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神の降臨

 太陽が漆黒の分厚い雲に覆いつくされ、夜になったかと思うほど暗くなっていった。

 暗黒の雲が空一面を覆って太陽の光が全く入ってこない。


 僕は空を見上げ不思議に思っていた。雷の音も風も無かった。

 天井の雲が渦を巻くように、ゆっくりと降りて行く。


「えっ……何?」

『……どうやら、ラスボスの登場みたいね』


 アジェが答えると同時にレムルスから手を放す。彼は白目になり気絶していて、その場に倒れた。

 しかし、彼は依然として聖剣を握ったままである。


 空を覆いつくす漆黒の雲の渦の中心から黄金色の一条の光がレムルスに向かって伸びていく。

 その光はレムルスを照らし出すと、彼の持つ聖剣が輝きを放ち始めたのである。


『アイツを……神が依り代として使う気みたい』

「えっ……あれが神!?」


 アジェの言葉に僕は驚きの声を上げる。何故なら、黄金色の光は、あたかも神々しく見えるからである……。

 光を浴びた魔剣士はジワジワと浮遊していき一旦空中で停止すると、光に包まれ浮いていた。

 彼の目、鼻、口からは黄金の光が漏れ出している。


「神が僕等と戦うの!?」

『そうよ、あたし達を滅ぼす為に神が降臨した……覚悟はいい!?』


 僕はアジェの呼びかけに思わず身をすくめる。しかし、そうこうしている内に光は弱まりその中からレムルスが現れる。

 だが、レムレスは白目を剥いたままであるが、こちらを見下ろしている。


 その姿は禍々しい程の威圧感を感じ取り身震いをする。

 そして、彼は僕達を見てニタリと不気味な笑みを浮かべる。


『我は……神なり』


 その姿はレムルスそのものだが声は神々しく荘厳でもあるが禍々しさも孕んでいた。

 僕達はレムルスから発せられる威圧感にゴクリと唾を飲み込む……。


『神の依り代になった事で、完全に乗っ取られたみたい……』

「レムルスじゃなくなったのか……」


 アジェが憑依した神に対して呟き、僕も完全に支配された彼を気の毒に思う。

 僕は身構えるが彼は微動だにせず、こちらを睥睨していたのである……。




 この時、魔王城でギルバルスとグレギギはこの光景を見て、神の出現に驚きを隠せないでいた。


「なっ……何が起きたのですか!?」

「この威圧感は……神。昔、神から力を貰った時と同じ感覚だ……」


 ギルバルスは、かつて神から力を貰った事を思い出していた。

 彼がまだ魔王になる前に頭の中で天啓が降りた時に感じた圧倒的な威圧感と同様であった。


 そして、2人は魔王城のバルコニーから神の降臨をただ眺めるしかなかったのである。

 同時期にドワーフ、ハーフリング、古エルフ、竜人族も決闘の場で神の出現を目の当たりにし、恐怖に怯えていたのである。


「ガラド! あれは!?」

「わからんが圧倒的な力を感じる存在の様じゃ……」


 ガラドとニルスも、ただ事ではない雰囲気を感じ取り畏怖していた。

 アイラとバルバラも、その光景に圧倒されながら食い入るように見て呟く。


「何だ!? あの禍々しくも神聖な光は!?」

「古エルフの伝承で聞いた事があるぞ……創生神話では、あれが降り立った神の光……」


 2人共、ただ事ではない気配を纏った黄金色に輝く光を見続けていると畏怖を覚えていく。

 そして、その光は徐々に弱まっていくと中から魔剣士が姿を現すのである。

 魔王軍やアベルの仲間達だけでなく王国軍の兵士や騎士達も、この状況に恐れおののきながら光を見ていた。


「あれは何なんだ!?」

「化け物……いや、悪魔か?」

「神だ……情けない勇者に痺れを切らして現れたんだ !」


 口々に彼らは叫ぶ。確かに末恐ろしい程の存在感と威圧感に圧倒的な恐怖を感じ取っていた。

 そして、それは『終焉の刃』のメンバー達も同じであった。


「一体、どうなっていやがる!?」

「リーダーが空中に浮かんでいるぜ!」

「あ……あれは神です。頼りないレムルスの代わりに神が降臨したのです……」

『終焉の刃』のメンバー達は口々に驚きの叫び声を上げていた。しかし、1人を除いてだが……。

