17話
今日はマリンがお茶会に行く日で、その手土産にアップルパイを頼まれたから朝から作っている。
パイ生地を昨晩に作っておいてよかったな、まさか朝十時にマリンが家を出るなんて。
生地から作ってたら間に合ってなかったかも、、。真っ赤な林檎の皮を包丁で丁寧に剥く。
林檎が市場で安く売ってたから箱ごと買っちゃって重すぎたから途中でルーカスに手伝ってもらったな。昔から彼は器量がよかったけど成長するにつれてそれに磨きがかかっているような。
そういえば昔ルーカスとマリンがデートしてたっけ。
でもあれって結局マリンが泣いて帰ってきて、それで、、?
あの後も二人とも普通に話してはいるみたいだけど、なんだかお互い他人行儀で変な感じだった。
あの日に二人の間で何かあったんだろうけどそれはあまり人には話したくなさそうだったし、今さら聞くのも嫌な感じだしきっとこれは分からずじまいだろうな。
あれこれ考えていたら沢山の林檎の皮を丁寧に剥き終えたからコンポートを作っていく。
鍋に林檎、砂糖、バターを入れて中火水分がなくなるまで時々混ぜながら煮てそれを冷ませば林檎のコンポートが完成、作り方はシンプルで簡単。でも私はそこにシナモンを入れて香りをよくする。
シナモンが入ればより上品な仕上がりになる。シナモンの香りが部屋に漂う。
余熱が取れたコンポートをパイ生地に並べる。
いつもならそこまでお洒落に生地を編んだりはしないけれど今回はマリンのお茶会だから少しだけ手間を加える。生地をコンポートが収まるくらいの大きさの丸に切ってその周りに別で作っておいた三つ編みのように編まれた生地で囲む。コンポートを丸の真ん中に固まるように並べてその上をまた細長く切った生地で網目を作るように組んで行く。それが終わったら溶いた卵を筆でコーティングする。その後は200℃のオーブンで20分、あとはパイの様子を見ながら温度を下げたりしてさらに20分焼いてみる。
焦げないようにしっかりと見ておくことが大事だね。
パイを焼いている間に私はカスタードクリームを作る。
アップルパイとカスタードクリームは最高の組み合わせだからね!
パイの方をチラチラ見ながら手際よくカスタードクリームを作る。
そうやってカスタードクリームを作ったり、後片付けをしていたらあっという間にパイは焼けた。
オーブンから取り出してみると、きれいに焼けたアップルパイができていた。
焦げているところはなくて完璧な仕上がりかもしれない。
粗熱をとっている間にパイを入れる箱とカスタードクリームを入れる容器を準備する。
キッチンで色々としていると階段から人が下りてくる音が聞こえる。
「すごいいい香りがするわ!」
マリンのお茶会へ行くためのおめかしが終わったみたいだ。
「とってもきれいに焼けたのよ、美味しいはず!」
「カリナのスイーツはいつも完璧で美味しいから絶対に美味しいに決まっているわ!
この香りを嗅ぐと食べるのが待ち遠しくなっちゃうわ。」
そういってマリンが近づいてくるとフワッとバラの香りが香った。
「ねえ、マリン、もしかして香水つけてる?」
「ん、ええ、バラの香りを少しだけね。もしかして似合ってない?」
「まさかとっても似合ってるよ!」
「ほんと、よかった!」
バラの香りは可憐で綺麗なマリンにぴったりだ。でもその香りはマリンを大人にしていてなんだか寂しい気もする。
「ねえ、やっぱりカリナも一緒に行きましょうよ。貴方が来ればみんな喜ぶわよ。
珍しくカトリーヌも来るのよ。」
カトリーヌは太陽のように明るいオレンジ色の髪に顔にちりばめられたそばかすががとっても可愛い女の子で昔はよく一緒に遊んでいた。
「今日は他に予定も入っているから、また別の機会にお邪魔するわ。」
「カリナはそう言って全然来ないじゃない。」
「まあまあ、早く行かないとみんなを待たせちゃうよ。」
「もう、次はカリナも一緒に来てよね。」
「予定が会えばね、これアップルパイねあとこれはカスタードクリーム。
カスタードクリームはあっためてからパイに垂らしてね。」
「ええ、ありがとうカリナ。それじゃ行ってくるわね。」
「行ってらっしゃいマリン、楽しんで!」
赤色のドレスに身を包んだマリンはとても綺麗だった。
マリンを見送っているとまた階段から音が聞こえた、きっとお母さんたちだ。
