第六話 証と階級
「お待たせしました。こちらが冒険者の証・ギルドカードになります」
俺はレイナさんからギルドカードを受け取る。
名刺程の薄い鉄製の板に、魔法を使って文字が刻印されている。
〔名前〕クロノ
〔性別〕男
〔年齢〕18
〔クラス〕魔法使い
「クラス……魔法使い?」
「もしかして違いましたか? 先程の戦いで魔法を使ったようにお見受けしましたので、そう記載しましたが……」
レイナさんは少し困った顔をしている。
なるほど、さっきの魔導兵との戦いはクラスを確認する役割もあったわけか。
NOF3では10種類の基本クラスがあった。
【盾剣士】、【双剣士】、【長剣士】、【打撃手】、【槍使い】、【狙撃手】、【弓使い】、【治癒師】、【魔法使い】、【魔法剣士】だ。
その内、攻撃魔法を使えるのは【魔法使い】と【魔法剣士】の二つだけである。
剣をストレージに収納していて丸腰だったのと、俺が魔力片を飛ばしたことから魔法使いと判断したのだろう。
しかし、厳密には魔法使いではない。
俺のクラスは【騎士】と【賢者】のハイブリッドだ。
NOF3ではレベル50を超えると二つのクラスを持てる仕様だった。
そしてレベル80を突破した者のみに解放される五つの『上位クラス』。
その内の2つが【騎士】と【賢者】だ。
対レイドボスに特化し近接最強とまで言われた火力を誇る【騎士】と、魔法攻撃だけでなく回復や支援魔法までバランスよくこなせる【賢者】。
これら二つを組み合わせた複合職、つまりハイブリッドがNOF3の最高効率職と言われていた。
一部のプレーヤーからは『環境破壊』と揶揄され否定的な側面もあったのだが、多くのプレーヤーが継続を望んだことから遂には運営による下方修正が加えられる事はなかった。
俺が最難関ボスであるカオスドラグーンと余裕を持って戦えたのも、この【騎士/賢者】の恩恵が大きかったのである。
……だが、それもゲーム内の話。
全てを引き継いでいるとはいえ、未だこの世界の実情はわからない。
今は必要以上に目立つことは避けたいのだ。
俺はレイナさんにギルドカードを預け、クラスを【魔法剣士】に書き換えてほしいと伝えた。
するとレイナさんは驚く。
どうやらこの世界では魔法剣士すら希少な逸材らしい。
魔法剣士の才能があるなら魔導兵を倒せるのも当然、と勝手に納得してくれたようだ。
賢者なんて言ったらどうなってたことか。
そして〔クラス 魔法剣士〕と書き変わったカードを改めて受け取った。
「ところでクロノさんはお一人で登録に来られましたが、クランに加入する予定はございますか?」
「クラン?」
「はい。冒険者同士で結成するチームのことです。よろしければ、現在メンバーを募集しているクランを提案いたしますよ」
そういえばゲームでも似たようなのがあったな。
俺は基本フレンドといない時はソロだったからチームというものをよく知らない。
これを機にクランに入ってみるのも良いかもしれないな。
思い立った俺はクランの募集を見せてもらうことにした。
レイナさんから台帳を手渡され、新人を募集しているクランの要項をペラペラと捲って確認する。
そして、二十を超えるであろう募集の中から良さそうなクランを見つけた。
[紅鷹の団]
新人歓迎の少人数クランです。ミスってもオーケー! やれば出来る子精神で行こう!
文面だけでは判断できないが、随分と新人に寛容そうだ。
特に[やれば出来る子]という部分が気に入った。そう、俺はやれば出来る人間なんだ。
「このクランでお願いします」
「承知しました。このクランのリーダーには私の方から連絡を入れておきますので、明日の午後にまたギルドにお越しください」
これでようやく冒険者登録の一連の流れが完了した。
身分証を手に入れたので取り敢えず安心だな。
レイナさんにこれまでのお礼を言って席を立とうとすると、受付の奥から見知らぬ男性が近寄ってきた。
『……失礼。お前さんが新入りだな?』
「はい、どちら様ですか?」
「我輩は駆け出しのひよっこ冒険者を立派な新人冒険者へと育て上げる教官である。これから我輩が冒険者とは何かを手取り足取り教えようじゃないか」
筋肉質なヒゲのおっさんだ。
得意そうに腕を組み、「ワハハハハ」と何やら愉快な笑い声を上げている。
今教官って言ったな。もしやこの人もギルドの職員なのか。
「いえ、大体のことはレイナさんから聞いたので遠慮しておきます」
「そうですよ、教官さん。クロノさんはお強いので出番はありませんよ」
近くで話を聞いていたレイナさんも声を掛ける。
特に知りたいことは無かったので気持ちだけ貰っておこう。
そんな俺達の視線を受け「だ、だが、しかし……」と教官なる人物は戸惑いを見せた。
「大体、最近新人が少ないからって教官さんは張り切り過ぎですよ。クロノさんは初めから魔法剣士のクラスを出来る手練れの方なので、教官さんのレクチャーなんて必要ありません」
バッサリと切り捨てるレイナさん。容赦ないな。
「……え? 魔法剣士?」
教官は俺を二度見する。
そしてそのまま唖然とした様子で固まってしまった。
どうやら話は終わったらしいな。
「では失礼します」
「ちょ、まっ、待ってくれ……!」
取り乱した様子の教官にお辞儀をして、俺は冒険者ギルドを後にした。
……さて。
既に日は暮れ始めていたので、どこか宿を探そうと思う。
俺は夕日に照らされて橙色がかった街中を歩く。
何処からか料理のいい香りが漂っている。
近くで夕食を済ませた後、そこそこ評判の良さそうな宿を見つけたので即決した。
清潔感のある六畳程の個室でベッドと机だけというシンプルな内装だ。
見知らぬ土地での生活。
何だか今日は凄く疲れたので、ベッドに横たわると直ぐに眠くなった。




