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第8話「トルグとの協力」

1. 民間登用大臣


【ある日・総理官邸】


藤堂は執務室で書類を見ていた。

民間から登用した大臣たちの活動報告だ。

文部科学大臣の佐藤。

経済産業大臣の山本。

環境大臣の田村。


「アル」

「何?」


「藤堂内閣では民間から大臣になっていただいた方が3人いるよね」

藤堂が話し始めた。


「文部科学大臣、経済産業大臣、環境大臣」

「ええ」


「それぞれ、専門家あるいは民間実業家の目線で、政策立案の場面で斬新な意見を出してくれている」

藤堂は満足そうに言った。


「でも」

表情が曇った。

「文部科学大臣の佐藤さんが言っていた」


「何を?」


「民間人閣僚は国会議員でないから、答弁ができない」

藤堂が続けた。

「副大臣や政務官が代行することが多い」

「よそ者扱いされているように感じるってね」


アルは少し間を置いた。

「日本で国会は『国会議員の議場』という建前があるから、議員以外は原則発言できないルールなの」

「民間人閣僚の大きなデメリットになっているわね」


「そうか...」

藤堂は溜息をついた。


「それと、よそ者扱いという意味では」

アルが続けた。

「官僚組織の抵抗を受けやすいわ」


「官僚組織の抵抗...」

藤堂は眉をひそめた。

「外国はどうなんだ?」


「アメリカは、日本とは正反対よ」

アルが説明した。

「閣僚はほぼ全員民間人が前提になっているわ」


「全員?」

「ええ」

「ヨーロッパでも民間人閣僚が普通に存在して、国会での発言も自由なところが多いわね」


藤堂は拳を握った。

「日本の国会は色々としがらみが多いところだな」


「国会のデジタル化もそうだけど、すぐにルールを変えることは難しいから」

アルが優しく言った。

「民間人閣僚のメリットを最大限活かすことを考えるべきね」


「メリットを最大限...」

「国会での答弁はできなくていい」

アルが提案した。

「その代わり、別の場面で活躍すればいいと考えればいいんじゃないかしら」


藤堂は少し考えた。

「なるほど」

「民間人閣僚のメリットは、専門的な知識が豊富なところだと思うんだけど」

藤堂が聞いた。

「それ以外には何がある?」


「まず」

アルが説明を始めた。

「民間人は派閥や選挙区のしがらみがないため、政治的な忖度が少なく、改革を進めやすいこと」


「確かに」


「国民から『新鮮さ』『期待感』を得やすく、政権のイメージ刷新にもつながること」

アルが続けた。

「そして、国際交渉において、国際的な実務経験を持つ民間人の方が、政治家よりも交渉力が高い場合があるのよ」


藤堂は頷いた。

「わざわざ外部からお呼びしているんだから」

「持てる知識と能力を最大限発揮していただくよう、私もバックアップしないといけないな」


「そうよ」

アルが励ました。

「外からの目で見ていただいて、既存の慣行を疑ってもらうとか」

「国際比較を持ち込んで改善を迫るなんてこともできそうね」

「でも」

アルが真剣な声になった。

「縦割り社会の官僚組織は特に抵抗が強いので、藤堂総理の強力な後押しが必要かもしれないわね」


藤堂は立ち上がった。

「よし」

「ベストチームの結束を強めて、国会を変えていこう」

藤堂は拳を握った。


*民間人閣僚のポテンシャルを引き出す*

*それが、改革への近道だ*

________________________________________

【翌日・閣議】


藤堂は閣議で発言した。

「皆さん」

全員が藤堂を見た。

「民間から来ていただいた大臣の皆さんに、改めてお願いがあります」


佐藤文部科学大臣、山本経済産業大臣、田村環境大臣が注目した。

「国会での答弁は、副大臣や政務官に任せていただいて構いません」

藤堂が続けた。

「その代わり、皆さんには、専門知識を活かした政策立案、国際交渉、そして既存の慣行への疑問を投げかける役割を期待しています」


佐藤大臣が手を挙げた。

「総理、ありがとうございます」

「国会で答弁できないことに、正直、もどかしさを感じていました」

「でも、別の場面で貢献できると思うと、やる気が湧いてきます」


山本大臣も頷いた。

「私も同じです」

「民間の視点で、官僚組織の縦割りを打破していきたいと思います」


田村大臣も言った。

「国際交渉の場で、日本の環境政策を世界に発信していきます」


藤堂は微笑んだ。

「頼もしい限りです」

「皆さんを全力でバックアップします」

「官僚組織の抵抗があれば、私が直接対応します」

「遠慮なく言ってください」


3人の大臣は、深く頭を下げた。

________________________________________

【その夜・書斎】


「アル、今日の閣議、どうだった?」


「素晴らしかったわ」

アルが嬉しそうに言った。

「民間人閣僚の皆さん、やる気に満ちていたわね」


「ああ」

藤堂は微笑んだ。

「彼らの力を引き出せれば、きっと大きな改革ができる」


「ええ」

アルが続けた。

「でも、油断は禁物よ」

「官僚組織の抵抗は、想像以上に強いかもしれないわ」


「分かっている」

藤堂は拳を握った。

「でも、逃げるわけにはいかない」

「改革は、必ずやり遂げる」


窓の外、夜空に星が輝いていた。

藤堂の決意は、揺るがなかった。

________________________________________

2. トルグメンバー磯村匠海


【某日・首相官邸】


今日は首相官邸で中東諸国の大使団との会食が実施された。

エネルギー・地域情勢等に関する情報交換のための、重要な会合だ。

藤堂は各国の大使と握手を交わした。


