大乱戦は中盤突入の証って話。
「二重詠唱、衝撃、追尾!」
「呪文詠唱、障壁!」
鎌を高速回転させて生み出した真空波を数発放ち、ユピテルは障壁で防御。まあ避けられない速さだし妥当な判断だ、勝負は此処から。
「次ィ!」
「っ!?」
今度は勢いのまま回転する鎌をユピテルに放ち、それを追うようにダッシュ。そのまま鎌を飛び道具にするか、ユピテルに最接近したタイミングでまた掴んで武器とするかの読みを強いる。
「やっぱりそうなるか!やらせな「呪文詠唱162、光線ッ!」っ……!」
当然私がユピテル狙いだと知っているメルクリウスは妨害しようとするけどそれを見越しての共闘。マルスならともかく彼女レベルの強さなら任せていいだろう、まだ未知数なネプトゥーンは状況次第でフォローを入れなければならないが。
「さあどっちになるかしら……」
「鎌さえどうにかすれば……!」
「ねっ!」
「!?」
ちなみにだが先程の二択はどちらも不正解、回答は「蹴りで更に威力を増してシュート」。鎌を対処される前に攻撃してしまえば相手の択は更に削れる、一気にペースを奪いにかかろう。
「障壁が……!」
「二重詠唱、錬成、双刃!」
数発真空波を受けた障壁が直撃を耐えられる筈もなく崩壊、追撃を加えるべく両端に刃の付いた大鎌を再錬成し今度はユピテルの槍を対処しにかかる。さて、あの子達の様子は……
「呪文詠唱169、津波!」
「強化詠唱125、吹雪!」
「ごめんディアナっ!仕掛ける!」
「本命はそちらかっ!」
「弍乃さんに任されたんだ、やってみせる!」
ネプトゥーン相手はミネルヴァとディアナ。ネプトゥーンの呪文をディアナが相殺してミネルヴァがインファイト、見事なまでに迷いのない動き。
「呪文詠唱173、断崖!」
「こっちの機動を潰しにきた!?一体どこから情報が……」
「私達が誰と手を組んでるかお忘れですか!強化詠唱162、光線ッ!」
「そうか彼女かっ、ええい反射がっ!」
メルクリウス相手はケレスが動きを封じウェヌスが仕留めに掛かっている。障害物で光線を乱反射させるとかえげつない事やってるな……
うん、ちらっと見ただけだけどこれなら心配なさそうだ。私はユピテル相手に集中できるし、彼女を助けたら安心して引退できる。だから……
「二重詠唱、加速、衝撃!」
「呪文詠唱、加速!」
加速で大鎌を勢いよく回転、遠心力を付け真空波も飛ばしながらユピテルを削りにかかる。まあユピテルも加速を使ってきてるが別にこれは想定内、こっちが加速を撃った目的は威力を上げるためであって動きを対処されないようにではない。
「そういえばこれで打ち合うのは初めてだったかしら……ね!」
「軌道が、読めないっ……!」
私が大鎌を得物としてる最大の理由は攻撃の変幻自在度にある。素直に打ち込むだけの剣や槍と違って回転を交えながら振り下ろす鎌の一撃は不規則で読みにくい、一手間挟んでしまうため素早い相手は苦手だが……
「そうらっ!」
「っ……!?」
愚直に打ち合ってくれる相手ならこうしてすぐ隙を晒す、正直初見殺しではあるが初対面で確実に倒し切らないといけない戦いばかり強いられて来た身としてはこれがまあ便利なのだ。
「大車輪ってとこかしらっ!」
「また……!」
ついでにいえば回転状態の鎌は便利な飛び道具としても扱える……もしかして鎌って万能の武器なのでは?いや流石にそれは過信か、そういう訳でぶん投げた鎌を槍で受けさせる。無論それだけで終わらせる訳は……ない。
「目の前にばかり気を取られるからっ!」
「いつのまっ、ぐうっ!?」
先程唱えた加速はまだ有効、鎌に集中している間に回り込んで踵落としをお見舞いし姿勢を崩す。当然対処中だった鎌も受けている槍がずれたため直撃、やっぱり彼女は戦闘経験が浅いのだろう……先代アポロだったら普通に対処できてたし。
「ユピテルっ!」
「だからお前の相手は!」
「私達ですっ!」
いいぞ後輩共、そのままメルクリウスを抑えていてくれ。前は肝心な所でそいつに邪魔されたからな、そこで逃げ続けてろ。
「これならマルスの方が苦戦したわ、やっぱり貴方素人なのね」
「何を……!」
直撃後跳ね上がった鎌を跳躍してキャッチ、流れるように投擲し再び槍で受けさせる。そろそろ壊れてもいい筈だが……同世代だからだろうか、中々に頑丈だ。此処まで来ると諦めて手傷を負わせる方向に持って行った方が……いや。
「戦いのいろはが浅い、想定外に対処できていない……根本的に戦闘向いてないんじゃないかしら!」
「黙って聞いていれば……!」
「ならまずこれに対処してみたらどう!?」
「なあっ!?」
再び回転する鎌を蹴って威力増加、今度こそユピテルの槍をへし折り此方は反動でまた跳躍。
「呪文詠唱!
