正体バレは意外と呆気ないって話。
「……」
「随分と気難しい顔してるね、何かあったかい?」
「まあ色々と……ええ」
「その年頃だと色々あるよね、わかるとも。せめて此処でくらいはゆっくりしていくといい」
「ありがとうございますマスター……」
「いいよいいよ、常連さんなんだし遠慮しないで!」
ユピテルを確実に救出するためには三葉ちゃん達新人魔導士との協力が必須。数で負けている以上足止めをしなければこっちが洗脳解除に走ろうとしても連れ帰られる……難しい問題だ。
『この店とも気付けば4年の付き合いか、早い物だな時の流れというのは』
「急にジジ臭くなるんじゃないわテルス……電子音声的にはババ臭いって言った方がいい気がするけど」
『私に性別という概念は存在しない。この電子音声も開発者が個人的に搭載した物であって……』
「はいはい……」
正直な所彼女の相手は私1人でひっそりと終わらせて気付かれないように引退する手筈だった。同じカオスデバイスの適性があるんだし破壊する奴の代わりに私のデバイスを渡して。
ユピテル以外は同じ第二世代なのだから極論彼女達が敵わない道理はない。故にスペックが隔絶している第三世代だけこっちでどうにかしとけば不義理にはならないだろう、と。そういう魂胆でさっさとおさらばするつもりではあったのだが……
「……はぁ」
『そこまで嫌か?彼女達との共闘は』
「そういうわけではない……ないのだけど……」
『……そういう事か、はあ』
……一度でも共闘してしまえば否が応でも彼女達の未熟さが目に付くし、成長するまであいつらは待ってくれない。ユピテルを救出したら引退すると決めた以上それを撤回する気はない……ないのだが、実際に目にしたら「ニチアサ展開に巻き込まれる面倒」よりも「あの子達が負ける面倒」を優先してしまいそうで引退が余計遠のく。そもそもニチアサ時空なのだからそういう事はないだろうと理解してはいるのだが……こればっかりは性分らしい、放置しておく方が面倒だと思ってしまうのだ。
『君は君が思っているよりお人好しだからな、自分の都合は大概後回しだ』
「別にお人好しじゃないわ……面倒を放置すると後で余計面倒になるからどうにかしてるだけ。一見人助けに見えても回り回って自分のためよ」
『常套句だな、君の性格は私が1番分かっている。全く何故そこまで自分を卑下するのか……』
「だまらっしゃい、ああもう……」
なんでこうこのAIは私への評価が此処まで高いのか分からない。大体自己保身と楽に生きたいだけの人間だぞ私は?別にお人好しな訳じゃないしただただ面倒が嫌なだけで……あ、やっぱりブレンドちょっと変わっ
「求婚されたぁぁぁぁぁぁ!?」
「ゴホッ!?」
『大丈夫か?』
「カフッ、ケフッ……だ、大丈夫よ、大声に驚いて咽せただけ……」
カップ割らなくてよかった……いや咽せてちょっと溢しちゃってるから拭いとかないとなぁ……ってうん?今の声は……
「八雲、店内ではお静かに……一応営業時間だからね?今日ガラガラだけどお客さん居るからね?」
「あっ……ごめん父さん。つい」
「すいません……で三葉、それどういう事?」
「何かの冗談……というわけではなさそうですが……」
「絶対罠だってそれ!三葉はお人好しだからそこに付け込んで……」
「はいファウヌスは隠れてようねー」
「ちょっ!?」
……
『……ふむ、マスターは彼女達の身内だったか。初めて知ったな』
「い、今まで偶然来店時間が合ってなかっただけってこと……?そんな偶然あるのね……」
『君は帰宅部だからな、部活通いの者とは活動時間が少しズレる。まあそういうこともあるのだろう』
「そういうことにしておきましょう……ええ」
何かニチアサ時空の因果を感じたが見て見ぬフリをする。こんなテンプレもテンプレな正体バレ回に巻き込まれてたまるか……!
「ごめんね、娘が喧しくて……」
「いいじゃないですか元気で。あ、もう一杯いいです?」
「了解、サービスにしとくよ」
「大丈夫ですって、ちゃんと払わせてください」
「迷惑かけちゃったからね、この位は」
「いえいえ……」
マスターの気遣いがありがたいけどそれはそれ、善意はありがたいけどマスターが悪い訳でもないし後でちゃんと払っておこう。にしたって……求婚……?
