第4章 英雄たちの末路 その3
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異変は十日後の軍議で告げられた。
「陛下より勅令があった」
総司令官ゲアハルト辺境伯が勅書を広げて読み上げる。
「陛下はこの度、この西部最前線に『勇者』の称号を得た者を派遣することのことだ」
天幕内の将官たちがざわついた。
勇者、誰のことだ。
勇者と呼ばれた者はこの帝国に幾人かいた。帝国初代皇帝に仕えた今はなきオルデラント公爵家初代当主アードルフ・オルデラント。帝国が幾つもの国家を併合するとき活躍したメルケル侯爵家12代当主フリッツ・メルケル。長い帝国の歴史でも2名しかいない。
「総司令、その勇者はどこの家門の御方ですかな」
将官の一人が問うた。当然の質問である。皇帝から勇者の称号を授かるとなれば、公爵家かあるいは侯爵いずれかの子息か。
総司令官は、わずかに言い淀んでから答えた。
「どこの家門の出でもない」
一瞬、天幕が静まり返った。
「は?」
「ノイマン子爵が治めるピッケル領の村出身。名を、ダルクというらしい」
次の瞬間、堪えきれぬ失笑が天幕のあちこちから漏れた。
「平民? 誰とも分からぬ平民に勇者の称号を与えると?」
「陛下は何をお考えでおられるのか」
「大方、宰相閣下の入れ知恵だろう。100年続く魔族侵攻に対する民衆の不安を解消するための戦意高揚策。いや、だからといって『勇者』の称号を平民に与えるなど……」
「いやいや、勇者と呼ばれた者たちはいずれも公爵家・侯爵の当主でしたぞ」
将官たちは口々に言い、大騒ぎになった。
そんな中、総司令は一同に静まるように言う。そして
「諸君、先ほど私は皇帝陛下の決定…と言ったが」
将官たちはその言葉を聞いて黙った。皇帝の決定は絶対である。それに異を唱えらる者などおらず、将官たちはそれ以上は口をつぐむことにした。
その様子を見た総司令官は話を付け加えた。
「前例が無いわけではない。勇者アードルフ・オルデラント公爵は、帝国創設以前はその出自の分からない方だった。それは我々の祖先も同じだ」
総司令ゲアハルト辺境伯は将官たちにやや皮肉めいた事を言って場を治める。
我々貴族とて、帝国創設以前はどこの出自の者か分からない者たち。先祖が帝国創設時に武勲を上げた時の功績にたまたま引き継いだだけの者たち。
つまり、出自うんぬん言うならばこの戦で武勲を上げて自らの手で叙爵を勝ち取れ、ということだ。
末席でそれを聞いていた三人は黙りこくった凡百の将官たちと違い、総司令の言葉に高揚していた。
「勇者がどんな奴か知らんが、俺はそいつ以上の武勲を上げれば良いだけ」
天幕に戻る道すがらキリツグが鼻で笑った。
「称号だけ立派にしたところで戦場を知らん平民。この戦場で幾日生き残れるだろうか」
「賭けてもいいわよ。十日もせずその辺で骸となっているわ。その時は天へ導かれるよう祈って上げる」
マリエルがくすくすと笑う。
「勇者などという客寄せの看板など好きにさせておけ」
三人は笑い合い、その話題はそれきりになった。
平民出の勇者。戦意高揚のための飾り物。自分たちの栄達とは何の関わりもない路傍の石。
この時の三人には知る由もなかった。
その「路傍の石」が、十日後には戦場の景色を塗り替え、半年後には全軍の羨望を束ね、そして二年後、三人の運命を根こそぎ狂わせることになるなどとは。
ダルクが、来る。
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