第四話 メギスの街
ピーちゃんと大空を駆けて数時間。
俺達は地平線の彼方にまで広がる、遥かなる大地を翔んでいた。
草原から緑生い茂る大森林へ、そしてエベレストを彷彿とさせる険しい山脈すらも軽々と越えて進んでいく。
もはや誰もが俺たちの行手を阻む事などできない。
この世界は俺が夢にまで憧れていたファンタジー世界そのものだった。
「ピーちゃん、ストップ!」
そう叫ぶと、ピーちゃんは上空で急停止する。
その衝撃で俺はピーちゃんのモフモフな毛並みに全身を埋めた。
あ痛っ、とはならず、低反発クッションも顔負けの柔らかな羽毛だ。
俺は高度五千メートルはあるであろう上空から、真下をじっと見て確認する。
何やらこの下には外壁で囲まれた大きな街があるらしい。
再びメインメニューから地図を開くと、これまでの行路がマッピングされ情報が大幅に更新されていた。
……【メギスの街】か。聞いたことのない街だ。
やはりこの世界はNOF3に似ていても別世界のようだな。
俺が知らない事がまだまだ沢山あるのかもしれない。
画面をスクロールしている間に、グウゥ〜っと腹が鳴った。
いかん。そろそろ何か食べなければ。
長旅で腹が減っていた俺は、取り敢えずメギスの街に寄ってみることに決めた。
街から少し離れた場所にある丘の上にストンと着陸すると、ピーちゃんにお礼を伝えてストレージに戻す。
どういう訳かこういうところだけはゲームっぽいんだよな。
そして再び一人となった俺は、街に向かって森を切り拓いた様な道を歩く事にした。
道中、ちらほらと人の姿が目に入る。
すれ違った際に身なりを横目で確認してみると、重厚な鎧に長剣を携えた人物や、ローブに魔法杖といった装備を纏っている者など様々だ。
もしこの世界がファンタジーゲームと同じような仕組みなら、彼らは冒険者と言ったところだろうか。
聞こえて来る会話は「あの魔物の肉は美味いらしいぞ」や「今日は解体当番なんだよな……」など、いかにも異世界っぽくて新鮮だ。
また、森ではウサギやリスなどの小動物は多く見かけたが魔物の気配は全く無かった。
街の近くなだけあって治安は良さそうである。
穏やかな木々のざわめきを心地よく聴きながら、俺は着実に歩みを進めるのだった。
ついに街の外壁へと辿りついた。
どうやら入口となる大門では通行人への検問があるらしい。
門から続く列には既に多くの冒険者や行商人が並んでいた。
勘弁して欲しい、こっちは腹が減って倒れそうなんだ。
だが俺も大人しくその列に並び順番を待つ。
そして十五分程でやっと俺の番が来たので、門番らしき人物の前に向かった。
「……次。旅の者、身分証を提示しなさい」
「身分証? それが無いと街に入れないんですか?」
「そうだな。冒険者であればギルドカード、商人ならば通行許可証、それ以外は役場からの紹介状が必要になる」
困った。
転生したばかりの俺は身元を証明出来る物を一つも持っていない。
やはり冒険者は存在するらしいが、ゲーム内では『勇者』という肩書きだったため、いつも特別待遇だった。
「すいません。どれも持ってない場合はどうしたらいいですか?」
「何? その場合は通行料として5,000ゴールド払ってもらう。少し高いと思うがこれも街の治安を維持するためだ。どうするかね?」
俺はストレージにある〔ウォレット〕を確認する。
〔所持金 1,000,000ゴールド〕か。
本来はこの十倍以上は持っていたが、これだけあれば少しくらい使っても問題ないだろう。
「じゃあ払います」
「うむ。……確かに受け取ったぞ、通ってよし」
「あの、身分証は何処で発行できるんですか?」
「ん? そうだな、貴殿は腕が立ちそうなので冒険者登録をしてギルドカードを発行してはどうだ?」
門番は俺にそう言うと、「はい、次!」と俺の後ろに並んでいた行商人に向かって声をかけた。
そんな門番の横を通り過ぎ、俺は大門をくぐり抜けた。
【メギスの街】。
目の前に広がるのは華やかなレンガ造りの街並み。
街路は丁寧に舗装され、綺麗な石畳が敷かれている。
まるで中世の西欧に迷い込んだかのような雰囲気だ。
周辺に広がる豊かな自然と見事に調和したこの街は、空気も澄んでいて心地よい。
そんな街に来れたは良いが、空腹によりいよいよ眩暈がしてきた。
まさに今にも倒れそうな俺だったが、直後近くで香ばしい匂いが漂っていることに気付く。
すぐさまその方向に向かって迷わず歩みを進める。
門から中心部へと続く街路を十字路で左折すると、間もなくして沢山の屋台が並ぶ通りに出た。
おお、、ここは天国か。
まず視界に入ったのは新鮮な野菜や果物をはじめとした食品の数々。
大体は俺の知っている食材であったが、南国系らしい見知らぬ果物や、サイズが明らかに大きいレタスなど様々な物が並んでいた。
その先には香ばしさの正体である、料理を作っている出店が軒を連ねていた。
焼いたサイコロ状の肉を贅沢に五個も串に刺したステーキ串、麺を炒めた焼きそばの様な食べ物、新鮮な野菜や卵をふんだんに使ったスープなど、どの店も活気と賑わいを見せている。
「らっしゃい、どれ買ってくか?」
「この肉の串を全種類買いたい」
「おお、いいねえ兄ちゃん! ……あいよ、気をつけて持ってきな!」
気さくな店主から両手で持ちきれない程の肉の串を受け取ると、俺は豪快にかぶりついた。
……うまい、美味すぎる!
こんなに上質な肉を食べたのはいつ以来のことだろうか。
日頃からスーパーのコスパ弁当に舌が完全に慣れていた俺は、悶絶しそうだった。
その後も様々な屋台に並び、気になった料理を一通り平らげた。
そして腹も一杯となり満足した俺は、近くのベンチに腰掛けて暫く休むことにした。




