↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/64

第四章 英雄たちの末路 その18

5


それから、ひと月後。


皇宮、謁見の間。玉座の前に、三人の英雄が首を垂れていた。周囲には帝国の主立った貴族たちが居並んでいる。


玉座の皇帝が、口を開いた。


「勇者ダルクの突然の死という不幸はあったが、お前たち三名が、魔王と幹部たちを討った功績を讃えねばなるまい」


三人は、より深く首を垂れた。


「楽にせよ」


許しを得て三人は面を上げる。


「こたびの働きにより、帝国は魔族どもに奪われた領土の殆どを取り戻し、さらに魔王を討った。これは帝国100年の悲願であった。よって、それに相応しい褒美を与える」


「ありがたき幸せ」


「まず、ヒョウエ侯爵家次男、キリツグ」


「はっ」


「新たにキョウゴク侯爵家を起こすことを許し、初代当主を任ずる」


居並ぶ貴族たちはざわついた。


新たに侯爵家を起こすなどここ50年無かった話である。快挙と言って良い。


キリツグは、皇帝の言葉を受け深く頭を垂れた。


だが、床に向けられたその口元は、確かに緩んでいた。


「続いて、ウォーデン教高位神官マリエル」


「はっ」


「エドモント公爵家次男アランとの婚約を許可する」


「ありがとうございます」


「最後に、レムナント伯爵家長男コーエン」


「はっ」


「魔導士団団長への就任、並びに、錬金術研究所の創設を許可し、その所長に任ずる」


「陛下の御計らいに、感謝いたします」


三人は、皇帝の前に臣下の礼を取った。


その様子に満足げに頷いた皇帝の顔が、ふと曇った。


「……しかし、惜しいことをした。勇者ダルクが生きておれば、な」


謁見の間が静まった。


「彼奴こそ、こたびの最大の功労者。余は我が娘との婚約すら考えておったというに」


三人は、臣下の礼の姿勢のまま、微動だにしなかった。


頭を垂れたその顔を誰にも見せぬままに。


「……過ぎたことを悔やんでも、詮なきことよな。今の発言は忘れよ。三名への褒美は、以上である」


謁見は、お開きとなった。


退出する三人の背に、貴族たちの祝福の声が降り注いだ。新侯爵キョーゴク卿。未来の公爵家夫人。最年少の魔導士団団長 兼 錬金術研究所初代所長。


輝かしい、新時代の英雄たち。


物語の主役の座は、ここに来てようやく、三人の手に戻ってきたのだった。


その様子を皇帝の横で宰相のエメリヒが冷徹な目で眺めている。


「今はこれで良い。だが、この国を侮るなよ」


そうつぶやいたが、それは誰の耳にも届かなかった。



 間話


「あらあら」


帝都の裏通りにある黄昏薬局。


水晶球を覗き込んでいたセックが心底愉快そうに声を上げた。球の中には、謁見の間で褒賞を賜る三人の姿が映っている。


「あの薬を何に使うのかと思えば」


口ではそう言いながら、その声に驚きの色は欠片もなかった。


「新しい侯爵さまに、未来の公爵夫人に、最年少の団長さま。皆さま、お望みのものを手に入れて、さぞかし愉快でいらっしゃるでしょう」


セックはカウンターに頬杖をつき、水晶球の中の三人を、一人ずつ、ゆっくりと眺めた。


頭を垂れながら口元を緩める剣士。


祝福の中で微笑む聖女。


野心に目を輝かせる魔導士。


「望みが叶うというのは、素晴らしいことですねぇ。ええ、本当に」


ただ、と。


セックは、誰にともなく続けた。


「人の子の望みには、ひとつ、困った癖がありましてね。叶った先のことを、誰も、考えていないのですよ」


くす、と笑って、水晶球に布を掛ける。


「さて」


「舞台はここからが本番。ごゆっくりご堪能あれ、お客さまがた」


その夜、黄昏薬局の扉は、いつもより少し早く閉まった。


まるで、幕間の休憩のように。


黄昏薬局にご来店いただきありがとうございます。

もし当薬局のカルテに興味をお持ちいただけましたら、

ページ下部の星マークより評価をお願いいたします。


皆様の評価やブックマークが、次の薬の調合する原動力となります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。