16話
あっという間に三年が過ぎた。その間に私は薬草学を熱心に学んでいて、薬草図鑑や参考書などはボロボロになり自分が思ってた以上に興味を惹かれ勉強していたことに驚く。
本をぱらっとめくってみれば赤いペンで大事!っとメモされている箇所があった。
(確かこれはアルベールに教えてもらったんだっけ。)
西の丘の上に住んでいた5歳下の貴族の男の子、歳は離れていても私のとても大事な友達だった。
療養のためこの島に移住してよくなったら帰るという約束らしくこの三年で回復し、故郷の北の大陸に帰ってしまった。
とても喜ばしいことと思う反面、回復しなければよかったなんて考えてしまう自分もいた、もちろんこんなことは口が裂けても言えないけど。
そういえばアルベールから贈り物をもらったな。
引き出しを開けると貝をモチーフにしたピアスがあり光に当たると七色に光る不思議な宝石がついている。餞別と言って渡されたものだけどまだピアスを開けていないからつけられていない。
このピアスを付けてまた会いたいな。
18歳になれば薬草師の資格を得る試験を受けられ、受かったら私は薬を作ることができる。
この島でなにか病気が流行って私がそれを治して英雄になってそれがアルベールの元まで届いてまた前みたいに丘の上で楽しく話すなんて妄想する。
だめだな、参考書を開いてもつい別のことを考えちゃう。
目をつむると穏やかな海の音が聞こえる。
このまま勉強しても続かなそうだし少し休憩しようかな。
窓の前に立って海を眺めるといつも通りの穏やかな景色が広がっている。
海のその先に憧れを抱いて十数年経った。
勉強すればするほど、訪れる旅人から物語を聞けば聞くほどこの世界を旅してこの目で知らなかった景色を見たい思いは強くなった。
『いつかカリナはどこかへ消えてしまそう』不意に先週マリンが私に呟いたことを思い出した。
あの日は確かバークさんとその部下が店を貸し切ってお別れパーティーをしたんだっけ。
パーティーが始まる1週間前から色々と材料を調達したり、何を作るかを考えたり中々忙しかったな。
それに当日は早朝から仕込みをしてたな。
「お母さん、お肉の焼き加減はこれでいいかな?」
ローストビーフ用のお肉でここまで大きいのものを見たのは初めてかも。
「完璧よカリナ、ありがとう!次はそこの野菜を洗っておいてもらえる?
できるならサラダをそのまま作ってほしくて、その後はパスタのソースもお願い。」
「分かった、パスタのソースに海鮮を使ってもいい?もちろんピザ用のも残しておくから。」
「それなら大丈夫よ、お願いね。」
採れたての野菜を水で洗い土を落とす。
どれも朝市で買ったものだから新鮮でそのままかじっても美味しそう。
でもそこにドレッシングをかけるとより美味しくなるのよね。
いつもならシーザーサラダにするけれど今回だす料理はどれもコッテリしてるから玉ねぎドレッシングにしてあっさりさせようかしら。
確か玉ねぎは買ってあったはず、あ、マリンが使ってる。
「ねぇマリン、玉ねぎを使いたいんだけど残ったりしてない?」
「残ってるわよ、でも今使ってるのは渡せないから戸棚に入っているのを使って。
できれば一玉は残しておいてほしいわ。」
「たぶん玉ねぎはそこまで使わないからたくさん残りそう。パスタのソースを後で作るんだけれど
確かさっきエビを解凍しすぎたって言ってなかった?できれば使いたいんだけど。」
「ほんと?間違えて出しすぎちゃって使ってくれるならありがたいわ。」
「私も解凍する手間が省けてよかった、10尾くらい貰ってもいい?」
「もちろん、それにそこの貝もいいわよ。あなたも使うかもって思って多めに下処理しといたから。」
「ありがとう、使わせてもらうね。」
とりあえずは野菜を洗って切って、玉ねぎでドレッシングを作る。
まだパーティーまで時間あるしお皿に盛っておいてあとでドレッシングはかけようかな。
よし、そしたら海鮮のパスタソースを作ろう。
確かトマトソースは作ってたから、そこに貝にエビを細かく切っておきましょう。
パスタまだ茹でられないから先にソースだけを置いといて、使うパスタはソースの近くにテーブルに置いておこう。
とりあえず料理の方はもう作らなくていいかな?
