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トラック運転手、異世界でも真心込めて荷物を運びます  作者: 紡里


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3/10

神殿の神官

神様との関係を、少し紐解きます。

 辺境の砦からさらに南西方向へ進んでいく。

 朝霧の中、山の中腹にある神殿へと向かっているのだ。荷車の車輪が土の上の轍をなぞり、ゴトゴトと音を立てていた。


「あと少しで神殿だぞ、勇者ユージ」

 騎馬の兵士クライドの言葉に、俺は気の抜けた返事を返す。

「神殿か……正直、気乗りしねぇんだよな」


 神なんて信じちゃいねぇ。いや、いることはわかったよ。異世界に転生させられてんだから。

 でも――あの事故の元凶が、勇者召喚に関わる神だったっていうんなら、恨みごとの一つも言いたくなる。日本の神様は怒らせると怖いけど、こっちの神様はどうなんだろうな。


「今までも神殿に行ってただろう?」

 クライドが問いかけてくる。

「いや、今までのは、砦に付属した療養所みたいなもんだったからさ」

 クライドは「ふうん」と、どこか納得しきらない声を出した。



 ■ ■



 神殿の白い石造りの建物は静かで、どこか冷たい印象を与えた。


「こちらへどうぞ、勇者さま」

 出迎えたのは、静かにほほ笑む女神官だった。腰までの銀髪と水色の目。控えめで穏やかな微笑みに、神に仕える者らしい雰囲気だと思った。静けさを纏う、みたいな……。


「私はエラと申します。この神殿で『神の媒介』を務めております」

「……どうも。運搬担当の優司です」


 今までは「運搬勇者」と名乗っていたのだが、最近は「勇者」と名乗りたくない気分の日が多い。国王に利用されるだけの道化……自分をそんな存在だなんて思いたくないが、否定できなくなってきた。



 俺は神殿の奥に案内されることになり、クライドは愛馬の世話に向かった。モンスターに襲われてもパニックになって逃げ出さない、いい馬だ。



 砦への補給物資を届けた後に王都へ戻らず、足を伸ばして神殿へ来たのは、老神官の指示だ。召喚の場にいたし、その後も気にして声をかけてくれている。


「公国神殿連絡室」という部署が、俺と桜の担当をしている。俺たちと国とのやり取りを仲介したり、運搬の仕事を受け付けたり――という感じだ。

 ある日、そこで仕事の打ち合わせをしていたら、ふらりと老神官が現れた。「ついでに行ってきてくれい」と、神殿行きの業務を追加してきた。

 神殿連絡室の担当と老神官はしばらく押し問答をしていたが、俺は黙って聞いていた。口を挟んでいいのか、わからなかったし。


 元の世界でも、こういう場面あったよなと思い出しながら眺めていた。


 個人事業主なら仕事の内容や条件を交渉するのだろうが、俺は雇われた立場だった。与えられた仕事を手際よく、黙ってこなす。

 知らない方がいいこともあるし、口を挟んでややこしくなることもある。いろいろと考え込むネタを抱えて、ストレスを溜めるようなことはしたくない。沈黙は金――それも生きる知恵だ。



