表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/44

自由への切符

 その部屋は、あっさりとした柄の薄い黄色の壁紙が貼られた、居心地のいい部屋だった。わたしの実家の部屋よりも客観的には居心地がいい。清潔なベッドが、きちんと整えられていて、その脇には花柄のついたスタンドがあり、その下はラジオが組み込まれた小さなデスク。品のいいビジネスホテルっていう感じ。

 わたしは、そのベッドの上に寝転がって天井を眺めた。

 天井には、青空が描かれていた。青い空に、白い雲。

 夜まで待とう。それから行動する。

 今は、ただ眠ろう。体力を回復しなくては。建物の構造は分からなかったけれど、昼間は勝手に動き回ることも出来ないだろう。

 それよりも、友美はどうしよう。

 わたしは、ここから逃げ出すつもりだった。その後、友美はどうなるんだろう。彼女はわたしの替わりに罰を受けるのだろうか。

 どんな罰だろう。

 わたしと同じように地下室に閉じ込められるんだろうか。

 なんのために?

 理由なんて無いじゃない。つまり、マインドコントロールという点から考えたら、意味が無いんじゃないんだろうか。でも、あの鳥井という男ならやるかもしれない。あの男、いったい何者なんだろう。この組織の中で、いったいどういう役目なんだろう。

 何もかも分からないことばかり。逃げ出す方法も分からないし、逃げ出した後、どうやって帰ったらいいのかも分からない。

 わたしは、ベッドから起き上がり、カーテンが閉められていた窓に近寄った。

 さっと、カーテンを引き開けると、ガラス窓から山が見えた。見渡す限りの緑。二階の部屋からは、庭が見えて、そこの一画は駐車場だった。ここへ来た日と同じようにメルセデスと白いワンボックスが一台あるだけだった。

 わたしは、窓の鍵を開けようとして驚いた。それは溶接されていて、動かなかった。


 わたしは夕方まで眠った。

 夕方になって、友美がわたしを起こしにやって来た。

「みんなで食事をするから。あと三十分よ。服、ここに置いて行くわ」

そういう友美は、長袖のTシャツとジーンズという質素な服を着ていた。建物の中は暖房が効いていて、暖かったから、その格好でも寒くは無かった。

 わたしはベッドの上に置かれた服を見た。友美と同じ様なシャツとジーンズ。それから下着。安物に見えた。

「これは、どうしたの?」

「これって?」

「服とか下着とか」

「奈々の服のサイズと同じ物を買って来たわ」

「何処で?」

わたしは、興味無さそうに聞こえるように聞いた。

「街でよ」

「そう」

わたしは、そっとその服を手に取った。

「髪を直して、化粧したいんだけど」

「部屋のバスルームを使うといいわ。それから、これ渡して置くわ」

そういうと、紙袋を渡した。中を見ると、わたしの着ていた服とバッグだった。

「ありがとう」

わたしは、そう言うと、バスルームに入った。

 寝癖を直しながら、

「食事の後、話、出来るかしら」

と聞いた。

「いいわよ。十時頃なら。食事の後も、いろいろあるから」

「そう、ありがとう」

わたしは、髪に水をつけながら大きな声で言った。

「それから、友美」

鏡を覗き込んで彼女の姿を探した。彼女の足だけがバスルームのドアから確認できた。

「なに?」

「建物の中を案内して欲しいんだけど。しばらく、ここで生活することになるんでしょ?わたし」

友美は、しばらく返事をしなかった。わたしは、バッグの中から口紅を取り出し、それを使った。ファンデーションとかそういうのは入れてきていなかった。

 ま、これでいいか。どうせ、ここの人となんて、もう二度と会わないんだし。それに、しばらく酒も飲んでいなかったから、いつもよりは肌の調子もいい。栄養さえきちんととっていたら、もっと良かっただろうに。そういう点でも、早くここから出なくては。美容と健康のために。

 わたしは、バッグを閉じて、バスルームを出た。

「建物の中、案内してよ」

わたしは明るく言った。

「わかった。後でね。許可をしてくれるか分からないけど」

「ええ。お願いね。ここで生活するの、楽しそうじゃない?」

わたしは、そう言うと、友美に笑いかけた。


 食事はおいしくはなかったけれど、少なくても皿は豪華だった。たぶん、ここは本当に廃業したホテルかなんかなんだろう。それを、この団体が買い取って、研修施設にしたんだと思う。この皿は、その時に建物と一緒に、おまけで付いてきたんだろう。

 ただし、食事の量は少なめだった。

 これも、しっかりとマインドコントロールの手段に則っている。宗教施設なんかでも、食事は制限されることが多い。深く物事を考えさせないためだ。カルト教団での断食なんて、そういう目的以外の意味は無い。わたしが、そういうのに嫌悪感を覚えるのは、常に誰かにコントロールされているという感覚においてだ。

 もっとも、慣れると、それは気持ちいいことらしいけれど。毎日の生活を自分でどうするか決めなくもいいから、楽だし。

 わたしは嫌だけど。

 食事が終わると、わたしは部屋に戻された。自己紹介とか、そういうのをさせられるかと思ったけれど、そうはならなかった。それは明日、ということかしら。

 ま、明日はいないんだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