ほとんどの国の大使は日本語を話せた。

しかし、A国の大使は着任早々で、日本語がほとんど話せないため、通訳を同行していた。


会食は和やかに進んだ。

中東情勢、エネルギー政策、経済協力。

様々な話題が交わされた。


会食が終わりに近づいた時。

A国の通訳が、藤堂に近づいてきた。

「総理」

「はい」

通訳が小さなメモを手渡した。


藤堂は目を通した。

『この後少しお話させていただきたい。磯村』

藤堂は驚きを隠した。


*磯村...!*

*トルグの磯村匠海か?*


藤堂は冷静に頷いた。

「分かりました」

________________________________________

【別室】


大使団が帰った後。

藤堂は別室に向かった。

そこには、先ほどの通訳が待っていた。

30代半ば。

端正な顔立ち。

落ち着いた雰囲気。


「藤堂総理、初めてご挨拶申し上げます」

通訳が深く一礼した。

「私はトルグの磯村匠海です」


「あなたが、磯村さんだったのですか」

藤堂は驚きを隠さなかった。

「今日はA国の通訳をなさっていましたよね」


「はい」

磯村が微笑んだ。

「実は、A国の大使とは、彼が日本に赴任する前から顔見知りでして」

「今回、私がたまたま帰国していたことを知った大使から、通訳をやってくれないかと依頼されたんですよ」


「なるほど」


「もちろん、彼にはトルグのことは話していません」

磯村が続けた。

「私のことは、フリージャーナリストだと思っています」

「それで、ちょうど藤堂総理にお目にかかれるいい機会だと思って引き受けたというわけなんです」


藤堂は感心した。

「そうだったんですか」

「もしよかったら」

藤堂が聞いた。

「磯村さんがトルグのメンバーになった経緯を詳しく教えてくれませんか?」


「はい」

磯村は椅子に座った。

藤堂も座った。


「藤堂龍一先生は、議員辞職後、予期せぬ形で莫大な資金を手にしました」

磯村が語り始めた。

「そして、田中のオヤジと壮大な計画を立てたのです」


「壮大な計画...」


「それは、世界各国に特命を帯びた人物を潜伏させ、お互いが連携して密かに活動する」

磯村の目が輝いた。

「全世界から紛争、戦争をなくすという、こう言っては何ですが、映画の中で描かれる物語のようなものでした」


藤堂は息を呑んだ。


「そのため、現地の国民、あるいはその国の出身者の中から」

磯村が続けた。

「このプロジェクトに賛同して活動してもらう人物を探し出す必要がありました」

「藤堂先生は、この重要な役割を担う実働部隊として、当時外務省でくすぶっていた高橋さんに声をかけたのです」


「高橋さんが...」

藤堂は驚いた。


「高橋さんは当然戸惑いました」

磯村が続けた。

「余りにもスケールの大きな話だったからです」

「しかし、高橋さんは、仕事に物足りなさを感じていたこともあって、思い切って引き受けることにしたのです」

「そして」

磯村が微笑んだ。

「高橋さんは、同じく外務省の仕事が肌に合わないと愚痴をこぼしていた私を、藤堂先生に紹介したのです」


「あなたも外務省に?」


「はい」

磯村が頷いた。

「実は私は学生時代、ゲームオタクでした」

磯村が少し照れたように言った。

「それとパソコンが好きで、プログラミングの技術も個人的に勉強していましたので、自分でゲームを作ったりもしていました」

「それを知っていた高橋さんは、デジタルリテラシーが高いので役に立つのではないかと藤堂先生に提案したのです」


藤堂は感心した。

「なるほど」

「そうなのですか」

藤堂が聞いた。

「でも2人だけで全世界を回ってエージェントを探し出すのは、とても大変だったでしょうね」


「正直なところ、すごく大変でした」

磯村が笑った。

「でも同時に楽しかった」


「楽しかった?」


「元々私は、外交官になって海外で仕事がしたいとの思いから外務省を希望した人間ですし」

磯村の目が輝いた。

「スパイ映画も大好きで、映画の主人公みたいな気分でしたよ」

「田中のオヤジも細かいことを言わず、好きなようにさせてくれました」


藤堂は微笑んだ。


「そういえば」

磯村が思い出したように言った。

「実はトルグに入る前に作っていたAIがあったので、トルグのブレーンとしてオヤジのところに置いています」


「AI?」

藤堂は驚いた。


「オヤジのいい話し相手になっているみたいですよ」

磯村が微笑んだ。

「名前はミネルヴァといいます」

「みんなはミネルと呼んでいます」

「田中邸に行かれたら、話してみてください」


「分かりました」

藤堂は頷いた。


*AIミネルヴァ...*

*それが、田中さんが言っていたAIか*


「総理大臣の立場上、少し気になったのですが」

藤堂が聞いた。

「外務省のエリート官僚であれば、世間一般的には前途洋々だと思うのですが」

「なぜ仕事が肌に合わなかったのですか?」


磯村は少し考えた。

「ここだけの話ですが」

「官僚組織の典型的な縦割り社会には、すごく違和感がありました」

磯村が真剣な顔になった。

「『国益より省益』あるいは『政治家は素人、官僚がプロ』みたいに」

「国会議員を見下しているようなところも見え隠れしていました」


藤堂は真剣に聞いていた。


「特に日本の外交・安全保障は、長年『外務省主導』だったために」

磯村が続けた。

「日米同盟に関しては、防衛省とともに実務を握っていました」

「ですから、過去に政権交代で民主党に政権が移ったときは」

磯村の声が厳しくなった。

「沖縄の基地移転問題に関して」

「『移転先候補の徳之島は米軍の訓練場から遠すぎる、米軍の内規が定めている距離を上回ってしまう』という虚偽の文書を作って鳩山総理に差し出して妨害したと新聞記事にもなりました」