 神殿の奥で何をやるかと思ったら、神様の言葉を聞くのだという。女神官エラが神様の言葉を伝えるので、俺はそれを聞き逃さないようにしなければいけない。


「では、神のご意志を伝えます」

 魔法陣の上に立ち、手を組んで目を閉じるエラ。銀の髪がふわりと舞い上がる。おお、ファンタジー映画みたいだ。

 目を開いたとき、彼女の水色の目は金色に光っていた。


「~~汝は『器』ではないが、『鍵』である~~」


 エコーのような響きを帯びた声が、空間に広がった。


 話し終わると、空中に広がったエラの髪が静かに降り、それに合わせるように彼女はまぶたを閉じた。

 それから数秒、彼女は微動だにしなかった。

 再び目を開けると、水色の目に戻っている。どうやら、終わったらしい。



「……どういう意味ですか?」

 なぞなぞのような、禅問答のような言葉しか出てこなかった。

「申し訳ありません。私は伝えるだけで、意味は分からないのです」

 申し訳なさそうに、謝られた。歴史の授業で、大昔は甲羅や骨で占いをやったって載っていたな。占いは適切に解釈するが肝、みたいなやつか。


 王都の老神官に言われて来たから、これは帰って訊けばいいのかね。

 紙と筆記具を借り、日本語で書き留める。これから一週間かけて戻るのに、覚えていられる自信はなかった。


 そういえば、この結果はクライドにしゃべってもいいのか? 帰路の暇つぶしに、推理したら面白いかもしれない。



 ■ ■



 王都に戻り、公国神殿連絡室に完了報告をする。

「これが砦の受領サインで、こっちが神殿の御札で……」と、仕事の証明になるものを渡していく。

 老神官に帰還を伝えてくれと言いかけたところを遮られ、そのまま中央神殿に向かうよう指示された。



 中央神殿に行くと、老神官は手が離せないのでしばらく待つように言われた。

 神殿の中庭で出された薬草茶を飲みながら待っていると、回廊から桜が現れた。

「よお。久しぶりだな。お前も呼ばれてんのか」


 ドレス姿でヨチヨチとこちらに近づいてくる。

 たまにカクンと変な動きをするのは――高いヒールでも履いてるのか?


「相変わらず、平民みたいな格好ね!」

 いや、元の世界でもこっちでも、俺は平民だが?

 なんだろう。マウントを取ろうとしているのか? 俺相手に勝ったって、どうってことないだろうに。


「同郷のよしみで、体幹を鍛えるトレーニングでも教えてやろうか?」

 荷の上げ下ろしや長時間の座りっぱなしで腰をやらないよう、俺もそれなりにトレーニングをしてきた。

 桜の歩き方を見ていると、体の軸がぶれているせいで、うまく歩けていないんだろうと思う。


「余計なお世話よ!」

 ……まあ、こんなフリフリのドレスなら、転んでも大怪我にはならないか。確かに、余計なお世話だろう。

 若者とうまくやっていくコツは、うるさく言わないことだ。

「薬草茶、飲むか?」

「いらないわよ。ああ、シャリシャリのフローズンドリンクが飲みたいな~」

「そういうのは、なさそうだよな」

 異世界転生なんかしたら、確実に日本より食事のレベルは落ちるだろうよ。よく考えずに自分の命をかけるなんて、馬鹿なことをしたものだ。


 桜は侍女に世話をしてもらい、ドレスや宝飾品を買い、王子たちとお茶をして過ごしているようだ。それはラノベでいうところの、ヒロインじゃなくヒドインの振る舞いではないだろうか。

 異世界転生を望むくらいだから、自分の行動がどういう結果に繋がるか、わかってるんだよな?

 ちょっと心配になるが、若い子に言っても反発されるだけだろう。どうも、こちらを見下しているようだし……素直に忠告を聞き入れてくれるとは思えない。 



 ほどなく神殿の地下へ案内された。老親官に、王に知られたくない密談だと耳打ちされた。

 「われわれ三人で、神託を照らし合わせたいと思う」

 老神官のそんな宣言で、話し合いが始まった。


 桜が召喚前に受けた神の言葉は――「芽吹くには、ひとたび地に還れ。音なき場所に声を置け」

 更に、異世界に来るときには、こう言われたという。「汝が招いた死をあがなえ。生を譲り、感謝を尽くせ」


 俺たちが異世界転移した後、神殿に神託が下ったそうだ。老神官によると、「無音の国に、声はいらぬ」とのこと。


 そして、今回俺が持ち帰ったのは「汝は『器』ではないが、『鍵』である」



 うむ……並べてみても、さっぱり分からん。



「おそらく、サクラ殿には最初、何か役目を与える意図があったのでしょう」

 老神官が淡々と解説する。

「ただ、他者を生け贄にする形での転生は、試練の神の意にそぐわなかった。

 それで方針を変え、勇者を交替させたように見えますな」


 テーブル中央の透明な石、周囲の十二の石。そのどれかが老神官の言葉に呼応して光った。



「そして、ユージ殿は『声を置く』という役目までは継いでいない。

 未来を左右する『鍵』として選ばれた。運命を動かす分岐点……」

 老神官は円盤の縁をなぞりながら、言葉を柔らかく紡いだ。


「サクラ殿には、『守られた命』への感謝を行動で示すこと。

 ユージ殿には、自分の『選んだ道』を焦らずに進むこと。……風のように、しなやかに」

 

