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傘と聖剣  作者: 梅田幻
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雨の迷宮

計画を放棄した人生の豊かさよ。


「…………」


 男が目覚めたとき、すでに昼を越していた。


 雨が降っている。


 ゴリラはいない。


 誰もいない。


 男は黒い傘を手に出かける。


 乾いたばかりの靴もすぐに濡れることになる。


 こういった場合、長靴でも調達した方がいいだろう。


 男は傘で視界を隠しながら進む。ぶつかるような誰かもいないのだ。


 男は図書館に侵入し、書物を読み解こうと試みた。


 薄暗い部屋。机に本を広げる。


 懐中電灯を照らし、細々とした文字を読み解く。


 文章の構造、単語、句読点。


 男は難解な言語の壁を打ち破ることができず、ペラペラとめくっては眺めた。


 ゴリラなら解けるのだろうか?


 男はくだらない思考をしつつ白昼に眠った。


 図書館は人がいないほうが良い。


 自由に眠れるからだ。


「…………」


 男が目覚めたとき、すでに夜になっていた。


 雨の音が降り注いでくる。


 男は図書館の闇を抜けて、外に出た。


 ゴリラもいない。


 誰もいない。


 男は部屋に残った缶詰の内容を考えながら、雨に濡れた。


 傘は風にあおられている。


 男はお守りを取り出して眺めた。


 奇妙な紋様。


 どこかで見た気がした。


「…………!!」


 書物と一致する記号だろうか?思い至った男は帰路を駆け抜けた。相変わらず、浸水しているホテルのフロントを通り、階段を駆け上がる。


 蝋燭に火をつける。書物を開く。たしかに一致している。つまり、あの老人はこの内容を理解している可能性がある。


「………」


 男は再度、傘を手にした。


 闇夜を駆ける。あの人はどこに住んでいるのだろう。


 ゴミ箱を探す。食に困るのなら、なにかを探して外にいるかもしれない。


「…………」


 いない。


 いない。


 どこにもいない。雨に濡れていくだけの時間が過ぎる。 


 気が付けば山の方まで来てしまった。


 時計を付け忘れたため、時刻も不明だが、相当寒いことはたしかだ。


 男は入れるような屋内を探して、草原を徘徊する。


「…………」


 プレハブの扉を破ると古びた工具があった。


 役立ちそうなので盗んだ。


 帰ろうとしたとき、木々に囲われた小道を見つけた。


 帰ったところで眠れそうになかった男はなんとなく小道を進むことにした。


 露がこぼれ落ちてくるが、雨を通さない葉のカーテンが天蓋のように広がっていた。


 足が重くなったのか、歩みを止めた。


「…………?」


 辺りを見渡すが、何もいない。


 葉の塊の隙間にある闇が男を見据える。


「…………!」


 男は無理やり進もうとして膝をついてしまう。


 暗闇から影のような腕が生えて、男を襲う。


 男は意識が混濁し、地に顔を付けたまま気絶した。


 影の腕は男を包み、夜と同化した。


 照らされることのない世界で、黒い傘だけが残っていた。

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