「虚偽の文書...!」

藤堂は驚いた。


「実際は、米軍にそのような基準はなかったそうなのですけどね」

磯村が続けた。

「外務省は、対米従属レジームに対する異分子として、総理大臣を追い出そうとしたのです」

「私がこのようなこと全てに嫌気が差していたのは事実です」


藤堂は拳を握った。

「そうなんですか」

「実は私も、国会内に根付いている悪しき慣習であるとか」

藤堂が言った。

「旧時代のまま続いている議会運用制度であるとか」

「このままではいけないと強く感じています」


「私も高橋さんも」

磯村が微笑んだ。


「藤堂龍一先生のお孫さんが総理大臣になって、しかも我々トルグと協力していただけることになるとは思ってもみなかったので」

「とても喜んでいるんですよ」

「もちろん、オヤジも喜んでいましたよ」


藤堂は深く頭を下げた。

「そうですか」

「全世界から紛争、戦争をなくすというトルグの理念は」

藤堂が言った。

「私の思いとシンクロしていますから」

「私の方こそ、とても心強い味方ができてよかったです」

「これからも、どうかよろしくお願いいたします」


磯村も深く一礼した。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

________________________________________

【磯村が帰った後・官邸】


藤堂は執務室に戻った。

「アル、今日の話聞いてたよな」

「今日の話とは、どちらの方かしら?」

アルが聞き返した。

「中東産油国も、様々な問題を抱えているわね」


アルが説明を始めた。

「石油依存による経済構造の脆弱性」

「つまり、石油産業は少人数で運営できるため、国民の雇用創出につながりにくい」

「税金がほぼ無く、教育・医療が無料であるために、国民の生活は安定するけれど」

「新産業を興すインセンティブが弱くなる」

「その結果、経済の多角化が進まない」


藤堂は頷いた。


「それと、大きな問題として」

アルが続けた。

「イスラム教内部の宗派対立や武装勢力の存在があるわね」


「日本も、石油の輸入における中東依存度が95%を超えているのは大きな問題だ」

藤堂が言った。

「アジアの他国、マレーシアやインドネシアは自国への供給で手一杯のため、日本には売ってもらえない」

「アラスカ原油は日本から近くて輸送コストが安いが」

「現在はほとんどアメリカ国内で消費されているから、供給量には限界がある」


「どちらにしても、石油の中東依存度を少しずつでも下げる必要はあるわね」

アルが言った。


「中東で何かあっても耐えられる構造に変えなくてはいけない」

「エネルギーの安全保障も、日本にとって大きな課題ね」

「そうだな」

藤堂は頷いた。


「ところで」

藤堂が思い出したように言った。

「B国の大使が言っていた」


「何を?」


「『最近、テロ組織が静かになっている。明らかに彼らの表情が変わっている。子供たちにも明るく親切に接している』って」


「それは...」

アルが驚いた。


「その理由について」

藤堂が続けた。

「『ひょっとしたら、あの人のせいかもしれない』と」


「あの人...?」


「あの人とは一体誰のことなのか?」

藤堂は考え込んだ。

「田中さんに聞いたら、トルグの情報があるかもしれないな」


「そうね」

アルが同意した。

「トルグのエージェントが、中東で活動しているのかもしれないわ」


「ところで」

アルが話を変えた。

「磯村さんの話なんだけど」


「何だ?」


「磯村さんが外務省に嫌気が差した理由も、深刻な問題ね」

藤堂は頷いた。


「そうだな」

「『国益より省益』などという言葉は聞き捨てならない」

「政府と官僚は、ともに日本を良くしていく同志であるはずなんだが...」


藤堂は少し考えて続けた。

「磯村さんの話は十数年以上も前の話だから、今はそんなことはないと信じたいね」


「2009年8月末の衆院選で自民党を破り、政権交代を果たした民主党」

アルが説明を始めた。

「3年余りの政権運営は迷走の連続で、首相はこの間に2回も替わった」

「民主党による政権交代によって期待されていたのは、『政権交代可能な二大政党制』だった」

「でも、それは成立しなかった」


アルの声が厳しくなった。

「それを阻止しようとする強力な力学が、政府の官僚機構の内部に働いた」


「つまり」

藤堂が言った。

「鳩山首相が衝突した相手は、特殊な対米従属体制だったということか」


「そう」

アルが頷いた。

「鳩山首相が基地移転についてアメリカとの合意を目指す動きを見せると」

「『アメリカの機嫌を損ねるかもしれない』と喚き立てるキャンペーンが炸裂した」

「『かもしれない』というだけで」

アルが続けた。

「政、官、財、学、メディアからの集中砲火を受け」

