はオリンピアからこの世界に来る時にそれを盗んできただけ、本当に偶然上手く行っただけなんだよ)
(……いつかはあっちの魔導士とも戦わなきゃいけないのかなぁ)
……まさか。
「言うよりやった方が早いでしょ?」
「え……」
「ディー……デバイス!?」
頭の中で導き出された結論を裏付けるように目の前の子が取り出したのはディーデバイス。つまりは……
「変身詠唱」
タルタロスの……
「アポロ」
魔導士……!
「……アポロか。懐かしいわね、随分と」
『前任者はディアナとのコンビネーションで襲ってきたな。ただそのディアナはオリンピアの住人に奪われ今は彼女達の力となっている……余計君が負ける道理はない』
「私は、ね……あの子達は苦戦してるようだけど」
潜伏でビルの屋上に身を隠し、俯瞰するように魔導士同士の戦いを見物する。やっぱりタルタロス側の適合者は代替わりしていたようで私が2年前に相手したやつとは変わっている、なんなら前任者男だったしな。
「呪文詠唱019、灼熱!」
「呪文詠唱111、閃熱」
……呪文だけ見ていてもその実力差は明確だ。ミネルヴァが放った焔はアポロが打ち出した輝く焔にいとも容易く弾かれる。
「弾かれっ……!?」
「下がってミネルヴァ!付与詠唱033、拡散っ!」
「呪文詠唱024、落雷!」
「呪文詠唱057、砕刃!」
何百本にも増えた矢、落雷、地面から突き出す岩の刃による同時攻撃。
「同時攻撃なら通るかもって?能天気さんだね。呪文詠唱111、閃熱」
……けど、届かない。全て掻き消されて消えていく、これが最適化した適合者とそうでない者の実力差。やはり荷が重すぎたようだ。
「じゃ、今度はこっちからいっちゃうよ?強化詠唱179、流星」
……ん、あれは。
『流星か。周辺へ甚大な被害を齎しかねないが故前任者は自重していた呪文だが……あの小娘、ただ敵を倒すことしか考えていないようだ』
「面倒だわ……放っておいたら修復でそこそこ持っていかれるじゃない。強化詠唱、障壁」
『強化詠唱もそれなりに魔力を消費すると思うが?』
「気分の問題よ、気分の」
巻き添えで周辺が破壊されると面倒だ。念の為強化詠唱にした障壁を上空に貼り市街地を破壊しそうな隕石だけを防ぐ。あの子達には悪いが実力差を知ってもらうためだ、主人公補正を引き出すためには致し方ない事。
「ほーら避けなよ、避けれるものならね」
「こんな大量にっ……!」
「下手に避けたら街が……うわあぁ!?」
「ケレスっ!」
「ファウヌスさんっ、危ない!」
「ウェヌス!?」
……だめだこりゃ、全部まともに被弾してしまってる。辛うじて立ってるのミネルヴァとディアナだけだぞ。
「ありゃ?立てるんだ。強化詠唱の流星が直撃したのに……君達は結構骨があるね」
「こんな所で……倒れていられませんから、ね……!」
「なんで、こんな事……!」
「なんでって……盗んだ物と窃盗犯を返してほしいだけだよ?」
言い分だけ見れば至極真っ当だが侵略者の発言だ。返した所で碌な事にならないのは目に見えている筈、どうする主人公?
「そもそも貴方達がファウヌスの世界に侵攻したせいでしょ……都合の良い時だけ被害者面しないでっ!」
「ミネルヴァ……」
「事実なのになぁ……あーあ、引き渡してくれないんじゃ仕方ないや」
うん、満点。ニチアサ主人公のあるべき姿だ。
「引き渡してくれるならもうこの世界を襲わないつもりだったのに……あーあっ!」
「自分達だけ逃げるなんてしたくないっ!」
「……へえ、受け止めるんだ、これ」
アポロの放った矢をミネルヴァの剣が弾き、そのまま弓と剣での鍔迫り合い。にしたってもう襲わないは絶対嘘だろ、あの羊が居ない時もたまにゲート開きやがって。
「でもさぁ、私に勝てる訳ないよ。最適化もしていない地球人がさぁ!」
「あ……がっ……」
「ミネルヴァ!」
……ただ、鍔迫り合いは数秒勝負になっただけだ。やはり最適化の有無は重大な戦力差、戦闘経験も微弱な彼女達が勝てる道理は無し……か。
「じゃ、さようなら。ちょっとは楽しめたけど……ちょっとだけだったね」
ああ……面倒な事になった。
「テルス」
『分かっている。だから言ったじゃないか』
「面倒だったのよ、ほんと…… 呪文詠唱」
ギリギリまで、と言ったがこのままじゃあの子達は確実にやられる。それは関わらないより余計面倒な事だ、だからこうするしかない。
「いい加減助太刀しましょう…… 転移!」
面倒事は嫌いだ、だけど2つの面倒事が必ず降り注ぐというのならまずは余計面倒な方を処分する、それが私のポリシー。
「終わりだよ、 必殺詠……」
判断したらすぐ転移、必殺技で纏めてあの子達を消し飛ばそうとしているアポロの目の前に転移して……
「シイっ!」
「ドっ……!?」
思いっきり、蹴飛ばした。
「じゃ、さようなら。ちょっとは楽しめたけど……ちょっとだけだったね」
……勝てない、実力が、違いすぎる。
「みん、な……」
この力で、あの人みたいに誰かを助けれると思ってた。どんな敵が襲ってきてもなんとかなるって思ってた、だから諦めずに立ち上がった。
「逃げ……」
「ミネルヴァ、やめ……」
でも本能的に理解している、私はあの子に勝てないって……でも、それでも、此処で諦めちゃったらあの時助けてくれたあの人に顔向けできない、だから最後の最後まで……諦めるわけにはいかない。
「終わりだよ、 必殺詠……」
「っ!」
せめて皆だけでもと、最後の力で彼女に一撃叩き込もうとして……
「シイっ!」
「ドっ……!?」
「……え?」
……けどそれは、突然現れて彼女を吹き飛ばした人影に阻まれた。
「はあぁ、やってしまったわ。どうリカバリーしようかしら……」
「あ、貴方、は……」
「無駄口を叩く暇があるとは随分余裕があるわね、魔導士ミネルヴァ」
「!?」
見間違えない、見間違えようがない、その後ろ姿は。
「っ……誰かなぁ、邪魔してくれたのは……いい所だったのに……」
「……呆れた、タルタロスは情報共有も満足にできてないのかしら?私の事すら忘れてしまっているなんて」
「はあ?一体何様……ああっ!?」
4年前、逃げ惑う私を機獣から救ってくれた……
「ようやく思い出したようね、なら自己紹介は不要」
「一旦帰ってもらうわよ、タルタロスの魔導士」
……憧れの、あの人!