昨日から色々と仕込んでおいたしこれ以上作っても食べ切れなさそうだもんね。
そしたら私の得意なデザートを作ろうかな。
まさか私がデザート作りに才能があるなんて思わなかったなぁ。
私がデザートを作るきっかけは、魔法道具店に用事があったりして行く時、必ずルシアンさんは何かをご馳走してくれるからお礼にスイーツを頑張って作って持って行ったのが始まりだったかな?
本当はサンドイッチとかにしようかと思ったんだけどルシアンさんが甘党なのを知って変えたんだよね。
あの時はジャムのクッキーを持って行ったけどみんな喜んでくれたなぁ。
ルシアンさんは紅茶と一緒に上品に食べて、リアムとテラスは競うように食べていて喉に詰まらせてなかったっけ?
クスッと思い出し笑いをしているとマリンが不思議そうな目で見ている。
気を取り直してまずはデザートに洋梨のタルトを作ろう。
昨日の夜には型抜きクッキーを焼いておいたからタルトを冷やしている間にジャムを塗っておこう。
それじゃまずはタルト生地を作ろう!
バターは室温に戻して、砂糖、卵を加えてよく混ぜる。そこにふるった薄力粉を加えて、もったりとしたら型に流し入れる。
そしたら主役の洋梨は軽く汁気を切り薄く切って、これをアーモンド粉でコーティングしてケーキ生地に隙間なく並べる。
デザートも見た目がとっても大事!綺麗に並べなくちゃ。
丁寧に並べたらオーブンで45分から50分焼く、串を刺して生地がつかなかったら完成。
タルトを焼いている間にプリンを作っておこう。
卵に牛乳に砂糖を混ぜて濾すとプリン液は完成。
そういえばバニラビーンズを買ったからそれも入れよう。
やっぱりこれを入れると高級感あるし何より美味しそう!プリン液を型に入れて10分ほど蒸す。
カラメルも作っておこうかな、ホイップクリームもつけたらもっと美味しそうね。
プリンの他にもなにかもう一品簡単なものないかな?そうだ、コーヒーゼリーにしよう!
確か戸棚にコーヒーとゼラチンがあったような?
爪先立ちで背の高い戸棚に手を伸ばして開けるとコーヒー豆のいい香りが鼻をくすぐる。
ゼラチンはあそこの箱に入れたはず。
無事に材料を確保したらコーヒー豆を挽いてコーヒーを作ってそこにゼラチンを入れて混ぜるだけ。
とっても簡単だしこのままでも美味しいけど、ここにミルクとホイップをかければ最高!
でも好みがあるからこれも分けて置いておこうかな?
オーブンからいい香りが漂ってきた。そろそろタルトが焼けたかな?
オーブンを開けると見た目は完璧な焼き具合のタルトがあった。
それを取り出して竹串を刺すと生地はつかなかったためしっかりと焼けている。
「天才的なタルトの完成!」
「カリナのタルトやっぱり美味しそうね。見た目も完璧だし、いつかスイーツ屋さんでも出せそうね。」
マリンが後ろから焼きあがったタルトを見ている。
「そういえばマリンは今週末マリーとお茶会だよね?」
「ええ、そうなのとっても楽しみなのよ。
そうだ、カリナ、そのお茶会用に何かデザートを作ってほしいんだけどいいかしら?」
「私がマリーたちにデザートを作るの?」
「嫌かしら?もしかして何か用事があった?」
「嫌ではないけど、私が作ったものよりお店で買った方がいいと思うんだけど。」
マリーは私のことを嫌っているからきっと私が作ったものを食べるなんて言わないはず。
もし食べたとしてもあったときに何か嫌味を言われるに違いないし。
でも、マリンの顔をを見たら断るのもな、、。
「分かった、アップルパイでいい?」
「本当?!ありがとう、私カリナの作るデザート本当に大好きよ。」
マリンは私とマリーの仲が悪いことを知らない。
できればそのまま知らないままでいてほしいな。
「もちろん美味しく作るけど、それは私が作ったって言わないでほしいの。」
「え、どうして?私の友達もみんなカリナの作るデザートは美味しいって言っているし大丈夫よ!
