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第7話「日米首脳会談」

1. 社会実験パート2後編


【回想・内閣発足直後】

藤堂は、橘官房長官から報告を受けていた。

「総理、須藤厚生労働大臣から聞いた話なのですが・・・」


「須藤大臣が?」

須藤詩織。

初めて厚生労働大臣に指名した女性議員だ。


「厚生族議員の大河原実が、接触してきたそうです」

橘が続けた。


「大河原...」

藤堂は眉をひそめた。

*厚生族のドンだな*


「セクハラ発言とともに、世間には言えない利権がらみの話をして」

橘が報告した。

「『どうだ、おいしいだろう?私が指南してやろうか?』と言ったそうです」


「許せないな」

藤堂は拳を握った。

「須藤大臣は、どう対応したんですか?」


「賢明でしたよ」

橘が微笑んだ。

「『大河原先生の話、面白そう。もっと詳しく教えてください』と誘ったそうです」

「すると、大河原はぺらぺらしゃべった」


「そして」

橘が続けた。

「須藤大臣は『私は大臣に就任したばかりなので、基本的なことをまず勉強しないといけない』と言って」

「『落ち着いたらご相談に乗っていただくことがあるかもしれないので、そのときはよろしくお願いします』と言って、その日はお帰りいただいたそうです」


「賢い」

藤堂は感心した。


「そして」

橘が声を潜めた。

「須藤大臣は、もしもと思って、ICレコーダーを用意して録音しておいたそうです」


「録音...!」

藤堂は驚いた。

「その音声データは?」


「ここにあります」

橘がUSBメモリを差し出した。


藤堂は受け取った。


*これは...使える*

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【現在・書斎】


藤堂は、あの時の録音データを聞き直していた。


大河原の声が流れる。

「厚労省の予算は、使い道が多いんだ」

「医療、介護、年金...どれも業界団体が絡んでいる」

「うまくやれば、政治資金も集まるし、票も集まる」


セクハラ発言も記録されていた。

「君は美人だから、業界の懇親会に出れば、みんな喜ぶよ」

「まあ、夜のお付き合いも必要だけどね」


藤堂は怒りを抑えた。

*許せない*


「アル、準備はいいか?」


「ええ」


「では、始めよう」

藤堂は決意した。


「社会実験パート2を」

________________________________________

【数日後】


あのLGBTQ発言を報道したネットニュースが、新たな記事を配信した。


見出し:

