15話 テトラペンタのカリナ
「結構立派な契約書ができましたね。」
ルシアンさんと完成した契約書を眺める。
「こちらの世界はわかりませんが、僕の世界では契約書はとても大きな力を持つんですよ。
例えば違反者をどこまでも追跡し対価を払わせるとか。」
「私の世界でも契約書はとっても大事だけど契約書自身が何かをすることはないですね。」
「まあ、カリナさんたちの世界には魔法が存在していないですしね、当たり前ですね。」
魔法がある世界は私の世界よりももっと便利なのかな。
「ではカリナさん僕はもう行きますね。」
「え、もうですか?せっかく来たならお茶でも出そうかなって思ってたんですけど。」
「それはありがたいですけど、この後リアムのところにも行かないといけなくて時間があまりないのです。
次はちゃんとお客としてきますね、ではまた会いましょう。」
「次は美味しい料理食べてってくださいね!また!」
ルシアンさんは私には聞き取れない不思議な言葉を言って光に包まれて消えてしまった。
魔法は何回も見たけどやっぱり不思議な感じがする。
「魔法があったら私ももっとすごい料理人になってたりして!」
魔女の自分を想像してニヤニヤしながら箒にまたがる。
「箒よ飛べ!なんちゃって。」
当たり前だけど箒は飛ばなかったしいつの間にか帰ってきていたマリンに白い目で見られた。
なんでこうも間が悪いんだろう、、。
ホールの掃除を終わらせて自分の部屋に戻る。
「ルシアンさんがくれた本ってすごく分厚いな。」
本を開くと草花のイラストにその説明が書いてある、まるでホゼさんがくれた図鑑みたい。
なんとなくパラパラとめくっていくとそこには何冊か参考書やらが挟まっていた。
「なになに、薬草学入門編?そういえば資格がどうのって言ってたような。」
薬草学なんて初めて聞いた。
もちろん薬草は知ってたけどそれを薬草学って言って学ぶなんて考えたこともなかった。
だってわざわざ学ばなくたって自然と覚えれるし、それに覚えなかったらケガしたときとかに何もできないじゃん。
わざわざ学ぶことって何かあるのかな?今まで見たことないような薬草を覚えたりするのかな?
「とりあえず問題集が入っているしそれを解いてみようかな。」
入門編って書いてあるしそこまで難しくはないよね。
私はこの時まではそう思っていた。実際に勉強を始めるとそんなに簡単なものではなかった。
そもそも私は薬草の正式名称も知らないし、組み合わせによって効果があったりなかったり、毒にも薬にもなるものがあったり、とにかく知らないことだらけだった。
知識だけなら詰め込めばいいものの計算をしなくてはならないものもあってそもそも何も学んでこなかった私にはそれはとても大変だった。
後から色々と調べてみると薬草学は難易度が高い学問でしっかりと学んだものが次に手を出すものだと知った。しっかりと学んだ者っていうのは多分アルベールとかの貴族たちのことだと思う。
庶民の私には全く分からないことがたくさんで諦めたくなることは何度かあった。
でも、諦めるのはそれはそれでなんだか負けた感じがして無理やり頑張った。
「なるほど、そういうことね!」
「理解できた?これは少し難しかったね。」
今は西の丘でアルベールに勉強を教えてもらっている。
「おかげさまで少しずつ分かってきたよ、ありがとう!」
「これくらい別にいいよ、でも本当に急にどうしたの?今までそんな素振りなかったのに。」
1か月間の外出禁止の間、私は暇な時間薬草学とそれを理解するための他のことを勉強していた。
でも1人で理解するには難しいところもあって外出禁止を終えてすぐにアルベールのところに行って勉強を教えてもらっていた。
ほとんど顔を出さなかった私をアルベールは心配していたみたいで顔をみるなり安堵していた。
その後はお説教が始まった、私が2日間家出したことは何故か耳に入っていたみたい。
5歳下の男の子にお説教をされるのは悲しくなってくる、、。
なんとか家出を誤魔化して勉強を教えてもらったはいいけど、なんで勉強を始めたのかはなんて誤魔化せばいいのかな。
言い訳を考えてうなっているとアルベールがこっちを見ている。
「ほんとうにどうしたのさカリナ。いつもならここで絵を描いて話してしかしてないのに。
誰かに何か言われたの?もしかしてあの気取ったお嬢様に何か言われたの?」
気取ったお嬢様とはアルベールと同じく貴族出身でとても綺麗な女の子。
マリンとは仲が良くて2人が並ぶと本当に絵になる。
ただマリーはお洒落に興味がなくて淑女とはかけ離れた私のことが好きじゃないみたいで時折私にマリンがいないところで嫌味を言ってくる。
それをアルベールは知っているのか、はたまたアルベールも彼女になにか言われているのか、マリーのことを毛嫌いしている。
「別にあの子に何か言われて始めたわけじゃないよ。ただ興味があったから始めただけ!」
「そう、それならよかった。」
「何か言われてないかって心配?」
「別に、あのさなんでマリンに言わないの?」
「言わないってなにを?」
「マリーのことだよ。
あいつがカリナに嫌味を言っているって知ったらもうマリーとは絶交すると思うけど。」
「だから嫌なのよ。」
「なんでさ、マリンはカリナが嫌な思いをする方が嫌がると思うけど。」
あまり気にしないようにしてたけれどマリーは私に会うたびに嫌味や皮肉を言ってくる。
外出禁止だったときマリーが珍しくテトラペンタに食事をしにきた。
そのとき他の人に聞こえない声で(孤児なんだから迷惑かけたらまた捨てられるわよ)と言われた。
あまりにも私にはその言葉が耐えられなくて逃げるようにその場を去ってしまった。
私が去った後マリンがマリーに話しかけると2人は誰をも魅了する笑顔で話していた。
私とマリンでの態度の差やマリーからの言葉に悲しくなることは今まで何回もあった。
これをお母さんたちに言ってしまえば気持ちは楽になると思う。
マリンによってマリーは大好きな服にアクセサリー、メイクを話せる大事な友達、2人で話しているときのマリンはとっても楽しそうでその楽しい時間を奪いたくない。
「私はマリンが楽しく過ごせたらいいなって思ってるの。」
「でも!」
「いいのよこれで、だってこの島はマリンが元々いたところみたいに都会な場所ではないから
彼女の関心を惹くものって少ないじゃない。
マリンが少しでも楽しめたら私はとっても嬉しいの!