それにカリナが作ったってマリーにも自慢したいわ。」
「でも、マリーは舌が肥えてるだろうしその人に私が作ったものって言うのは恥ずかしいっていうか。
あの別に他の子たちが舌が肥えてないって訳じゃなくて、そのマリーは貴族でしょ、だから。」
言い訳を並べてなんとか私が作ったということを伝えないようにする。
「そう、カリナが嫌がるなら言わないわ。でもマリーもきっと美味しいって言うわ。
とにかくありがとう、今週末のお茶会がもっと楽しみになったわ!」
「そっか、それならよかった!それじゃそろそろホールの方の準備も始めよっか。」
「そうね、私は叔母さんとテーブルを出してくるから、カリナは使うお皿を戸棚から出してほしいな。」
「わかった、テーブル重いから気を付けてね。」
朝から料理を作っていたらもうあっという間にお昼だ。
いつもならこの時間はお腹が空くんだけれど忙しくてそれどころじゃないのかまったくお腹が空かない。
お皿が入っている戸棚は確かここのはず、ガラス越しに海をモチーフにした青色のお皿がキラッと光る。
少し高いところにあるから背伸びしなくてはと思っていたけど普通に手が届いたことに驚く。
確かこのお皿を使ったのは2年くらい前だっけ、その間に私の背もだいぶ伸びたみたい。
とりあえずお皿は沢山出しておこう、あとはコップもね。
ガタガタと音がすると思ったらお母さんたちがテーブルを運んでいる。
お父さんもいればもっと楽なんだけどなあ。
先週の日曜日に調子に乗って何か重いものを持ち上げてお父さんはぎっくり腰になってしまった、もう年だなあなんて笑っているけど全然笑い事じゃなかったんですけど。
だってこの店の売りはお父さんの料理なのに、そのお父さんがキッチンに立てないとかなんの冗談なの。
行き場のないため息をついてホールの準備をする。
料理が一番大変かと思ってたけど、意外とホールの準備も大変だった。
3年前も海軍がこの店に来ていたけど、その時はホームパーティーみたいだったけど今回は違うしなあ。
まあ今回もホームパーティーではあるんだけどお別れパーティーみたいなやつだからちょっと豪華なんだよね、なんて色々考えながらパーティーの準備を始めると気づけば空はオレンジ色になっていてパーティーの時間になっていた。
準備が整ってすぐに海軍たちがぞろぞろと店に入ってきた。
「やあ奥さん、今宵は素敵なパーティーの準備をありがとうございます。
よければこれをペンタと召し上がってくださいな、南の国の上等な酒ですよ。」
お母さんにお酒を渡している白い立派な髭のおじさんは海軍大佐のバークさんだ。
昔この人の忘れ物を届けに行ったなあ、その時は直接会ったりはしなかったけど。
そういえばルイはバークさんの補佐官だし来ているよね。
周りを見渡しているとそれに気づいたバークさんがルイは後から来ると教えてくれた。
バークさんによると彼はあるお嬢さんにお茶に誘われたとのことらしい、やっぱり彼は女性にモテるのね。それはそうか、だって帽子の下はとってもきれいなお顔があるものねえ。
初めて彼の帽子の下を見た時はあまりに衝撃的で一瞬固まってしまったな、そういえばこれは初めてじゃなかったんだっけ?海軍基地で見た妖精みたいな男の人がルイだったんだっけ?まあ、どっちにしろ綺麗な顔をしているのは変わりないわね。一人で頷いていると急に声をかけられた。
「なに百面相してるんだ?また何か難しいこと考えているのか?」
「リアム!来てたんだね!」
「ああ、今日はお別れパーティーだからな、楽しまなきゃな。なあカリナが作ったやつってあるのか?」
「ええ、まずはあの海鮮パスタにサラダ、デザートは洋ナシのタルト、プリンにコーヒーゼリーだよ。」