「まあ、いい香り!これはカリナのアップルパイの香りかしら?」
「ほんとだな、これはぜひとも味見させてもらいたいな。」
二人は階段を下りるとテーブルに並べてある小さなアップルパイを見る。
実は絶対に私たちも食べたくなるから作っておいたんだよね。
「今日はいつもより焼き加減が完璧ですごく美味しいと思うわ。」
「カリナの作るデザートはいつも美味しいわよ。」
「ああ、本当だよ、毎日食べたいな。」
「毎日食べたらお父さんのお腹が大きくなっちゃうよ。」
「カリナの言う通りよ、ペンタ。今日はアップルパイはお預けかしらね。」
「それは勘弁してよ、テトラ!」
「そのお腹を引っ込めたら考えてあげるわ。」
「このお腹はもう引っ込まない気がするよ。」
「まあ、それは大変ね。」
お母さんとお父さんの会話が始まる。これを聞いているだけで私は幸せな気持ちになる。
「ねえ、お父さんたち、この後港の方まで行ってくるね。」
「ああ、ポールのところか分かった。昼はどうする?」
「お昼は自分で考えてやるね。」
そういって私は服を着替える。
港に行くときは動きやすい恰好がいいから、ズボンに履き替える。
髪はポニーテールにして青色のシュシュをつけよう。
靴は履きなれた青色の運動靴にして、今日のコーデは完成ね。
あとは水筒に手土産のアップルパイにクッキーに絵描きセットを入れればこれで準備完了ね。
「行ってきます!」
玄関の扉を開けて港の方まで自転車を漕ぐ。
太陽に照らされて少しだけ熱くなるけど、海沿いを漕げば潮風が熱くなった体を冷ましてくれる。
しばらく潮風を浴びながら自転車を漕いでいると青い髪をした青年が釣り場で座っているのが見える。
そこへ自転車を走らせて声をかける。
「おはよう、ルーカス!」
後ろから青い髪の青年、ルーカスに声をかける。
「ああ、カリナか、おはよう。今日は一人?」
「今日はっていうかいつも一人だけど。」
「そうか?今まではリアムとルイってやつらとずっと一緒だったじゃないか。」
ルイ、、忘れようとしていたことが急に目の前に出てきて言葉がさらっと出てこなかった。
「ル、ルイたちとはそんなずっと一緒にはいなかったけど。」
「そうか?それで今日は何しに来たんだ?また親父のところか?」
「そうそう、今日はポールさんのところに行くの。手土産も持ってきたから。」
「お、それはラッキーだな。その自転車貸せよ、俺が漕ぐからカリナは後ろ乗れよ。」
「はーい。」
ルーカスに自転車の運転を任せてポールさんの家まで海沿いで潮風を浴びる。
「なあ、カリナは茶会とかに行かないのか?」
「なんだか色んな人にそういうことを言われるんだけど、私は興味ないの。」
「そりゃ言われるだろう、だって年頃の女子は茶会やらパーティーやらで忙しそうだろ。」
「一般的にはそうなんだろうけど、私は違うのよ。」
「でも、そういう行事で結婚相手を見つけるんだろう?」
「分かっているわよ、でも今はまだ嫌なの。」
「それじゃ再来月にある島のパーティーはどうするんだ?
ほとんどの女子はみんな相手を見つけているんだろう?」
「うう、分かってるわよ相手を見つけなきゃいけないって。でもお父さんたちも何にも言わないし。
だから行かなくていいかなって。」
「はあ?それはないだろう、絶対に行くべきだって。」
「でも今さら相手とか見つけれないよ。」
「だったら、ってなんだよ?!」
ルーカスの言葉を遮るように大きな音が後ろから聞こえてきた。
振り返るとラッパを鳴らして自転車に乗っている集団がいた。
「おいおいルーカス君、なんだよ水臭いなあ。いい人がいるみたいじゃないか。」
「ほとだよなあ、俺達には紹介すらもしてくれないなんて泣いちまうよ。」
「俺たちのルーカス君が大人になっちまうのか寂しいなあ。」
自転車の集団は口々にルーカスを揶揄うような言葉を投げかけた。
ルーカスはうるさいなんて言ってるけど、表情から見るにきっと友達なんだろうな。
ぼーっとその光景を眺めていると黒髪の青年と目が合った。
「やあ、初めましてお嬢さん、僕の名前はテオ。よろしくね。」
爽やかな自己紹介の後に慣れたウィンクをお見舞いされた。
「カリナ、こいつは女ったらしだからあんまり仲良くなるなよ。」
「えー、それは君も同じだろう、プレイボーイのルーカス君?」
「俺はお前とは違うから!」