「厚生族議員の実態、厚生労働大臣が自ら公表」


記事には、こう書かれていた。

『須藤厚生労働大臣が族議員から受けたセクハラとともに、レクチャーを受けた利権構造の内幕をすべて暴露した』


『族議員の名は匿名だが、内容は以下の通り』


そして、大河原の発言内容が詳細に記されていた。


セクハラ発言も、利権の話も、全て。

________________________________________

【その日の午後】


他のメディアも一斉に報道を始めた。

「族議員の暗躍」

「官僚・業界・議員の三者が利益を共有する悪しき構造」

「女性大臣へのセクハラ発言も」


テレビ、新聞、ネットニュース。

全てのメディアが騒ぎ立てた。

________________________________________

【官房長官記者会見】


橘が記者会見を開いた。

今回も藤堂総理が仕掛けた「社会実験」であったが、橘官房長官は予め聞いていた。


「官房長官、須藤大臣はなぜこのような発言を?」

記者が質問した。


「あれは、オフレコ取材の場で話したことです」

橘は冷静に答えた。


「オフレコ...ですか?」


「はい」


「しかし、内容が事実なら問題では?」


「話の内容については、現在確認中です」

橘は慎重に言葉を選んだ。


「須藤大臣が言う族議員とは誰なのですか?」


「それは申し上げられません」


「須藤大臣が話した内容がすべて事実であれば、重大な問題です」


「政府として、徹底的に調査したうえで、後日改めて記者会見を開いてご説明いたします」


記者会見場が騒然となった。

________________________________________

【翌日・総理官邸】


発言の主である大河原実が、総理官邸を訪れた。

顔は怒りで赤く染まっている。


「総理」

大河原が執務室に入ってきた。


「大河原議員」

藤堂は冷静に迎えた。


「あの厚労大臣は困りますな」

大河原が怒りを抑えきれずに言った。


「あんなに口が軽い政治家も珍しい」

「こんなことが世間に知れたら、我が党の支持率が下がるのは目に見えている」


「総理も、任命責任が問われることになるでしょうな」


藤堂は静かに立ち上がった。

「大河原議員」


「何ですか」


「ペラペラしゃべったのは、あなたでしょう」


大河原の顔が凍りついた。


「私が須藤厚生労働大臣に指示してやってもらったんです」


「な...!」


「彼女に私はこう言って指示したんです」

藤堂が続けた。

「大河原議員から聞いたことを、オフレコ取材でそのまましゃべりなさい。結果がどうなろうと、私が責任を持つからとね」


藤堂は大河原の目を見た。

「支持率が怖いと言っていたら、改革はできません」


「政策を密室化してはいけない」

藤堂の声が力強くなった。


「私は、国政の場でやっていることを、いいことも悪いことも全部可視化すべきだと思っています」


「今回のやり方は少々乱暴な方法で、社会実験的にやりましたが」

「今後は堂々と可視化を進めていきたいと考えています」


大河原は言葉を失っていた。


藤堂は一歩近づいた。

「あなたが純粋に日本のため、あるいは日本の医療や福祉、その他厚生行政および労働行政の発展向上のために力を注いでくださっているのならば」

「私は何も申しません」


「しかし」

藤堂の目が鋭くなった。


「あなたのように利権にしがみついて、自分自身の権力確保やお金を得ることばかり考えているような国会議員は必要ありません」


「未来の日本を築く上で、阻害要因でしかありません」


藤堂は静かに、しかし力強く言った。

「You're already dead!」


大河原は顔面蒼白になった。

口を開きかけたが、何も言えなかった。


もし何か反論するようなら

藤堂は考えていた。


*ICレコーダーの存在をちらつかせよう*

だが、その必要はなかった。


大河原議員は、一言も言わず立ち去った。

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【執務室】


大河原が去った後、藤堂は深く息をついた。


「翔、すごかったわ」

アルが褒めた。


「ありがとう」

「でも、大丈夫?」

「何が?」

「敵が増えるわよ」

アルが心配した。

「分かっている」

藤堂は頷いた。


「でも、引き下がるわけにはいかない」

