ネームド退場は一つの区切りって話。
「二重詠唱、追尾、分裂っ!」
まずは数を減らさねば話にならない。大鎌を投擲し分裂、放っておくと碌な事にならない機獣から処理しにかかる。
「へえ、こっちはお預け?メインディッシュはゆっくり食べるタイプ?」
「あんたが何考えてるかなんて理解してる、真っ先に処理しに行くのは当然でしょっ!」
「あーら怖い怖い、でも嬉しいわ。しーっかり私の事、覚えてくれてるのね」
「気持ち悪いのよ!さっさと帰ってもらう!」
「フラれちゃった……」
「余所見をしている暇はないぞユノっ!」
「ええい面倒くさいっ!」
文字通り横槍を入れてきたネプトゥーンには徒手空拳で応戦。やはり動きが鈍くなっているがマルス相手でもなければ充分動ける……ただ、いつまで動けるかは分からない。バッカスは確実に機獣の第二陣を用意している、テルスの限界が来るまでなるだけ叩かなくては……!
「生憎今日は語り合う余裕がなくてなミネルヴァッ!」
「元からそんなの要りませんっ!邪魔をするなぁっ!」
ウルカヌスはいつも通りミネルヴァが。余波で周囲の機獣が吹き飛んでるぞ……
「そうやって群れなきゃユノさん1人倒せないのかな、アポロっ!」
「黙れっ!群れなきゃ私1人倒せなかったくせにうるさいんだよ!」
アポロはディアナが。
「数だけ増えたって!強化詠唱162、光線ッ!」
鎌でなるだけ牽制してる機獣はウェヌスが担当。
「ユノはやらせない、シルウィアも連れて行かせない!」
「悪いけど今回は……私も本気なんだよねっ!」
メルクリウスはケレスが対処……って肝心のマルスがノーマークだぞ!?何やって……
「認めん……このような決着は、決して……!」
……いや何やってんだあいつ、ただ立ち尽くしてるだけじゃ「余所見とは随分な余裕だな!」あーもう考えてるんだこっちは!
「んー、そっかそっか。君達こーんなに成長しちゃってたんだぁ……ユピテルのやり方が下手くそだったせいだねぇ」
「っ……!」
そしてバッカスは何をするでもなく佇んでいる。何もしてない……訳がない、早く対処しないといけないってのに……!
『出力79%まで低下、三重詠唱以上の詠唱は無理だユノ!』
「だったら二重詠唱でどうにかすればいいっ、邪魔ぁ!」
「ぐっ……!」
「後方注意よっ!」
「なっ、ガハっ……」
機獣を切り裂いて戻ってくる鎌に合わせネプトゥーンを蹴り飛ばし当てに行く。現在の優先順位は機獣>バッカス>その他魔導士、まともに付き合ってなどいられん!
「んー、ネプトゥーンは愚直だけど周りの注意が疎かなのよねぇ、マルスちゃんにはまだ程遠いわ」
「減らず口を叩く余裕があるとは安心ねバッカス!」
「相変わらずの狂犬ねぇユノ。昔はあんなに大人しかったのに……」
「いつの話をしているのかしらっ!」
あの様子ならネプトゥーンは数分ダウンする筈、その間に残りの機獣、そしておかわりを呼ばれる前にバッカスを……倒す!
「ふあぁ……あれ弱くなった?それともデバイスにガタでも来てる?メンテなしでどれだけ使ってきたかわからないものねぇ」
「言わせておけば!」
「まあ手加減してたのもあるけどさぁ」
機獣の処理は飛び続けている鎌に任せてバッカスに殴りかかる……が、微妙に動きが鈍いせいか杖で軽々受け止められてしまう。いや、こいつそもそもこんなに動き速かったか?もっと普通だったような……
「でももうちょっと急ぎなよ?タイムリミットは迫ってるからさぁ」
「それを強いてる側が言うんじゃないわっ!」
「せいろーん、正しい言葉は人を幸せにしないよ?」
「不幸にしてる奴が言う事かっ!」
ダメだ、ラッシュが全て見切られてる。身体が思考に付いてこない……クソっ、段々動きが遅くなってきてる……!