「どれも美味しそうだな。まさかここを出る前にカリナの手料理が食べられるとは思わなかったよ。」
「それってどういう意味よ。」
「別にすげーって意味だよ、そんな顔するなって。」
「別に普通の顔しかしてないわよ。ねえ、ルシアンさんのことってどうするの?」
「ルシアン?ああ、あいつにはもう言ってあるんだけど俺は海軍だしポータルを見つける旅は
当分できないって言ってあるぜ。
無責任かもしれないけど、でも俺だって目標はあるんだ。
他のことにかまってなんかいられないんだよ。」
「そうね、私は無責任とは思わないわ。あなたの目標が達成できるといいわね。」
「ああ、なあカリナは旅に出ないのか?
ルシアンのお願いを聞くかどうか以前にお前は旅に出てみたいって言ってただろ?
旅には出ないのか?」
「、、、旅に出るのはいいかなって思ってるよ。」
「それは本心か?」
痛いところを突くなあ、そりゃ私だって普通の子供だったらそうお願いしたい。
でも私は孤児で、お母さんたちは私を拾ってくれた恩人だ。
育ててくれた恩を返さないといけないから旅なんてできるはずない。
「本心だよ、旅は危険だしいいかなって思ってる。」
「そうか、」
リアムはそれ以上何か言ってこなかった。
「それじゃ俺は食事を食べてくるよ、早くとらないと無くなっちまう!」
「たくさん作ったから大丈夫でしょ、のどに詰まらせないでよね。」
「テラスと一緒にするなよ!」
リアムは叫びながら仲間たちのところへ行ってしまった。
海軍たちがパーティーをしている間はとくにこれといってやることはないから適当なキッチンの椅子に座る。窓から見える海をぼーっと眺めているとマリンが隣に座ってきた。
「ねえ、リアムさんと話してたの聞こえちゃったんだけど、カリナは旅に出るの?」
「ううん、旅には出ないよ。だってここには私の大切なものがいっぱいだからね。」
「ほんとに?最近はずっと部屋にこもって勉強したり、急に料理の腕をあげたりで昔のカリナが
いなくなっちゃったみたい。」
「そんなことないわよ。」
「絶対にそんなことあるわよ、昔のカリナはもっとハチャメチャだったわ。
それになんだか今の方が海をぼーっと眺める時間も長くなっているし、いつか貴方がどこかへ消えて
行ってしまいそうで、、。」
マリンが俯いて口を噤んでしまった。
私の本音にマリンは気づいているみたい、私はそれがダメだと思うけど嬉しいとも思ってしまってそれが余計に罪悪感を増す。
思い出してカリナ、私は孤児で拾われた身、恩返しをするのが私の役目よ。
「マリン、私はどこにも行かないわよ。だって私はーー。」
私は孤児だからと言おうとした。でもそれは別の声で遮られてしまった。
「カリナ、せっかくだしテラスで話そうよ。」
遮った声はルイの声だった。
「ルイ!来てたんだ!」
「さっき来たばっかりだよ。マリンさん、カリナを借りるね。」
「、、、分かりました。」
マリンはあまりルイのことをよく思ってないみたいで少し表情もむすっとしていた。
それでも私が行くことを許可したのはきっとこれが最後だからだと思う、普段なら絶対に首を縦には振らないから。
テラス席に向かい合って座る、空には満天の星がちりばめられている。
「ルイはお嬢さんのお茶に誘われたんだよね?」
「何で知ってるの?」
「そんな嫌そうな顔をしないでよ。誰に誘われたの?」
「マリーさんだよ。」
「マリーだったの?確かに予想はしていたけども、ルイは苦手って言ってなかった?」
「ああ苦手だよ、でも彼女は貴族だからね権力には抗えないって言うか。」
「それは大変だねえ、でも別に婚約まではいってないんでしょ?」
「なんとかね。でも断るのも大変だったんだよ。じゃなくて、カリナは旅をどうするの?」
