白水晶
「…………」
男は明かりへ進んでいた。
それは人が焼かれている現場であった。
焼いているのはゴリラでもなく。
黒紫色のレインコートを着た集団であった。
「…………」
男はすぐに身を隠して耳を澄ませた。
「ーーーーーー」
「ーーーーーー」
言語が不明なものだから、距離をとって、市街地に戻る。
高めのマンションから現場を覗くと、怪しい集団がゴリラと格闘しているところであった。
蹂躙された男たちは深く掘られた穴に入れられた。
ゴリラは土を均して去っていった。
男は静かになった草原に戻り、遺体を確かめようとした。
関節が歪んだ腕。ところどころ血濡れた黒紫の外套。
へし折られた剣。
小包には硬貨。
潰された顔面には泥と血。
地図のような古紙。
明らかに現代のものではない。
ひとつわかるとすれば、彼らはとおいばしょから来たということ。
雨の名残が嗅覚を鈍らせる。
男は地図と書物を盗み、その場を戻してから去った。
再び、草原に静寂が訪れる。
夜の月光を浴びる草露。
足跡が消える少し前、ゴリラが徘徊でやってきた。
立ち止まり、観察するように一点をみている。
彼は新たな足跡を発見し、なにかを思案しているようだった。
男は帰路でみかけたコンビニエンスストアをみては過去に思いを馳せた。
溶け切ったアイスクリーム。温くなったビール。いまだ美味いウイスキー。
男は乾電池を窃盗し、ひとつの文明の墓場から退出する。
無音の世界に蝙蝠の歌が添えられる。
彼らと男はひとつの世界を生きているのに、別々の芸術と事実を得ているのだ。
男は雨を抜け出しても、世界に救世主はいないと確信したままであった。
出会ったのが老人とゴリラと怪しげな集団とは救えない。
「…………」
男は地図で鼻をかんで丸めて捨ててしまった。
書籍を開くも読解できなかったため、燃料行きが確定した。
「…………」
部屋に戻り、干した靴下と靴を回収する。
パルクールをするゴリラの集団が見えた。
観察しているとドジな一匹が落下して骨折に悶えていた。
漆黒に包まれた都市で明かりはひとつもない。
星が見えるような立地ではなかったというのに。
月は狂おしく光を放つ。
いまだに、雨は止んでいる。




