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第1話:【序章】聖女キヤ誕生①

女神様の加護によって護られているこの世界。


女神様の加護の力は、ただ一人の聖女による、毎日の祈りによって維持されている……


そのため聖女様は、この世界では絶対の権力を持つ。

王族と言えども聖女様には逆らえないほどだ……


聖女様は女神教会の象徴であり、トップに君臨する存在。


王国と女神教会は同盟関係にあり、教会のトップである聖女は王城内で生活している。

これは聖女様を王国の軍事力で守るという意味もあるが、同盟の人質であるともいえる。


その代わりに、聖女様は全ての決定権を持つ黄金に輝く玉璽を所持している。

この玉璽を持つ限り、誰も聖女に逆らうことはできないのだ。


つまり、現在この国の主導権は女神教会側が持っているという事になるが、

女神教会のトップである聖女様の命は、王国がその気になればいつでも奪えるという

なんとも、難しいバランスの上に成り立った同盟関係であった。



第48代聖女ルミナリアは王宮内の庭で、紅茶を飲んでいた。


金髪の美しいロングヘア、左右にお団子を結い上げている。

慈愛に満ちた美しさと、愛らしさを兼ね備えたルックス。

純白のローブに身を包む姿は、女神の化身そのものであった。


ルミナリアは12歳で女神魔法に目覚めた。

その魔力は非常に高く、第三神界魔法までもを楽々と使いこなす。


先代聖女様の魔力の衰えも重なり、16歳と言う異例の若さで聖女に就任した希代の大聖女となりえる方だった。


しかし、彼女は生まれつき病弱で、女神魔法では回復できない病の身体を押して

人々のために聖女の激務に臨む慈愛の人だった……



その聖女様のすぐ後ろにはメイドのような格好をした、紫のボブカットの髪の女性が

聖女を守り静かに立っている。

鋭い目つきの美女。かなりの腕前のようだ。


少し落ち着きのない聖女ルミナリア。

庭の中をチラチラと見渡している。


テーブルの上には黄金の玉璽がおかれているが、どうやら、聖女様が気にしているのは玉璽の事ではないようだ。


すると、近くの植え込みがガザゴソと動き、何か物体が飛び出してきた!

野良猫にしては大きいが……


次の瞬間、メイドが隠し持っていた短剣を両手に構えて、

飛び出してきた物体に突き付ける。


「ぎゃわわ!何するのら!」


飛び出してきたのは、緑の髪の小さな少女。

獣のような耳と尻尾が生えている。獣人族のようだ。

12、3歳程度の幼い見た目だが、愛らしいルックス。白いタンクトップと薄茶色の短パンを穿いている。


喉元に短剣の切っ先を突きつけられて、尻もちをつく。

「聖女様のお姉さんは、いつも恐ろしく乱暴なのら…」


「誰が、聖女様のお姉さんよ!私は聖女様の直属のメイドだといつも言っているでしょ!!