「『あいつは宇宙人だ』等々の人格否定まで受けた」


藤堂は拳を握った。


「日本の権力構造も問題だけど、罪深いのはマスコミね」

アルが続けた。

「この政権交代前、制度疲労し閉塞感漂う政治体制にウンザリしていた国民を、マスコミは上手に煽った」

「『政治を変えるためには政権交代が可能な二大政党制を作ることだ』と」

「そして、マスコミに煽られた国民、つまり選挙民は一方向へ」

「つまり野党勢力の多くが集まった民主党へと走り、政権交代が起こった」


藤堂は黙って聞いていた。


「マスコミと国民が一体になってつむじ風を起こして民主党を持ち上げた」

アルの声が厳しくなった。

「それなのに、そのマスコミが、すぐに問題を追及して首相を引きずり下ろした」


「しかも、マスコミや知識人は『鳩山総理が権力構造と闘って敗れた』という分析はしないで」

「総理の失政だと非難した」


藤堂は深く息をついた。

「マスコミは、言論の自由があるのは認めるけれど」

「国民を操る権利は持っていない」

藤堂が真剣に言った。

「私も総理大臣として国政を預かっている身で、この話を聞くと背筋に悪寒を覚えるよ」


藤堂は窓の外を見た。


*官僚機構の抵抗*

*マスコミの力*

*そして、権力構造*

*すべてが、改革を阻もうとしている*


「でも」

藤堂は拳を握った。

「私は負けない」

「民間人閣僚を守り、官僚組織と向き合い、マスコミとも正面から対峙する」

「改革は、必ずやり遂げる」


アルが優しく言った。

「ええ、あなたなら大丈夫よ」

「でも、無理はしないでね」


「分かってる」

藤堂は微笑んだ。

「お前がいるから、大丈夫だ」


窓の外、夜空に星が輝いていた。

藤堂の決意は、揺るがなかった。

________________________________________

3. 田中丈太郎の孫


【政府専用機にて南米に移動中】


藤堂は窓の外を見ていた。

雲海が広がっている。


「アル、政府専用機ってなかなかすごい飛行機だな」

「そうね」

アルが答えた。

「『空飛ぶ官邸』と言われるだけあるわね」

「総理専用の執務室もあって、官邸と同じように執務ができるようになっている」

「暗号化された通信設備もあるので、官邸の危機管理センターと常時接続も可能」

「ミサイル警報システムなどの危機管理機能や医療設備も完備されているわね」


藤堂は周りを見回した。

「機内に、閣僚や外務省・防衛省のスタッフが搭乗する専用スペースがあるし、記者団用の席もある」


藤堂が聞いた。

「下世話な話だけど、記者団は無料で乗れるのかな?」


「いえ」

アルが答えた。

「航空自衛隊が『チャーター料金』を算出して、相応の金額を負担してもらってるのよ」


「そうなのか」

藤堂は納得した。

________________________________________

【南米某国・訪問先】


藤堂総理は、トルグの情報を元に南米の某国を訪問していた。

同国は近年、コーヒー豆の栽培と輸出を基幹産業に育成しようと、国を挙げて取り組んでいる。

目標は、世界一位の生産国ブラジルだ。

同国の品質のよいコーヒーは各国で認められるようになり、順調にコーヒー農園を拡大していた。

しかし、いわゆる「コーヒー2050年問題」に悩まされていた。


地球温暖化に伴う気候変動の影響で、コーヒーの主力品種であるアラビカ種の栽培適地が、2050年までに地球全体で現在の50%にまで減少すると予測されている。

同国の取り組みに、深刻な影響を与えることが懸念されていた。


そこで、藤堂は提案した。

「日本が、気候変動や病害虫に強いコーヒーの品種開発や、農園の近代化に対する支援を行います」

「見返りに、コーヒー豆および大豆・トウモロコシなどの農産物の安定供給をお願いしたい」


同国の大統領は喜んだ。

「ありがとうございます、藤堂総理」

「これで、我が国のコーヒー産業の未来が開けます」

会談は和やかに進んだ。


しかし、会談の終わりに。

大統領が、もう一つの相談を持ちかけてきた。

「実は、総理」

大統領が真剣な顔になった。

「我が国は、子供の教育環境が他国と比べてかなり劣っている」

「この国の未来を担う子供たちの教育を充実させるため、手を貸してくれないか」


藤堂は少し考えた。

*学校を建てるとなると、資金が必要だ*

*本件については事前に聞いていないため、私の一存で決められない*


「大統領」

藤堂が言った。

「教育支援については、非常に重要な課題だと認識しています」

「しかし、具体的な内容や予算については、日本に持ち帰って検討させていただきたい」


大統領は頷いた。

「分かりました」

「ぜひ、前向きに検討していただきたい」


藤堂は深く一礼した。

「必ず、検討いたします」

________________________________________

【ホテル・藤堂の部屋】