『出力70%まで低下、これ以上は補助も……!』
「無理させてるのは分かってる!これが終わったら暫く休ませてあげるからっ!」
「このザマなのに勝つ前提?余裕ね、ユノちゃん?」
「一度だって負けるつもりで戦ったことなんてないわ!」
……収納してるカオスデバイスから少しだけスパークが走った。テルスに相当無茶を強いているのは分かってる、分かってるけど……此処で出し惜しみして負けたらもっと面倒、許せテルス……!
「……やってられるか。呪文詠唱179、転移」
「ちょっ、マルスっ!?」
「だからあいつを囮にするのは嫌だったのに!」
……マルスは帰ったか。まああいつは元々決闘馬鹿だからな、こういう状況になったらやる気を無くすのは当然か。少しは楽に……
「っ!」
「ふふ、やっぱりデバイスにガタが来てるの……ねっ!」
「ガッ……」
「ユノさん!?」
……全身にスパークが走ったタイミングで刺突が腹部に直撃し吹っ飛ばされる。こんなに早くガタがくるとは思え……いや、飛び回る大鎌の制御か……ごめん、テルス。
「んー、この分ならそろそろかしらね。皆〜、撤退準備〜」
「は!?もう!?」
「逃がさないっ!付与詠唱033、拡散っ!」
「別に逃走じゃないのっ!呪文詠唱111、閃熱!」
……そうか。これは最初から……
「……納得は、納得はし難いが、ええい……!」
「だから付き合う気なんて、ないっ!」
「そうではないのだミネルヴァよ!私は……ちいっ!」
「逃げた……!?」
バッカスの奴、味方すら欺いて……何を考えている?
「はあぁ……シルウィアは連れて帰りたかったけど仕方ないか。さっさとしてよネプトゥーン!」
「撤退!?」
「一体何を考えて……」
……まずい、このままじゃ、非常に。
「うんうん、皆素直でよろしい。でもウルカヌスは最近惚気で言う事聞かないし……いっそお熱のミネルヴァちゃんを攫っておくべきなのかしらね?」
「誰が、そんな事をさせると思うのかしら……!」
「まともに動けそうにないその状態で言われても説得力ないわユノ。後別にしないし」
「ぬかせっ!」
……テルスは多分補助からデバイスの制御にリソースを集中させてる。これ以上無茶をすれば最悪着身の維持すら怪しい、怪しいが……!
「んじゃ、そう言うわけで……」
「ガハっ……」
まともに動けなかろうが、勝てる見込みがなかろうが……
「さようなら、プレゼント、楽しんでね?」
「バッ……カスゥ……!」
諦めた方が、余計面倒なんだ……!