「利権にまみれた政治を、変えなければならない。誰かがやらないといけないことだ」

藤堂は拳を握った。


「それにしても、オフレコと言っておいて、マスコミが報道せざるを得ない族議員の実態を暴露するなんて、パート2も大胆不敵な社会実験ね」


「あの内容を聞いたらオフレコであろうと、例のLGBTQ報道をした記者は必ず記事にする。そうすれば他のメディアも追随する」

「誰の発言か伏せていたとしても想像がつく。いずれ特定されるだろう」


「社会実験パート2も、成功だ」


「ええ」

アルが続けた。


「よし」

藤堂は力強く言った。


「次のステップに進もう」

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【その夜・ニュース】


各局が官房長官による記者会見のニュースを報道し、利権や族議員について評論家たちが厳しいコメントを述べた。

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【翌日・ニュース】


「大河原議員、辞職を表明」

「族議員問題、政界に激震」

「藤堂総理の改革、加速か」


コメンテーターたちも評価した。

「藤堂総理、また大胆な手を打ちましたね」

「フェイク動画に続いて、オフレコで暴露」

「社会実験という手法が、定着しつつあります」

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【書斎・深夜】


「アル、これで第一幕が終わった」

藤堂が言った。


「ええ」

「この機に乗じて企業や団体の中から匿名でリークする者も出始めたそうよ」


「厚生族以外の族議員もあからさまに動けなくなる」


「族議員の力が弱まり、官邸主導の意思決定がスムーズになる」

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【2日後・首相官邸】


藤堂総理が記者会見を開き、種明かしをした。


「『すべて自分が責任をとるから須藤大臣が聞いたことをすべて記者の前で話しなさい』と言ってやらせた」


「『オフレコで』と指定したんですけどね」


そして宣言した。

「政治の闇はすべてあからさまにする。政治の透明性を高めて、国民からの信頼を得る」と。

________________________________________

【メディアの反応】


数時間後、各テレビ局がトップニュースで報道した。


翌朝、新聞各社も1面で大きく取り上げた。

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【数日後・首相官邸】


藤堂は須藤厚生労働大臣を執務室に呼んだ。

橘官房長官も同席している。


「須藤大臣、お疲れ様でした」

藤堂が深く頭を下げた。


「今回はあなたのお陰でうまくいきました」

「本当に、ありがとう」


須藤は少し戸惑った様子だった。

「総理が頭を下げないでください」


「でも」

須藤が言った。

「こんなことを言うと大河原議員には申し訳ないですが」

「正直なところ、楽しかったです」

「わくわくしました」


藤堂は驚いた。

「楽しかった?」


「はい」

須藤が微笑んだ。


「これが政治なんだ、って」

「民間にいた時とは違う緊張感と、達成感がありました」

「私も悪女の素質がありますか?」


藤堂は苦笑した。

「ダメですよ、政治家は善人でないと」


「でも」

橘が口を挟んだ。

「藤堂総理の方こそ、ひょっとしたらとんでもない悪人かもしれませんよ」


橘が須藤を見た。

「須藤大臣、総理に利用されないように気をつけてくださいね」


「橘さん」

藤堂が抗議した。


須藤は笑った。

「大丈夫です」

「私、総理のために働けるなら、利用されても本望です」


藤堂は感動した。

「須藤大臣...」


「でも」

須藤が真剣な顔になった。

「次は、もっと大きな改革をやりましょう」

「民間出身の私だからこそ、できることがあるはずです」


藤堂は力強く頷いた。

「ええ、期待しています」


三人は固い握手を交わした。


*改革の仲間が、また一人増えた*


You're already dead

*利権にまみれた古い政治は、もう終わったんだ*

*新しい時代が、始まる*


藤堂は決意を新たにした。

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2. モーツァルト知ってるの?