「どうするのってなにも、テトラペンタを継ぐつもりだけど。」
「それってこの島から出ないってこと?」
「だって私は孤児で拾われた身だし、恩返ししなきゃ。」
「確かにそれはあるかもしれないけれど、だからってカリナの人生を自ら色をなくすのはどうなんだ?」
「いいのよ別に、旅もしてみたかったけど危険もいっぱいだし、このままでいいの。」
「でも、それは本音じゃないだろ?いい加減素直になるべきだ。」
ルイはよく私にこう言う、でもそれは私の立場じゃないから言えるんだ。
「とにかく私は旅はいいのよ、今日は最後なんだし別のことを話しましょうよ。」
「いいや、いつもはそれで諦めるけど今回はそうはいかせないよだってこれで最後だからね。」
これで最後、ルイたちとはもう会えないのかな。
「カリナはいつも周りのことを考えすぎだもっと自分のことを想うべきだ。」
「私だって十分自分のことを考えているわよ、ねえもういいでしょ?」
これ以上この話をしたくない、だって無理やり自分の本音に蓋をしたのにこれじゃその蓋をこじ開けられてしまう。ルイは私がそうしているのを気づいているんだろうな。
いつもルイは私のことをまっすぐ見ている、それはうれしい時もあれば今みたいに逃げ出したくなるようなときもあった。
「ルイ、本当にこの話はやめようよ、せっかくの料理が不味くなっちゃうよ。
ほらこれ食べてみてよ、私が作ったんだよ?最後だし存分に食べて行ってよ。」
「それは楽しみだね、でも話をそらさないで。なあ、本当にこのままでいいのか?
カリナの夢は本当にこの島にずっと留まることで叶うのか?」
「だから、私はこの島に留まることで夢をかなえられるってずっと言ってるじゃない!」
「じゃあなんでそんな顔をしているんだよ?
ペンタさんたちになにも言わないで私は無理だって決めつけるのはおかしいだろ。」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが切れた。
「あなたの言う通り私は旅に出たいわ、こんな島にずっといるんじゃなくてもっと遠いところへ!
でも、だから何だって言うの?私は所詮拾われた身、恩返しをするのが鉄則でしょう?!
あなたはいいわよね、だって好き勝手できるご身分だものね?!
私だって孤児じゃなかったら夢に向かってもっと何かしているわよ!!」
「だからそれが決めつけなんだろ!!
ペンタさんたちがカリナのことをただの労働力として家族に迎え入れたわけじゃないってこと
わかってるだろう?!」
「そんなの十分わかっているわよ!でも私がいなくなったらテトラペンタはどうなるの?
お父さんたちは私がこの島で、身近なところで成長することを望んでいる!
命を助けられて、愛情を込められて育てられて、それなのに好き勝手生きることなんて私には
できない!あなたは私に恩知らずになれって言うの?!
孤児でもないくせに勝手なこと言わないでよ!!」
ルイはこちらを見て固まってしまった、私は言い過ぎたと思ったけれどでもこれを訂正する気はなかった。幸いにも私たちの喧嘩は中の人たちには聞こえてなかったみたいだった。
私はその場を後にして、リアム達と話してパーティーは終わった。
パーティーが終わってから数日後に海軍たちは出航した。
その間、ルイとは一回も顔を合せなかったし最後顔を見てもお互いに知らないふりをした。
これが、あの日にあったこと。
ルイとは喧嘩別れになってしまったことは少なからず後悔している。
でもあの日言った言葉を取り消したいかと言われれば、そうは思わない、私にだって色々悩んでいることはあるし、人に簡単に言われたくないことだってある。
もしこんなことを言われたらキールはどうたんだろう?