「カリナちゃんって言うの?気を付けてね、こいつ兄貴面してても中身は獣だから。」
「それはお前のことだろーが!」
どうやらルーカスとテオは仲がいいみたい。
にしてもルーカスがプレイボーイかあ、確かにその片鱗は昔からあったかもな。
「なあ、お前はマリンちゃんはどーしたんだよ?あんな美人を泣かすとかマジで何やってんだよ。」
「泣かしてねーよ、その話はしねえって言ってんだろ、次言ったら殴る。」
「あー怖いなあ。カリナちゃん助けてー。」
この人はマリンとルーカスの間に何かあったのを知ってるんだ、きっと私よりも。
何があったのか聞きたいけど、それを聞いて関係が壊れるくらいなら聞くのはやめとこう。
「カリナ、テオの話は真面目に聞くなよ。こいつの言うことは9割嘘だから。」
「それは不名誉すぎじゃねーの?俺は紳士だから女性にはそんなことしませんよ。」
二人が仲よさそうに会話しているにはいいとして、心なしかさっきから自転車の運転が荒い気がする。
このままじゃせっかくのアップルパイが崩れちゃう。
「ねえ、ルーカスもう少しだけ運転しっかりして、じゃないとアップルパイが粉々になっちゃう。」
「それは悪い、ほらお前らそういうことだからどっかに散れ!」
「怖いよールーカス君、もう少しワタシにも優しくしてよね!んもー、やんなっちゃうわ!」
「そうよそうよ、ワタシ怒っちゃったから!絶好よ!」
突然のおねえ口調のあと自転車集団はそのままどこかに行った。
「ねえ、あの人たちはルーカスの友達?」
「ああ、まあね。でもカリナは仲良くなるなよ、ろくでもないない奴らだから。」
「その人たちととつるんでるルーカスもろくでもない人?」
「いや、それは違う。俺はまともだ。」
「ふーん、ねえ今まであの人たちに会ったことなかったけどどうして?」
「ああ、それはあいつ等は向こうの島にある剣術の学校で知り合ったやつらで、今はこっちに
休暇で遊びに来てるんだよ。」
「どうりで知らない顔ばかりだと思ったよ。」
ルーカスは向こうにうっすらと見える島の剣術学校に通っていて、そのせいか最近は体つきがだいぶごつくなっているような気がする。
「俺さ、もうすぐ西の大陸の軍に入隊することになるんだ。」
「え、西大陸の軍に?」
「ああ、だからこの島ともお別れになるな。」
「いつ帰ってくるの?」
「そうだな、最低でも5年は向こうにいるだろうな。
休暇はあってもここまで帰ってくる余裕はないみたいだし、暫くは帰ってこれないだろうな。」
「そっか、それは寂しくなるね。」
「まあな、でも手紙もあるし連絡してくれよ。」
「うん。」
そのまましんみりとしちゃって、ルーカスの家に着くまで沈黙だった。
「カリナ、もうすぐ着くぞ。」
前にはルーカスの赤い屋根が見える、相変わらず可愛い家だなあ。
家の前に自転車を止めて、玄関を開けるとポールさんが出迎えてくれた。
「やあカリナ、いらっしゃい冷たい水を用意しているからね早く中にお入り。
ルーカスもお帰り、シャワーで汗を流してきな。」
ポールさんはルーカスのお父さんで栗色のカールした髪に、優しい灰色の目をした穏やかな人だ。
「ポールさん、今朝アップルパイを作ったんです。それにクッキーも昨日焼いて、どちらも美味しく
できたのでぜひ召し上がってください。」
「おお、それは嬉しいよカリナ、ありがとう。ルーカスのシャワーが終わったらみんなで頂こうか。」
「はい!あの、ポールさん今日も桟橋で絵を描いてもいいですか?」
「ああ、もちろんだよ!君の絵はとてもきれいだからね、見ているこっちも楽しくなっちゃうよ。」
「それは嬉しいです!」
「そういえば、カリナはパートナーは決まったかい?」
「いや、まだ決まってなくて。」
「そうかい、それはよかったというのは少し失礼だね。」
「大丈夫ですけど、なぜよかったんですか?」
「いやあ実はルーカスも決まってなくてね、誰かペアになってくれないかと思っていてねえ。」
「ルーカスがまだペア決まってないんですか?!」
「わあ、すごく驚くね、そうなんだよまだ決まってなくてね。
いつもならサクッと決めちゃうのにねえ、僕もびっくりだよ。」
あのモテモテのルーカスにペアがいないなんてどうして?何か問題でも起こした?
いや、もしかしたら実は女の子に興味はなくてさっきいたテオって人がいい人だったり、、?