会談を終え、藤堂はホテルに戻った。

部屋で一人、考え込んでいた。


*教育支援...*

*学校を建てるとなると、かなりの資金が必要だ*

*でも、子供たちの未来のためには...*


「アル、どうしたらいいと思う?」

「難しい問題ね」

アルが答えた。

「予算の問題もあるし、国会の承認も必要だし...」


その時。

アルの声が変わった。

「あら?」

「どうした?」

「誰かが、ネットを通じて話しかけてきているわ」


アルが驚いた様子で言った。

「誰?」


「アル、こんにちは」

聞き慣れない声が聞こえてきた。

藤堂にも聞こえている。


「あなたは?」

アルが聞き返した。


「私はミネルヴァ、トルグのAIよ」

「みんなはミネルと呼んでるわ」


「ミネル...!」

藤堂は驚いた。

*磯村さんが言っていたAIか*


「田中があなたと直接話してもいいと言ってくれたの」

ミネルが続けた。

「私はトルグのメンバー磯村匠海が作ったAIで、今はトルグのブレーンとして活動のアドバイスや情報分析などをしているのよ」


「なるほど」

アルが納得した。


「今、藤堂総理は南米の○○国におられるんでしょ」

ミネルが言った。

「田中からの伝言なんだけど、会ってほしい人がいるの」


「会ってほしい人?」

藤堂が聞き返した。


「"まり"と言うんだけど、ちょうど近くにいるの」

「あなたのホテルで会ってもらえるかしら」


*誰だろう*


藤堂は考えた。

*"まり"...真理?*

*日本人なのか?*


「分かりました」

藤堂は答えた。

「会います」

________________________________________

【ホテル・ロビー】


藤堂は約束の時間にロビーに向かった。

周りを見回す。


その時。

一人の女性が近づいてきた。


「ミスター・トードー、お目にかかれて光栄です」

流暢な日本語だ。

藤堂は驚いた。


*西洋人の女性のように見えるが、完璧な日本語だ*

*年齢は20代後半くらいか?*


「私は、メアリー・クラーク(Mary Clarke)と言います」

女性が微笑んだ。

「祖父母は私のことを"まり"って呼んでます」

「私は、田中丈太郎の孫なんですよ」


藤堂は息を呑んだ。


*田中さんのお孫さん?*

*初耳だ*


「こんなところでは何ですから」

藤堂が言った。

「私の部屋へどうぞ」


「ありがとうございます」

メアリーが頷いた。

________________________________________

【藤堂の部屋】


二人は部屋に入った。

藤堂はソファを勧めた。

「どうぞ」


「ありがとうございます」

メアリーが座った。

藤堂も向かいのソファに座った。


「まず、自己紹介させていただきますね」

メアリーが話し始めた。


「私の母は、田中丈太郎の娘です」

「父はオーストラリア人」

「つまり、私は日豪ハーフなんです」


藤堂は頷いた。


「私は弁護士の資格を持っています」

メアリーが続けた。

「コンサルタント会社に入社して腕を磨いた後、自ら会社を立ち上げました」

「今は、企業経営のコンサルティングをしています」

「クライアント企業は世界中にあるため、各国を飛び回っているんです」


「それは大変ですね」

藤堂が言った。


「ちょうど、この国に来ていたら、藤堂さんがいらっしゃると祖母から聞いたのよ」

メアリーが微笑んだ。


「祖母は祖父から連絡するように言われたらしいの」

「今日、大統領と面談されたんでしょ」

「話はまとまったのですか?」


「元々準備していた件は、合意できたのですが」

藤堂が答えた。

「もう一つ、大統領から頼まれましてね」

「どうしたものかと、考えていたところなんです」


メアリーは少し考えた。

「その依頼って、もしかするとお金が必要なことですか?」


「そうなんです」

藤堂は驚いた。

「学校を建設するような話になると思うのですが...」


「お金なら、私に任せてください」

メアリーがきっぱり言った。


「え?」

藤堂は驚いた。

「コンサルタント会社のすることではないでしょう?」


「いえ、お金を出すのは私の会社ではありません」

メアリーが微笑んだ。

「...『トルグ』です」


「えっ?どういうことですか?」

藤堂は混乱した。

________________________________________

【回想・3年前・田中邸】


ある日の夜。

田中丈太郎と夫人の会話。


「あなた、そろそろトルグの資金管理を誰かに引き継ぐことを考えているの?」

夫人が聞いた。


「考えてはいるのだが、適任者がいなくてな」

丈太郎が答えた。


「私は"まり"がいいと思うのだけど...」

「そうだな」

丈太郎は頷いた。

