総力戦は中盤の山場って話。
「……うん、随分と頑張ってるみたいじゃない。この分ならマルスの相手もできるようになるんじゃないかしら、そう遠くない内に」
「暗にまだ無理って刺してくるのやめない?」
「直喩よ、お茶を濁すならもう少しそれっぽい事を言うわ」
「現状1対1ができてるのが三葉さんだけなのはそうなんですけど……」
「いやぁ、あれ戦闘と言うのか……言うのかなぁ……?」
「ウルカヌスは随分とミネルヴァ……三葉さんにご執心のようでしたが」
ようやく引退……引退というか前線を退いた、って言った方が正しいか。タルタロスとの戦いはあの子達に任せ、私はようやく訪れた日常をコーヒーと共に噛み締めていた。いやコーヒーは噛めないな……
「……なんというか、その……本気の戦いじゃなくて半ば戯れあってる感じでその……隙あらばデートだのなんだのって……」
「彼女は確かに女好きではありましたがそこまで入れ込むとは……余程気に入られたようですね」
「嬉しくないです!!!!!!」
「一緒に居たネプトゥーンに釘刺されるレベルだったもんねあれ……」
「いっそ付き合えばこっちに引き抜けるんじゃない?」
「私に!!!!そういう!!!!趣味は!!!!!……ないと言ったら嘘にはなりますけどそれはそれとして……」
「竜頭蛇尾ね……」
「一応営業中だからね?」
「すいません……」
そう言うわけで今はこうして彼女達の相談役みたいな事をしている。
元々関係なかったとは言え私が居るからユピテルやマルスが出陣して来た訳だし、はいリタイアーでじゃあねは不義理だろうと考えての事だ。ついでに言えばあの子達が負けたらまた私が出る羽目になる、それは凄く面倒。
「……しかし本当にどういう原理なんでしょうこれは。人が機械に合わせるのがケイオスのやり方です、機械を人に合わせるなんて発想はまず出てきませんし……実際上手く行ってしまっている」
「そう言えばシルウィアさん、私達の適合率って今何%くらいまで行ってるんです?使い続ければ上がっていくって話でしたけど……」
「正確には計測できませんが比較するなら……74%くらいですね」
「あら、じゃあそろそろ追い抜かれちゃうわね私。安心して引退できるわ」
「もう前線は退いてるじゃないですか……」
んで、シルウィアはデバイスのメンテ係としてサポートに回ってくれている。やっぱり着身して戦える精神状態ではないらしく、なんとカオスデバイスを私に預けてしまった。理由を聞けば「貴方が持っているのが1番安全だから」とかなんとか……まあ戦いたくないというなら仕方ない、無理に戦わせても足手纏いになるだけで面倒が増えるのだから。
「しかし此処までいいようにされているとタルタロスもそろそろ本腰入れてくるんじゃないか心配になるわね、今まではついで感覚でデバイス回収のために来てた訳だけども……」
「バッカスがどう動いてくるかになると思います、今はオリンピア侵攻の指揮を執っているのでまだ余裕はあると思いますが」
「あいつかぁ……」
「……あの、そのバッカスって魔導士、そんなに強いんですか?」
バッカスの話題が出た瞬間物凄い渋い顔になったのを見逃さなかったらしい三葉ちゃんに話しかけられた。まあうん、君達会った事ないから分からないよね。
「バッカス自体が強い訳じゃないわ、強さ的には中くらい、マルスとかいう暴の化身に比べたら可愛い方よ」
「僕も多分見た事あるけど物凄く強いって訳じゃなかったな、ほぼほぼ機獣任せだったし」
「って事は……」
「……バッカスは清々しいまでの合理主義者です。それが必要と判断すれば何の戸惑いもなく実行する良心というリミッターがない女。ウルカヌスやメルクリウスはともかくネプトゥーンやマルスにまで嫌われてるのはある種才能でしょうね」
「ほぼ全員に嫌われてません?」
「判断は的確ですが……あまりに解決するための手段が非人道的な事もよくあるので」
「……具体的には?」
……やつとは確か2回やりあった。1回目はスペック確認だかなんだか。んで2回目は……
「私が戦った時は大量の機獣を引き連れてきたわね。最終的に全部自爆させられて……修復がなかったら街に巨大なクレーターが出来上がってた所だったわ」
「自爆!?」
「機獣もそう安いものではないのですが……それで確実に倒せると判断したのなら湯水のように投入し使い潰す。魔導士からは非人道的にも程があるやり方を、技術部からはコストを何も考えてない戦力の使い方を等しく嫌われています」
「う、うわぁ……」
「ついでに言えば性格もカスねあいつは」
「さらっと追い討ち……えそこまで酷いの?」
