第三話 転生、そして大空を翔る
風が心地よい。
草原に一人佇みながら、俺は新たな地を訪れた感動を噛み締めていた。
こんな気分になったのは実に久々だ。
視界に映るのは緑一色の大地と広大な青空。
今までの苦悩の日々が嘘のように忘れられた。
両手を広げて大きく深呼吸を終えると、メインメニューにメールが送られている事に気付いた。
どうやらVRゲーム『NOF3』のUIをそのまま使えるらしい。
ウィンドウを開いて受信ボックスを確認する。
【FROM ミカエル】
拝啓、クロノ様。
無事に到着できたようですね。
この度は私の我儘な願いを聞いてくださり有り難うございます。
NOF3に登録されていたクロノ様のアバター、アイテム、装備は一通り使用できるように手配しました。
しかし通貨だけは、そちらの世界の経済に直接的な影響を与えてしまう恐れがありますので、ある程度の調整をさせていただきました。
どうかご理解ください。
さて、サタンの復活の件です。
どうやらこちらに手違いがあったようで、報告に上がっていた前兆が未だ確認出来ておりません。
その為、クロノ様は暫くの間、そちらの世界で待機していただくようお願い申し上げます。
次の報告が入り次第、追って連絡致します。
P.S. 当分復活しなさそうですっ! ごめんなさい!!
…………
……
ええ、そりゃないでしょう。
サタンを再封印するために俺は死んだのではなかったか。
メールをパタンと閉じた俺は呆然とした。
何だか風が心地よい。
こんな時は深呼吸でもして……って、それはさっきやったか。
転生早々に目的を失った俺は、取り敢えず草原の中を軽く走ってみることにした。
身体が軽い。
俺のアバターは十八歳の青年騎士という設定だから、随分と若返った事になる。
そうか、俺にもこんな若い時期があったんだな。
こんな事ならもう少しイケメンに作っておけば良かったかな。
俺は走る、とにかく走る。
社会のしがらみに長い間囚われていたが、今はもう関係ない。
子供のように無邪気に走る。
そんな懐かしい時間が戻って来たんだ。
気が済むまで草原を走った俺は、ふと思った。
全く息切れしていないのだ。
ゲーム内でもスタミナゲージを消費し過ぎると疲労モーションになったはず。
気になった俺はステータスを確認した。
〔ステータス〕
クロノ LV.90
【種 族】 人間
【H P】 1000000/1000000
【M P】 1000000/1000000
【スタミナ】 999965/1000000
【攻撃力】 6025
【魔 力】 5470
【防御力】 2055
【素早さ】 4520
【EXP】 1276004570 (NEXT ーー)
おいおい、何だこの理不尽な数値は。
アクション要素の強かった『NOF3』は、HPやスタミナが視覚的なゲージで表現されていた。
特にスタミナは一定時間経過すると自動で全開になるという仕組みだったため、これを数値に変換するとこうなるのだろう。
剣技を連続で続ければ使い切れると思うが、普通に生活する上で息切れすることは無さそうである。
そろそろ何もない草原にも飽きて来たので、地図を開いて確認する事にした。
やはり草原だ。周囲には何もない。
もう少し高域の情報がほしいので、地図を少しずつ縮小していく。
しかし、ある程度縮小したところで〔エラー〕と表示された。
もしかしてゲームの地形とは異なるのか?
そう思えばNOF3にも草原はあったが、ここまで広くなかった気がする。
こうなったら、自分の目で確かめるしかないか!
「おいで、ピーちゃん!」
俺は空に向かって指笛を吹く。
すると上空から巨大なアヒルが現れた。
移動用翼竜・プテラス。
デフォルトは恐竜プテラノドンに近いデザインだったが、追加アイテムを使って水色のアヒルの姿に変更していた。
『ピーッ』と鳴くからピーちゃん。
その可愛らしさに、本来は一日1回で十分な餌やりを、食事モーション見たさに何度も上げてしまう程だ。
「よしよし、ピーちゃん。この世界でもよろしくな〜。……ん? 何かモフモフさが増してないか?」
『ピーーッ!』
ピーちゃんの毛並みがよりふさふさになっている。
まるで綿のように柔らかく、そして温かい。
寄り掛かったらそのまま昼寝が出来そうなくらいである。
俺はピーちゃんを撫でてから、その大きな背中にしがみついた。
合図を出すとピーちゃんは空高く舞い上がる。
何でアヒルが空を飛ぶのかって? それは世界最強のアヒルだからさ。
「行くよ、ピーちゃん!」
『ピッピピーー!!』
こうして俺は草原を旅立ち、大空を翔るのであった。