『気になるか』
「少しね」
『集音モードを使うか?』
「そこまででもないわ、然程重要じゃないだろうし』
タルタロスの魔導士だって洗脳されているとはいえ人間だ、そういうこともなくはないだろう。私だって先代のアポロに口説かれた事あるし。にしても……
「……明日からちょっと行きにくくなっちゃったわね」
『別にいいだろう、君と彼女達の活動時間はあまり合わない。今日たまたま合致しただけの事だ』
「そうだけど気分の問題というか……」
顔を覚えられたから行けないとかそういう類の話ではない。此処に居ると正体バレがチラつくというのが……ちょっとアレなだけだ。引退するまでは来るのを控えるべきだろうか?でも此処のコーヒー美味しいからなぁ……
「お待たせ……なんか更に難しい顔してるね、大丈夫?」
「個人的にちょっと面倒なことが起きて……」
「あぁ……」
マスターの同情する視線が痛い……いやほんっとごめんなさいマジで個人的な事情なんです。
『そもそも君は他人の事を気にしすぎ……む』
「……せっかく人がコーヒーブレイクしてるってのに」
……なんて言ってたら今日も今日とて時間結界とゲートが開きそうだ。内部では時間経過がないからトイレ行くフリして転移、終わった後にとっとと戻ってくれば……ん?
「ねぇテルス」
『どうした?』
「最近の時間結界、あの妖精を捉えるように開いているわね」
『そうだな……成程、そういう事か』
「……面倒な事になったわ。こうなったら……ゲホッ、ゴホッ!?」
『焦るのはわかるが一気飲みはやめておけ……』
つまるところ今日結界とゲートが展開されるのは……此処だ。クソッタレ、面倒にも程があるぞ!
「っ!ゲートが開く!」
「じゃあ時間結界も……!?」
「よりにもよって此処で……!」
彼方も少し遅れて気づいたらしい。此処は任せて……いや。
「テルス、今日開いてるゲートの数は?」
『此処だけだ、ユピテルは不在か、或いは……』
「……」
……ユピテルがこちらを誘うように複数ゲートを開いているのはあの子達と私を共闘させないため。となると……一度休んで策を練っていると考えるのが妥当か。
「ごめん父さん、ちょっと出てくる!」
「八雲?」
「すみません、お代置いておきますからっ!行くよ皆!」
「あ、ああ……どうしたのかなあの子達」
「何か忘れ物でもしてきたんじゃないです?」
「そういう慌て方じゃなかったけど……うーん」
んー……此処はあの子達に任せよう。アポロを撃破して続く1人も相手できたんだ、下手に手を出して成長邪魔してもダメだろう。
「それじゃお支払いこれで……流石に払わせてください、マスターが悪い訳じゃないので」
「毎度あり……それならもう少しゆっくりして行くかい?ちょっと行ってくるよ」
「行くって……どこにですか?」
「そりゃあ娘があんな慌て方で飛び出していったらさ、親として見に行かない訳にはいかないじゃない」
「えっ」
待て、それは話が違う。
「えちょっ、店はいいんですっ!?」
「どうせ今日はガラガラだからね、大丈夫!」
「そういう話じゃっ……ああっもうっ!」
会計が終わるや否やマスターは駆け出して行ってしまった……まずい、だいぶまずいぞこれ。
『どうする弍乃、建物の損壊は修復で直せるが、人命は……』
「……ひとまず様子を見るわ。誰が来ているかも気になるし」
『了解した、だが……判断を誤るなよ』
「分かってる。二重詠唱、潜伏、転移」
別に着身していなくとも呪文の行使はできる、マスターより先回りしてあの子達が戦っている場所へ。
さて、今日は誰が……
「温い。温い温い温い温い!これがアポロを倒した魔導士だと!?」
「押し切られっ……!」
「危ないっ! 呪文詠唱」
「邪魔をするなっ!」
「02っ……!」
……ミネルヴァとの一方的な鍔迫り合いを制し、助けようとするウェヌスに雷を放つ金髪の魔導士、……あれは。
「マルス……!」
『タルタロス最高戦力の1人をわざわざ……だと?』
「確実にあの子達を潰す気……!?」
……今まで対峙した魔導士の中でも2度と戦いたくないと言い切ってしまえるタルタロス最強格の魔導士、マルス。その強さは一重に卓越した戦闘センスと……
「吹き飛べ!」
「っ、あぁあぁぁぁ!?」
「ミネルヴァっ!?」
「撒き死ねい!」
「ガッ……」
「ディアナッ!」
……攻撃に一切の躊躇がない事。姿勢を崩したミネルヴァを持ち上げ殴り飛ばし、続け様にディアナを上段から袈裟斬り。人を傷つける事に忌避感がないどころか興奮しているまである本物の戦闘狂、それがマルスという魔導士。
「ぐ……つ、強い……!」
「強い?否、貴様らが弱いのだ!この程度で私と戦おうなど片腹痛い、やはり相手になるのはアイツ以外居ないようだな!」
「大丈夫ですかディアナ……!」
「アポロとは次元が違う……それにあの魔導士、途中から遊んでいた……!」
「つまらん相手に全力を尽くすほど私も愚かではない。ウルカヌスがご執心の貴様は少し楽しめたが……他は期待外れだな」
……慢心も相変わらず、か。相対するのは数年振りとはいえ私の知っているアイツと何ら変わりないらしい。だったら彼女達には荷が重い、だが……
「期待外れでも……此処には、父さんの店があるんだっ、逃げないよ……!」
「ケレス……合わせてくれる?」
「勿論……!」
覚悟を無碍にしては彼女達の成長に繋がらない。此処は静観し「八雲っ!」……あ、マズい。
「父さん!?何で……!」
「その姿とか色々聞きたい事はあるけどあんなに慌てて出て行ったらそりゃ追いかけるさ!」
「早く逃げてください!?今此処は……!」
っ、マルスの性格的に何が起きるかは想像付く。けど此処で出たら、でも……!