 おみくじに書いてあるような言葉で、老神官は俺たちに神の言葉を伝えた。心がけるとか、そんなレベルで、実際にどうしたらいいかピンと来ない。

 中学生の頃だったら、「うおー、格好いい!」と思えたのだろうか。「左手がうずく」とか言い出したりして……。

 とりあえず神妙にうなずいて、老神官の前を辞した。



 ■ ■



 異世界人の二人が地下室を出て行った。


 老神官は居住まいを正し、一人で円盤に向き直った。二人には説明しなかったが、ここは神殿の最深部だ。


 中央には主神を示す石、周囲に従神を示す石が配置されている。特別な作法で語りかけ、神々の意思を仰ぐ場なのだ。



「……試練の神・イグレーア様が動かれたか」

 人を試し、見極め、世界を揺さぶる神。

 少女を怠惰な公国に送り込んだのは、混乱をもたらすためか。再生か滅び――どちらでもよい。

 だが、少女は他者を害し、神の不興をかった。

「勇者」という優位性を得られなかった少女が、どう行動するか……それもまた楽しんでおられるのか。



「『無音の国に、声はいらぬ』は……イグレーシア様ではない? 預言の神・セオリア様か?」 

 石の輝きで、推理を修正する。


 言葉は示すが介入せず、結果を見届けるセオリア様。神殿は公国の行方に介入するな、ということでしょうか。



 そして――「鍵」。

 これは、未来を自らの手で変える者。歩みの神・ロセール様の兆しか。

「器ではない」とは、本来の勇者ではないと言う意味か。


「器が壊れぬよう『守り』が必要、ということでよろしいでしょうか?」



 神々との対話は、失言をしないよう、畏れ多いと怯える本能を抑えこんで臨むもの。神経をすり減らし、寿命が削られる。

 だが、神の声を放置するのも恐ろしい。

 老神官は本日のやるべきことを終えた。冷や汗を拭い、息を切らしながら地上へ戻るのだった。



 ■ ■



 優司に、今までとは違うタイプの仕事が入った。


 南東の神殿、神の言葉をもらったあの場所に半年ほど滞在する。その神殿を拠点にして、国境を兼ねる川沿いに支援物資を届けるのだ。

 その中には、大水の被害を受けた例の農村も含まれている。


 配る物資は、近隣の領主様から受け取るようにとのこと。

 優司は神殿と領主の屋敷を行ったり来たりしながら、運搬業務をこなしていく。本格的に運送業をする日々が続いた。



 神殿に滞在している間、あの預言を告げた神官――エラによく話しかけられた。


「今日の昼食は、村から届いた野菜でスープを作りました」

「裏庭の花がようやく咲いたんですよ。お時間があるときに、見てやってください」


 あの時の神秘的な雰囲気は皆無で、ほにゃっと気が抜けるような空気をまとっていた。こういう癒やし系って、いいよな。



 異世界に来たばかりの頃、俺は神殿を避けていた。この世界に召喚されたのが神の意志だ聞き、不信感でいっぱいだった。

「……ふざけるなよ」


 あの日、荷台には急ぎの荷物があった。待っている人がいた。俺だけじゃない、荷物に関わった人全員の未来の予定、希望をすべて断ち切ったんだ。

「俺たちの人生をもて遊んだのが、神ってわけか。自分の世界も守れず、異世界から人を攫ってくるなんて、とんでもない」

 そんな神を信仰するなんて、冗談じゃないと思った。



 だから、神殿で寝起きするようになってしばらくの間、神官たちが声をかけてきても、俺はそっけなくあしらっていた。

 彼らにとっては「神が召喚した勇者」なんじゃないだろうか。俺個人ではなく、神の(しもべ)として見られている気がした。そんなのは不愉快だ。


「信仰を広めるために利用されたくない。俺は荷物を運ぶだけだ」

 勇者を呼ばれる度に、そんなふうに突き放した。我ながら大人げないと思うが、大人しくしていたら英雄扱いがエスカレートすると思うのだ。


 実のところ、宗教がらみでなければ、別に話すのは構わなかった。

 だが、挨拶代わりに神の話をされるのが、どうにも受け入れがたかった。そして、彼らはそれ以外の話題を持っていないようなのだ。幼い頃から神殿で暮らしていたら、そうなるのも当然なのかもしれない。