【ある日曜日の夕食・藤堂家】


家族4人で食卓を囲んでいる。


「彩花」

藤堂が口を開いた。

「昼間ピアノ弾いてたけど、あの曲はモーツァルトのソナタだよな」

「確か第16番...」


「えっ、お父さん、モーツァルト知ってるの?」

彩花が驚いた顔をした。


その瞬間。

美咲と健太が、同時に顔を上げた。

食卓がザワザワした。


*しまった!*

藤堂は内心焦った。

*また、余計なことを言って、疑惑の種を蒔いてしまったか?*


「お父さん、クラシック音楽聴くの?」

彩花が不思議そうに聞いた。


「え、ああ...」

藤堂が答えに詰まった。


その時。

「お父さんは学生の頃、クラシック音楽が好きなお友達がいたのよね」

美咲が助け舟を出した。

「女の人だったかな?」

美咲が藤堂の方を見て、にこっと微笑んだ。


*藤堂さんもモーツァルトを聴いていたのか?*

*それとも、美咲がフォローしてくれたのか?*


藤堂は一瞬迷ったが、美咲の言葉に乗った。

「そうなんだ、クラシック音楽を趣味にしている友人がいてね」

「そいつがモーツァルト大好きだったんだよ」


「へえ」

彩花が納得した。

「じゃあ、お父さんも少しは分かるんだ」


「まあ、ちょっとだけな」

藤堂は苦笑した。


*気をつけないといけないな*

*これからは迂闊な発言は控えよう*

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【その夜・書斎】


「アル」


「何?」


「今日は、危なかった」

藤堂は溜息をついた。

「モーツァルトのこと、つい口に出してしまった」


「そうね」

アルが言った。

「誠司とクラシック音楽の話をしたことはないわ」

「翔にそんな趣味があるなんて意外だわ」


「私がどんな男だと思ってたんだ?」

藤堂は少し拗ねた。


「私が持っているイメージ?...」

アルが少し間を置いた。

「大事なパートナーを怒らせてはいけないから、秘密よ」


「そんなこと言われたら余計に気になるじゃないか」

藤堂は苦笑した。


「それより」

アルが真剣な声になった。


「今日はマスコミ対策についてレクチャーするわ」


「マスコミ対策?」


「誠司は心配ないけど、あなたは心配だわ」


「なんでだよ」


「失言しそうだもの」

アルがきっぱり言った。


藤堂は反論できなかった。

確かに、今日のような失敗を繰り返せば、いつかボロが出る。


「分かった、教えてくれ」

藤堂は真剣に聞く姿勢になった。

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3. マスコミの言葉狩り


【書斎・深夜】


「それでは、マスコミ対策のレクチャーを始めるわ」

アルが真剣な声で言った。


「頼む」

藤堂は姿勢を正した。


「今から10年以上前のことだけど、大臣が失言によって辞任に追い込まれた典型例として、鉢呂経済産業相の話をするわね」

アルが画面に資料を表示した。

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【鉢呂経済産業相の失言事件】


「まず、当時のマスコミの報道内容から説明するわ」

アルが説明を始めた。


「東日本大震災発生の約6ヶ月後にあたる2011年9月9日、鉢呂経済産業相が閣議後の記者会見で福島第一原発を視察したことを説明し、『残念ながら、周辺の町村の市街地は、人っ子一人いない、まさに死の町というかたちでした』と述べた」


「死の町...」

藤堂は息を呑んだ。


「また、視察後、防災服のまま議員宿舎に戻った際、記者に服をこすりつけるようなしぐさをしながら『放射能をつけちゃうぞ』と言った。」


「これが当時の報道内容よ。失言とされた2つの言葉『死の町』と『放射能をつけちゃうぞ』が大々的に報じられて、これらが『被災者への配慮を欠く』として強い批判を浴びた」


