光堕ちで困るのは衣食住って話。
「重要な問題に気付きました」
「急にどうしたの三葉?」
「元から重要な問題しかない気がするけど」
「何に気付いたんです?」
シルウィアを元に戻し、ネプトゥーンとメルクリウスは無事撤退。そういうわけで目を覚ました彼女を連れて休息がてらマスターの所へ。
いつも通りコーヒーを飲んでさてこれからどうしようと考える、ユピテルをどうにかした今私がこれ以上手助けする理由もないしな、マルスもこの成長曲線ならもうすぐ対処できるだろ。
「えーっとですね、その、シルウィアさんの……」
「私……ですか?」
「はい、えーっとその……」
お、ブレンド微妙に変わったな。この風味は……マンデリンの比率増えたか?ちょっと私好みになって嬉しい。となると頼むケーキも変えなきゃな、さーてどれに……
「……住居とか諸々、どうするんだろうって……」
「あっ」
「……確かに」
「ああ……」
……む、なんだそんな事で騒いでたのか君達。それを考慮しないで無鉄砲に助ける訳がないだろうに。
「それに関しては色々落ち着くまで私の家を使ってもらうから。父さんは今海外赴任だから問題ないし」
「あぁなるほどそこまで考え……って、母親はどうなんです!?」
「そもそも勝手に人を住まわせるのはどうかと思うけど……」
「事後承諾でも苦笑いで許してくれるのがうちの親よ、それと……」
部屋何処に……ああ、彼処でいいか。
「母はとうの昔に亡くなってるわ、部屋はそのままにしてあるしちょうどよかった。マルスとバッカスさえどうにかすれば戻っても安全だと思うしそれまでね」
「……」
「……ええっと……」
「何よ」
なんか空気が凄く重くなったんだが?あらかじめ想定してたことを話しただけなのになんでそうなる……
「……すみません、無神経な事言っちゃって」
「最近でもないし私はもう折り合い付けてる。それに当事者でもない貴方達が気にする事でもないわ……そういう訳でひと段落したら案内する、いいわね?」
「は、はいっ」
「なんでそんな教師に連れて行かれる生徒みたいな……ひとまずシルウィアの当面の衣食住はこれでクリア。後は貴方達でマルスとバッカスをどうにかするだけね」
「どうにかって……」
「一宮さんが戦ってくれるんじゃないですか……?私達マルス相手はまだ勝負になるか怪しいし……」
「え、単純な話よ?」
いい加減勘違いさせたままも面倒だ、バッサリ言ってしまおう。
「私、魔導士引退するから」
「なるほど引退……」
「……引退?」
「「「「「引退!?」」」」」
なんだそのコントみたいなリアクションは……あと今日実質貸切だからいいけどこの前みたいに客いたら怒られてるぞ。
「貴方達が絶対に勝てないユピテルは対処した、貴方達自身もネプトゥーンやメルクリウスを2人がかりでどうにかできるレベルまで成長してる、つまり懸念事項はシンプルフィジカルバカなマルスと何してくるかわからないバッカスだけ……ないでしょ、私がこれ以上手を貸す理由と戦う理由」
「いやいやいやいやちょっと待ってよシルウィアさん貴方の所で匿うんでしょ!?もしもの時どうするのさ!?」
「その時は自衛程度にやるけど……基本的にこれからの対処は貴方達に任せようと思う。ちょうど良いと思ってたのよ、敵も機獣から魔導士に移り変わって街への被害も少なくなったし」
「ゲートは複数開いてるって話じゃなかったんですか!?私たちだけじゃ無理ですよそんなに対処するの!」
「だから基本的によ……魔導士だけなら引っかからないとそっちに向かうから大丈夫だし万が一機獣が出てきた場合に限るけど」
「……それはないと思います。バッカスの方針で機獣はオリンピアに一極集中させるプランになりましたから」
ああそうなんだ。あいつの事だから機獣の事相変わらず強い爆弾みたいに扱ってるんだろうな……
