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第八話 歓迎会

 

 クレハさんと部屋の片付けが終わった後は、紅茶を淹れてもらった。

 ティーカップに注がれた温かい紅茶は上品な香りがしてとても美味しい。


「ふふっ。気に入っていただけましたか? 私の実家で栽培した茶葉を使って淹れているんですよ」

「そうなんですか。とても美味しい紅茶ですね」

「そう言ってくれて嬉しいです。良かったらクッキーも焼いていますので、こちらもどうぞ」


 俺は「ありがとうございます」とクッキーを一つ頬張る。

 程よい甘さにサクッとした食感。ほんのりとする紅茶の香りが上品さを引き立てる。

 クレハさんの微笑ましい表情も相まって、何とも幸せな時間である。


 そしてティータイムが終わった頃、カムラスさんが帰ってきた。

 その隣にはもう一人、眼鏡を掛けた男性が歩く。

 偶然視線が合ったので俺は先に挨拶をした。


「そうか、君がクロノ君だね。自分はアルシンだ。これから宜しくお願いするよ」


 何処かカムラスさんと似ているが、知的な雰囲気の人だ。

 アルシンさんは俺に軽く会釈をするとリビングへ向かう。

 そしてカムラスさんと会話を始めた。



『やっほー! 皆んな元気?』

『ユメ、静かにして』


 次に入って来たのは女性二人。クレハさんよりも少し歳上だろうか。

 この人達が残りの女性陣らしい。

 陽気そうな女性は、俺を見るなり走るようにして近寄って来た。


「お〜! 君が噂の新人君だね。ウチの名前はユメリ! ユメって呼んでねっ」

「クロノです。よろしくお願いします」

「律儀でかわいい〜。アイリ、この人絶対良い子だよっ!」


 隣にいた女性は「はいはい、そうかもね」と流す。

 そして俺の目を見て会釈をした。


「あたしはアイリーネです。初対面なのにユメがご迷惑をお掛けしました。こう見えてあたし達二人は紅鷹の団の初期メンバーなので、何か困った事があれば気軽に聞いてください」


 冷静な雰囲気の人だ。 

 その横で「迷惑とは何よー!」とユメさんが頬っぺたを膨らませて拗ねている。

 その後ユメさんはいきなり俺にハグしようとしてきたが、「だからそれが迷惑なのよ」とアイリさんが腕をがっしり掴む。

 そのままアイリさんが引っ張る形で二人は食卓へと向かって行った。

 賑やかな人達だったな。


 そして日も沈み始め、夜になっていった。



『ああーー、、今日も残業で疲れた……』


 すっかり夜になった頃、何やら死にかけのサラリーマンの様な人物が入ってきた。

 壁を伝いながらフラフラと歩く。

 倒れそうだったので俺が肩を支えると「すまないね」と辛そうに応えた。

 そこに丁度コーヒーを持ったカムラスさんが通りかかる。


「ヒデさん。今日もお疲れだね」

「ええ、まじでしんどい。お先に寝てきまっす」


 「ゆっくり休んでね」とカムラスさんは男性を労う。

 そして男性はベッドのある個室へと這って行った。


「あの人はヒデさん。紅鷹の団の副団長だよ」

「へえ、そうなんですか。今にも死にそうな目をしてましたね」

「ははは……。ヒデさんには冒険者が運営する、街の治安を維持するための組合に参加してもらっているんだ。本当はリーダーの僕が行くべきなんだけれど、クランを留守にする訳にはいかないからね。彼には相当な負担をかけさせてしまっているよ」


 と、カムラスさんは申し訳なさそうな表情で教えてくれた。

 そして思い立った様にカムラスさんはリビングに居る皆に向かって声を上げた。


「さて! まだ帰って来ていないメンバーもいるが、クロノ君の歓迎会をしようか」


 それを聞いたユメさんが真っ先に喜ぶ。

「ウチが料理作る!」とキッチンへ向かって行った。

 アイリさんもきちんとエプロンを着てから後を追う。

 残った俺達はテーブルの上に置かれていた書類などを片付けて食事の準備をすることにした。


 そして一時間程経って、遂に歓迎会が始まった。

 ユメさんとアイリさんが出来上がった料理を次々とキッチンから運んできてくれる。

 具沢山のシチューに彩り豊かなキッシュ、熱々のマッシュポテトなど。

 テーブルに収まりきらないほど盛大なご馳走だ。

 なんと、その多くはユメさんが作ったものだという。

 俺は周りの様子を見た後、遠慮なくご馳走をいただくことにした。


 美味い。手が止まらなくなった俺は黙々と食べ進める。

 やはり心がこもっているからだろうか、この世界に来てから一番充実した食事だ。

 