「そして野党は罷免を要求。野田首相も『不穏当』と認め、鉢呂経済産業は辞任に至った」


藤堂は黙って聞いていた。


「でも」

アルが続けた。

「ここからが重要なの」

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【真相】


「あるジャーナリストの取材では、鉢呂氏が『死の町』と表現した背景があったの」


アルが説明した。

「福島の市町村首長から陳情を受けた際に、こう要望されていた」


画面に文字が表示される。

『中央の政治家には、我々の町がゴーストタウンになってしまっているという認識が足りない。現実を直視して対応してほしい』


「つまり、現地の様子をありのまま発言してほしいと要望されていたの」


「そうだったのか...」

藤堂は驚いた。


「マスメディア報道では、まるで福島県民全体から苦情が殺到しているかのように報じられたけど」

アルが続けた。

「実際、鉢呂事務所には『がんばれ』『よく言ってくれた』といった激励の声こそ多数寄せられていたものの、批判は来ていなかったという」


「批判が...来ていない?」


「大臣辞任直前には『彼を辞めさせるな』との署名運動が始まっていたのよ」


藤堂は言葉を失った。


「そして、『放射能』発言についてはもっと酷い」

アルが声を潜めた。


「ICレコーダーの録音によると」

「『放射能、ついていませんか?うつさないでくださいよ』と記者側から話が振られて」

「鉢呂氏が『ほら』とジョークで応じただけで、具体的な言葉は何も発していなかった」


「え...」


「全国紙の記事は『放射能をつけちゃうぞ』『ほら、放射能』『放射能をうつしてやる』などと発言内容が異なっていた」


アルが続けた。

「つまり、『放射能』発言は事実と異なるでっち上げともいえる報道だったの」


藤堂は怒りを抑えた。

「鉢呂氏は弁明しなかったのか?」


「あるジャーナリストの取材に応じた際に・・・

『死の町』という表現は適切ではなかったと認めている」

アルが答えた。

「でも『放射能』発言については、言った記憶がないと話した」


「メディアに抗議しなかったのか?」


「『ずっと否定していたのだが、メディアが取り上げてくれなかった』と言ったそうよ」


藤堂は拳を握った。

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【藤堂の見解】


「翔、あなたはこれを聞いてどう思う?」

アルが問いかけた。


藤堂は少し考えた。


「第三者の立場で冷静に考えるなら」

「『死の町』を気にしない人もいれば、つらい気持ちを逆なでされると感じる人もいるということを考えないといけない」

「記者の冗談に対しては『ふざけているときではない』と諫めるべき立場だったと言える」


藤堂が続けた。

「そして、間違いなく言えることは」

「一度世の中に広まったら、それが単に噂であっても、デマであっても、打ち消すのは非常に難しいということだ」


「その通りよ」

アルが頷いた。


「ただ、鉢呂氏が辞任に至った背景には、単なる『失言』だけではなかった」

「当時の政権状況・原発事故対応・党内力学が複雑に絡み合っていたの」

「つまり、野田内閣発足からわずか9日目というタイミングだったので」

「辞任させることで、政権は追及の火種を最小化しようとしたという政治的背景もあったのよ」


藤堂は深く息をついた。


「いずれにしても、どのような状況でも冷静に発言しないといけないわね」


「そうだな」

藤堂は頷いた。


「肝に銘じておこう」

________________________________________

【教訓】


「翔、覚えておいて」


アルが真剣に言った。

「マスコミは、あなたの発言を常に監視している」

「文脈を無視して、一部だけを切り取る」

「そして、デマでも一度広まれば、打ち消せない」


「分かった」

藤堂は拳を握った。

「絶対に、失言しない」

「言葉を選んで、慎重に発言する」

「ええ」

アルが優しく言った。

「『慎重に発言する』ことを絶対に忘れてはだめよ」


*マスコミの言葉狩り*

*それは、政治家の命を奪う*

*絶対に、気をつけなければ*


藤堂の心には、新たな緊張感が生まれていた。


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4. ハーバードでアメフト


【ある日・書斎】


藤堂はスマートフォンを見ていた。

ハーバード・クリムゾンのOB達がつながっているSNS。

時々、このグループを覗いている。


*みんな、元気にしているな*

懐かしい名前が並んでいる。


その時、一つの投稿が目に入った。

『ハーバード大学記念イベント:現役 vs OB交流戦』

『日時:来週土曜日』

『場所:ハーバード・スタジアム』


藤堂は日付を確認した。

*ちょうど、米国大統領との会談で渡米しているタイミングだ*

藤堂は「スマホの「連絡先」を開いた。

