第四章 英雄たちの末路 その47 『皇女の本音』
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1
「ほ、本当に、本物の勇者さま!!?」
謁見の間に、皇女マシュのうわずった声が響いた。
居並ぶ貴族たちが、ぎょっとして皇女を見る。
その様子を皇帝が咎めた。
「マシュ。はしたない。皇女としての作法を」
「あ……も、申し訳ございません、父…、いえ、陛下」
皇女マシュは、慌てて口を押さえ、しずしずと玉座の傍へ進んだ。
表向きは。
だが、その伏せた顔の頬は紅潮し、ダルクをちらり、ちらりと盗み見る。
その瞳はきらきらと輝いていた。
’’ ……?’’
ダルクは首を傾げた。
’’ なんだか皇女殿下が、……喜んでいる? ’’
宰相もその様子に、片眉を上げた。
’’ 政略の駒として嫌がられることはあれど……、喜ばれるとは思っていなかったが ’’
謁見がつつがなく終わった、その夜。
宰相エメリヒは宮殿の女官長を呼び出した。
そして、事の真相を知ることになる。
2
第一皇女、マシュ・エレオノール・コンラート。
齢、十九。
文武に優れ、聡明にして、可憐。帝国の貴公子たちがこぞってその手を求める、帝国の白きバラ。
その皇女マシュには、誰にも言えぬ秘密があった。
四年前。
魔王討伐から凱旋した勇者ダルクが、休養と報告のため、皇宮に上がったある日のこと。
当時、十五歳だった皇女マシュは。
宮殿の回廊から偶然、その姿を見たのだ。
平民の出でありながら、貴族たちに囲まれても少しも物怖じせず。
それでいて驕ることもなく。
兵士の一人ひとりにまで笑顔で声をかけ。
子供のように、無邪気に笑う、その姿を。
’’ なんて、素敵な、お方……!!’’
つまり、一目ぼれであった。
それは皇女が、生まれて初めて抱いた恋心だった。
身分も、立場も関係なかった。あの太陽のような笑顔。誰をも分け隔てなく照らす、あの温かさ。
皇女は、その日からひそかに勇者ダルクを想い続けた。
侍女に頼んでダルクの武勇伝を集めさせ。
ダルクがどんな食べ物を好むか、どんな話に笑うか、こっそりと調べ上げた。
いつかお話しする機会があれば、と。
その日のために、剣術を学び、戦術書を読み、平民の暮らしまで勉強した。
ダルクと対等に話せる淑女になるために。
だが。
その想いが実る前に、勇者ダルクは死んだ。
凱旋のわずか数日後に。
’’ 嘘よ。そんなの、嘘 ’’
訃報を聞いた皇女は、三日三晩、部屋に籠もって泣いた。
会話のひとつも交わせぬまま。
想いを伝えることもできぬまま。
初恋の人は、逝ってしまった。
それから三年。
皇女マシュは、皇帝や宰相が持ってくる縁談を頑なに断り続けた。
「お慕いする方がおります」
そう言って。
父である皇帝も、宰相も困り果てた。皇女が想う相手が三年前に死んだ平民の勇者だなどとは夢にも思わなかったから。
そして、その皇女のもとに。
昨日、突然、信じられぬ報せが届いたのだ。
勇者ダルクが復活した。
皇女マシュが、謁見の間で作法も忘れて声を上げたのは。
政略結婚を命じられたからではない。
四年間、想い続けた初恋の人が。
復活し、あろうことか自分の夫になるというのだ。
’’ 夢なの……、 これは夢なの!? ’’
それは皇女マシュにとって。
天地がひっくり返るほどの奇跡だった。
3
「……というわけ、でございます」
女官長からすべてを聞き終えたエメリヒは。
しばし絶句した。
「……つまり皇女殿下は。四年前からダルクに惚れていたと」
「はい。それはもう一途に」
女官長はほほ笑ましげに語った。
「断り続けた縁談も、すべてダルクへの想いゆえと」
「左様でございます」
宰相は、額に手を当てた。
政略の駒として、苦肉の策で決めた皇配の話。
それがまさか、当の皇女の四年越しの悲願を叶えるものだったとは。
’’ ……世の中、分からんものだ ’’
宰相は長い溜め息を吐いた。
そして、少しだけ笑った。
’’ まあ、いい。当人が望んでいるなら、これ以上円満な話はない ’’
政略結婚が、よもや皇女の思いを遂げる婚姻になるとは。
「……ダルクには当面伏せておけ」
宰相は女官長に命じた。
「あの男のことだ。皇女殿下が自分に惚れていたなどと知れば、恐縮して帝都から逃げ出しかねん。そんなことさせるものか。まずは外堀から埋める」
「かしこまりました。ふふ、宰相閣下もお人が悪い」
「うるさい」
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