一人でうなっていると後ろから冷ややかな声が聞こえてきた。
「何か失礼なこと考えてない?」
「シャワーを浴び終えたんだね、でもまだ水が垂れてるよちゃんと拭かないと風邪をひくよ。」
そういってポールさんはルーカスの頭をわしゃわしゃと拭こうとした。
「ちょ、親父やめろってわかったから、ちゃんと拭くし自分でやるから何もしないでくれ!」
「あんなに可愛かった息子がついには髪すら拭かれるのすら嫌がるなんて、泣いてしまうよ。」
シクシクとわざとらしい嘘泣きながらチラチラとルーカスの方を見ている。
見られている当方人は、私の作ってきたアップルパイやらを並べて飲み物の準備をしている。
「カリナはリンゴジュースでいいよな?」
「うん、ありがとう!」
紅茶が飲めないルーカスの家には茶葉は置いておらず、いつもコーヒーかその他果物のジュースを飲む。
ルーカスが全員の飲み物を入れ終えて、テーブルにみんな着席する。
「うん、やっぱりカリナの作るデザートは見た目も完璧だよな。」
「ほんとだよ、さすがペンタとテトラさんの娘だ。」
二人は褒めた後にパクリとよく似た大きな口でパイにかぶりつく。
「味はどうですか?」
「最高だよ。パイはサクサクだし、中身のリンゴは甘くておいしいよ!」
「ほんとだな、俺はやっぱりシナモンの入ってるのがいいと思うぜ。他のアップルパイには入ってない
ことも多いから、本当にこれは美味い。」
ポールさんは想像通り甘党だ。
そしてルーカスもきりっとした見た目からは想像がつかないが甘党だ、ポールさんや私よりもずっとね。
「そういってもらえてよかったあ!」
「なあ、なんで今日はパイなんだ?いつもはもう少し手軽なものだったりするだろ?」
「そうだね、わざわざこんな豪華なものを作るのは大変だろう?」
「いや、実は今朝マリンのためにアップルパイを作っていてそのついでだったでそんなに大変では
なかったですよ。」
「マリンのために?カリナはマリンのためにそんな豪華なものを作るのか?」
「いや、いつもじゃないよ、今日はマリンのお茶会のために作っていて、。」
「ふーん、そうなんだ、カリナはパーティーに誘われてないのか?」
「マリンには誘われたけど、私には向いてないし別にいいかなって。」
「ふーん。」
「いや、ほんとだからね、マリンは誘ってくれるけどいつも私が断っていて。」
「何をそんなに焦ってるんだよ?」
ほんとだなんで私焦ってるんだろう?
でも何となくルーカスのマリンへのイメージを悪いようにしたくないって思ってる。
「別に、焦ってるわけじゃないよ。
でも、やっぱりお茶会にはこれから出たりしなきゃいけないのかなって。」
「やっぱりこれからそういうのが女子には大事なんじゃないか?」
「はあ、それはよくわかってるわよ、でも何だかそれってつまらないの。」
ポールさんは黙って私たちの会話を聞いているみたいだ、ポールさんは何て言うのかなって気になって聞こうとすると突然ドアのチャイムが鳴ってポールさんは行ってしまった。
テーブルにはもう何も残っていなくて小さなお茶会は終わってしまった。
「俺は片付けるからカリナは好きにしていていいぜ。」
「いや、私もやるよ、申し訳ない。」
「客人にやらせる方が申し訳ないから、桟橋で絵でも描いてなよ。」
「わかった、ありがとう。」
「どういたしまして。」
ルーカスに後片付けを任せて私は画材をカバンから取り出し家にある屋根付きの桟橋で絵を描き始める。
昔は、西の丘でアルベールと話しながら絵を描いていたなあ。
あそこから見えた海はここよりも遠くてそれで、潮風じゃなくて花や木々の香りがしたなあ。
目の前に見える海は昔よりもずっと近くなって沢山の色を私に見せる。
鉛筆を手に取ってあたりを描く、絵を描くと昔に戻ったような感覚になる。
絵を始めたきっかけは何だっけ、気づいたら絵を描くことは私を安心させることになっていた。
孤児院にいたころから、弟と一緒に暮らしていた頃から私は絵を描いていたな。
桟橋の向いている方のその先に私がいた孤児院のある島がある。
あそこから私はこんなところに来たんだなあ。
孤児院での生活は豊かであったとは言えないけど、でも幸せだったな。
昔のことに思いをはせていると後ろから足音が聞こえた。
「カリナ、隣いい?」
「もちろん、隣どーぞ。」
「ありがとう、なあ描く手が止まってたけど何か考え事か?」
「まあね、ちょっと昔のことを考えてたんだ。」
「昔って、この島に来る前のことか?」
「そうだね、この先に私がいた孤児院がある島があるんだ。
今もあるかは分からないけど、ちょっと懐かしくなっちゃって。」
「そうか、カリナはそこに帰りたいのか?」