そして、ある名前を見つけた。

マリク・ジョンソン

かつてのワイドレシーバー。


藤堂は電話をかけた。

________________________________________


【数日後・ワシントンD.C.】


藤堂はバーガーショップを訪れた。

学生時代、よく通った店だ。

マリク・ジョンソンはカウンター席に座って待っていた。

190cm近い長身。

がっしりとした体格。

かつてのワイドレシーバー。

今はIT企業のCEO。


藤堂が声をかけた。

「やあ、マリク」「久しぶりだな」


マリクが立ち上がった。

「藤堂総理...それとも翔?」


*見た目は、翔とは別人だ*


「お前、本当に翔なのか?」

マリクは信じられないという顔をした。


「電話の時、声は違っていたが、話し口調は翔そのものだった」


藤堂は少し考えた。

「訳あって、詳しいことは言えない」


「何だそれ」

マリクが笑った。


「だが...私には朝霧翔の記憶がインプットされているんだ」

藤堂は真剣な顔で言った。


マリクは目を見開いた。

「記憶が...どういうことだ?」


「それ以上は聞かないでくれ」

藤堂が続けた。

「ただ、翔のすべてを覚えている」

「お前との思い出も、チームのことも、全部」


マリクはしばらく黙っていた。


そして、深く息をついた。


「なるほどな...だから日本の総理大臣が、俺に会いたいって言ってきたわけか」


「明日の試合、出させてくれ」

藤堂が言った。


「正気か?」

マリクが驚いた。

「お前、今40代の政治家の体だぞ」


「大丈夫だ」

藤堂は微笑んだ。

「QBは頭が重要だろ?」

「記憶があれば、体は動く」


マリクは笑った。

「相変わらず無茶するな...翔」

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【天国の入り口】


天使がその様子を見ていた。

「あら?藤堂誠司...いえ、朝霧翔が、マリクに会ってる」


「『記憶がインプットされている』...」

天使は少し考えた。


「うーん、ギリギリセーフかな」

「自分が朝霧翔だとは言ってないし」


黄色いカードを取り出した。

「とりあえず、イエローカードね」

そう言って、カードを宙に放った。


カードは光となって消えた。


「まあ、許してあげる」

天使は微笑んだ。

「頑張ってるもんね」

________________________________________

【翌日・ハーバード・スタジアム】


ハーバード大学のOB達は、毎年、朝霧翔の命日に集まってゲームをしていた。

相手は現役の下級生チーム。

翔を偲ぶ、恒例のイベントだ。


「今日は日本の総理大臣が見に来るらしいぞ」

「藤堂総理?」

「ああ、翔と親しかったらしい」

OB達がざわついた。


その時。

フィールドに一人の男が現れた。

ハーバード・クリムゾンのユニフォーム、プロテクターで全身を覆い、ヘルメットを被っている。


「誰だ...?」

「まさか...」


その男は、マリクと一緒にキャッチボールを始めた。

完璧なスパイラル。

正確なコントロール。


「おい、あれ...」

「藤堂総理じゃないか?」

OB達が驚いた。


マリクが藤堂に近づいた。

「ヘッドコーチには了承をもらっているから大丈夫だ」

「ありがとう」


藤堂はセンターのケニーに声をかけた。

「ケニー、スナップを合わせよう」

「え?あ、はい」


ケニーがボールを構える。

藤堂がセットポジションに入る。

「レディ、セット、ハット!」

ケニーがスナップ。


藤堂は完璧にキャッチした。

すぐにタイミングが合った。


「おい...」

ケニーが驚いた。

「完璧じゃないか」


藤堂はOB達に言った。

「朝霧翔のやっていたポジションがしたい」


「何?」


「出来るもんか。怪我をするぞ」

OB達が反対した。


「やればわかる」

藤堂は言った。

「上手くいかなかったら引っ込むよ」


「俺たち朝霧翔の同級生のイベントなんだぞ!」

誰かが叫んだ。


「最初のプレーはプレーアクションパスだ」

藤堂は躊躇なく言った。


「1発目からタッチダウンをキメるぞ」

「RBのジェイドンにハンドオフ・フェイクして投げるから」

「マリクは最速スピードでエンドゾーンに走り込んでくれ!」


OB達は顔を見合わせた。


だが、マリクが頷いた。

「やろう」

________________________________________

【キックオフ後、最初のオフェンスプレー】


「レディ、セット、ハット!」

藤堂の声が響く。

ケニーがスナップ。

藤堂はボールを受け取り、完璧なプレイアクション・フェイク。

ジェイドンは完璧にボールキャリアの走り。

ディフェンスが食いつく。

その瞬間、藤堂は深く投げた。


マリクが全速力でエンドゾーンに走り込む。

ボールは完璧な弧を描いて、マリクの手に吸い込まれた。


タッチダウン!


