間違っても追加戦士枠にはなりたくないって話。
「……テルス」
『どうしたユノ』
あの子……魔導士ミネルヴァの初変身から数日。相変わらず機獣の連続出現記録は更新されたままで私の負担は一向に……いや、3つの結界の内1つをあの子が受け持つようになったから減ってはいるか。
「なんであの羊はわざわざこの世界に逃げてきたのかしら」
『さあな、推定は幾らでもできるがそれは直接聞かねば分からないことだ』
「そうね、らしくない質問するべきじゃなかった……二重詠唱」
いつもの如く真っ二つにした機獣の残骸を安全に処分し、周辺の補修と記憶処理。
「……ふぅ、最後の一個はあの子がやってくれるしいいでしょ」
『随分と買っているのだな』
「新人育成期間と捉えてちょうだい。私だって早く引退したいのよ」
一仕事終え、今日はこれでいいかと変身解除。記憶処理をしてるから正体バレの心配がないのはありがたい、一々変身解除のために人気の無い場所とか行ってられないし。
『それは随分先の話になるな。最適化もなしに君以上の適合率を持つ適合者を見つけるのは砂漠から1粒のダイヤモンドを見つけるに等しい行為だ』
「それ本当に言ってる?」
『当然だ、一般人の適合率は平均20〜30%に過ぎない。一部の高い適合者ですら50%を超えるかどうかだ、君という適合者が現れたのは文字通り奇跡に等しい』
「人工知能が奇跡とか信じるのね」
『それ以外に形容しようがないからな』
……テルスの話をそのまま鵜呑みにするのなら第三世代は第一世代を誰でも使えるように改良した第二世代とは違いデバイスとの適合率が高ければ高いほど強い魔導士になれる代わりにその適合者は非常に限られるんだとか。
最適化っていう適合率を引き上げる(ついでに身体能力とかが凄いことになるらしい)調整をしてもほんの一握りだっていうんだから眉唾物である。個人的には適合率78%って結構微妙な数値だと思うのだけど。
「……まあ、しばらくしたらあの子以外の魔導士も増えるでしょ。ディーデバイス1個だけくすねてたらあんな雑に適合者決めないだろうし数個は持ってると見ていいわ」
『それに関しては同意見だ。だがたかが数ヶ月の戦闘経験で君に並ぶとは到底思えん』
「案外数の暴力っていうのは侮れないものよ。それに私の強さはその最適化って奴をしないと頭打ちなんでしょ?何れ追い抜かれるでしょう」
『馬鹿を言え、第一世代をデチューンした代わりに汎用性を発展させた第二世代と特化性を発展させた第三世代では基礎スペックにすら多大な差がある。結論から言えば彼女らが君より強くなる事は有り得ん』
「言い切るわね……」
にしたってこいつは私を過大評価しすぎじゃないだろうか、5年間一緒に戦ってきた仲とはいえ身内贔屓がすぎるぞこのAI。
「ま、それなら気長に次の適合者候補が現れるまでひっそりと戦っていようかしら。面倒な相手はあの子達に任せて」
『幹部級に彼女らが勝てるとは思えんが』
「主人公ってやつを信じましょう……ボロボロになったら案外第一世代を引っ提げて戻ってきたりしそうだし」
『それこそ有り得ん話だ、仮に手に入れたとしても第一世代に適合した人間は私の知る中でたった1人しか居ない。君が適合者になる方がまだ納得できる』
「主人公補正は侮れないわ。不可能を可能にする魔法の言葉だし」
『最近思うが君はアニメに頭を毒されすぎじゃないか?』
「だまらっしゃい」
誰が休日アニメばっか見てるダメ女だ。
「……はあぁ……連続出現記録、これで25日目ね」
『今日も相変わらずゲートは3つ、オリンピアの住民を確保するついでに我々を疲弊させたいのだろうあちら側の連中は』