 暫くしてアイリさんが手作りのデザートを持ってきてくれた。

 冷たく滑らかなプリンは実に絶品である。


「アイリ〜。うちが食べさせてあげる〜」

「いらない。それくらい自分で食べるから」

「え〜。アイリのケチ〜」


 酔ったゆめさんがアイリさんに抱きつく。

 アイリさんは眉をひくつかせて堪えている。

 頬っぺたにキスをしようとしたところで足を踏みつけたのは見なかった事にしよう。


 そして宴が盛り上がったところでカムラスさんが手を叩き、皆に声を掛ける。

 それを聞いて静かになった団員達は彼に注目した。


「では今日の主役のクロノ君。君から何か一言お願いしよう」

「えっ、俺ですか?」

「そうだとも。今日から君は紅鷹の団の一員だ。そんな君のことをもっと知りたいと思うのは当然のことだろう?」


 皆んなは頷いている。

 自己紹介か。こういう時は何を言ったら良いのだろう。

 少し考えてから俺は立ち上がり、こう言った。


「えっと……俺はクロノです。実はこの街に来たのはつい昨日のことで、それまでは他の場所で冒険者のようなことをしていました。趣味はゲーム……いや、魔物を倒すことで、敵が強いほど燃えるタイプです。団体生活をするのは初めてなので慣れないことが多いですが、皆さんよろしくお願いします」


 ふうっ。こんなところだろうか。

 安堵した俺は小さく溜め息をつく。

 そして皆んなに温かい拍手をしてもらった。


「ありがとう、クロノ君。それにしても趣味が魔物討伐だなんて驚いたよ。まさかとは思ったが、君は根からの戦い好きのようだね。もしかしたら今後のクランを背負って立つ人物なのかもしれないな」


 関心した様子のカムラスさん。

 さっきの発言には誤解があると訂正しようとしたが、あまりにも嬉しそうだったのでやめておいた。

 その後はしばし歓談をして、歓迎会はお開きとなった。



 カムラスさんとヒデさん、アルシンさんは今後の打ち合わせ。

 何やら近いうちにクラン総出で遠征に行く計画を立てているらしい。


 ユメさんは泥酔してベロベロ、アイリさんはその面倒を見ている。

 そっと毛布をかけるアイリさんは、ユメさんの寝顔を見て笑みを浮かべているようだった。

 この二人はやっぱり仲が良いんだな。


 残った俺は食器を洗っていたクレハさんを手伝うことにした。

 手際が良く、洗い物に随分と慣れているようだ。

 俺が食器を運ぶとクレハさんは「ありがとう」と言ってくれた。

 歓迎会で打ち解けてから、クレハさんと少し距離が近くなった気がする。


「ねえクロノ君。明日私と街を出ない?」

「えっ?」

「実は、近くの森に取りに行きたい薬草があるの。明日は団長達も留守でいないから、強そうな君に護衛をお願いしたくて……だめかな?」


 一瞬驚いたが、すぐに把握した。

 クレハさんは回復に特化した【治癒師】だ。

 治癒師は薬草から回復薬を調合することができる。


 回復薬の調合には複数の薬草が必要となり、それらを店で買い揃えるには少し値が張ってしまう。

 その為、護衛のできる味方がいれば自分で採取するというのが基本であった。

 勿論、明日の予定はないので了承である。


「いいですよ。俺でよかったら引き受けましょう」

「本当に? ありがとう!」


 クレハさんは喜んだ。

 明日は早く出発する事になったので、俺は空いていた個室を借りて睡眠を取ることにした。



明日(5/11)の投稿はお休みですm(_ _)m


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