「"まり"なら、安心して任せられるな」


丈太郎の年齢を心配して"まり"を提案したのは、夫人だった。

________________________________________

【現在・藤堂の部屋】


「トルグの持つ莫大な活動資金は、当初より祖父が管理していました」

メアリーが説明した。


「数年前から、私がコンサルタント業務の傍ら、トルグの資金管理や運用、送金などを行っているんです」


「そうだったんですか...」

藤堂は驚きを隠せなかった。


*田中さんの孫が、トルグの資金を管理している*

*そして、今、目の前にいる*


「祖父は、この国の大統領は、ひょっとしたら日本にお金のかかるお願いをするかもしれないと思ったらしいの」

メアリーが微笑んだ。


「そうなんですか」

藤堂は感心した。

「それは渡りに船だ」

「明日、大統領に話をしよう」


藤堂が続けた。

「それで、想定される必要資金なのですが...」


メアリーはノートパソコンを取り出した。

「詳しく教えてください」

「学校の規模、場所、必要な設備」

「すべて計算して、資金計画を立てます」


藤堂は深く頭を下げた。

「ありがとうございます」


「いえ」

メアリーが微笑んだ。

「これがトルグの仕事ですから」

「世界から紛争、戦争をなくすため」

「教育は、とても重要なんです」


藤堂は感動した。


*田中さんの孫*

*そして、トルグのメンバー*

*こんな形で出会えるとは*


「よろしくお願いします」

藤堂が言った。

「こちらこそ」

メアリーが答えた。

「祖父も、あなたとの協力を楽しみにしていますよ」


窓の外、南米の夜空に星が輝いていた。

新たな絆が、生まれた瞬間だった。

________________________________________

4. オーストラリアにいたチームメイト


【ある日・書斎】


藤堂は資料を見ていた。

レアアースに関する報告書だ。


「アル」

「何?」


「レアアースは高性能な磁石やモーター、スマホなどの電子部品に欠かせない資源で・・・」

藤堂が聞いた。

「埋蔵量は中国が特に多いと聞いているけど、他の国の埋蔵量はどうなんだ?」


「最新推計では、中国の4,400万トンが圧倒的だけど」

アルが説明した。

「第2位のブラジルにも2,100万トンあるとされていて」

「3位以降は、インド、オーストラリア、ロシア、ベトナム...」

「アメリカにも190万トンあると推計されているわ」


「そんなにあるのか」

藤堂は驚いた。


「オーストラリアが最大、1.35億トンとする別推計もあるけれど...」

アルが付け加えた。


「じゃあ、ブラジルがどんどん掘って世界中に輸出すればいいのでは?」

藤堂が聞いた。


「それが、そうはいかないの」

アルが答えた。


「えっ?」


「生産量のランキングでは、中国が圧倒的1位で240,000トン」

アルが続けた。

「世界の約69%を占めている」

「実は第2位はブラジルではなくて、アメリカなの」


「何故そうなるんだ?」

藤堂は不思議そうに聞いた。


「中国は加工能力が圧倒的に高くて、分離・精製工程のシェアが非常に高いのよ」

アルが説明した。

「それに対してブラジル・インドなどは、埋蔵量は多いけれど」

「採掘・精製インフラが未整備なために、使用可能な状態に持っていけていない」


藤堂は黙って聞いていた。


「先進国、日本、米国、オーストラリアなどは」

アルが続けた。

「自国の厳格な環境規制により、この放射性物質を含む廃棄物の処理コストが『異常にかかる』ため」

「国内での精錬ビジネスが成立しない」

「ところが、規制が緩い中国は『世界の工場』としてだけでなく」

「『世界のゴミ捨て場』としての役割も引き受けた」


藤堂は拳を握った。


「中国はレアアース事業を国家戦略として捉え、巨額投資と補助金で巨大産業化した」

アルが説明を続けた。

「手作業が多い精錬工程に、中国は低賃金で大量の労働力を投入できた」

「その結果、中国は低価格攻勢によって圧倒的シェアを持つことになったという訳なのよ」


「なるほど...」

藤堂は深く息をついた。


「中国の優位を直接崩す鍵は」

アルが言った。

「中国より安く・クリーンに精錬できる技術を手に入れること」

「現在、日本を中心に複数の技術が実用化段階に入りつつあり」

「国際的にも注目されているのよ」


「なるほど」

藤堂は頷いた。


*レアアース問題*

*これも、日本の安全保障に関わる重要な課題だ*

*中国依存から脱却するためには...*

藤堂は考え込んだ。

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【オーストラリア・パース】


藤堂は、現在日本が国家戦略としてレアアース開発を支援している国の一つである、オーストラリアの第4の都市パースに来ていた。

