第七話 紅鷹の団
そして翌日。
昨日の疲れが残っていたのか、目覚めた時には昼近くになっていた。
アラームがオフになったままだった事に気付く。
体内時計に任せた自然なサイクルで起きたので体が心地良い。
このまま惰眠を貪りたいくらいである。
俺は昨晩買っておいたパンを一切れ食べてから宿を出た。
そして街の中心部に向かって歩いていると、1メートル程の台座に水晶玉の様な物が置かれているのを目にする。
実はここに限った話ではなく、街の中に幾つか見つけていた。
確かギルドの前にも同じのがあったな。
昨日見た時は何かの装飾かと思ったが、他に意図がありそうだ。
近寄って調べると台座に文字が刻まれていた。
[神聖晶]? 一体これは何だ?
近くを歩いていた女性に尋ねることにする。
「あの。お尋ねしますが、この水晶はなんですか?」
「水晶? ああ、スフィアのことね。これは街中に置かれていて、魔力を流して移動したい場所を念じると、そこまで転移できるのよ」
「そんな事ができるんですか?」
「ええ。……だけど気をつけた方がいいわよ。あんまり遠くまで移動すると、魔力をごっそり取られて倒れちゃうから」
まさか、この神聖晶は『テレポーター』だったのか。
俺は女性にお礼を言ってから、神聖晶を試してみる事にした。
(転移。冒険者ギルド前)
神聖晶に軽く触れて魔力を流し、 昨日訪れた木造のギルドを思い出して念じる。
すると俺の身体は光に包まれ周囲が見えなくなった。
そして一瞬上空に浮き上がったような感覚がした後、すぐに光は消えた。
俺は周囲を確認してみる。
なんと昨日訪れた冒険者ギルドの前に移動しているではないか。
ステータスを開くとMPの消費量は20ほど。
この程度なら街中の移動手段として使っても問題ないだろう。
何て便利な代物なんだ。
ちょうど午後になっていたので、そのまま俺は冒険者ギルドへと足を運んだ。
これから昨日レイナさんに依頼してもらった、クラン[紅鷹の団]のリーダーと会う時間だ。
予定時刻よりも少し早く到着した俺はレイナさんに挨拶をする。
そして受付から離れた場所にある歓談用のテーブルに座り、リーダーが訪れるのを待つことにした。
『初めまして。君がクロノ君だね』
予定時刻通りに現れたのは、身なりの整った男性だ。
見た目からして三十代前半といったところだろう。
腰に片手剣を携えている。
「はい。俺がクロノです」
「僕は紅鷹の団のリーダーをしているカムラスだ。これから宜しく頼むよ」
俺は立ち上がりカムラスさんと握手を交わす。
その力強い握手から、熱意と誠実さが伝わってきた。
「ところで、君はメギスの街でも珍しい魔法剣士だと聞いているが本当なのかい?」
「えっと……そうですね。本当は魔法剣士よりも出来ることは多いかもしれませんが」
「おお、それは頼もしいね。うちは強さを追求するクランではないが、君のような腕利きが入ってくれるとなれば活気が出ることだろう」
カムラスさんは何処か嬉しそうだ。
「ここでは堅苦しいだろう」と二階の酒場で昼食をご馳走になった後、クランの活動拠点に案内してくれることになった。
まだ会って間もないが、この人物とは気が合いそうである。
「ようこそ、クロノ君。ここが今日から君のホームとなる、我ら紅鷹の団の拠点だ!」
案内されたのは街の東部にある大きな建物。
ここは紅鷹の団が冒険者活動を進める為に費用を出し合って購入した拠点らしい。
そのまま扉を開け玄関へと向かう。
木造の内装はギルドに少し似ていて落ち着く雰囲気だ。
部屋は複数あり、共用部と寝泊まりのできる個室に分かれている。
共用部には4人掛けのテーブルが複数並び、近くにはキッチンやリビング、そして各々の装備を収納する共有倉庫があった。
あまりの広さに俺は驚いた。
『おかえりなさい、団長。ところでそちらの方は?』
カムラスさんと会話をしていると、キッチンの奥から一人の女性が歩いてきた。
今の俺よりも少し歳上、二十代前半のように見える。
「クレハ君。一人で留守を任せてすまなかったね。紹介しよう、この青年は今日から入団したクロノ君だ」
カムラスさんの紹介に合わせ俺は「どうも」とお辞儀をする。
女性はこちらを見て微笑んだ。
「初めまして、私はクレハです。実は私も先月来たばかりなので、一緒に頑張りましょう。何か困ったことがあったら遠慮なく聞いてくださいね」
俺は「ありがとうございます」とお礼を述べた。
お互いの紹介が終わったところでカムラスさんが話す。
「すまないね、クロノ君。今日は他のメンバーは遠征中でね、君の歓迎会は彼等が戻ってからになりそうだ」
「いえ、気にしないでください。ところでメンバーはどれくらい居るんですか?」
「君を合わせて丁度10人になる。男性7名、女性3名の混成クランだ」
「へえ、男の方が多いんですね」
「実はそうでもないんだよ。男女混成のクランというのは少ないんだ。そもそもとして冒険者の大半は男性が占めているからね。大抵のクランは男ばかりになる。うちのクランに3名も女性がいるのはよく珍しがられるよ」
そうだったのか。
どうやら女性だけのクランも存在するらしいが、メギスの街には数える程しかないらしい。
「では、僕はギルドに戻ってクロノ君の加入申請をしてこよう。クレハ君、後のことはお願いするよ」
「了解です」とクレハさんは頷いた。
俺もついて行こうとしたがリーダーだけで十分なのだそうだ。
カムラスさんが部屋を出た後、俺はクレハさんからクランでの生活について色々と教えて貰うことになった。
まずはクレハさんとリビングを始めとした共用部の掃除をする。
備品の確認や手入れなどの方法を丁寧に教わった。
新人として、まずはメンバーの信頼を得ることから始めるのである。
元の世界で働いていた時はこういった雑用が嫌で仕方がなかったが、今は心地よい。
俺はクレハさんと着々と掃除をしながらも会話をしていた。
「クロノさんって、この街の人ですか?」
「いえ、もっと遠くの街から来ました」
嘘はついてない。
何処なのかと聞かれたら答えようは無いが。
しかしそれは杞憂に過ぎず、「そうなんですね!」とクレハさんは声を上げた。
「私もこの街の外から来たんです。最初は不安で何度も帰りたくなったんですけど、ここの皆さんは優しくて気付けばあっという間に一ヶ月も経ってました」
俺は頷いて聞いていると、クレハさんは「ただ……」と続けた。
「皆さんメギスの街の出身なので少し肩身が狭かったんです。なので今日クロノさんが入ってくれて、実はホッとしているんですよ」
そう話す彼女は何処か嬉しそうだ。
そして「これからよろしくお願いしますね」とクレハさんは微笑んだ。
クランでの生活は、俺が思っていた以上に充実したものになりそうだ。