「うーん、一度は戻りたけど帰りたいわけではないかな、どちらかというと東の国に行きたいな。」
「カリナは南の国出身じゃないのか?」
「うん、奴隷商人に連れ去られる途中で逃げ出して南の国の孤児院に行くことになったの。」
「奴隷商人に連れ去られそうになった、、、。」
私の話を聞いてルーカスの顔は曇った。
「そんな暗い顔しないでよ、もう終わったことだし私は今幸せだし、気にしないで!」
「なあ、それはマリンも知ってるのか?」
「どうだろ、お母さんたちがマリンに伝えてるのは私が養子ってことだけじゃないかな。
それ以外は多分何も知らないと思う。」
私が養子であることを知る人は多いけど、私の生い立ちを知る人は少ない。
自身のみすぼらしい生い立ちなんて人にわざわざ伝えたくない、だってきっとそれを聞いたら離れていく人もいるだろうから、、。
「カリナの出身は東の国なのか?」
「そうだね、でも東の国にいたのはほんの数年だったの。
だから東の国での思い出もほとんどないというか。」
「どうして孤児院に行くことになったんだ?」
「それは両親が殺されたからかな。」
「殺された?」
「事故死ってことになってるけど、それは絶対にありえないって今でも思ってる。
私の家は何かと因縁だったりがあったりするところで、私たち家族はそれから逃げるように
別の場所に住んでいたんだって。」
「カリナが生まれたのはどんな家だったんだ?」
「両親は本家から逃げたから実際はただの庶民の家の子だけど、でも血筋は東の国でも有名な
家の血を引いているらしいの。
私が奴隷商人に連れ去られそうになったのもそれが理由。」
「そうか、、、。なあ、なんで今そんな話を俺にしたんだ?」
「それは自分でもよく分からないの、自分の生い立ちなんか人に話したくないって今でも思ってるしね。
でも、もしかしたら本当は誰かに自分のことを知ってほしいって思ってたのかも。
たぶんこの矛盾した気持ちを話すのがこの島からいなくなって、私にとって大事な友達のルーカスに
話すのがぴったりだと思ったんだと思う。」
ルーカスは黙ったまま何か考え込んでいる表情を浮かべた。
「俺はこの島を出てもカリナとの関係をなくそうなんて考えてないんだけど。」
「それは、どういうこと?」
関係をなくさないってことはずっと友達のままでいようとしてくれるってことなのかなと思ったけど、
ルーカスの顔からはなんだかそれとは別の雰囲気を感じた。
「ルーカス、、?」
「カリナ、俺はお前のことが好きだ。再来月のパーティーでは俺と踊ってほしい。」
ルーカスが私を好き、、?それはどういうこと、、?彼が放った言葉を私は飲み込めずにいる。
「あ、あの、私たちは友達だよね?」
「今はそうだけど、でも俺はそれ以上の関係になりたい。
俺はカリナのことをよく知っているつもりだし、カリナを誰よりも幸せにできると思う。
西の国へ行くことになるけどそれが終わればカリナを迎えに行くし、もしカリナさえよければ
一緒に西の国へ来てくれたら嬉しい。」
ルーカスは私のポカンとした表情を見て微笑んで、返事は一週間後にほしいといってそのまま
どこかへ行ってしまった。
暫く魂が抜けたようにその場に座って海を眺めていると急に頭が活発に働いてぐちゃぐちゃになった。
ルーカスが私を好き?!これは夢だよね?だって私たちはずっと友達だったし。
というか彼は本当に私を好きっていった?もしかしたら言い間違いだったり、いやでも返事がどうとか言ってたし、、。どうすればいいの、、?
頬に手を当てると目玉焼きが出来上がってしまうほど熱くなっていた。
いつもなら私を安心させてくれる絵は今は全く効果をなさなかった。
その後はどんな風に帰ったのかは記憶はなくて、気づけば夕食が目の前にあった。
「ねえ、叔母さん、カリナどうしちゃったの?」
「それが、ずっとこうなのよ、どうしたのかしらねえ?」
お茶会から帰ってきたマリンはどこか上の空の私を怪訝な顔で見つめている。
明らかにおかしい私の態度に家族は何があったのか聞いてきたが、なんて答えればいいのか分からなくてなんでもないの一点張りで何とか夕食をやり過ごした。
シャワーを浴びてパジャマに着替えて寝ようと部屋に入ろうとしたらマリンに呼び止められた。
「ねえ、カリナあんたどうしたの?
今日はカリナの大好きなトマト料理ばっかりでいつもなら飛び跳ねて喜んでいるじゃない。
なのに今日は飛び跳ねるどころか魂が抜けたみたいで本当にどうしちゃったの?」
「それは、ルーッじゃなくてその調子が悪くて、、。ははっ。」
危うくルーカスの名前を出そうとしたけど、寸前んで止めたしセーフだよ、ね?