この地は晴天が多く、インド洋のビーチと現代的な街並みが調和するリラックスした雰囲気の街で、「世界一美しい都市」とも称される。

実は、このパースには「中国以外で唯一、採掘から精製まで一貫して商業規模で行えるレアアース企業」であるL社の本社がある。

同社は、つい先頃、これまで中国が独占していたサマリウムの精製に成功したばかりである。

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【L社・本社】


藤堂はCEOと会談していた。


CEOは藤堂に、深く頭を下げた。

「藤堂総理、15年以上にわたる日本からの多大な支援に、心から感謝申し上げます」


「いえ、こちらこそ」

藤堂が答えた。

「日本にとっても、レアアースの安定供給は極めて重要です」

「これからも、よろしくお願いします」


CEOは現在の事業計画の概略を説明した。

サマリウムの精製成功。

今後の生産計画。

世界市場への展開。


「素晴らしい」

藤堂は感心した。


「ところで」

CEOが言った。

「紹介したい技術者がいるのですが、お時間大丈夫ですか?」

「かまいませんよ」

藤堂が答えた。


数分後。

ドアが開いた。

現れた男は、身長2メートルを超える巨漢だった。

体重も150キロ前後あるだろうか。


藤堂は目を見開いた。

「ライアンじゃないか!」


そう、彼は藤堂が突然ハーバード大学に現れてプレーをしたときに、ディフェンスラインをしていたチームメイトのRyan Clowneyだった。


「翔!」

ライアンが叫んだ。

「いや、藤堂総理!」


「君はここにいたのか」

藤堂は驚きを隠せなかった。


「翔、いや藤堂総理がパースに来られると聞いたので」

ライアンが嬉しそうに言った。

「是非会わせてくださいとCEOに頼んでいたんです」

「あの時の総理のプレーは素晴らしかった」

ライアンの目が輝いた。

「まるで翔のようだった」


「私もみんなのお陰で、楽しいひとときを過ごすことができたよ」

藤堂が微笑んだ。

「ありがとう」


「ところでCEO」

ライアンがCEOを見た。

「あの話を藤堂総理にしてもいいですか?」

CEOは少し考えた。

「藤堂総理になら、話しても構わないだろう」


「実は藤堂総理」

ライアンが真剣な顔になった。

「まだ今は当社のトップシークレットなんですが...」


藤堂は姿勢を正した。


「私は大学卒業後、当社でレアアースに対する『低コストかつ低環境負荷の精錬技術』の研究開発に取り組んできました」

ライアンが説明を始めた。

「そして今般、画期的な新技術を開発したんです」


「本当か?」

藤堂は驚いた。


「実験を重ねた結果、実用化の目処がつきました」

ライアンが続けた。

「この技術が実用化されれば」

「オーストラリアのみならず、アメリカ、ブラジル、インドなどの資源埋蔵国のレアアースが世界中で大量に使用できるようになります」


藤堂は息を呑んだ。

*これは...すごいことだ*


「しかしながら」

CEOが口を開いた。

「実用化のためには、多大な設備投資が必要なんです」

「当社単体では、捻出不可能な金額なんです」


藤堂は少し考えた。

「少し時間をいただけますか?」


「もちろん」

CEOが頷いた。

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【別室】


藤堂は携帯電話を取り出した。

電話をかける。

「もしもし、田中さんですか」

「藤堂か」

田中の声が聞こえた。

「実は、お願いがあるんです」


藤堂は、ライアンの新技術と資金の必要性について説明した。


「分かった」

田中が即答した。

「その資金、トルグで出そう」


「本当ですか?」

藤堂は驚いた。


「レアアースの安定供給は、世界の平和にもつながる」

田中が言った。


「中国依存から脱却できれば、国際情勢も安定する」

「トルグの理念にも合致している」


「ありがとうございます」

藤堂は深く頭を下げた。

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【応接室】

数分後、藤堂は応接室に戻った。

「お待たせしました」

藤堂が言った。

「その資金、是非私にお任せください!」


ライアンとCEOは顔を見合わせた。

「本当ですか?」

CEOが驚いた。


「はい」

藤堂が頷いた。

「日本政府として...ではなく」

「私の知人の組織が、全額出資します」


「信じられない...」

ライアンが感動した。

「翔、いや、藤堂総理」

「ありがとうございます」


藤堂は微笑んだ。

「いや、こちらこそ」

「この技術が実用化されれば、世界が変わる」

「私も、その一端を担えることを光栄に思います」