「全員、逃げて……」
「機獣に後を任せて……?」
「っ、まだゲートから降ってきます!急がないとユノさんが……!」
……ああくそっ、止めきれなかったおかわりがやってきた。あの子達にも一応話しておいた筈だが……気づいてない、だったら……
「強化二重詠唱、結界、拡散っ!」
もう二重詠唱ですら詠唱は怪しいが、スパーク迸る身体に無理を言わせてどうにかやりきる。
「えっ」
「結界……ユノさん!?」
「なんで!?」
「何かくる訳じゃ……!」
「……あ」
結界の対象を皆に拡散。私にまでやるとギリギリデバイスが持ちそうにない……ああほんっと、面倒。
「待ってください、ユノさっ」
シルウィアが慌てて駆け出そうとするけどごめん、タイムリミット。
「機獣が……!?」
追加で降ってきた奴らも含め機獣が全部眩く光って……
次の瞬間、視界を覆うほどの大爆発が巻き起こった。
「……何、が……」
「皆!……クソっ自爆だなんて何を考えてるんだあいつらは!」
唐突にユノさんが張った結界。それのおかげでどうにかダメージは抑えられた……けど、かなり酷い。正直起き上がるのもやっと、これ以上の被弾は着身を維持できるかも怪しい。
それに砂埃も酷くて、何が起こっているのか……
「……じば、く……?」
「全部、巻き込んで……」
「ってことは……」
……ようやく視界が晴れてきた。辺りはクレーターだらけで、完全に荒野と化して……ってそうだ。
「ユノさん!」
さっきから身体がスパークしたり明らかに動きが鈍かったりしてたのに全然フォローに回れなかったあの人。万が一着身が解除されでもしてたら危ない、今何処に……
「!」
居た、一際巨大なクレーターの中心部に立っている……けど。
「テルス……流石に、システムの維持に集中しなきゃか……分かってる。やらなきゃね」
「ユノさんっ!?」
「……何ぼさっとしてるのよミネルヴァ、こっちはこれから大仕事だってのに」
「大仕事って、その身体で……!?」
駆け寄ったユノさんの身体はあちこち鎧が破損し、スパークは一部どころか全身に。とてもじゃないけど戦える姿ではない、下がらせないと……
「……あれ、見えるでしょう?」
「ゲートが……」
「ゲートは開くのや維持に大量の魔力を消費する。だから一度閉じると再発動までそこそこ時間が必要なのだけど……今回はさっきやこの後の事も考えて開けっ放しにしてるみたいね」
「じゃあ……」
「だから、閉じる」
上空にはいつもより巨大なゲートが未だに大穴を開けている。確かに今増援が来られたら……耐え切れる自信はない。ないけど……!
「その身体じゃ無理です!やるなら私達で」
「無理よ、シルウィアが言ってたけどそのデバイスにはリミッターが設定されてる。あれは閉じれない」
「けど!」
「今だけはけども何もないわ……ね、シルウィア」
「……何を、するつもりですか」
慌てて走ってきたであろうシルウィアさんも合流、ユノさんに質問する声は……分かっているけど認めたくないような感じで。
「修復の拡大解釈でゲートを修復する。魔力同士の反発とか色々考える事はあるけど……これしかない」
「だったら私が!」
「ダメ、また貴女を危険に晒すわけにはいかないの。テルスに怒られちゃう」
「そんな事を気にしている場合ですか!?」
「気にするわよ……だって貴女は私にとっても恩人のようなものだし」
「……え?」
「恩人……?」
2人して困惑する中彼女はまともに動かすのすら辛いだろう身体をどうにか動かし、まだ形を保っているビルを伝ってあっという間にゲートの近くへと行ってしまう。そうだ、早く追わなきゃ……!
「シルウィアさん、掴まって!」
「……はい!」
シルウィアさんを抱えて同じように跳躍。1人でなんてさせない、皆で帰らなきゃ意味なんてない!
「……ごめんねテルス、最後の最後にまた無茶をさせるわ。限界強化詠唱……」
追いついて着地する頃にはもうユノさんは詠唱を始めてしまっていた。時間がないのは分かるけどなんでそんなに早まるのっ!
「なんで1人でやる気なんですかっ、ユノさん!?」
「限界強化……!?」
「シルウィアさん?」
「それは、リミッター解除、全魔力を注ぎ込む……ダメです、ダメ!」
「貴女なら気づいているでしょう?これ以外に手はない…… 修復!」
……全魔力って、つまり着身に必要な分まで全部注ぎ込むってこと?……それじゃ、負担が……
「だから1人でさせないって言ってるじゃないですか!強化詠唱「やめなさい」っ、ぇ……?」
同じように修復を唱えようとした次の瞬間、私はユノさんに蹴り飛ばされていた。そんな事されるとも思っていなかったので避ける事もできない……どう、して?