それに私は彼女の言葉を真に受けるほど子供じゃないし、彼女と会わないようにすればいいの。
だからさ、この話はやめましょうよ、もっと楽しい話をしよ!」
「カリナがそれでいいならいいけど、でも何かあったら話してよね。」
「ええ、もちろんよありがとう!
ねえ、アルベールここが分からないんだけれど。」
「ああ、これはーーーーーーーー」
アルベールに分からないところを質問し教えてもらう。
そのまま何時間か過ぎて辺りが暗くなってきた。
「ありがとう!少し頭がよくなった気がする!次も教えてほしいな。
それと次来るときはこの前描いた絵を持ってくるね、それじゃまたね。」
「役に立てたならよかった、絵も楽しみにしてるよ、またね。」
そういって私たちはそれぞれの家に帰って行った。
その道の途中どこかで見た帽子を深く被った男の人を見つけた。
白い制服にペネンが夕日でオレンジ色に染まっている。
なんとなく眺めていると彼がこちらに気づいてこちらに駆け寄ってきた。
「やあ、お久しぶりですねテトラペンタのカリナさん。まさかまたお会いできるとは。」
思い出した、彼はあの日テトラペンタにきて私をからかった海軍だ。
「お、お久しぶりですね。では私はこれで。」
「まあまあ待ってください、もう日が暮れて暗くなるでしょうし僕がお送りしますよ。」
「いや、いつも一人で帰っているので大丈夫ですよ。」
なんとかこの人から逃れようとするが中々この人もしつこい。
「そういえばつい先日家出をしたと騒がれた方がいたそうですね。
ですがその方は家出をしたわけでもないそうで誰かに連れ去られたなんてことも言われていますよね。
最近は日が沈むのが早くなってきていますし、暗い時間に娘が一人で帰ってくるのは親御さんも
さぞかし心配なさるでしょうねえ。
一応僕も海軍ですから、一緒に帰ってきたと分かればきっとペンタさんも安心すると思いますよ。」
めんどくさい人だなあ、きっと断っても同じ方向何でってこのままついてきそうだしお願いするのがいいかも。
「分かりました、お願いします。」
「お願いされました!では帰りましょうか。」
「え、歩いてですか?」
「そうですけど、まさか馬車があると思ってました?」
「だって海軍が歩いてここまで来ているのを見たことがないから。」
海軍はいつも馬車に乗って移動しているイメージがある。
「確かに馬車には乗りますが僕は歩くのも好きですからたまにこうやって島を散歩しているんです。」
そういいながら右に見えるオレンジの海を眺めている。
帽子に隠れて目線はわからないけれどなんとなく優しい目で海を見ている気がする。
この人はどんな顔なんだろう。特に意味もなくなんとなくこの海軍の方を見る。
「どうしましたか?僕の顔に何かついていましたか?」
私の視線に気づいたのかこちらを向いたから思わず顔を背けて他の話題に無理やり移す。
「名前なんていうんですか?」
「僕はルイって言うよ。それでバーク大佐の補佐をやっているよ。」
ルイ、、そんな名前だった気がするような。興味がないことはとことん覚えていない。
「それじゃルイさん、なんであの時話しかけてきたんですか?」
あの日、私がこっそりと水を飲もうとしていたらわざとなのか声をかけてきた。
「それは前も言った通り、ペンタさんと大佐の手紙に出てきた君が面白そうだったからだよ。」
「そういえばそんなことを言っていた気がしないでもないですね。」
「ひどいなあ、ほとんど僕は君の記憶に残ってないじゃないか。」
逆にどうして記憶に残っていると思ったのかなあ。
特に話すことも見つからなくて海の方を眺める、海はいつも通り穏やかに波打っている。
昔から海は変わっていないしこの先へ行ってみたいと言う思いも変わっていない。
「海の向こうが気になる?」
私の心を見透かしたような質問に思わずルイさんを見つめる。
「図星かな?」
「図星ですけど、どうしてわかったんですか?」
「うーん、昔の僕と同じ目をしていたからかな。僕も海の向こうにずっと憧れていたんだ。」
「ルイさんもそうだったんですか。」
「そうだね。みんながそうってわけじゃないけど海軍の奴らも海の先に興味があって入ったて奴も
少なくないんだよ。それとルイでいいよ。」
「分かりました。」
「敬語もいらないよ。僕は君と友達になってみたかったんだよ。」
私と友達になりたかった?ならどうしてからかうようなことをしたんだろう。
「そんな顔をしないでよ、友達になりたかったのは本心なんだから。
ただちょっとやり方を間違えたかもしれないけど。」
ちょっとどころか結構間違えている気がするけど。
「友達になるかはこれからの態度で決めます。だからまずはお互いのことを知りませんか?