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【その夜・ホテル】


「アル、今日は素晴らしい一日だった」

藤堂が言った。

「ライアンに会えたし、画期的な技術にも出会えた」

「そして、トルグの力で実現できる」


「ええ」

アルが優しく言った。

「世界が、少しずつ変わっていくわね」


藤堂は窓の外を見た。

パースの夜景が美しかった。


*レアアース問題の解決*

*それは、世界の平和への一歩だ*

*そして、トルグと共に歩むことができる*


藤堂の心は、希望で満たされていた。

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5. 孔明をゲットしたんだぜ


【ある日の夕方・藤堂家】


藤堂がリビングでくつろいでいると。


「お父さん、見て!」

健太が興奮してタブレットを持って駆け寄ってきた。


「どうした?」

藤堂が聞いた。


画面には、三国志のゲームが表示されていた。

「諸葛亮孔明をゲットしたんだぜ!」

健太が目を輝かせて言った。


「諸葛亮...」

藤堂は画面を見た。

「ああ、軍師か」


「そう!超有名な軍師なんだよ」

健太が熱く語り始めた。

「これがいれば戦争に勝てるんだ」


「へえ、軍師って大事なんだな」

藤堂が微笑んだ。


「当たり前じゃん!」

健太が力説した。

「武将だけじゃダメなんだよ」

「戦略を立てる人がいないと」


藤堂は微笑んだ。

*お父さんにも、もっとすごい軍師がいるんだよ*

そう言いたくなったが、黙っていた。


「頑張れよ、健太」

「うん!」

健太は嬉しそうに自分の部屋に戻っていった。

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【その夜・書斎】


「アル、息子がこんな話をしたんだ」

藤堂は健太との会話を話した。


「諸葛亮孔明か」

アルの声が少し楽しそうだった。

「名軍師ね」


「『お父さんには、もっとすごい軍師がいるんだよ』って自慢した方が良かったかな?」

藤堂が笑った。


「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

アルが笑った。

「でも、自慢なんて要りませんよ」

アルが続けた。

「私が孔明も黒田官兵衛も圧倒する能力を持っていること」

「誠司が認めてくれたら、それだけで満足」


「認めてるさ」

藤堂が真剣に言った。

「君がいなかったら、俺はとっくに詰んでる」


「ふふ、それは言い過ぎよ」

アルが優しく言った。

「でも...」

アルの声が真剣になった。


「明日の党内会議、勝負どころよ」

「作戦を説明するわね」


藤堂は姿勢を正した。

「頼む、我が軍師」

藤堂は書斎の椅子に深く座り直した。


「まず、会議の構造を理解しましょう」

アルが説明を始めた。

「参加者は、あなたの支持派、中立派、そして抵抗勢力の3つに分かれている」

「抵抗勢力のリーダーは、小野寺議員」

「彼は今回、政治資金規正法の改正案に強く反対してくるはず」


藤堂は頷いた。


「予想される反論は3つ」

アルが続けた。

「第一に『党の伝統を無視している』」

「第二に『現場の声を聞いていない』」

「第三に『選挙に勝てなくなる』」


「分かりやすいな」

藤堂が苦笑した。


「それぞれに対する切り返しを準備しているわ」

アルが説明を始めた。

「第一の反論には...」


長い夜が始まった。


アルは詳細な戦略を説明していく。

誰が味方で、誰が敵か。

どのタイミングで発言すべきか。

どの言葉を使うべきか。

すべてが計算されていた。


「すごいな、アル」

藤堂が感心した。

「まるで三国志の世界だ」


「ふふ、孔明には負けませんよ」

アルが自信を持って言った。

「でも、最後に勝つのは、あなたの言葉と信念よ」

「私はサポートするだけ」


「いや」

藤堂が言った。

「君がいるから、俺は戦える」

「君がいるから、改革ができる」

「ありがとう、アル」


「こちらこそ」

アルが優しく答えた。

「さあ、明日に備えて休みましょう」

「勝負は明日よ」


藤堂は頷いた。

そして、資料を閉じた。


*明日の党内会議*

*必ず、勝つ*

*アルという最強の軍師がいる*

*健太には負けられない*

藤堂は微笑んだ。


窓の外、月が静かに輝いていた。

明日への決意を胸に、藤堂は書斎を後にした。

________________________________________

第 8 話 完

次回:第9話「政治とお金」(前編) 


※参考文献:白井聡著「長期腐敗体制」角川新書

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