第2話:【序章】聖女キヤ誕生②
〇王宮・聖女の間
王宮内の『聖女の間』は、歴代の聖女とそのお付きの者のみが立ち入りを許される神聖な場所である。
聖女ルミナリアが朝の数時間の女神への祈りを終え、帰ってきた。
廊下では背筋を伸ばし、慈愛の微笑みを崩さなかったルミナリアだったが、部屋に入り扉が閉まった瞬間に、扉にもたれかかり、そのままずるずると崩れ落ちてしまった。
「聖女様!!」
シグルーンが聖女様を抱き寄せ、なんとかベッドまで連れて行く。
「アナタには……迷惑ばかりかけるわね……」
「なにをおっしゃいます、ルミナリア様!」
そう言って布団をかけながら、ハッと気づくシグルーン。
ルミナリアの表情は驚くほどにやつれ果てていた。
いつも傍で見ているシグルーンですら、その変化に驚くほどだった。
人の前では、疲れなど絶対に見せないように振舞っていたようだ……
「私の、寿命もそう長くはないわね……」
天井の一点を見つめながらつぶやくルミナリア。
「何をおっしゃいますか!ルミナリア様!!あなたこそがこの世界の光です!!」
シグルーンは必死に励ますが、ルミナリアには自身の寿命が見えているようだった……
「私が、まだ動けるうちに次の聖女に引継ぎをしなければ……
シグルーン……あなたなら、私が誰を次の聖女にしたいのか……わかるでしょ?」
シグルーンとて、今は聖女の側近のメイドという立場に甘んじているが、
有能な女神魔法の使い手で、次期聖女の有力候補の一人でもある。
やはり聖女様は、もっとも信頼のおけるシグルーンを次の聖女に指名するつもりなのだろうか?
しかし、聖女様と付き合いの長いシグルーンには、自分を次の聖女にするつもりはないという、聖女様の考えが手に取るように分かった。
シグルーンは聖女様に、まるで実の姉であるかのような優しい笑顔を向ける。
「わかっていますよ……ルミナリア様。いつも庭に来る、獣人族のキヤですよね?
私では……あなたの求める太陽にはなれませんから……」
その答えを聞いて、安心したルミナリアはさらに続ける。
「あの子が、雲で私の似顔絵を描いてくれたでしょう?あれは天候系の女神魔法よ。
日照りが続けば国は滅んでしまう。
天候系女神魔法は、風を吹かせ、雨を降らせる……それだけで、多くの人を救える奇跡の魔法……
歴代聖女を見ても千年に一人と例えられるほどの稀少な才能よ
……そして何より、私はあの子の笑顔に……」
この世界を争いのない優しい世界に変えたかった聖女様。
目指したのは、人間も獣人族もエルフ族も、すべてが手を取り合い協力しあって暮らせる世界。
そのために、多くの法律を提案し、多くの慈善活動も行った。
しかし、城の大人たちには10代の小娘と舐められ、理想の法律は作れなかった。
かつて、この世界の人間は獣人族に虐げられていた時代もあったという。
密猟などの目に見える犯罪を減らすことはできても、人々の心に根付いた獣人族への蔑視や、不平等な税制……
そういった根深い壁は、若き聖女一人では壊せなかった。
夢見がちな子供は、ただ女神への祈りだけをやっていれば良いんだという扱いを受けて、
悔しさで涙を流す日もあった。
それでも愚直に続けた活動。
密猟者に滅ぼされた獣人族やエルフ族の村の子供たちを保護して、施設で育てた。
そんな、保護された子供の一人であったキヤが見せる笑顔が、どれほど聖女様の心を救ったかは他の者には計り知れない……
それと同時に、聖女様はキヤの太陽のような笑顔に、自分が成し得なかった、実現したかった争いのない優しい世界への希望を託したい。と考えていた……
シグルーンは、ベッドに横たわるルミナリアの手を取り、優しく語りかけた。
「聖女様。すぐに聖承の儀を執り行いましょう……」
聖承の儀とは、聖女が次の代の聖女に引き継ぐ儀式である。
シグルーンは、聖女様が握ってくる手に、少しだけ力がこもってくるのを感じていた……
数日後、王宮にキヤが呼ばれていた。
「聖女様!この服は動きにくくて、スースーするのら……これでお祭りを一緒に見に行くのかっ!?」
どうやらキヤは今日のお祭りが、自分が聖女を引き継ぐ聖承の儀を祝うものだとはわかっていないようだ。
無理矢理着せられた聖女の衣装。胸元をグイグイと引っ張り乱してしまうキヤ。
「キヤちゃん!でも、私とお揃いだから……キヤちゃんは嫌?」
「あ!本当なのら!聖女様とおそろいの衣装なのら!!カッコいいのら!!」
そう言って飛び跳ねるキヤ。
「キヤちゃん。私の話を聞いてくれるかしら?」
「なんなのら?というか、聖女様、顔色が悪いのら……大丈夫か?」
ルミナリアは優しく一度頷くと、キヤに向き合い真剣な表情で話し始めた。
「キヤちゃん、次の聖女になってほしいの……」
「何言ってるのら?聖女は聖女様だけなのら!一人しかいないのら!」
そう言って笑っているキヤ。
「キヤちゃんは、自分と同じような辛い思いをする子達を作りたくはないわよね!?
みんなが笑顔で暮らせる世界にしたいわよね!?」
だんだんと動悸が激しくなってくるルミナリア。
「ルミナリア様!!横になられてください!!」
慌ててシグルーンが、ベッドに寝かそうとする。
「今しかないのっ!今日のタイミングを逃したら、もう間に合わない!!
大臣たちの傀儡の聖女が後を継ぎ、王宮も、この国も終わってしまうわ!!」
叫ぶように、シグルーンを振り払う。
その鬼気迫る迫力は、シグルーンも止めるのを戸惑ってしまうほどだった。
キヤさえも、聖女様の迫力に押されている。
「せ、聖女様!!苦しいのか?聖女様はキヤと仲間のみんなを助けてくれたのら!
聖女様の為ならキヤはなんだってするのら!だからゆっくり寝ていた方がいいのら!!」
「お願いキヤちゃん……次の聖女を……」
「わかったのら!!聖女様の言うとおりにするのら!だから、聖女様は無理しない方が良いのら!!」
その後、ルミナリアからキヤへの聖承の儀は、集まった王国民たちの前で行われた。
どこまでも晴れわたる空のもと、王国の歴史上、最初で最後の獣人族の聖女、
第49代聖女キヤが誕生したのだった。
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