第8話:【第1章】野に咲く花のように⑤
「ええっ!?今川焼にクリームやチョコレートを入れて焼くですって!?
無理よ!邪道すぎるわ!!
って、早速焼こうとしないで!お父さんの鉄板で、邪道なものを焼かないで!!」
そう言ってキヤを止めようとするマルタだが、キヤは構わず焼き続ける。
「聖女様がやっていた事だから邪道じゃないのら!」
「はぁ?聖女様って!?」
いくつか焼いた試作品。
無理矢理、マルタの口に押し込む。
「……やだ……すごく美味しい……
この、餡子にチョコクリームを混ぜ込んだもの……最高に生地にマッチしているわ……
なんてハイブリッドな……これが、キヤちゃんの言うおやつ丸というものなの?」
「こっちはカスタードクリームとチョコクリームが二重になって入っているのら!」
「これも良いわね!!」
「生クリームは入れて焼いたらドロドロになってしまったのら……聖女様はどうやっていたのら?」
「クリームによっては……熱で分解されてしまうのね……
それなら、こういうのはどうかしら?完成した今川焼をスポンジに見立てて、ケーキのように生クリームでデコレーションするというのは!!
見た目もかわいいし、子供達にも大人気になりそうな気がするのよ……」
「最高なのら!!フォークとナイフで食べるのら!!」
「これまで今川焼きは、お手軽さが命だったけど……これは新感覚ね……
邪道と捉えられる可能性はあるけれど……オーソドックスに餡子だけで勝負しても勝ち目がないのならば……
やってみる価値はあるわ」
そして今川焼コンテスト当日。
晴れ渡る空の下、多くの今川焼の屋台が中央公園に集まっていた。
街の人たちは、みんな楽しそうに各店舗の今川焼を食べている。
しかし、人が最も集まっているのは、もちろんマルタの店の屋台の前だった。
大都会のケーキ屋さんのショーケースのように煌びやかにデコレーションされた今川焼たち……
見た目は同じでも、中身が何種類もある今川焼たち……
始めは、物珍しさで集まってくる人ばかりだったが、次第に観客は熱を帯びて行った……
可愛らしいみための今川焼に目を輝かす少女……
親の上着の袖を引っ張って連れてくる少年……
「これは!餡子だけじゃなく、生クリームとイチゴが入っているぞ!?」
「このデコレーションされたものは、見た目もいいし、味も素晴らしいぞ!」
「チョコと餡子のハーモニーが最高だ!!」
すると、他店の店主たちが、マルタの屋台に鬼の形相で詰め寄ってきた。
「なんだこれは!?こんなものは邪道だ!餡子以外のものを入れるなんて!!」
しかし、マルタは一歩も引かない。
「いいえ、子供たちの表情を見てください。
みんな、とても嬉しそうに笑っています。
私が見たかったものはまさにこれだったんです!
私は、今回の自分のやり方を間違いとは思いません!」
「グッ!」
正論パンチを食らい怯む他店の店主たち。
しかし、彼らも黙ってはいない。
「こ、今回は今川焼きのコンテストだ、本来の餡子のみのスタイルで勝負してもらおう!!」
そうだそうだ-と他の店主も騒ぎ立てる。
「では、これを食べてみてください」
マルタは、焼いていた、オーソドックスなつぶ餡入りの今川焼を店主たちに手渡す。
店主たちは、基本の味をののしってやろうと、次々にマルタの今川焼を口にした……
「こ、これは……っ!?」
マルタの今川焼を食した店主たちが固まっている……
「そ……そうか、アンタはハンスさんのところの娘さんか……」
「ハンスさんの味を……完全に受け継ぎ、再現できている……」
「俺たちは全員、若い頃アンタのオヤジさんの今川焼に惹かれて、こんなうまいもんつくりてえって思ってな……
ハンスさんに作り方から、道具から全部教えてもらったのよ……」
「そうか……受け継がれてたんだな……ハンス先生の味……」
そして、日が暮れる……
今川焼コンテスト優勝は満場一致でマルタに決まったのであった。
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