第二話「秋は悲しき」
第二話「秋は悲しき」
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一面の紅葉だった。
赤、橙、黄色。色という色が重なって、
山全体が燃えているようだった。
足元には散り積もった落ち葉が絨毯のように広がっていて、
真魚が一歩踏み出すたびに、かさりと柔らかい音を立てた。
冷たい空気が頬に触れた。
秋の匂いがした。
土と、枯れ葉と、どこか遠くの煙の匂い。
真魚は動けなかった。
動けないというより、動きたくなかった。
ここには誰もいない。
椅子を引く子もいない。
笑いをこらえる顔もない。
悪意の空気も、カーストも、噛み合わない会話も、何もない。
ただ山があって、紅葉があって、風があった。
遠くで、鹿が鳴いた。
高く、細く、どこか寂しげな声だった。
妻を求めて鳴いているのだと、さっき読んだ解説に書いてあった。
誰かを探して、山の奥で一人鳴いている。
真魚は、その声を聞きながら思った。
わかる気がする、と。
誰かを探しているわけじゃない。
でも、どこかに自分の居場所があるはずだと、ずっと思ってきた。
小学校でも、中学校でも、どこへ行っても見つからなかった。
ただここには、
この山の静けさの中には、
息ができる気がした。
今日一番、ほっとしていた。
次の瞬間、山が消えた。
図書室の天井が視界に戻ってきた。
手の中に百人一首の本があった。
司書室の奥から、先生がお茶を飲む音が聞こえた。
何も変わっていなかった。
でも真魚の中では、何かが変わっていた。
胸の奥に、あの山の静けさがまだ残っていた。
紅葉の色が、鹿の声が、冷たい空気の感触が、消えずにそこにあった。
真魚はもう一度、本に目を落とした。
こんなにほっとした感覚は、今まで一度もなかった。
図書室の窓の外では、クラスメイトたちが校庭で笑い合っていた。
その声が、今日は少しだけ遠く聞こえた。