チラッとマリンの方を見ると真顔だった。
「ねえ、ルーカスと何かあったんでしょ?」
「え?」
誤魔化せてなかったかあ、さすがマリン。でも、できればこれは気づかないでほしかった。
「やっぱりね、さあ早くあんたの部屋に入って事情聴取しましょ。」
マリンは私の腕を強引に引いた後ベッドの上に乗って何が何でも聞きだすという体制をとった。
こうなったらもう話すしかないよね、、。観念した私はあったことをすべて話した。
「なるほどね、ルーカスの奴ついに言ったのね。」
「ついにって何?!マリンは前から知ってたの?」
「知ってたも何も女子の大半は気づいていたわよ。」
「それは、どうして、、?」
「どうしても何も、態度から気づくわよ。ルーカスはカリナ以外の女子にはそこまで優しくないわ。」
「でも、ルーカスはマリンにだってとても優しかったじゃん!」
「それは幼馴染に対する優しさでカリナに対するのとでは全く違ったわよ。」
「それは、知らなかった、、。」
「それも知ってたわ。」
流石マリンと感心していたら、マリンは何だか気まずそうな顔をしている。
「ねえ、私はあんたがルーカスのことで無駄に気を使っていることも知っているわ。」
「え、何で?!」
「そりゃばれるわよ、だって私がルーカスとデートに行った日以降あんたはずっとルーカスの話を
私の前でしなくなったんだから。」
「ばれてたんだ、、。」
「当たり前よ、あんたの態度はわかりやすいのよ。何かあったのか聞けばよかったのに。」
「それは、マリンが嫌なことあったならわざわざ思い出させるようなことしない方がいいなって。」
「そうね、カリナはとても優しかったわね。あんたのそういうところは好きよ、でも聞いてくれたって
いいじゃない。だって私たちは親友なんだから。」
「マリン、、!」
「それで、あんたは何があったのか聞かなくていいの?
たぶん、あんたの話を聞くのが先なんだろうけど、、。」
「聞く!私の話は後回しでいいから!ねえ、マリン、あの日何があったの?」
「ふふっ、分かったわ、あの日何があったのか教えてあげる。
私がルーカスとデートに行くって言ってたの覚えてるでしょ?」
「ええ、もちろんあの日のマリンはとってもおしゃれしてたものね。」
綺麗なドレスに髪飾りを身に着けて、頭の先から爪の先まできれいにしていたのを私は知っている。
あの日のマリンは本当に恋する乙女って感じでとっても可愛かった。
「でも実は、あの日はデートじゃなかったのよ。」
「デートじゃなかった?どういうこと?」
「男女二人がどこかへ行くのがデートっていうなら、デートって言えるかもしれないけど、
私たちがしたのはただの買い出しなのよ。」
「買い出しってどういうこと?ルーカスは買い出しとかに付き合うイメージはないけど、、。」
「そうね、あんたがルーカスに買い出しに行こうって言ったらきっとあいつはデートって
言うでしょうね。
でもあんた以外の女子がルーカスにデートって言ったらきっと断ると思うわ。」
流石にルーカスはそんなこと言わないし、しないと思うけど、、。
でも、マリンのこの真剣な感じからしたらきっと本当なんだろうな。
「マリンはルーカスになんて言って誘ったの?」
「確か何か欲しいものがあってそこにルーカスに連れて行ってほしいってお願いしたのよ、
隣の島まで。」
「え、隣の島?!」
「ええ、だからルーカスもそれならカリナも連れていこうって言ってたわ。
でも、私はルーカスとデートしたかったからカリナは船酔いするからダメって言ったのよ。
我ながら酷い言い訳をしたと思うわ、ごめんなさい。」
「そんな、別に気にしないし、それに私が船酔いすることも合ってるし。」
「ふふっ、あんたは優しいわよね。
話を戻すけど、私はルーカスにデートだからねって言ったんだけど、うまくはぐらかされた
気がするわ。でも、今までそんなことなかったから意地を張ってデートってみんなに言ってたのよ。」
マリンはこの島で一番の美女だと思う、お世辞抜きでね。
だから、男の子に断られるなんて夢にも思わなかったって言うのはマリンなら納得できるな。
「ルーカスに無理やり約束してデートと言う名の買い物をルーカスに連れて行ってもらったの。
あいつはただの荷物持ちとか思っていても、私にとってはデートだったから島の中でも有名な
デートスポットに行って、いい感じの雰囲気が出るように頑張ったの。」
だから、デート前の一週間、色々と調べ物をしていたんだ。
マリンが真剣に何かを調べるなんてことほとんどなかったから、あの時は私も驚いてた覚えがあるな。
「私は精一杯の努力をしたけど、ルーカスはそれもお構いなしにあんたのことを話してたわ。
例えば、これはカリナが好きそうだとか、これは興味なさそうだとかね。
私はもちろんカリナのことは大好きよ、でもあの時はカリナよりも私を見てほしかったわ。
