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覆面座談会:就活戦線離脱せよ!!!


「気に入りません!」

「郁海さん、いきなりそれはないんじゃない?」

 のほほんと笑いながら畠山がお茶をすする。

「タイトルが気に入りません!! 社会人なら、覆面など以っての他です」

「‥‥‥そこですか」

 吉野はお茶を配りながら瞳を瞬かせる。

「自分の素性も名乗れないようなクレームなら、それは嫌がらせと一緒です。正々堂々と素性を明かして製品に対して問い合わせる、返品を交渉するなら大人の対応でしょうが、素性を隠して文句だけ言うなど卑怯なことです」

「じゃあ、素顔座談会でいいんじゃない?」

 娘に大甘な社長がのんびりと言う。

「えーー!! せっかく仮面を用意したのにぃ」

「経費では落としませんからね」

 経理部の巴がばっさりと曽我の駄々をシャットアウトする。

「巴ちゃん、酷い!!」

「大の大人がハンカチ噛み締めて泣く仕草をしたところで気持ちが悪いだけです。第一、曽我さんのその趣味の悪いスーツはどこでご購入されているんですか?」

 じろりと巴が睨みつけるが効果はない。

「巴ちゃんの辛辣な物言いが好き!!」

 こんなふうに喜んでいるのだから。

「‥‥‥セクハラで訴えろということですね。郁海さん、法的手段に出てもいいですか?」

「あまりマスコミが騒がないようにご配慮をお願いしますね」

 淡々としているのに内容の怖い会話に、吉野は口角を引き攣らせる。

「‥‥‥あの、ちゃん付けで呼ぶのって‥‥‥」

 吉野が話題を変えようと曽我に聞いてみる。

「え? 今ってプライベートでしょ? 社長?」

「当たり前です。このような座談会に残業手当など発生するわけありません」

 ピシリとした郁海の物言いに、社長はにっこにっこと満面笑顔だ。気持ちが悪い。

「とりあえず、法的手段は裁判代がかかるので今のうちは保留して差し上げますので、さっさと話題を進めてください」

「あ、はい!」

 幕間から登場の巴はかなり口が悪い‥‥‥吉野は(怖え~)と思いながら手元の書類を見る。もちろん、この紙は裏紙だ。

「えーーと、座談会の内容は就職活動へのアドバイスだそうです」

「アドバイス?」

 曽我がテーブルに肘をつく。

「1:履歴書は直筆とパソコンで作成したのとどちらがいいですか? だ、そうです」

「「「「‥‥‥」」」」

「え~。直筆に決まってるでしょ」

 社長以外の全員が沈黙した。

「直筆のがいいんですか?」

 吉野はうっかりと社長に思ったことを聞いてしまう。

「当たり前だろう。平安時代のラブレターだって、最初は顔も見たことない、声も聞いたことないって状態から選ぶのに筆跡で判断したんだよ。それは今だって言えるよ。やっぱろ文字が大きな人は大胆だし、右肩上がりの人は神経質、文字が汚い人なんて仕事任せたくない。パソコンじゃその人の性格がわからないじゃないか。うちじゃ落ちる確率は高いよ」

 社長は『うちじゃ』を強調する。

「確かにパソコンで作成されたものと、まったく同じ経歴の手書きで文字が丁寧なものがあれば、手書きを選ぶ確立が我が社では高いですね」

「けれど、必ずしも手書きがいいって訳じゃないわよ」

 巴が珈琲を飲みながら言う。

「そうね。パソコンで作るって事はある程度パソコンができるという証明にもなるから、履歴書は手書きで、職務経歴書はパソコンっていうのが主流な感じよね」

 畠山がポテトチップスをパーティ開けをしてひとつ摘んで隣の郁海に回す。

「百円ショップで販売している履歴書自体もA4にB5にといろいろありますからね。ただ、言えるのは写真だけはケチらないことですね」

「いたいた! カラープリンタで出力した普通紙を貼り付けてきた人。せっこーーって思ったもの」

 ノリのせいで紙がよたってたよ~。と畠山が笑う。

「デジカメで撮って、自宅で印刷をされる方もいますが、せめて用紙くらいは印画紙などの高価な紙を使って欲しいものです」

「パソコン作成で普通紙に写真印刷して貼ってあると、数ある中の一社ですか‥‥‥って訝しく思うもんな。そんな大量作成できる、量産体勢を履歴書で取られると、たくさんの中からお前が選んでいるのかって気分が悪くなる」