 心当たりのない敵意を向けられた神官たちは戸惑い、やがて俺と距離を置くようになった。俺にも心の余裕がなかった。



 だが、エラは違った。


 ある日、村への補給の途中で雨に降られた。神殿に帰り着き、裏手で荷車を拭いていた。


「濡れてしまいますよ」

 エラはそう言って、自分のローブを差し出した。

「大丈夫だ」

 もう、すでに濡れている。

「勇者様は『人の荷』ばかり気にしますが、ご自分のことも少しは大切になさってください」

 その言葉は、俺の中にストンと落ちた。

 意地になって荷車をきれいにしていたが、雨が上がってからでもよかった。俺自身が風呂に入って着替えてから、荷車を整備するのだって構わない。

 自分は人並み以上に運搬の仕事をやり遂げてみせると、意固地になっていたかもしれない。

「そうだな。雨が上がってからにするよ」

 エラにローブを返したが、すでに泥がついてしまった。

「そうしてください」

 そういうエラに釣られて、俺も微笑みを返した。



 それから、エラと立ち話をするようになった。彼女は神の話をしない。ただ、日常の話をする。


「あの村から大根のお裾分けですか? ほんのり甘い大根なんですよ」

「この花は夜にだけ香るんです。夕食後にお散歩するのがお勧めです」

 そんなふうに、ささやかな時間を分け合うようになった。



 その光景が日常になった頃、世間話を交わせる神官が増えていった。

 よく考えれば、神社や寺で育った人と同じなんだよな。神様のことに人一倍詳しいけれど、それ以外の趣味の世界を持っている。それをこちらに押しつけてこなければ、友達になることだってできるかもしれない。


 ある日、神の絵を描いているという絵師が声をかけてきた。

「噂を聞きました。荷車に神の絵が必要なら、描かせていただきます」

 そう申し出てくれたのだ。

 ――結論から言えば、丁重に断った。

 正直に言えば、「荷車に神の絵? 冗談じゃない。これ以上、この世界の神様と関わり合いたくないぞ」と思っている。


 だが、大人として、ストレートにそれを言ったら駄目だろう。できるだけ、柔らかい言葉を選んだ。

「……気持ちはありがたいけど、うちの荷車にはちょっと――畏れ多いよ」

 神殿の青年は少し戸惑ったようだったが、俺の顔を見て、何かを察したのだろう。それ以上は何も言わず、話は終わった。

 人間関係に気を遣うのは、こっちの異世界も変わらないな。



 何度も「夢」として語っておいてなんだが、トラックをデコレーションするというのは、「本気であり、戯れでもある」――そんな程度の夢だった。


 二〇二四年、トラックドライバーにも時間外労働の上限規制が本格的に適用された。

 拘束時間や休息時間にも細かく制限がつき、「稼ぎたくても働けない」現実が一気に広がる。人手は足りず、物流は滞るだろうと、業界内外に不安と不満が渦巻いた。


 適用が決まった数年前から、仲間のひとりはずっと言っていた。

「将来が不安だ。もう、何が楽しくて生きてるのか分からん」って。


 だから、つい言っちまったんだ――「いつかさ、愛車を派手にデコろうぜ」ってな。

 あれは半分、冗談。半分、慰め。ちょっと未来に光があるように見せかける、ごまかしみたいなもんだった。


 本気で叶えるつもりなんてなかったし、あいつだって笑って流すと思ってた。でもまあ、そう言ってやれば少しは気が紛れるかなって……俺も、あいつも。


 夢ってさ、「目指すもの」っていうより「逃げ場」になることもある。そういうもんだったんだよ、あれは。

 その少し前から、貯金の額を見ながら「デコトラにするのもアリかもな」なんて冗談めかして思ってた。


 「デコろう」と人前で口に出したのは、あのときが初めてだった。

 ……気づいたら、俺にとっても、ちょっとしたときに口にする「夢」になってた。それだけの話だ。


 ただ、デコトラの背景には、トラック野郎への憧れがある。それを抜きに、きれいな絵を描いてもらうのは、何か違うのだ。ロックの威勢良さを求めているのに、魂を清める賛美歌を歌われるようなものだろうか。それの違いを、デコトラを見たことのない人に説明するのは難しい。