「なら問題ないわね」
「大有りですよ!?この前テルスさんが適合率どうこう話してくれましたけどそうなると私達の成長にも限界があるって事ですよね!?とてもじゃないけどあのマルスに勝てるとは……」
「あの……」
「シルウィアさん?」
「多分、大丈夫だと思います」
「えっ?」
そういやさっきから三葉ちゃんたちのディーデバイス見てたなシルウィア。
「ちょっとだけ見せてもらいましたけど……貴方達のディーデバイス、大幅に細工がされています」
「細工?ファウヌスが何かやったのこれ?」
「僕というかオリンピアの技術者だけどね……」
「それ聞いてないんだけどぉ!」
「痛い痛い痛い痛いぃ!?」
相変わらずマスコットの扱い雑だな君達。
「……デバイスに合わせて適合者を最適化するんじゃなくてその逆。適合者に合わせてデバイスが最適化されていってる。どんな技術かは分かりませんが……このデバイスは使えば使うほど貴方達が最も扱いやすいように変化していく。頭打ちなタルタロスの魔導士相手なら何れ超えられるようになるはずです」
「使えば使うほど……」
「じゃああいつ……マルスを倒せるようになるまでどれくらいかかりそうです?」
「それは私には判断できませんね……ただ少なくとも勝てない、って事はないはずです。あっちで開発してたあれも私が居なくなった事で頓挫するでしょうし」
「待ってさらっととんでもないこと言ってないこの人?」
……もしかしてわりと間一髪だった?
「ちなみにあれ、とは」
「廉価版カオスデバイス……とでも言えばいいのでしょうか。着身した状態を最適化していると仮定する事で無理矢理機能を使えるようにしたものです。時間制限もありますし何より未完成なので心配はしなくていいかな、とは……」
「本当に危ない所だったんですね……」
「……一応聞いておくわ、その機能って」
「呪文の同時行使と時空加速です」
「本当に間一髪だったわね……」
同時行使はまだしも時空加速は私が最優先でユピテルを対処した最大の理由だぞ……真面目に危なかった、もう少し遅かったらこの子達じゃ太刀打ちできなくなってたし……マルスが時空加速使ってるとか想像したくない。
「……ま、そういう訳で私は一線を退いても問題ないって訳ね。これからよろしく後輩達」
「いやそれはそれとしてですよ!?私達まだまだ未熟ですし……」
「あのねぇ…。私一応5年間ずっと戦ってるのよ?部活動でも3年で引退よ?いい加減後進に後を託してゆっくりしたいって思うのは当然のことじゃない」
「部活動の引退でももう少ししっかりしてると思う……」
「何よ……貴方達だってずっと私頼りじゃいられないでしょうに、というかオリンピアとタルタロスのゴタゴタは私関係ないのよ?」
「それは……はい」
2年前どうにか諦めさせたと思ったのにこれだからなぁ……ほんっとしつこいぞあいつら。
「そういう訳で必要なら戦うけどそれ以外は完全に任せる、それで決まり。いいわね?」
「私達がどうこう言える立場じゃないですけど……」
「テルスさんはいいんです?さっきからうんともすんとも言ってませんけど」
「テルスなら今スリープモードよ。ちょっと無理させすぎたみたい」
どうも精神世界へのダイブは思ったより負担が激しかったらしい。着身解除と同時に自己メンテナンスと称してスリープモードに入ってしまった……これが続くなら言い訳に完全引退もできたがあいつの事だししっかり直して戻ってくるよなぁ。
「まあこれはあいつの望んだ事だし文句は言わせないけど」
「いいんだそれで……」
「私とあいつの関係は基本的にこれくらい雑なのよ……じゃ、話も纏まった事だし行きましょうかシルウィア」
「は、はい……いいんです?」
