第5話:【第1章】野に咲く花のように②
「おやつ丸ー、おやつ丸ー!おやつ丸を食べるのらー!」
魔導拡張機で音を拡大しながら、街の中央にある噴水を囲む公園にやってきたキヤ。
首からかけるお盆には、たくさんの今川焼が乗せられている。
どうやら出張販売まで始めたようだ。
「あら獣人の子なんて珍しい。今川焼?午後のスイーツにちょうど良いわ。2つ貰える?」
「毎度なのら!おやつ丸は冷めてもめちゃくちゃ美味しいのら!」
「おやつ丸?今川焼とは違うスイーツなの?」
「おやつ丸はおやつ丸なのら!!」
「あら、そう……ありがとうね。」
「毎度なのら!」
なぜか、商売が成立している。
この街の人たちは、心の優しい人が多いようだ。
噴水に座り、ポーチの中のお金を確認する。
「めちゃくちゃ売れたのら、早く帰ってマルタにおやつ丸たちの補充を頼むのら。
聖女様に言われたように、ひとりでも多くの幸せなおやつ丸を売るのら!」
美味しく食べられたおやつ丸は、幸せなおやつ丸という理論なんだろうか?
これでは、ルミナリア様も浮かばれないのではなかろうか?
ポーチの口を閉めて立ち上がろうとしたとき、厳しい声でキヤは声をかけられる。
「おい!待て、そこの獣人族!」
声をかけて来たのは町の自衛団だった。
二人に囲まれてしまうキヤ。
「貴様は獣人族か?怪しいな……貴様ここで何をしていた?」
「キヤのことか?キヤはここでマルタのおやつ丸を売りさばいていたのら。
幸せなおやつ丸たちを増やしていくのら!」
自衛団のひとりが、いかがわしそうにキヤの身なりを確認する。
「なんか言動が怪しいな貴様。よし、警備砦まで同行してもらうぞ」
「なんでなのら?キヤはマルタのところに戻って、おやつ丸の補充で忙しいのら」
「貴様……我々を愚弄しているのか?警備砦に連れて行くぞ!」
「何をするのら!?離すのらっ!!」
「くそ、コイツ……わざわざ魔導拡張機で話すな!!」
無理矢理キヤを捕らえようとする自衛団達。
周りは人だかりになってきている。
「何のさわぎだっ!?」
白馬に乗った男が近づいてきた。
身なりからして、どうやら貴族のようだ。
「こ、これはアルベール様!」
アルベールと呼ばれた男は馬から降りる。
「この少女が何かしたのか?」
「はい!魔導拡張機を持って今川焼を売っていたようで……
このあたりで商売をするには許可が要りますので……」
「……それは、確かにそうだな…… 獣人族のキミ。知っててやっていたのか?」
優しく、キヤに問いかけてくる男。
「そ、そんな決まりがあるなんて、知らなかったのら……ごめんなさいなのら……」
警備員のひとりがキレ気味にキヤを怒鳴りつけた。
「貴様、なにがしらなかっただ!!それで許されるわけがないだろ!!」
すると、腕を出して、警備員を制止するアルベール。
「この子の事は僕に任せてくれないか?二度としないように、厳しく言っておくから」
「はぁ?……ま、まあアルベール様がそうおっしゃるのであれば……それでは、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、任せてくれ」
警備兵たちはアルベールに頭を下げて去っていった。
「お兄さんは、キヤを助けてくれたのか?」
そう言って、アルベールの顔を覗き込むキヤ。
「まあ、そうだね。
だけど、キミがやっていたことは、この街のルール違反だ。今後絶対にしないと誓えるね?」
「キヤ知らなくて……すまなかったのら……もうしないのら……」
「よし、それが約束できるなら、もう行ってもいいよ。
次から家の手伝いをするときは、ちゃんと家の人にやっていいか確認してからにするんだよ」
「ありがとうなのら!助かったのら!!」
そう言って走り去ってしまうキヤを、見えなくなるまで、優しい瞳でアルベールは見守っていた。
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