引き出しの奥にしまってあるペンダントを取り出す、それを開くとキールの写真が入っている。
この写真は確か私たちが南の国の孤児院に入った時に撮ったんだっけ?
キールは私の弟の名前で私と違って物語よりも賢そうな難しい本が好きで頭が人より良かったな。
それで運動もできていたし、それでいて優しかったから孤児院の人気者でだったな。
私が8歳の時にキールはある貴族に引き取られて離れ離れになっちゃたけど元気にしてるかな?
最近は勉強やら料理やらで忙しくなったしこの島での生活が当たり前になっていって段々とキールのことを思い出す時間が少なくなっていったな。でもやっぱり嫌なことがあるとつい見ちゃうな。
この島の生活はとても好き、でも時折キールとずっと一緒にいられたらどうなってたのかなんて考えてしまうこともある。いつか会いたいな。
潮風のせいか目が潤んできて、窓を閉めようかと思っていると郵便でーすという声が外から聞こえてきた。今日はこの家に私一人だから取りに行かなきゃ。
急いで下に降りてドアを開けて荷物を受け取る。
どうやらお父さんがまた何かを頼んだらしい、これはお母さんには隠しておいた方がいいものなのかな?
郵便物のラベルには割れものと書いてあるからとりあえず安全そうなテーブルにでもおいておこうかな。
安全地帯に荷物を下してポストに入っていた手紙を見るとほとんどはマリン宛ての手紙だった。
それらはどれも男の人からばっかりで流石としか言いようがなかった。
大量にあるマリン宛ての手紙の中に一つ私宛の手紙があった。
もしかしてルイから?なんて期待してみてみると送り主はルイではなくJとだけ書かれていた。
「Jなんてつく知り合い何ていたかな?」
とりあえずその場で封筒を開けると白い宝石みたいな花の栞に甘い花の香りがした手紙が入っていた。
一体誰からなんだろう、胸を躍らして手紙の内容を見るとそこには北の妖精は本当にいたという内容だった。そして最後にもう二度と帰れなくなり約束は果たせないことの謝罪と見つけてくれてありがとうの感謝の言葉が綴ってあった。
そして最後にはJより愛を込めてで終わっていて結局Jとは誰なのか分からなかった。
Jなんて知り合い私にはわからなし、もしかしたら別の誰かと間違えて送ってきている?
でも、手紙にはテトラペンタのカリナ様へって書いてあるしそんな人はきっと私以外にはいないはず。
お父さんたちが帰ってきたら聞いてみようかな?
一旦手紙を部屋に置いて、夕食の準備に取り掛かる。今日の夕食は揚げ物にしよう。
ジュワジュワと油の音が部屋に響き渡っていると扉の開く音が聞こえた。
お父さんたちのただいまという声が油の音の代わりに響き渡る。
今日はマリンのお茶会用のパーティードレスを買いに行っていたらしい。
マリンはその美しい容姿から貴族の男の人にパーティーに誘われたらしい。
「わあ、とっても美味しそう!!」
マリンが後ろから声をかける。
「おかえり、マリン。今日は揚げ物だよ、お腹が空いてるだろうし早く準備しちゃうね。」
「カリナが作る料理は本当に美味しいわよね、本当のこの三年で上達しすぎよ。」
「それはありがたいな。」
「ねえ、貴方本当にドレスいらなかったの?」
「うん、だって私には必要ないし。」
「でも、貴方だってパーティーに誘われていたじゃない。」
「それは断ったし、パーティーに行かないなら買う必要はないでしょ?」
「それが私には分からないのよ、どうして断ったの?貴方ってとっても人気なのよ?