「後は託した、ってだけよ。これからは基本的に貴方を連れ戻されそうになったら少し戦うってだけ、後輩の成長を阻害する訳にも行かないしね」
「そうですか……」
邪魔しないんだからこっちの邪魔もしないでくれ、って事。ニチアサだって1年で交代するんだし私もそろそろバトンタッチしたって許される筈。
「それじゃあね。顔を見せる事は少なくなると思うけど……応援はしてるから」
「あの、一宮さん!」
「何、まだ何かある?此方としては全部話したつもりだったのだけれど……」
「いやそうじゃなくて……」
あれ、何か聞きたい事でも残ってた?話す事はこれまでで全部
「お会計……」
「あっ」
……危ない、ノリでうっかり食い逃げする所だった。
「基本的には此処を使ってくれて構わないわ、部屋の備品も自由にしてくれていい。何か分からないことがあったら聞いて」
「……ありがとうございます」
「テルスの頼み事だったし最後まで面倒は見るわ……無事に帰れるといいわね、ケイオス」
「しばらくは無理そうですけどね……」
「でしょうね、それじゃあ一杯淹れてこようかしら」
「まだ飲むんです……?」
「それはそれこれはこれ、コーヒーは私の血液なの」
「は、はあ……」
「それじゃあちょっと待っててね」
……通された部屋は個室にしては広くて、使われていなかったにしてはあまりにも清潔だった。多分こまめに手入れされているのだろう、やっぱり彼女はズボラに見えて案外几帳面だ。
「ひとまず何が……」
ベッド、クローゼット、机、本棚。基本的な家具は大体揃っている。逃亡生活時代からは考えられない贅沢さ、一度彼女に敵対した私がこんな待遇を受けていいのだろうか、と思ってしまう程。
「……」
……私のカオスデバイスは壊れていない。やろうと思えば着身する事はできる、できるけど……そんな勇気は、私にはない。ああは言ったけど私だってあの子達に任せてしまいたい気持ちがある。
「……ほんと、ダメですね、私」
結局何もできずに全て他人任せなのだ、シルウィア・ウヌスという人間は。だからこうして与えられるばかりで……与える事ができない。考えれば考えるほど自分が嫌になってくる。
とりあえずカオスデバイスを金庫か何かにしまおう、このまま持っていてはまた私が嫌になる。
「……?」
そう思って取り出したデバイスに反応検知の通知があった。これは彼女のカオスデバイスじゃない……そして、この部屋から。
「此処……?」
可能性があるとすればカオスデバイスと一緒に転送したディーデバイス。私と同じ考えで金庫にでもしまっているのだろうか?なら一緒にしまってしまおう、そう考えてあちこち探す。
「……あっ」
ベッドの下や本棚の中など色々探し、クローゼットの隅でそれの感触を見つけた。多分壁に埋め込まれているのだろう、さっさと開け……
「……え」
……ようとして、金庫の扉を二度見した。此処までシンプルなのだから何の変哲もないだろうと思っていたのだけど……
「……何、ですか、これ」
開けるな
忘れろ
見つけたらクローゼットを閉じる事
そして自分に忘却をかける事
……殴り書きで綴られたメモ用紙が、この中にディーデバイスがあること、そして彼女がどれほど厳重にこれを保管しているかを物語っている。でも……ただデバイスを保管するだけでこんなメモを残すだろうか?それに自分に忘却……そうまでして隠したい、いや、自覚したくないもの……?
「……」
……少なくとも此処にデバイスを入れる訳には行かない。これは私が触れてはいけないものだ。彼女が隠している、重要な……
「シルウィア?できたけれど」
「あ……すぐ行きます!」
カオスデバイスを何処に置くかは後で考えよう、今はまず彼女の事を知らなければ。
……それと、ただ助けられているだけじゃ、多分ダメだと思うから。彼女のデバイスのメンテナンスくらいはしてあげなきゃ。