「ええ、確か……んん……」
……あれ、なんだったか、バッカスとは2回じゃない、3回やり合ってた気がするんだが……ダメだ思い出せん、閉まっておこう。
「……まあそうね、あいつは悪びれることが無いの。どんな事をしてもそれが当然で必要な事ですみたいな面してる、だから嫌われるのね」
「うわぁ絶対相手したくないタイプだ」
「そうですね……あれはそんな奴です」
「ついにあれ呼ばわりになってる……」
「私もシルウィアも良い印象ないって相当よ?マルスですらちょっとは良いところあるのに、あ、お会計で」
「はいよ」
いかんいかん、奴の事を考えてるとコーヒーが不味くなる。ほどほどにしておこう。
「あれ、珍しいですね一杯だけなんて」
「たまにはそういう日もあるって事よ。ていうかちょっと予定あるじゃない私達」
「ええ、少し皆さんのデバイスをメンテしたいのです」
「そうだそういう話だった」
「此処でできたりとかはしないんです?」
「簡易的な物ならできますが……本腰入れてやるとなると設備が必要なので」
「好きに使っていいとは言ったけどまさか整備室になるとはね……」
「あはは……」
シルウィアに貸した母さんの部屋はなんか気付いたら本格的な工房になっていた。最後に戻してくれるなら別にいいけどこれこのまま帰られたら掃除面倒だな……とか思ったのは黙っておく、そろそろこの子達も強化形態とか欲しいだろうし。
「あれ、という事は……」
「私たち一宮さんの家にお邪魔する事に……?」
「そうなるわね、続きはそこで飲みましょうか」
「まだ飲む気だよこの人……」
「だまらっしゃい、コーヒーは私の血液なの」
「カフェイン塗れの血液って眠れなさそう……」
『実際彼女があまり眠れていないのは確かだ。不摂生も程々にしてもらいたい』
「あ、テルスさん」
失礼な、これでも7時間は寝てるんだぞ、仮眠3時間深夜アニメ見てから4時間で。
「テルス、自己メンテナンスはそろそろ終わるのかしら?」
『想定よりダメージが酷くてな、シルウィアに手伝ってもらった事もあり現在進捗86%、後3日程で完了する計算だ』
「そう、一応聞いておくけど着身は?」
『できるが……100%の性能を引き出せるとは思わないでくれ。何せ5年もメンテなしで戦い続けた上でこの前の精神同調だ、使うにしてもシルウィアのデバイスを使った方がスペックは引き出せるだろう』
「今更乗り換えろと?無理な話よ、私はテルスの支援に慣れきってるの。休めると思わないでちょうだい」
『無茶を言ってくれるな君は……』
「貴方に散々無茶させられてきたのよこっちは」
というか仕方ないだろ、私デバイスのメンテ手段なんてわからないぞ。その上で今まで戦い続けてきたんだからちょっとくらい褒めてほしいものである。
「なんというか……」
「あの2人、2人?夫婦みたいな安定感ありますよね」
「何がよ」
『5年共にいればこうもなる』
「本当に信頼しあえる相棒なのですね、羨ましいです」
「えぇ?」
なんかテルスからの比重が重い気がすると思うのは私だけだろうか。
「しかしまあ……まさかこんな大人数を招く事になるとはね、何の縁かしらほんと」
「魔導士の縁じゃないです?」
「私はもう前線退いたから勘弁してほしいわねその縁……」
まるで親鴨が小鴨を先導するが如く自宅への道を歩く。シルウィア曰くメンテナンスは設備さえあれば1台20分程度で終わるらしい、随分と早いな。
「一応ゲートが開くかもしれないし気を緩めないように……まあ私のデバイスは本調子じゃないし巻き込まれても基本的に任せる事になるから」
「大丈夫なんですそれ?」
「最悪シルウィアのデバイスを使うけど……マルス辺りが来たのならテルスを無理矢理叩き起こすわ。支援なしであいつと戦えるとは思ってない」
テルスは行動予測、詠唱補助、魔力調整など面倒な全てをやってくれている。私が戦闘に集中できるのはこいつが居るから。アポロやメルクリウスレベルならなくてもギリいけそうだけどマルス相手は無理、多少スペックが落ちていようが叩き起こして使う。
「君もバッカスに負けず劣らず色々と酷使してるなぁ」
「貴方達は4人居るからそんな事が言えるのよ、私1人よ1人。使えるもの全部使わないと戦いにすらならなかったんだから」
「それは……うん」
「気づけばファウヌスさんも一宮さんへの当たりが優しくなりましたね」
「優しくなったというか落ち着いたというか」
「余裕なかったもんねぇ最初」
この羊、最近になって急に丸くなりやがった。もうちょっとクソガキしてた方が人気出ると思うんだがコンプラ指導でも入ったか?