「……使えば貴方達も呪文同士の反発に巻き込まれる。もう少し先を見なさい先を」
「見てます!だから止めようと「複数の魔力が混じれば混じるほど反発は酷くなるの、被害を拡大させるつもり?」っ、死ぬかもしれないんですよ!?」
……もう詠唱は終わってしまった。ユノさんから溢れ出す魔力とゲートがぶつかり合ってバチバチと音を立て始めている。
「元から死んでたような人間よ私は。それに此処で貴方達が全滅する方が面倒だもの」
「面倒とかどうとか関係ないでしょう!?」
「貴方達まで巻き込まれたら確実にこれからの戦いは勝てないし……またシルウィアを連れて行かれたらテルスになんて言われるか。バッカスも最悪な置き土産を残して行ってくれたものね……」
一番危険なのは自分だというのに困ったような微笑みを浮かべていた、少しでも私とシルウィアさんを安心させるためなのだろうか。そうこうしている間にもぶつかり合う魔力はどんどん激しくなって……ダメだ、もう近づく事さえ……
「待って、ダメです、私まだ、貴方に何も……!」
「言ったはずよシルウィア。貴方は私にとっても恩人のようなものって」
「何で今そんな話を……」
「テルスが私を人間に戻してくれたの。作ったのは貴方なんでしょう?だから……貴方を助けたのは恩を返しただけ。何も気に病む必要はない」
「ぁ……いや、やだ、やめて……!」
段々とゲートは塞がっていくけど……気のせいか、ユノさんの周りの空間が歪んで……
「……こりゃダメね、ミネルヴァ」
「今度はなっ……って、え?」
「私はともかく、そいつは必要でしょう?持っておきなさい」
「な、な、な……」
唐突に飛んできた何かをキャッチしてみれば、それはあちこち火花が飛び散っているカオスデバイス……つまりテルスさん。そしてそれを手放したという事は……
「……まあ、死にはしないわ。精々が暴走で何処か別の世界へ飛ばされるくらいでしょう」
「何も安心できませんよ!?テルスさんまで手放すなんて、それっ……!」
「私は常に最悪を想定して動いてるだけよ……ん、ああ……」
辺りが歪みに歪んで視認すらままならない、まだ何か言いたげなユノさんの表情すら朧げで……
「シルウィア」
「……」
「テルスを直したら聞きなさい、あの金庫の番号。見つけてるんでしょ?」
「……え?」
「限界強化の影響かしらね、自分にやってた忘却を維持する魔力まで回してしまったみたい。おかげでこうして思い出せたわけだけど……ああ、そろそろか」
「待って、待ってください」
「シルウィアさん!」
今にも走り出してしまいそうなシルウィアさんを慌てて止める。ユノさんはシルウィアさんを巻き込みたくないから1人で行ったのに、結局止められなかったら……彼女を助ける助けない以前の問題だ。
「まあ、悪くはなかったわ」
「ダメ、行かないで!行かないでよぉ!」
「……ミネルヴァ」
「ユノ、さん?」
最早モヤでしかない目の前の風景に取り込まれた彼女は、最後に私に微笑んで。
「テルスとシルウィアのこと、お願いね。無理矢理にでもどうにかできそうなの貴方だけだから」
「こんな形で……託されたくなんか……!」
「私も正直嫌よ……けど」
「なんだかんだ悪くなかったわ、貴方達と付き合うのも」
その言葉を最後に歪んだ空間は捻ったゴムが解けるように光を発しながら元に戻って。
「……ゲート、が……」
それが収まる頃にはゲートも……
「……あ、あぁ……」
ユノさんの姿も、消えてなくなってて。
「……っ!?テルス、さん……」
託されたデバイスは、盛大に画面が割れて。
「また……何も、何も……」
「私は……私は何のために、居るんですか!?」
ただ、シルウィアさんの号哭だけが、響いていた。