私はルイのことなんも知らないから。」
隣にいる海軍の口角が少しだけ上がった気がした。
「そうだね僕たちはお互いに何も知らないからね、そうだ自己紹介をしようよ。」
「自己紹介か、いいですね。」
「それじゃまずは僕からするよ。
僕の名前はルイで西の大陸へスペリアにあるルミナスって言う国出身だよ。」
「私はカリナ。生まれた場所は東にある、暁の国。」
「東の国で生まれてきたってことは、引っ越ししたの?」
「いや、東の国で生まれた後は南の国の孤児院に行ってそのあとお父さんたちが私を引き取ったの。」
「そうなんだね。それなら僕と似ているね。」
「ルイも孤児なの?」
「いや孤児とは違うかもしれないけれど、母親が僕を置いてどこかの男と駆け落ちしてね。
父親は仕事で北の大陸に行くことになったんだけどそこは小さな子供にとってはとても厳しい場所で、
だから僕を父の弟に預けたんだよ。ちなみのその弟が後のバーク大佐って訳。」
「なるほど、だから海軍になったんですね。」
「いや、実は叔父さんは僕を海軍には入れたがらなかったんだよ。
なぜなら海は危険がいっぱいで仕事で死んでしまうこともあった。
わざわざ僕を海軍にしたくなかったんだろう。」
「それじゃどうやって海軍に?」
「それは、勝手に海軍の入隊試験を受けて合格したからだよ。」
「勝手にやったの?すごいな。」
「別にすごくないさ、僕は昔から海の先にある国に興味があったんだ。
海軍に入れば色々な国に行ける、やりたいことがあるなら挑戦しときたかったんだ。
例え叔父さんに反対されてもね。」
家族に反対されてもやりたいことのために挑戦する、、。
「それって叔父さんは怒らなかったんですか?」
「怒ったさ、今まで一番怒ってたよ。でも、仕方がないだろう?入隊までしちゃったんだからさ。」
「それはなんとも強引だけど、でも仕方がないですもんね、ふふっ。」
「そうそう、仕方がないんだよ。それで僕は叔父さんを上手く丸め込んだんだ。
カリナさんも何かやりたいことがあるの?」
やりたいこと、、、料理人になって美味しい料理を振舞いたい。でもそれだけじゃない。
「私は、、料理人になってテトラペンタを継ぎます。それとカリナでいいです。」
ルイは私とは違う。私は拾われた子供だ、拾ってもらったのに旅に出たいなんて都合がよすぎる。
「それは本心なの?」
「はい、本心ですよ。私は昔から料理人になって美味しい料理をたくさんの人に振舞いたいんです。
それでテトラペンタっていうレストランをもっと有名にするんです。」
テトラペンタを継ぎたいっていうのも本心だ。
「そっか、そうなれるといいね。いつか君の料理がテトラペンタで食べられたらいいね。」
「そうなるように頑張るよ。あ、家が見えてきた。」
「ほんとだ、それじゃ僕はこっちに馬車があるからもう行くよ。」
「結局馬車なんだ。」
「だってここから歩いて行ったら日が暮れるどころか日が昇るよ。」
「そうですね、送ってくれてありがとう、気を付けて!」
「ありがとう、君もね。それじゃまたねテトラペンタのカリナさん!」
白い制服はオレンジから夜の色に染まっていた。
テトラペンタのカリナ、昔から近所の人からそう呼ばれてた。
なんだかレストランの看板娘って感じがするし悪くないどころかいいなって思ってたけど、今はなんだか複雑な気持ちがする。
日が海に沈もうとしていて夜がやってくる、明かりが灯って島が明るくなる。
セントアトラ島は海に囲まれ穏やかな波の音が絶え間なく聞こえ、潮風は私たちの頬を優しくなでる。
この島はきっとどこよりも美しくて、そして優しい。
でも、ここに訪れる旅人に物語、図鑑に載っている初めて知った草花、それらを目の前にするとここが少しだけ窮屈に感じてしまう。
空を見上げると1番星が光っていた。
テトラペンタのカリナ、、、私はこのままでいいのかな。