その後も色々なお店を周ったけど、ずっとルーカスはこちらを見てはくれないの、それで私は
ちょっとだけ、いやだいぶイラッてしちゃってとても嫌なことを言ってしまったの。
ルーカスともそれで大喧嘩しちゃってね。
でも、それはいいのよもう終わったことだし、お互いに謝ったしね。
でも、、。」
マリンはどこか浮かない表情を浮かべている。
「私、大喧嘩中にあんたを傷つけるような言葉もいったわ、今でもずっと後悔しているの。
あんたには直接言ってないかもしれないけど、大事な親友にそういうことを言ったことがもう
最低でしょ。だから、ずっとあんたに謝りたかったのごめんなさい。」
「そんな、私は全く気にしてないよ、だってマリンがわざとそう言ったわけでもないんでしょ?」
「当たり前よ、あんたを傷つけるなんて誰であろうと許せないわ!」
「だから、いいよ許してあげる。マリンは直接言ったわけでもないし、わざと言ったわけでもないのに
こうして謝ってくれたじゃない?だから私はマリンを許してあげる。
あなたは何があっても優しくて私の大好きで大事な親友だからね!」
「あんたって本当にいい子よね、そういうところ私も大好きよ。
もちろん話の続きはあんたも知っている通り、大喧嘩して泣きながら帰って、途中で雨が降ってきて、
それであの日のみすぼらしい私の完成よ。」
「マリンはみすぼらしくなんかないから、そんなこと二度と言わないで。」
マリンは私の怒った口調に驚いた顔をしたけど、それ以上に私が驚いていた。
まさか自分がこんな声出せるとは思ってなかった。
「あの、ごめん、別に怒ってるわけじゃなくて、マリンはきれいだからそんなこと言ってほしく
なくて。」
「いや、いいのよ、自分のことを貶すようなことを言うなんて私らしくないわね。
私の話を聞いてくれてありがとう。それじゃ、次はあんたの番ね、何があったのか教えてくれる?」
「今朝、アップルパイを焼いた後、ポールさんのところに行ってーーーーーーー」
今日あったことをすべてマリンに話した。
「なるほどね、ルーカスは西の国へ行くのね。それはさぞかし女子たちが悲しむわね。
それで、カリナはどうしたいの?私はあんた達のことをずっと見てきたから断言できるけど
ルーカスはあんたのことを本当に好きだと思うわ、昔からね。
いつ告白するのかしらって思ってたけど、まさか旅立つ前に言うなんて、弱気な男よねまったく。」
マリンは呆れた表情でルーカスのことをあーだこうだ言っている。
「ねえ、昔からって言ってるけどそれっていつからなの?」
「それは私も分からないけど、少なくとも私がこの島に来る前からだと思うわ。
だって、私がこの島に来た時からルーカスはあんたのことをずっと一途に見ていたもの。
全く私ってばよく負けるのをわかってて試合を挑んだわよね。」
「ちょっとまって、それってすごく昔じゃない?!
ルーカスがそんなときから好きなんてありえないわ。」
「それはどうかしら、恋愛に遅いも早いもないわよ。だって私の初恋は確か5歳の時よ?」
「ええっ、初恋ってそんなに早いの?」
「早いというか、普通な気がするけど。カリナは初恋とかはまだなの?」
「まだだけど憧れてた人はいた気がする。」
「ええ?!カリナにも憧れる人とかいたのね。」
「それってどういう意味?」
「別に変な意味じゃないわよ。どんな人だったの?」
「私もよく覚えてないけど、名前は、、、、、なんだっけ?」
「忘れたの?」
「だって、10年以上前のことだし覚えてないって言うか。」
「そんな、顔も覚えてないの?」
「顔も、覚えてないわ、でも小麦肌っていうのは覚えているわ。」
「小麦肌の人ねえ、ルーカスとは真逆ねえ。」
「そもそもルーカスのことそういう風に思ったことないから!
私にとってあの人は兄みたいなもんだし。」
「ふーん、でもルーカスってイケメンの部類じゃない、結婚まではいかなくても
ダンスパーティーのパートナーくらいにはなってあげたら?きっと面白いはずよ。」
「面白いって、、。私はパーティーとか興味ないし行くつもりはないわよ。」
「なんでよ、18歳のパーティーって男女関係なく憧れるじゃない?」
「私は違うの!」
「そう、でも私もあんたの意見には少しだけ賛成できるわ。」
「マリンはパーティーとか大好きでしょ?どこに賛成できるの?」
「パーティーにお茶会も大好きよ、でもそこにいる人たちが最近はあまり好きじゃないのよ。
みんな下心が見えてるっていうか、私はあまり好きにはなれない人たちもいるの。」
「それを聞いたら尚更行きたくないな、、。」
「それはダメよ、せっかくのパーティーよ着飾ったカリナが見たいわ! 」
「私をそこまで着飾らせたいなんて物好きだねえ。
というか、私はパートナーを作るつもりもないし、行ってもなあ、、。」
「何言ってるの、カリナの着飾った姿を見たい輩なんて腐るほどいるんだから!
