第9話:【第1章】野に咲く花のように⑥(完)
「なぜですか!?父上!!」
アルベールが、父クローデル卿に詰め寄っている。
「確かに、彼女は相当に腕のいい菓子職人のようだな。それは認めよう……
しかも、あのハンスと同等の腕を持ちつつ、伝統にとらわれない柔軟性も兼ね備えている
今川焼コンテストで、彼女の店に来た子供達は皆笑顔になっていた……素晴らしい力だ」
「ならば、なぜ僕たちの事を認めていただけないのですか!?」
「……アルベール。それとこれとは話がべつだ……
彼女は平民なのだ。我家の当主となるお前が一緒になれるわけがない。
お前の事を心配して言っているのだ。……いや、お前だけではない。
考えてもみろ、平民が貴族の世界に入る。お前ひとりで庇いきれるものでもあるまい。
彼女とて苦しむことになろうが……」
「ッ!!」
父からの、思わぬ正論に言い返せないアルベール……
(くそ!……やはり……駆け落ちしかないのか!?)
アルベールの脳裏に、なぜかキヤの昨夜の顔が浮かぶ……
(スマン……キミがせっかく僕を外道への道から救ってくれたというのに……
僕には駆け落ち以外思いつかない……)
「父上の考えはよくわかりました……父上がマルタとの結婚をどうしても認めてくれないのであれば……」
アルベールがそこまで話した時である。
「ご主人様!至急お伝えしたい事がございます!!よろしいでしょうか!?」
部屋の外から執事の声が聞こえた。
「入れ」
部屋に入ってくる執事。
「お城から手紙が届いております!」
「何?城から?……してなんと?」
「は!!
先日の今川焼コンテストでですが、あの場に……」
「???」
「あの場に聖女様がお忍びで参られていたようで、「皆の笑顔、大変感動しました」と、とても機嫌を良くされていると……」
「な、なんだとっ!?聖女様が!?」
驚くクローデルだが、あまりの事実にアルベールもつい熱くなってしまう。
「バカな!?こんな国境付近の小さな街に聖女様が!?
お忍びと言っても、護衛などは相当数いたのだろう?それっぽい者たちは見なかったが……」
「そして、いたく感動された聖女様は、このコンテストの優勝者には副賞として、男爵の地位を与えると……」
「な、なにぃいい!?」
クローデルとアルベール、親子でハモってしまうのだった。
実は、キヤがマルタに貴族としての爵位を与えて玉璽を押して、王国にへ送っていたのだ。
王国でその書類を受け取った、シグルーンが体裁を整えて、コンテスト優勝者への副賞としたのだった。
この事で、何とマルタは今川焼を作り続けて貴族になれたのだった!
数日後
貴族となったマルタは毎日、貴族としてのたしなみなどを教えられていた。
アルベールとの結婚式までの数か月の間に、すべてマスターしなくてはならない……
疲れ果てて家に帰ってくるマルタ
「キヤちゃんただいまー……今日もお留守番ありがとー……」
「お帰りなのら!マルタはフラフラなのら!!」
「だって、毎日きつい服着せられてダンスの練習とか……
どれもやったことないし、きつくてね……」
「水をやるのら!」
「ありがとーキヤちゃん……」
差し出されたコップの水を一気に飲み干すマルタ。
「でも、なんかキヤちゃんが来てから、すべてが上手くいってる気がするわ……
キヤちゃんって、私達にとっては本当に聖女様なのかもね……」
「だからキヤは聖女だっていつも言っているのら!!」
「そうだよね……ありがとう……キヤちゃ……ん……zzz」
疲れで、そのまま机に突っ伏して眠ってしまうマルタ。
キヤは卓上の美味しそうに焼かれた今川焼を頬張るのだった。
次の日の朝
「うぅ……いけない、アタシ、ここで寝てたの……?」
椅子に座った状態で、そのまま寝ていたマルタが目を覚ました。
部屋の中にキヤの気配がない……
「あれ?キヤちゃん?……お散歩に行ったのかな?」
卓上を見ると、今川焼が置かれたお皿の下に手紙が挟まれている。
「???」
『マルタへ
おやつ丸を食べさせてくれてありがとうなのら。
アルベールと笑顔で暮らすのら!』
皿の上の今川焼を見ると、玉璽による王国の焼き印が押されている。
「こ、これって!?」
慌てて、家の外に飛び出すマルタ。
そこに、ちょうどアルベールがマルタを迎えに来た。
「マルタ?慌てているようだが、何かあったのか?」
「あ、アルベール様!これ!!」
キヤの手紙と刻印入りの今川焼を見せる。
「……!これは……王国の刻印!?……まさかあの子は!?
マルタ!あの子は、キヤ様は聖女様だ!!」
「えぇっ!?何ですって!?」
「すぐに追いかけよう!まだ近くにいるかもしれない!!」
馬車のホロの上で仰向けになって寝そべり、空を見ているキヤ。
「キヤちゃーん!!」
土手の上からマルタとアルベールが走ってきて手を振っている。
ホロの上で体を起こしたキヤは、笑顔で大きく手を振って返した。
街道を行く馬車を見守りながら、マルタは胸の前で手を組んだ。
「キヤちゃん……ありがとう。私、あなたのこと、一生忘れないわ!」
馬車のホロに揺られ、空を見上げるキヤ。
雲で、マルタとアルベールの笑顔の似顔絵を描いてみる。
おやつ丸を食べさせてもらった恩義。
二人の門出を祝う聖女キヤなのであった。
【第1章】野に咲く花のように
【完】
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