いやまぁ別に私としては話しやすくなる分にはありがたいんだけど違和感凄いんだよな……
「さて、後5分くらいになるかしらね。晩飯食べてく?」
「え、一宮さん料理できるんですか!?」
「私をなんだと思ってるのよ……一人暮らししてるんだから自炊くらい……は……」
「弍乃さん?」
微妙に弄られたので返そうとしたところで感じる感覚……タイミング悪いな。
「開くわ、準備なさい」
「このタイミングで!?」
「嫌なフラグ回収だなぁもう!」
厄介事は最も嫌なタイミングで的確にやってくるから面倒だ。問題は誰が来るかによるが……
「シルウィア、一応持っておいて。マルスがもし来たら私は「ほう?全員居るようだな」……だからなんで最悪が当たるのよ!」
「あ、す、すいません……マルス……!」
「久方ぶりだなユピテル!いや、確かシルウィアだったか?まあどうでもいいことだ」
……最悪な事にこのタイミングでマルス。あいつのことだから単騎で来てると思うが……それでもまだこの子達じゃ勝てないだろう。
「さあ戦えユノ!今日こそ決着の時だ!」
「この前デバイスを破壊してやったのを忘れたのかしら?」
「あれは横槍が入った故含まん!決闘による正式な決着を付けるぞ!」
「ああ言えばこういうわね……テルス!」
『言っておくが無茶はするな、まだメンテナンスは終了していない』
「分かってるわ…… 変身詠唱、ユノ!」
「大丈夫なんですか一宮さん!?」
「あいつ相手は貴方達じゃまだ無理!シルウィアの事頼んだわよ!呪文詠唱、錬成!」
着身と同時に大鎌を錬成、とっとと終わらせるべくマルスと切り結ぼうと……
「呪文詠唱111、閃熱!」
「っ!?」
したところで唐突な横槍。慌てて受け止めるがこれじゃ……
「……何のつもりだ、アポロ!」
「何でも何も元からそういう計画でしょマルス?単細胞キャラも程々にしてよね」
……なんだ、計画?
「呪文詠唱169、津波!」
「なっ!?呪文詠唱、凍結っ!」
今度はネプトゥーンの!?さっきから不意打ちばかりでってお前そういうキャラだったか!?
「ネプトゥーン……!」
「それにアポロ……」
「あいつの計画に従うのは癪だが……それほどまでに奴らの脅威度は増した、か」
「不意打ちとは無粋な真似をするようになったなネプトゥーン、私のように正々堂々愛を伝えれば良いものを」
「貴様はそもそも戦に集中しろ」
「ウルカヌス!?」
っておいおい、この流れは……
「そういう訳だからさ。正式な決着は諦めてよねマルスっ!」
「メルクリウス……!ちょっと戦力集中させすぎじゃないの!?」
「いい加減君達相手に戦力の浪費は無駄って気づいたみたいでねっ!」
高速で不意打ちしてきたメルクリウスの杖を鎌で弾いて押し返す……間違いない、こんな事をしてくるのはただ1人。
『ユノ、大量の機獣反応……奴だ!』
「でしょうね!」
「ユノさん!」
「貴方達はそこで待機!奴が来る!」
着身を終えた後輩達に待機命令、予想通りならこの後やってくるのは……
「あらつまんない、サプライズってのはタネが分かってないから面白いのに」
ゲートから機獣を文字通り雨のように投下しながらゆっくりと降りてくる1人の魔導士。
「これはサプライズじゃなくてただのテロよ」
「機獣が……こんなに!?」
「それに魔導士も全員揃って……」
「賑やかでしょう?さながらパーティーよ」
「全然嬉しくないわ……」
私が戦った中で最も面倒で、最悪な相手。
「バッカス!」
「嬉しいわ、ちゃーんと覚えてくれてた事」
魔導士バッカスが、5人の魔導士と大量の機獣を従えて目の前に降り立った。