それに、私も一緒に行くわ!もしパートナーがいないんだったら私がその相手になるし。」
「ちょっと待ってよ、マリンにパートナーがいないってどういうこと?!」
「それは、マリーと少し揉めちゃってそれでこうなったというか、、。」
「マリーと揉めたってどういうこと?あなたたちとても仲良かったじゃない。」
「そうだけど、カリナを馬鹿にするような発言をマリー達がしてたのよ、それで私頭にきちゃって。
マリーとはお茶会で大喧嘩したわ、ふふっ。
とにかくマリーとは関わらないでね、絶対に!」
「ええ、急展開過ぎてついていけないよう。」
「ついていけなくていいわ、私はもうマリーとは仲良くしないだけだから。
それで、カリナはルーカスのことどうするの?本当に断るの?」
「はぐらかされたような気がするな。
どうするって言ったて、断るよ。ルーカスのことそういう風に見たことないし。
それに、相手がいなかったらマリンにパートナーになってもらうし。」
「別に、私に遠慮しなくてもいいのよ、ルーカスのことはもうなんとも思ってないし。」
「遠慮してるわけじゃなくて、本当に何とも思ってないのよ。
私はまだ恋愛とかしたいわけじゃないし、そういうのを自分の中に入れたくなって言うか。」
「そう、カリナが本心で思ってるなら何も言わないわ。」
「パートナーはマリンがなってくれるのはいいとして、実はパーティーがある月に薬草師の試験を
があるの。だから、もしかしたらパーティーに出られないかも。」
「薬草師の試験を受ける?!」
「うん、そのために私はここまで勉強してきたのよ。」
「ちょっとまって、カリナはそれを取ってどうするの?料理人にそんなのは必要ないじゃない?」
料理人になるには確かにこの資格は全くいらない、でも旅をするならあった方がいい。
でも、それをマリンに伝えるの?本当に旅をするかも分からないのに?
言ったところで意味なんてないんじゃないかな、、。
頭の中で思考がぐるぐると周っていると『本当にこのままでいいのか?』というルイの言葉が不意に頭に浮かんだ。もし今マリンに本音を打ち明けなかったらきっと薬草師の資格を取るだけでそのままずっと何も言えずにお終いになるのかもしれない、、。
まだ幼かった頃、私とマリンはよくベッドで本音を打ち明けていた、それが今と重なる。
この時間は本音を言える時間だ、今言うべきだ、きっと。
「、、、、料理人には必要ないけど、旅をするには必要なのよ。」
マリンは私が旅をすると言った瞬間顔がこわばった。
「旅をするって、本気なの?旅ってそんなに甘いものじゃないのカリナだってわかってるでしょ?」
「分かってるよ、だからどこでも使える資格を取りたいの。」
「そんなの、ありえないわ、カリナがここから出るなんて。」
「ありえなくないように私はしたいの、海の先に私は行きたいの。それは私の憧れなの。
ずっと、このことをはっきりと言えなかったけど、でも、今言わなきゃって思ったの。」
「なにそれ、私初めて聞いたし、それに賛成できないというかしたくない。」
「うん、でも私はいつか旅をして、それでこの目で世界を見たいの。
沢山の物を、事を、人を知りたいの。この島にいるだけでは私はつまらないの。」
マリンは俯いたまま黙ってしまった。
「もちろん、旅の危険も分かっている。悪い人に襲われてしまうかもしれないし、
騙されるかもしれない。でも私は、そんなリスクが霞むくらいに旅で得るものに希望を抱いてるの。」
「私は、カリナの意見には賛成できない。だって、旅って危険だし、女子が一人でするものではないし。
きっと、叔父さんも叔母さんも反対するはず。」
マリンたちが反対することはわかっているつもりだったけど、いざ目の前で言われると少し悲しいな。
「でも、、。」
マリンが震える声で何か言っている。
「でも、私はカリナの親友だから、カリナのやりたいことを応援したい。
私は本当は危ないことはやめてほしいし、いわゆる女子の当たり前の生活をしてほしい!!
でも、それはカリナにとってつまらないなら私はあんたにとって最高の人生を送ってほしい!」
マリンの目は少し潤んでいた、きっと私と離れることを想像したのかもしれない。
「ありがとう、私の気持ちを尊重してくれて。
もし、旅に出れることになっても私たちはずっと親友だからね。ずっと大好きだから。」
私たちはお互いを抱きしめた。
部屋の扉の外に人影が映っている気がした。