『弍乃』
「テルス?」
『君の考えではない、心に従え。そうした方が面倒じゃない』
「……」
……全くこいつは何処まで私の事を理解した気でいるのやら。まあでも……それなら、決まりだ。
「邪魔だっ、消え失せろっ!」
「父さっ、あぁっ!?」
攻撃を阻もうとするケレスを蹴り飛ばし、予想通りマルスは大剣をマスターに向けて投擲。
「っ……!」
……「正体がバレる」面倒と、「目の前で人が死ぬ」「ついでに大好きなコーヒーが二度と飲めなくなる」面倒。
「呪文詠唱、障壁」
対処すべき優先度は……当然、後者!
「……何?」
「生き、てる?」
「障壁……一体誰が……!?」
力の乗らない投擲程度ならただの障壁で充分弾ける。そして……呪文を使ってしまった以上、もう潜伏も意味はない。
「……ふっ、ふふふ。そうか、そうか!居るのだな、今、此処に!」
「相変わらずの戦闘狂ねマルス、オリンピアは物足りなかった?」
「当然だ!数だけは無駄に多い骨無し共で満足できるか!」
「あの人……さっき咽せてた……」
ちょっと?そういう覚え方されてるの傷付くんですけど?ああっもうせっかく潜伏解除して出てきてやったってのに……
「ゆっくりしててねって言ったのに……」
「言ってる場合?早く安全な場所に行きなさい……次巻き込まれたら責任は取れないわ」
「……分かった」
奴は私と戦うのを心待ちにしていたらしい、ならマスターが逃げるまで充分待ってくれる筈。
「クク……この腑抜けどもの相手は退屈極まりなかったが、貴様と死合う事ができるのなら全て許容しようとも!」
「こっちとしてはいい迷惑よほんと……ユピテルはどうしてるのかしら?」
「アイツなら無駄な作戦会議中よ。貴様を穿つのは純粋な力、それのみ!」
「そう、わざわざありがとう」
うんやっぱり、こいつ気に入った相手にはこれだから……
「知り合い……?」
「もしかしてタルタロスの……」
「いや、あの人は……」
まあそっちも気付くよね……だからあんまりやりたくなかったけどさぁ、こればっかりは、仕方ないか。
「さあ着身しろ、死合いの時間だ!私を満足させるのはお前ただ1人!」
「言われなくとも……テルス!」
『ああ、行くぞ』
律儀に待ってくれているマルスの前でカオスデバイスを構える。ずるずる引きずって結局巻き込まれてしまったけど……どうせだ、やるならカッコつけてやろう。
「変身詠唱、ユノ!」
デバイスを耳元に添えて変身詠唱、完了と同時に上空へ放り投げバリアフィールドを形成。
「やっぱり……!」
テルスも気合いが入っているのかいつものようなホログラムの変換だけじゃなく光の粒子まで演出に入れてくれてる。柄じゃないけど本来変身バンクってのはこうじゃなきゃ。
「あの人が……」
「ユノ……!」
最後に右手を勢いよく振りフィールド解除、落下してきたデバイスを流れるように収納してシーケンス完了……どうだろ、我ながら完璧じゃないかな?
「さあ、構えろユノ!無粋な邪魔もなにもない、2人だけの世界だ!」
「個人的にはそれでも良いのだけれど…… 呪文詠唱、錬成!」
即座に大鎌を錬成。マルス相手に小さかったり細い武器はすぐ折られる、これでいい。
「私だけに意識を割いてると、痛い目みるかもねっ!」
「ほざけっ!」
お互い勢いよく踏み込んで。
甲高い金属音と共に、大剣と鎌が交差した。