不敬な事を言うのはやめなさい!」


メイドは、怒りながらも短剣を納める。

この少女が危険な存在ではないという事だろうか。


「あと、アナタ聖女学園の生徒でしょ!?制服はどうしたの!?」


「あれは、なんかスース―して気持ち悪いのら……こっちの方が動きやすくて良いのら!」


「そういう問題じゃないでしょ!聖女様の前で不敬な格好をするのもやめなさい!!」


ちなみに聖女学園とは、女神魔法に目覚めた子供たちを集めて、正しく使えるように育成することと

女神魔法の使用者の管理を目的とした、女神教会が作った機関である。



二人のやりとりを聞いて、クスクスと笑う聖女様

「キヤちゃんいらっしゃい。どうぞ座って!」


「ありがとうなのら!聖女様はいつも優しいのらっ!」

キヤと呼ばれた少女は飛び乗るように聖女の正面の椅子に座る。


どうやら、聖女様のティータイムに、彼女がどこからかお城の庭に紛れ込んでくるのは、日常茶飯事らしい……


「キヤちゃんの大好きなスイーツもあるから、どうぞ召し上がって?」


そう言ってテーブルに置かれたのは、小麦や卵の生地を低い円柱型に焼きあげられたお菓子で、中にあんこが入っている和菓子のような見た目……


「シグルーン、このスイーツはなんという名前だったかしら?」


シグルーンと呼ばれたメイドは静かに答える。

「はい、この菓子の呼び名は多く、地域によって呼ばれ方が違うようです。

しかし、『どら焼きもどき』という呼び方が最も正しいかと思います」


「『どら焼きもどき』……そんな名前だったかしら?なんだか、かわいそうな呼び名ね」

そう言って、菓子を一つ手に取り見つめる聖女様


小麦粉とタマゴと砂糖を混ぜた生地が、直径7㎝厚さ3㎝程度の平べったい円柱型のくぼみのある専用の鉄板で焼き固められている。

表面は香ばしく、中はしっとりと焼かれており、噛むと中から甘く上品な餡子が口いっぱいに広がる……


「コイツの名前は『おやつ丸』なのら!めちゃくちゃ美味しいのら!!」

口の横に餡子を付けて、嬉しそうな顔でバクバクと食べるキヤ。


その幸せそうなキヤの笑顔を見て、少し悲しそうに笑う聖女様。



「キヤちゃんは、女神魔法に目覚めたから聖女学園に連れてこられたのよね?

お友達から引き離されて寂しくはなかったのかしら?」


この世界の子供たちは、15歳になると女神から「ギフト」を授かる。


ギフトの内容は「剣士」「魔導士」「料理」「飼育」「鑑定」など、戦闘系から生活系まで人それぞれだ。

このギフトの内容で、将来はほぼ確定する。


中でも、女性のみに発現する『女神魔法』のギフトは、かなり貴重で、もし顕現すれば、その時点で勝ち組とまで言われている。


「キヤの母上は、村のねーちゃん達と一緒に悪い人間たちに連れていかれてしまったのら!

獣人族の女は、美人が多くて、耳とか尻尾もかわいいから重宝されるらしいのら!!

父上は村の警備隊だったけど、他の警備隊のにーちゃん達と一緒に、悪い人間にやられて高級毛皮にされてしまったのら!

だけど、一緒に逃げた仲間や聖女様がいたから寂しくはなかったのら!!」


聖女様は、聖女になられてすぐに、獣人族やエルフ族への密猟を固く禁じて、それまで以上に重い罪を課すように法改正した。

その事で、密猟は大幅に減ったが、すべての密猟団の壊滅にはまだまだ遠い。


襲われてしまった村の、獣人族の子供は、一緒にやられるか、そのまま放置される事が多い。


放置された子供たちを引き取り、専用の施設で育てることにも、聖女様は積極的に取り組んだ。

キヤもその施設で育てられた一人であった。


にこにこと笑って、『おやつ丸』を頬張るキヤ。

そんなキヤに聖女様は問いかけた。

「キヤちゃんは、人間を恨んではいないの?」


「恨んでいないのら!絶対に他人を怨んじゃダメって母上が教えてくれたのら!」


何の迷いもなく、曇りのない笑顔でそう答えるキヤを見て、聖女様はキヤを抱きしめて泣いてしまっていた。

「ごめんなさい……本当に……ごめんなさい」


「なんで聖女様が泣いているのら?聖女様はキヤや友達を助けてくれたのら!

聖女様は何も悪いことはしてないのら!」

そう言って笑うキヤ。



聖女ルミナリア様は慈愛の人。


しかし身体が弱く、自身にそれほど時間が残されていない事は、本人が一番よくわかっていた。


そのため、聖女に就任してすぐに、多くの種族が手を取り合い生きていける

優しい世界を目指した法律を、次々に提案していった。


しかし、現実は厳しく、いかに絶大な権力を持つ聖女と言えども

王宮や女神教会内を、海千山千で渡り歩いてきた、狡猾にして老獪な大人たちの前では

思うように政策を実行に移せてはいない……


最近は、大地の豊穣のための、女神のへの祈りを行った際の、身体への負担が日に日に増してきていることも実感していた……



「聖女様!見るのら!!」

そう言って空を指さすキヤ。


澄み渡る青い空に浮かぶ白い雲が、まるでルミナリアが描いたような優しい笑顔の形に変わっていた。


「キヤちゃん……あなた……」


驚く聖女様に、歯を見せて笑うキヤ。


(私は、アナタの太陽のようなその笑顔に何回救われた事か……)


聖女様は、内心でとある決心をしておられた……

最後までお読みいただきありがとうございます!


よろしければ、次のお話もまたよろしくお願いいたします。

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