あの子が魔導士になってから10日、ついに機獣の連続出現記録は1ヶ月に到達しそうな勢いである。と言ってもいつも以上の強さな訳でもないしただただめんどくさくて疲れるだけ。2年前にこっちにやってきた最後の幹部を倒してから随分とみみっちい事である。
「今日は蛇型からか……テルス」
『ああ、着身……いや待て、弍乃』
「へ?……あぁ、こんな事あるのね、偶然」
いつも通り着身しようとした私をテルスが制止した。何事かと思えば……
「ああっもうせっかく彼処のケーキ食べれると思ったのにいい迷惑!あんた達人の邪魔をするのだけは天才ね!?」
「どうどう三葉……まあ最後に関しては同意、さっさと倒してケーキ食べに行きましょう」
「ボクまだ魔導士になってから数日なんだけどちょっとハードワーク過ぎないこれ……?」
「正直僕もそう思う……けどどうにかしないとこの世界が危ないのも確かなんだ。皆お願い!」
ふよふよと浮かぶ羊、三者三様の反応を示す中学生くらいの少女達……そりゃあ増えてるよね、適合者。
「行くよ2人とも!」
「うん、任せて!」
「三葉も紗七も元気いっぱいだなぁ……」
「年寄りくさい事言わないの八雲!ディーデバイス!」
やっぱり複数個あったらしいディーデバイスを全員手に持っている。にしたって早いなぁメンバー集め。
「変身詠唱、ミネルヴァ!」
「変身詠唱、ディアナ!」
「変身詠唱、ケレス!」
世代が違うとはいえバリアフィールドは共通仕様だ、機獣の攻撃を最も容易く弾くのだからあれ常時展開……は、消耗が激しいんだろうな。
「テルス、此処はあの子達に任せて他のゲートに行くわよ」
『分かっている、間違っても此処で着身はしない事だ』
「当然……二重詠唱」
着身していない時でもデバイスを操作すれば呪文の詠唱自体はできる。変身していれば音声認証のみで発動できるので地味に面倒だが、私の存在がバレるよりはずっといい。
「……さて、こっちも秒で終わらせましょうか、テルス」
『ああ、転移後すぐ着身だ。行くぞ』
着身完了した後輩3人が戦闘に入るのを確認しながら、私は他の結界内部へと転移した。
「……ん?」
「どうしたのファウヌス!?まさか増援!?」
「いや、そうじゃないんだけど……此処で僕達以外の誰かが呪文を使ったような感じが……」
「具体性なさすぎるでしょ……っ、危ないよ三葉!」
「だからこの姿の時はミネルヴァって呼んで!」
「もしかしてなんだけど、あの子達ゲートが3つ開いてるって気付いていないのかしら」
『だろうな、気付いていたらたかだか機獣1体であんな反応はしない』
「気づいてくれないと引退できないのだけれど」
『またそれか。言っただろう、現状君以上の適合者が現れない限り無理だ。そしてそれはほぼ有り得ない』
「この対症療法がどうにかなれば事情も変わるのだけれど……」
残り2つのゲートはいつも通り秒で終わった。あの子達に経験を積ませたいから1つは任せてるけど現状私1人でやった方が早いな……結界内部は時間が経過しないから早くやっても遅くやっても結果的には同じなのだけれど。
『しかし本当に大丈夫なのか?現状機獣しか投入されていないから良いとはいえオリンピアの住人が居る以上幹部クラスが派遣される可能性は充分ある、そして彼女たちが束になっても勝てるとは思えん』
「そうね……現状ならそうでしょう。主人公補正を信じるしかないわ」
『またそれか……いいか?現状の最適解は幹部を君が相手する事だ。結界がある以上2年前より苦戦するだろうが勝てない相手ではない』
「確かにそれが1番面倒じゃないわ、けど私の負担も凄いことになるし」
『しかし彼女達の成長を待ってはいられない、覚悟を決めろ弍乃』
「多分テルスの懸念事項と私の懸念事項は違うと思うわ……」
『?』