「とりあえず纏めると、履歴書は手書きで、職務経歴書はパソコンが主流。でも、写真はある程度しっかりした紙に印刷をするということでいいですか?」

「ええー。手書きだよ」

「別に全部パソコンでもいいんじゃないの? 下手な字で書かれるよりもパソコンのが読みやすいし」

 吉野は同時に発せられた反対意見に頭を掻く。

「その辺りは、各社の採用担当者の好みが強いそうですよ」

 さすがお局さま。フォローが早い。

「小さな会社や、採用担当者が四十、五十代の場合は手書きにして、大手などはすべてパソコンでも可という感じですか?」

「パソコンの場合は内容は余計に気を遣わないと駄目だね。淡々とした文章だとやる気がないって強く写るからな」

「そうですね。履歴書は自分という商品を売り込むプレゼンテーションの手段です。自分という商品をどう売り込むか。その会社が採用してどんなメリット・デメリットがあるか自分で想像できるくらいには、自分の良し悪しを把握して欲しいですね」

「そうだね、相手にこの人欲しいって思わせるなにか煌くものが必要だよね」

 郁海の言葉に曽我がうんうんと頷く。

「不安な人は一度、赤の他人の社会人に見てもらうといいかもね」

「‥‥‥それ、かなり難しいと思うんですが。まあ、なんとなく纏まったので次に行きましょう」

 吉野はがさりと用紙をめくる。

「2:書類選考まで通るのに、面接で落とされます。どうしたらいいでしょうか? だそうです」

「「「「笑顔」」」」

 声が揃いました。

「これは演技力をつけた方がいいところだよね。相手を見て顔を輝かす。笑顔を浮かべる。貴方に会えて嬉しいっていう表情を乗せる。訓練で、できるから」

「訓練ですか?」

 社長の言葉に吉野は瞳を瞬かす。

「そう、入り口から誰かが入ってきたら『○○さんだ!!』と会えて嬉しい人を思い浮かべて笑顔になる。そして真面目な顔に戻す。訓練訓練」

「訓練ですか‥‥‥」

「暗い顔で面談室に入ってこられても嫌だもんな」

「最初の笑顔は肝心だよね」

 うんうんと曽我と畠山が頷く。

「滑舌」

 巴がぼそりと呟く。

「それも言えるね。ぼそぼそ喋る奴は勘弁だ」

 社長が頷く。

「滑舌も訓練でなんとかなりますね。カラオケでシャウトする感じの曲? を歌いまくるとか、アメンボアカイナアイウエオとかアエイウエオアオとかのアナウンサー用の発声練習をしてみるのもいいですね」

「郁海さん、シャウトする曲ってどんなのがあるの?」

 畠山がにやりとわらって尋ねれば郁海はにっこりと笑って「三百六十五歩のマーチですね!」と答えていた。いやいやいやいや。

「‥‥‥それ、シャウトしないから」

 曽我さんのツッコミがありがたかった。

「後は姿勢とか、本当に見た目の清潔感とかよね」

 巴が回ってきたポテトチップスをもっしゃもっしゃと食べている。

「髪の毛はさっぱりと、男の子なら短く、一度背広を脱いでフケとかも気にした方がいいわ。後は靴。ちょっとティッシュで拭くだけで違うわね。百円ショップで靴のケア用品と小さいコロコロは買っておいて持ち歩くのがオススメ。女の子はマニキュアとピアスね。しない方が好印象よ。おしゃれは個性を表すとかこだわる子がいるけど、親の金でおしゃれとか言われても片腹痛いわ。おしゃれなんて自分の正当な力で稼いでから余暇にするもんよ」

 そのままもっしゃもっしゃと食べる。

「巴さん‥‥‥」

 その考え方はあまりにも、あれだろう。(日本語って便利)

「‥‥‥あ、ごめん。食べ過ぎちゃった?」

「つ、次に行きますね。3:なにか持っていた方がいい資格はありますか?」

「「「資格よりも実務」」」

「見事に揃ったわね~。社長と郁海さんと巴さん」

「資格はあくまでも判断材料です。それですと学生さんは辛いでしょうが、学生時代にできることならアルバイトはしておくべきですね。できたら仕入れとかグループ長とか、使われるだけじゃなく、自分が束ねる仕事に就けるなら率先して行うべきです。そういうことを履歴書に書くのも、面接官に話題提供しますからね」

「家庭教師や塾のバイトでは説明の仕方の練習、レジなら接客の練習、納品などの梱包とかなら作業を効率よく行うことの練習ができるからね」

 曽我が回ってきたポテトチップスをぽいっと口に含む。

「資格ではありませんが、タイピングがある程度スムーズにできるのは、就職した後に楽になりますね」

「それは思いました。俺はものすごーーく苦労しました」

「休憩時間に必死にタイピング練習してましたもんね」

「家でもパソコン借りてやってたもんな‥‥‥」

 匠親子の生温かい瞳がイタイ。

「バイトができない学生さんなら、学生生活で役職をするべきだよね~」

 畠山が次の袋を開ける。プレッチェルと個別包装されたチョコレートだ。

 ここ、会社だよね?

