第四章 英雄たちの末路 その49 『終話 パンの焼ける匂い』
英雄たちの末路も次の章で完結となります。
黄昏薬局は今後続きますが(第10章までプロットあり)、1ヶ月ほど休憩を頂きたいと思います。
実は別の物語を書いており、そっちを投稿したいと考えているからです。
題名は『学園の問題を行動経済学で解決してみた』です。
経済学に詳しい方なら知っている行動経済学を活用した物語、というか、
行動経済学を物語を通じて学べるというものです。
https://ncode.syosetu.com/n7976mw/
1
ダルクの「復活」から一年が過ぎ、帝都はすっかり落ち着きを取り戻していた。
勇者ダルクは、宰相の目論見通り帝国の新たな旗印となった。
そのカリスマ性と人柄に帝国民は熱狂し、策謀がデフォルトである大貴族たちですら女神の奇跡で復活したダルクの前では平伏しざる得なかった。若い貴族子息などはますます心酔してしまい、貴族の現当主たちは、ダルクに心酔した子弟たちをどう教育し直すかが今後の課題となるだろう。
ダルクの活躍で取り戻した領土は、長年最前線で活躍した貴族たちに分配される。取り戻した土地での開墾が進めば五年ほどで税収が上がり、心もとなかった国庫も安定するだろう。
魔王を失った魔族たちは、次期魔王の地位を争って内部抗争を繰り返しており、今しばらくは帝国を攻め入る可能性は少ないと考えられる。
そしてダルクが復活した翌年春のよく晴れた日に。
勇者ダルクと第一皇女マシュの婚礼が執り行われた。
帝都は三日三晩祝賀に沸いた。
平民から皇配へ。
女神の奇跡により「復活」した英雄と、それを四年間想い続けた皇女のおとぎ話のような婚礼。
これ以上帝国民に愛される物語はなかった。
「ダルクさま!! あの、わ、私、ずっと、ずっとお慕いして……!!」
婚礼の夜。
ようやく真実を知らされたダルクの前で。
第一皇女のマシュは、真っ赤になりながら四年分の想いを堰を切ったように語ったのだった。
「四年前、回廊でお見かけしてから、ずっと……。でも、宮中でお亡くなりになられたと聞いた時は、悲しくて悲しくて……、それが女神さまの奇跡で復活されたと聞いて、どれだけ嬉しかったかことか」
ダルクは、ぽかんと口を開けたまま、固まってしまった。
「……え、皇女さまが僕を? 」
「は、はい!! 」
マシュは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「その……光栄です。すごく。僕はてっきり皇女殿下はこんな僕とは、政略上仕方なくとばかり」
「そんなことありません!!」
マシュがダルクの顔を見つめ、声を上げた。
「私、人生でこれほど嬉しかったことはありません!!」
二人は、しばし見つめ合い。
そしてどちらからともなく、ふっと笑い出した。
四年越しの初恋の人。
女神の奇跡で「復活」した勇者。
不器用な二人の新しい人生がここから始まるのだった。
2
皇配となったダルクの日々は忙しかった。
国事の補佐、貴族との折衝、視察、式典。
かつて剣を振るっていた手は今書類に判を押す日々である。
ダルクは無教養であり、国政など縁の遠い存在であったが、皇配となったからにはそんなことは言っていられない。不平ひとつ言わずその務めを果たした。
民のために、国のために、そして最愛の女皇のために。
誠実に職務を全うする仕事ぶりに、政務を司る官僚たちも、彼を最大限手助けをするよう動くようになった。官僚の誰しもがこの人ならば、前皇帝に続き帝国を良くしてくれると。
3
早朝から夕方まで政務に追われる日々、そんなダルクにも週に一度の楽しみがある。
これはダルクが当初から願い出ていたことを通したものである。宰相は今度もその願いを無かった事にしようとしたが、女皇マシュが口を挟んだことでうやむやに出来なくなった。これがもとで宰相とは最後はつかみ合いのケンカとなったのである。
「ダルク。週に一度だ」
折れた宰相はダルクに告げた。
「週に一度。お前に自由な1日をやる。その日だけは誰もお前を煩わせん。好きに過ごせ」
「ありがとうとざいます」
「だが、絶対守れよ」
宰相は、腫れた頬を氷で冷やしながら言った。
「はい、命に変えましても」
ダルクは深々と頭を下げた。
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