「神がレムルスに降臨したのは、もはや我等に任せておけぬという意思表示であろう。しかし……神が相手では奴等も終わりかも知れぬな……」


 ベルゼリアは冷静に分析し、神との圧倒的な力の差にアベルでは勝てないだろうと予測する。

 だが、戦士・武闘家・聖女は神から力を貰った身といえども、神に戦いを挑むという事態が理解の範疇を超えていた。


「じゃあ、レムルスが絶対勝つよな?」

「そうだろう、相手は神だぞ? アベルじゃ無理だ」

「神が負けるはずがありません……もはや、アベルは死を待つだけでしょう」


 ウェイドとアーロンはレムルスが勝つと楽観視し、レイラも神が負けるはずがないと信じ込む。

 それは彼等の希望的観測でありアベルの身に宿る女神の事は頭にない……そもそも知りようがなかったのである。

 だが、ベルゼリアは違った……アベルを一目見て人間ではありえない存在の力を感じたのだから。


「いや、あの者の中に居る存在の力量次第では……神が絶対勝つとは言いきれぬ。負けてしまえば……その時は世界が変わるやもしれぬぞ……」


 魔女は誰にも聞こえないように小さく独り呟くのであった……。




『アベル、あなたじゃ神に太刀打ちできない……あたしに体を貸して』

「えっ!?」


 僕はアジェの言葉に一瞬驚く。そして、彼女から突き放されたような感じがして少し寂しくなる。

 女神が言うように、これから始まる戦いは人である僕では到底太刀打ち出来ないのは明らかである。

 それならば神に体を乗っ取られているレムルスを倒すには僕の体を女神が使う……それがアジェの提案であった。


『あたしじゃないと奴とは張りあえない……ごめんね』

「わかってる……僕では神と戦うには力不足だってのは……だから、遠慮なく使っていいよ」


 アジェの提案を了承する。しかし、彼女は少し間を置いてから答える。


『ありがとう。だけど、あたしはアベルを依り代として体を借りる。そして……奴を倒す』

「アジェと神の戦いか……壮大なものになるだろうね……」


 僕は彼女の言葉から神との戦いを想定し身震いする。

 しかし、歴史上において神同士で争ったという話は聞いた事がない。この世界は唯一神の世界だから……。


 神話においては唯一神が世界を創造した……人間、魔族、エルフにドワーフ等の色々な種族を造り出したという。

 ならば、創造主である神と戦って勝てる種族などいる筈がない……但し、それが別の神であれば話は別だ。

 今、現実に神と神の戦いが始まろうとしているのであった。


「アジェ……君の勝利を信じてるよ」

『ありがとう……絶対に負けないから』


 彼女にそう答えると僕の体を乗っ取ていく。

 暫くすると体の感覚が無くなるのであった。


 だが、ギルバルスとの戦いの時と同じように意識は残っており視覚は共有されている。

 そして、空中に浮かぶ依り代にされ金色に光る魔剣士に向かってアジェが叫び声を上げる。


『この世界に神は2柱もいらない! あたしはあんたを、やっつけてやる!』

『威勢のいい小娘だ……この世界の神である我に仇名す者は死あるのみ!』


 アジェは女神らしく威厳のある物言いで神を挑発すると白目を剥いたレムルスの顔で神は答える。

 彼自身は意識も無く、ただ神に操られているだけだろう。


 レムルスを依り代にした神は手に持った聖剣『ディヴァイン・フォース』に力を込める。

 すると、聖剣から黄金の輝きが放たれ、黄金のオーラを刀身に纏うのである。


『我が鍛えし聖剣の威力を喰らうがいい!』


 神が聖剣を振ると途方もない巨大な黄金色の衝撃波が僕達に向かって襲いかかる。

 アジェは衝撃波に対して手をかざすと衝突する直前に女神の力で僅かに逸らしていく。

 逸れた衝撃波は地面を削っていき周りで見ていた王国軍を巻き込んでいく。


「ああっ!!」

「うわぁああっ!!」

「ぎゃあああっ!!」


 まともに喰らった王国軍達の一部は衝撃波に呑み込まれ絶叫した後、一瞬にして肉片となった。

 神が放つ衝撃波は魔人化したレムルスの『真・終撃斬』どころの威力ではなかったのである……。

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