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第4章 英雄たちの末路 その1 第一幕『勇者に仇なす者』

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黄昏時、映画を誇る帝都の大通りから外れた裏通り。


そこは出所の怪しい商品をこっそり売る店、街から追い出された者、胸元を開け派手な衣装の売春婦など、訳ありの者たちが住んでいる。


その一角に、大きなガラス窓のある石造りの店があった。窓から見える店内は妙に明るくて、棚には見たこともない異国の文字で書かれた箱や小瓶がきれいに並んでいる。


ここの店主のセックは二十代半ば。黒髪は夜の水のように重く艷やかで、瞳は琥珀を溶かしたような色をしている。胸元の開いた紺色のドレスを着こなしている。顔立ちは身を見張るほど整っており、絶世の美女といって差し支えはない。


店主はこちらに気づくと水晶球から視線を外し、こちらを向いてにこやかな顔となる。


「あらこんにちわ、いえこんばんわかしら。黄昏薬局にようこそ。私はここの店主セック。ここに訪れるのは皆さまはみな悩みを抱えた方ばかり、私はその方に合った処方をしております。


さて、今回のお客さまは、三英雄と呼ばれてる今とーっても帝都で話題になっておられるお方たち。武勇に優れ、地位・名誉に恵まれ、人々が求めるものを全て手にしておられます。


しかし、その内実は、生まれ持った地位に不満を持ち、嫉妬にまみれた人たちです。

さて、今回のお客さまたちには、どのような処方をすれば良いでしょうか」


そして、セックが水晶球を眺めると、水晶球には三英雄と呼ばれた者たちのひとりが裏通りを歩いている様子が映っていた。


1.


その裏通りをフードを目深に被った男が歩いていた。


中背中肉。それだけなら目立つ要素は何もない。だが男の足取りには一切の躊躇がなく、裏通りの住人たちは遠目でその男を見つめるだけである。


あれはヤバい、手を出したら殺される。それくらいの分別は出来る者しかここでは生き残れない。


男は一軒の店の前で足を止めた。



古い石造りの建物。それに反して薬局は整っている。大きな窓は一面ガラスで覆われており、店内の様子がよく見えている。薬局店内はやけに明るく、棚は整然と紙の小箱やガラス製の小瓶が並んでいる。


よほどの酔狂でなけれ、このような場所にこのような金の掛かった薬局は作れない。


対して看板は古びており、そこに記された文字は帝国の言語でも隣国の言語でもない。


男はそんな薬局の扉を躊躇なく開けた。


店に人が入ってきたことに気付いた店主は客に挨拶をする。


「こんにちは、いえ、こんばんは、かしら。黄昏薬局へようこそ、お客さま」


そこにはひとりの女が立っていた。


女の年のころは二十代半ば、黒髪は夜の水のように重く艶やかで、瞳は琥珀を溶かしたような色をしている。胸元の開いた濃色のドレスを着こなしている。


顔立ちは目を見張るほど整っており、絶世の美女と言って良い。


ただ一つ、よく見れば口元に違和感があった。化粧でうまく誤魔化しているが、唇の端から端へ、かすかに縫合の跡が見て取れる。


フードの男は一瞬その美貌に目を奪われたが、小さく首を振り女を見据え、手短に用件を言った。


「毒薬が欲しい。それも毒殺だとバレないものを、だ」


フードの男の要求に、普通の薬局の店主なら何かの冗談だと苦笑するだろう。


だが男には、有無を言わせぬ圧があった。


しかし、その威圧を正面から受けても、店主のセックは動じる様子もなかった。


「お客さま、変わったものをご所望ですね。誰を害されるので?」


「それをお前が知る必要はない」


男はより威圧を込めて言った。常人ならへたれ込むようなほどの圧。


それを受けてもセックは微笑んだまま、小首を傾げただけだった。


「ほう…」とフードの男は内心感心していた。



「バレない毒薬、ですか。あるには、ございますよ」


男は小さな皮袋をカウンターに置いた。口の開いた袋から、金貨の鈍い輝きが覗く。


「それをもらおう」


「では、少々お待ちくださいませ」


セックは皮袋を一瞥もせず、店の奥へと消えた。


残された男は、店内を見渡す。


男の知る薬局とは、天井から薬草が吊るされ、薬剤を収めた棚が所狭しと並ぶものだ。


だが、この店は違う。


薬草で埋まった薬棚も干された薬草も見当たらない。


ガラス越しに外からも見えていたが、店内は異様に明るい。棚を埋め尽くしているのは、いびつな薬草ではなく、紙製の小箱とガラスの小瓶。この帝都において紙は高級品であり、ガラスの瓶など貴族か大商会でしか見たことがない。しかもそのどれにも、見たこともない異国の文字が書かれていた。


この店主は何者だ。大商会の情婦か、大貴族の庶子か、それとも


「お待たせいたしました、お客さま」


セックが奥から戻ってきた。手にした小瓶の中身は、やや茶色い粉状のものだった。


「これが、お求めの薬でございます」


男は小瓶を受け取り、ランタンの明かりに透かした。


「……この粉なら、毒殺だとバレないんだな」


「ええ、バレませんよ」


セックはにこりと笑った。


「よく効きますとも。お客さまの、お望みのままに」


男はそれ以上何も言わず、小瓶を懐に収めて店を出ていった。


扉が閉まり、足音が遠ざかる。


「帰られましたか…」


セックはカウンターの上に置かれた水晶球から、布を取り去った。


その水晶球の中にフードの男の様子が映っている。男は裏通りを抜け、メインストリートの雑踏に紛れていく。男は人混みの中、懐の小瓶をそっと確かめ、口元を緩めていた。


これで積年の恨みを晴らすことができる。


声は聞こえずとも、その口がそう動いたのがセックには分かった。


「あの薬をどう扱うかは、お客さま次第。楽しみですわねぇ」


水晶球を覗き込むセックの口元が奇妙なくらい吊り上がっていく。


縫合の跡が裂けんばかりに開いたその口は、歪んだ三日月のようであった。


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