もしかしたらとってもいい人に求婚されるかもしれないのに!」
「私は興味がないからいいのよ、それよりもマリンたち早く着替えてきてよ、私もお腹ペコペコなの。」
「分かったわ、それと後片付けは私がやるから何も洗わないでおいてよね!」
「別にそれくらいいいのに。」
「私がやるから!いいね?!」
「わかったよ。」
マリンの淑女からのこのおせっかいな親友への変わり身の早さについ笑ってしまう。
出来上がった料理をテーブルに並べているとやっぱりお父さんたちもマリンと同じようなことを聞いてきた。テーブルにすべての料理が揃って、みんなだ席に着いたら食べ始める。
「ねえカリナ、貴方本当にパーティーに出席しないつもりなの?」
「しないつもりだよ、お母さん。私にはそういうことは興味がないんだよ。」
そういうとみんな口をそろえてもったいないという。
そりゃ私だって一度くらいは行ってみたいと思ったこともあるけどその度にマリーの『孤児が来るとパーティーの空気が悪くなる』という言葉を思い出してそんな気持ちもしぼんでいってしまう。
昔はもう少しだけ優しかったと思ったけどそんなこともなかったな。
「とにかくお父さんには郵便物がマリーにはたくさんの手紙が届いていたよ。
それと私にはJって人から手紙が届いていたんだけど知ってる?」
「またお父さん何か頼んだの?」
お母さんの顔が鬼に変わろうとしている。
「い、いやそれは違うんだよ。それより今Jって言った?多分それは旅人のことじゃないか?」
「旅人?」
旅人でJってつく人、、。
「ジャックだ!!」
そうだジャックだ、なんで忘れてたんだろう?
彼は私の初めての友達で物語や島の外の世界のことを教えてくれた。
「まさかジャックから手紙が来るとはなあ、懐かしいな。」
「そうね、カリナがとっても懐いていたわよねえ。」
お父さんたちが思い出に浸っている中マリンがジャックとは誰かって質問した。
「そうかマリンはまだこの島には来ていなかったか。
ジャックは十年ほど前にここにきた旅人で、カリナが懐いてたんだよ。
それもそのはずで彼の語る物語はとっても面白かったからな。」
「それならカリナが懐くのも分かるわ。」
なんて思い出話に花を咲かせているのを尻目に私はジャックの手紙の内容を思い出していた。
ご飯を食べ終わった後私は後片付けをマリンたちに任せて急いで部屋に帰り手紙を開いた。
やっぱりそこには北には妖精がいたと書かれている。
北の妖精、、確かジャックが教えてくれた物語に度々登場していたな。
懐かしいなと思いながらその物語が書かれている本を探し読み直す。
昔は本当に北の妖精がいるんだと思っていたけれど流石に今はこんなことを本気で考えたりはしない。
きっとジャックは北の妖精だと思えるくらい綺麗な人に出会ったんだろうな。
物語を進めるうちに魔法使いが出てくる。
「魔法があるんだからもしかしたら妖精もいるかも。」
口から不意に言葉が漏れる。
魔法があるんだから?魔法はこの世界には存在しない。
急に口からありえない言葉が出てきて自分の驚く。最近はたまにこういうことが増えきている。
そういえば魔法は関係ないけど私はどうして薬草学なんて学ぼうと思ったんだろう?
アルベールにも何でこんな難しい学問を学ぶのかって驚かれたなあ。
それに私が家出した謎の二日間は本当に私はどこに行ってたんだろ?全く記憶がない。
そういう細々とした些細な記憶が少しずつ私の中からすり抜けて行っている感覚が時折あって忘れたくないことを無意識に忘れている気がする。
窓の外から見える真っ暗な海を眺めると月明かりに照らされてできた光の道がまっすぐに続いている。
ルイに言われた言葉を思い出す、それは私の中にずっと残っていてそれはどんだけ消そうとしても絶対に消えてくれない。
私はどうしたいんだろう、つぶやいた言葉は潮風にかき消された。