別に幹部を1人で相手取るのは構わない、今までずっとそうやっていたのだから……問題はこの世界がニチアサ時空であるということ。
彼女達にバレないように幹部を相手しなきゃ確実に追加戦士√である、関わりたくないのにそれは嫌だ。絶体絶命のピンチに乱入するとか確実に初登場回だしどうにかして秘密裏に始末するか……彼女達の成長を信じるかしかない。
でもなぁ……多分来るならあの羊を狙ってくるだろうし秘密裏に始末するのは無理だよなぁ……
『何が違うのかは知らないが……私は君を信頼している。断言しよう、あの新人魔導士達全員やタルタロスの幹部よりも君は強い』
「だからそういう事じゃないっての……ほんっと、この対症療法どうにかならないかしら」
『直接タルタロスに乗り込む事は理論上可能だが流石に君でも単騎特攻は無謀だ、それこそ彼女達の成長を待つしかない』
「なのよねぇ……」
せ、世界が私をニチアサ展開に取り込もうとしてくる……どうして、どうしてこうも面倒事ばかり降りかかってくるんだ……
「面倒だわ……ほんと。やけ食いでもしようかしら」
『寧ろ君は食事量を増やしたまえ、君の体重は同年代の平均を下回っている』
「だまらっしゃいテルスっ!なんっでそんなの知ってるのよこの変態AI!」
『適合者の体調管理も私の役目だ、把握しておくのは当然の事』
「それは分かるけどわざわざ言わないでよ!?」
『言わねば伝わらないだろう』
「ああいえばこう言う……!」
……5年の付き合いになるけど、たまにこういうことをしてくるから好きになりきれないんだよなぁこいつ。
「そんな事いう暇があるなら近くの美味しいパフェでも検索しときなさい!」
『了承した、この近辺だと……』
「こう言う時こそ皮肉で返しなさいよ!?」
踏んだり蹴ったりだ畜生……本当にやけ食いしてやる……!
「ねえファウヌス、本当に呪文を感じたの?」
「間違いない、確かにあれは魔導士の呪文だ。でも君たちのものじゃなくて……」
「じゃあつまり……」
「ボク達以外にも、魔導士がいるって事……!?」
……あの日ファウヌスと出会って魔導士になった私は頭の中に奇妙なモヤができていた。何か、忘れているような。
「でもディーデバイスはファウヌスが持ってるのしかないんだよね……?」
「そう、持ち出してきたディーデバイスは4つ。そして最後の1つは僕がまだ持ってる……つまり」
「私達より前にこの世界には魔導士が活動してたってことなの?」
「そうとしか考えられないけど……そうなるとこの世界もオリンピアと同じようにずっと前からタルタロスに侵攻されていたことになる、それはおかしくないかい?だってそうだったら皆機獣の事を知っていないと」
そう、私達が変身するより前に魔導士が居たのなら私達だって機獣の事は知っているはず。だから……
[よく頑張ったわね、偉いわ……そして、もう安心して]
……?
「タルタロスの魔導士って可能性はないの?」
「そうだったら君達は間髪入れず襲われた筈だよ、だから違う、一体誰が……」
[お、お姉ちゃんが……勝った、の?]
[ええ、貴方が頑張ったのだからこれくらいはね]
何か……何か、忘れているような。でも、何を?
「謎が増えるばかりだね……三葉?」
[ありがとうお姉ちゃん!私……!]
[お礼の言葉はいいわ、それと……]
「ねえ三葉ってば!なに考え事してるのよ!」
「あ……ごっ、ごめん!その魔導士ってどんな子なんだろうなぁって!」
「確かに僕も気になるね……また探してみるよ、もしかしたら力を貸してくれるかも!」
……なんとなく、だけど。
[こんな事は忘れてしまいなさい。そうした方が気楽に生きれるから]
私は……
[呪文詠唱、忘却]
その魔導士の事、知っているような、気がするんだ。




