第四章 英雄たちの末路 その18
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それから、ひと月後。
皇宮、謁見の間。玉座の前に、三人の英雄が首を垂れていた。周囲には帝国の主立った貴族たちが居並んでいる。
玉座の皇帝が、口を開いた。
「勇者ダルクの突然の死という不幸はあったが、お前たち三名が、魔王と幹部たちを討った功績を讃えねばなるまい」
三人は、より深く首を垂れた。
「楽にせよ」
許しを得て三人は面を上げる。
「こたびの働きにより、帝国は魔族どもに奪われた領土の殆どを取り戻し、さらに魔王を討った。これは帝国100年の悲願であった。よって、それに相応しい褒美を与える」
「ありがたき幸せ」
「まず、ヒョウエ侯爵家次男、キリツグ」
「はっ」
「新たにキョウゴク侯爵家を起こすことを許し、初代当主を任ずる」
居並ぶ貴族たちはざわついた。
新たに侯爵家を起こすなどここ50年無かった話である。快挙と言って良い。
キリツグは、皇帝の言葉を受け深く頭を垂れた。
だが、床に向けられたその口元は、確かに緩んでいた。
「続いて、ウォーデン教高位神官マリエル」
「はっ」
「エドモント公爵家次男アランとの婚約を許可する」
「ありがとうございます」
「最後に、レムナント伯爵家長男コーエン」
「はっ」
「魔導士団団長への就任、並びに、錬金術研究所の創設を許可し、その所長に任ずる」
「陛下の御計らいに、感謝いたします」
三人は、皇帝の前に臣下の礼を取った。
その様子に満足げに頷いた皇帝の顔が、ふと曇った。
「……しかし、惜しいことをした。勇者ダルクが生きておれば、な」
謁見の間が静まった。
「彼奴こそ、こたびの最大の功労者。余は我が娘との婚約すら考えておったというに」
三人は、臣下の礼の姿勢のまま、微動だにしなかった。
頭を垂れたその顔を誰にも見せぬままに。
「……過ぎたことを悔やんでも、詮なきことよな。今の発言は忘れよ。三名への褒美は、以上である」
謁見は、お開きとなった。
退出する三人の背に、貴族たちの祝福の声が降り注いだ。新侯爵キョーゴク卿。未来の公爵家夫人。最年少の魔導士団団長 兼 錬金術研究所初代所長。
輝かしい、新時代の英雄たち。
物語の主役の座は、ここに来てようやく、三人の手に戻ってきたのだった。
その様子を皇帝の横で宰相のエメリヒが冷徹な目で眺めている。
「今はこれで良い。だが、この国を侮るなよ」
そうつぶやいたが、それは誰の耳にも届かなかった。
間話
「あらあら」
帝都の裏通りにある黄昏薬局。
水晶球を覗き込んでいたセックが心底愉快そうに声を上げた。球の中には、謁見の間で褒賞を賜る三人の姿が映っている。
「あの薬を何に使うのかと思えば」
口ではそう言いながら、その声に驚きの色は欠片もなかった。
「新しい侯爵さまに、未来の公爵夫人に、最年少の団長さま。皆さま、お望みのものを手に入れて、さぞかし愉快でいらっしゃるでしょう」
セックはカウンターに頬杖をつき、水晶球の中の三人を、一人ずつ、ゆっくりと眺めた。
頭を垂れながら口元を緩める剣士。
祝福の中で微笑む聖女。
野心に目を輝かせる魔導士。
「望みが叶うというのは、素晴らしいことですねぇ。ええ、本当に」
ただ、と。
セックは、誰にともなく続けた。
「人の子の望みには、ひとつ、困った癖がありましてね。叶った先のことを、誰も、考えていないのですよ」
くす、と笑って、水晶球に布を掛ける。
「さて」
「舞台はここからが本番。ごゆっくりご堪能あれ、お客さまがた」
その夜、黄昏薬局の扉は、いつもより少し早く閉まった。
まるで、幕間の休憩のように。
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