「学祭の委員とか、ゼミの責任者とか、委員長とか、学級長とか、確かにやると就職に有利だって噂があったな‥‥‥」

 曽我が呟く。

「部活動とかも、運動部のが就職に有利とか言うけど、確かに帰宅部よりも野球部やサッカー部などの部長・副部長のが採用する側としては欲しい気になるかも」

「運動部とかはともかく、チームワークとか、グループ作業とか、そういうことに関わったことのある方の履歴書は、面接官としても質問することができるから印象に残りやすいですね」

「確かに印象は大事だな。特にいい印象。特化した印象」

 社長が畠山が開けたチョコレートに手を伸ばす。

 微妙に届かないのに気が付いて郁海が代わりに取って差し出した。

「サンキュ」

「社長、言ってくれたら投げたのに!」

 畠山が笑う。その笑いに社長があーーんと口を開けた。

「じゃあ、投げてvv」

「‥‥‥うちの総務部ってお笑い担当?」

 巴が頬杖を付いて苦笑する。

 否定できません。

「設計とか経理とか事務とか、業務にパソコン作業が多い職業につきたい人は資格まで取らなくても簡単な書類くらいは作れるくらいにパソコンは触っておいた方が、後が楽でしょうね」

「それは言えてます。特に設計なんて‥‥‥同期の当麻が開発に行ったんですけど、ものすごく大変そうです。パソコン覚えて、二次元CAD覚えて、三次元CAD覚えて、設計のルール覚えて、で覚えることがあり過ぎて、よく口から魂飛ばしてます」

「確かに、開発とか設計とか大変だよね。まあ、開発とか設計だけじゃないけど、業務でパソコン使う職種はいたるところにあるもんな」

「最後に、4:なにか心構えはありますか?」

「就職したら、仕事優先が当たり前っていう人種がいますから覚悟してください」

 郁海さん‥‥‥

「風邪引くだけでなっとらんとか怒る人いるよね~」

「いるいる! インフルエンザなんて迷惑だから出てくるなって平気で言ってくるもんね。こっちが苦しんでいるなんて、ちっとも思ってないの。40度越す熱って本当に大変なんだから!!」

「関節痛いし、息ができないし、起き上がることもできないし‥‥‥臨死体験ってあんな感じかって思うもの」

「サービス業に居た時なんて、休みは週に一回と年末の十二月三十日から一月三日までだとかほざきやがって、それは会社の日程であって、個人の福利厚生とは別だろう!! って思ったわよ!!!」

「納期が近いから深夜まで残業、残業手当が出ないなんて良く聞くしね」

「反対に納期が明日なのにノー残業デーだから帰れってね。だったら、もっと早く開発から仕事回して来いってね」

「おべっかばっかり使って仕事のできない上司っているわよね」

「口だけで昇進したんじゃないの~」

「子供がいるから帰宅して当たり前っていう正社員とかぶっ飛ばしたくなるわよ」

「子育て大変なのは想像するしかないけど、仕事ができないならしっかり言えってね。フォローするの超大変なんだから」

「働いて子育てして私って偉いっていう自己満足が見える人って鬱陶しいわよね」

「いるいる~。私はこの会社に噛り付かないといけないって断言してる人とか最低だよね。噛り付くんじゃなくて、実績上げて仕事を奪い取れって思うわよ」

「それなのに『同じ女なんだから協力して当たり前』って思ってる男性社員の多いこと。そういう男性社員って自分の奥さんの手伝いってしてるのかな?」

「してるわけないじゃん。人に押し付けて、頑張って働こうってしてる人の足を引っ張るだけ引っ張って当然の権利だって大きな顔をするような女の味方する奴が、そんな気の利いたことできるわけないでしょう」

「だよね~」

「仕事して、子育てして、家事もしてって確かに凄いけど、会社に来て仕事するのは当たり前だから。主婦だけ特別扱いなのは変よね」

「持病があるとか、体が不自由とかそういう人はそこまで大きな顔してないのにね」





「あーーあーーあーー」

「話が愚痴になってきたぞ、吉野くん!!」

「あ、はい!!! 巴さんと畠山さんの愚痴が始まったので、今回はこの辺までにしたいと思います。次お会いできるのはいつかわかりませんが、また次の機会で~!!! では!!」




座談会終了!!

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