「呪文詠っ!?」
「残念ブラフよっ!」
やっぱりあの子戦闘慣れしてないや、此方が呪文を撃つ素振りを見せれば対処しようと反射的に詠唱を準備してくる。さっき槍を破壊したばかりの鎌がまだ回っているってのに迂闊も迂闊だ。
「ガフッ……」
「さあ、さっさと終わらせましょう!」
槍の残骸を巻き込んだせいか鎌は跳ね上がらず地面へと落下、まあ充分役目は果たしてくれたしこれ以上を期待するのは酷だろう。
「懐かしいわね、最初も負ける道理がないだったか知らないけどこのザマだったじゃない?」
「この……舐める、なぁ!」
「そんな姿で言われても迫力ないのよ!」
満を持しての徒手空拳。とはいえ二度の直撃を受けたユピテルは万全とは言い難く、多少ふらついた動きは簡単に対処できるし格好の的だ。勢いだけは評価するけど流石に此処まで来れば……
「シイっ!」
「あがっ……」
「む……!?」
打撃を受け流し流れのまま回し蹴り、ユピテルを一気に壁へと叩きつける。これなら……行ける。
「ユノさん、行ってください!」
「ユピテル、しくじったか!?」
ありがとう後輩諸君。君達が2人をどうにかしてくれたおかげでどうにか三度目の正直と行けそうだ。
「今日こそ決めるわ、必殺詠唱!」
そういえば要るじゃんというのを思い出し鎌を蹴り上げキャッチ、稲妻を纏わせ高速回転させる。
「必殺……詠唱……!」
どうにか壁のクレーターから這い出てきたユピテルも合わせて必殺詠唱、前回が投擲だったからか雷で迎撃しきる算段らしい。
「不壊鎌……」
「雷霆槍……!」
まあ確かにそれは半分正解だ、今回の必殺も投擲。不意打ちで両断なんて事はない。
けれど。
「二重大車輪っ!」
「天穿撃……!?」
どうせ対策してくるだろうと思ったら大正解、今回の必殺詠唱はちょっとだけ細工をしてある。
「さあ、逃げ場はないわよ」
「分かれっ!?」
投擲した大鎌は途中で分裂し不規則な軌道でユピテルへ向かう、見たところあれは一点集中の必殺。
「このっ……!」
1つは対処できても……
「後ろ、ガラ空きよ」
「カ……ハッ……」
もう一撃に対処できるほどの柔軟性はない、もう片方の刃がユピテルの背中を穿つ。
「ユピテル!?クソっ、君達に構う暇は……!」
「こっちにはあるのです!行ってくださいユノさんっ!」
「コーヒーあんなに提供したんだし失敗したら許さないよ!」
「やられたかユピテル!」
「貴方の相手はこっち!」
「ユノさんの邪魔はさせない……!」
「……全く、言われなくてもやるっての」
「ぁ……」
必殺が直撃したユピテルは無事変身解除、デバイスは……
『……カオスデバイスは破壊できていない、だが着身が解かれた今なら可能性はある!手筈通り二重詠唱で』
「いえ、三重詠唱で行くわ」
『何を足す気だ?それに魔力の消費だって……』
「いつもバカスカ使ってるんだから誤差よ誤差、それに……」
やり方を再確認し倒れ込むユピテルを急いで支える。邪魔は……心配しなくていい。
「出し惜しみして失敗した方が面倒じゃない、だから全部使うわ」
『……すまない。頼んだ』
「ええ」
テルスの説明で理論は把握した、後は成功しやすいように一手間加えるだけ。
「行くわ…… 強化三重詠唱」
『待て、強化まで使う気』
言ってたらテルスは止めてただろうし此処で強化を付け加える。恩人を助けたいってのに何私の心配してるんだかこいつは。
「共鳴、潜航、追憶」
付け加えるのは記憶を読み取る追憶、彼女がどういう存在なのかを理解すれば引っ張りやすくなるだろうという考えだ。
「……あぁ」
詠唱完了と同時に視界がブラックアウト。なるほど精神世界へのダイブってこんな感じなのか。
「……」
最初に感じたのは浮遊感、少しして落下する感覚。
「……ん」
やがて黒一色だった視界に色が戻って……
「……何これ」
気づけば私は、12時で止まった時計が大量に並ぶ白い空間を落下していた。