 だから、神殿の絵師が「神の絵を描こうか」と申し出てくれたときに、詳しく話す気になれなかった。

「神以外なら何が描けるのか」――そんな質問すらしなかった。


 おっさんが四十歳すぎてもやってこられたのは、時にちょっとした逃げ道を使ってきたからだ。

 強がって見せるのも、自分にウソつくのも……生き延びるには必要なスキルだと思う。真面目すぎると、ポキリと心が折れてしまう。

 「夢」を語ると同時に、夢を笑い飛ばし、冗談にして、誤魔化すように生きていた。中年男の心もなかなか複雑なのだ。

 ――まあ、異世界転生させられて、若返ってしまったわけだが。



 ■ ■



 神官たちと仲良く話せるようになっても、俺の中には澱のように「こちらの世界の神に対する不信」はくすぶっていた。


 ある日、思わずエラに訊いてしまった。

「あんたは、神を恨んだことはないのか」


 エラは驚いた顔をして、それから静かに首を横に振った。

「ありますよ。何度も。神様のせいにして無理矢理納得しないと前に進めないことも、ありますもの」


「それでも神官をやっているのか。……器用だな」

 少々、八つ当たり気味に言葉をぶつけてしまった。


「そうでしょうか。

 でも……ユージさんも神を恨みながら、人のために神殿の荷を運ぶこともあるでしょう?

 矛盾しているようで、それはとても……人間らしいことだと思います」


 彼女は、神の代弁者であるのに――神から少し離れた立場も理解できる人のようだ。そういえば、エラが俺に信仰を勧めたことは一度もなかった。



 ある晩、夕食の片付けをしながら、踏み込んだ話をした。エラが神様を恨んだことがあるという、その理由を聞いた。


「私が……神を恨んだのは、口減らしで神殿に入れられたときです」

 エラは少し笑ってから、目を伏せた。


「なぜ自分だったのか、ずっと考えていました。妹じゃなくて、なぜ私が選ばれたのかって。

 もしかしたら私は、愛されていなかったんじゃないか。出来が悪い子だから、捨てられたんじゃないか……そんなふうに思ってしまって」

 淡々と語りながらも、その声はかすかに震えていた。


「それに……神様が本当にいるのなら、不作になる前に、誰かが飢える前に、助けてくれるはずじゃないかって。そう思ったことも、何度もあります」

 ふっと息を吐き、遠くを見るような目をした。


 ふいに、エラは俺の顔を見た。

「でも……それでも、ここに残る道を選んだのは、自分なんです。私、ご飯を食べるためにここにいるんですよ」

 いたずらっ子のような表情になり、肩をすくめる。王都の神官長には内緒ですよと笑って、深刻な雰囲気を追い払った。

 けれど、その奥に寂しさを抱えてるのが透けて見える。 帰れる家もなく、信じることを強要され、ただここで過ごすしかなかった少女。

 神の声を代弁できる上級神官になったのは、たまたまだと笑い飛ばした。


 ……その後で他の神官に、神の言葉を聞くためには、過酷な修行が必要だと耳打ちされた。



 ■ ■



 神殿の生活も四か月が過ぎた頃、突然、桜がやって来た。

 俺に感謝して、親切にするために来たと言う。……それは「勇者」になる手段として、徳を積むということか? そんな下心つき親切にされても、感謝の気持ちは湧かないと思うぞ。


 そして今日も――

「桜! 荷台に乗ってんじゃねぇ! その分、積めなくなるだろうが!」

「いーじゃん、元は私の異世界人生だったんだから!」

「俺に勇者を譲って、その計画は終わったんだろうが? 寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ。」


 勘弁してくれ。話が通じねぇ。


「ついていくわ。私もなんか役に立ちたいし」

 そう言うが、役に立つどころか……

「お荷物……」

 おっと。心の声が漏れてしまった。

「それ、女の子に言うセリフ? ひどくない!?」

 耳元でぎゃんぎゃんと喚かれた。あー、うるさい。


 俺の護衛として半年神殿にいる予定のクライドは苦笑し、エラは目を伏せて小さく笑った。

「では、お弁当を一人分追加しますね」


 笑い事じゃねぇ。まるで子守だ。


子どもの頃に将来の夢を訊かれて、何と答えていましたか? 大人にウケがよさそうなことを答えていませんでした? 私はそうでした。

本当の夢なんか恥ずかしいし、否定されたら傷つくじゃないですか。そんな感じの「夢」のお話でした。

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