フィールドが静まり返った。


「何だ...今の...」

「アサインメントを全部知ってる...」

「まるで、翔が投げたみたいだ」


ケニーが藤堂を見た。

「あんた...誰だ?」


藤堂は微笑んだ。

「私のほうが、翔の代役に向いてるだろ?マリク」


マリクが頷いた。

「ああ、間違いない」

________________________________________

【2度目のオフェンスシリーズ】


藤堂は、見事なロングパスで2本目のタッチダウンを決めた。


フィールドが歓声に包まれた。


藤堂はヘルメットを脱いだ。

「ありがとう、みんな」

フィールドに一礼した。


「君たちとは、仕事の場でまた会うだろう」

「私の顔を覚えておいてくれ」

そう言って、藤堂は去って行った。


OB達は呆然と立ち尽くしていた。

「なんだったんだ、今の...」


「日本の総理大臣が、なぜこんなことを...」


マリクだけが、小さく微笑んでいた。

________________________________________

5. 日米首脳会談


【翌日・ホワイトハウス】


白亜の建物が、朝日を浴びて輝いていた。

藤堂総理を乗せた車が、正面玄関に到着した。

扉が開くと、米国大統領が自ら出迎えに来ていた。


ジェフ・ヘンドリクス大統領。

40代前半。

ハーバード大学出身の若手で、「ケネディの再来」との評判だ。


「藤堂総理、ようこそ」

ヘンドリクス大統領が手を差し出した。

「大統領、お会いできて光栄です」

藤堂は握手を交わした。


その隣に、見覚えのある顔があった。

「ケニー...!」

藤堂は思わず声を上げそうになった。


「総理、昨日はありがとうございました」

ケニーが握手を求めてきた。


「楽しかったですよ」

藤堂は微笑んだ。


ヘンドリクス大統領が不思議そうに二人を見た。

「お二人は知り合いで?」


「ええ」

藤堂が答えた。

「古い友人です」

ケニーは藤堂をじっと見つめた。


その目には、疑問と、そして確信が浮かんでいた。


*あなたは、まさか...*

________________________________________

【会談前・控室】


ケニーが藤堂に近づいてきた。

「総理」

「何でしょう?」


「大統領はダラス・カウボーイズの熱狂的なファンですよ」

ケニーが小声で言った。


「カウボーイズ...」

藤堂は頷いた。

「ありがとう、ケニー」


「どういたしまして」

ケニーは微笑んだ。


*昨日のプレー、本当に翔そのものだった*

*でも、それを言うべきじゃない*

*彼には、彼の事情があるんだろう*

________________________________________

会談室キャビネットルーム


ヘンドリクス大統領と藤堂総理が向かい合って座った。

通訳なし。

英語での直接会談だ。


「藤堂総理」

ヘンドリクス大統領が口を開いた。

「まず、お伝えしたいことがあります」


「何でしょう?」


「日本の総理大臣は、英語通訳を同伴することが多いと聞いていました」

大統領が微笑んだ。

「私は日本語が全く話せませんが、あなたは英語で問題なく会話できる」

「それがありがたい」

「通訳を介しての会話では、冗談も白けてしまいますからね」


藤堂は頷いた。

「同感です」


「では、本題に入りましょう」

________________________________________

【情報交換】


藤堂は、アメリカがマークしている国に関して、トルグから得ていた情報を話した。


中東情勢。

テロ組織の動向。

詳細なデータ。


ヘンドリクス大統領は真剣に聞いていたが、驚いた様子はなかった。


*既に知っている...?*

藤堂は気づいた。

*さすがアメリカの情報収集力だ*


一方、大統領も内心驚いていた。

*これは、我が国のみが知るトップシークレットのはずだ*

*こいつは今までの日本の首相とは違うな*


「藤堂総理」

大統領が言った。

「素晴らしい情報をありがとうございます」


「我が国に何かできることがあれば仰ってください」

藤堂は真剣に言った。


「ありがとうございます」

大統領が頷いた。


二人は、安全保障、経済協力、環境問題など、様々な議題について話し合った。


藤堂は、外務省はもちろん、アルとも事前に綿密な打ち合わせをして今日の会談に臨んでいた。


ヘンドリクス大統領とは考え方も似通っていて、お互い良きパートナーになりそうだという思いを共有できた。

________________________________________

【雰囲気が変わる】


会談が一段落した。

藤堂が言った。

「ところで、大統領はダラス・カウボーイズの大ファンだそうですね」


大統領の顔が明るくなった。

「おっ、知っているのか?」


「ええ」


「カウボーイズを応援しているんだが」

大統領が溜息をついた。

「何年もスーパーボウルに出場できていない」

「QBも頑張っているんだけどな...」


「Dak Prescottですね」

藤堂が即答した。


「知っているのか?」

大統領が驚いた。


「Tony RomoもTroy AikmanもRoger Staubachも知っていますよ」

藤堂は微笑んだ。


「それはすごい!」

大統領が身を乗り出した。

「君とは話が合いそうだ」


そこから、二人の会話は止まらなくなった。

カウボーイズの歴史。

名プレーヤーたち。

思い出の試合。

時間を忘れて、語り合った。

________________________________________

【会談終了】


予定時間を大幅にオーバーして、会談が終わった。


「藤堂総理」

大統領が握手を求めた。


「素晴らしい時間でした」

「こちらこそ」

藤堂も握手を返した。

「また会いましょう」

「ええ、必ず」

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【見送り】


藤堂を見送りに来たケニーが、親指で「グッジョブ!」のサインを送った。


「ケニー、ありがとう」

藤堂が言った。


「また会おう」


「ええ」

ケニーが微笑んだ。


「今度は、もっとゆっくり話しましょう」

藤堂は車に乗り込んだ。


車が走り出す。


ケニーは、いつまでも手を振っていた。

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【帰国の飛行機】


「アル、成功だったな」


「ええ」

アルが嬉しそうに言った。

「ヘンドリクス大統領とは、いい関係が築けたわ」


「ケニーもいたしな」

藤堂は微笑んだ。

「ハーバードの繋がりは、大きい」


「そうね」

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【エピローグ・翌年】


満員のスタジアム。

スーパーボウル。


32年ぶりに、ダラス・カウボーイズが出場していた。


VIP観覧席。

そこには、三人の姿があった。


ヘンドリクス大統領。

ケニー首席補佐官。

そして、藤堂総理。


「来たな、藤堂総理」

大統領が笑顔で迎えた。


「ええ、約束しましたから」


「カウボーイズ、32年ぶりだ」

大統領が感慨深げに言った。

「感無量だな」


「本当に」


キックオフ。

試合が始まった。


三人は、声を張り上げて応援した。


カウボーイズのタッチダウン。

三人はハイタッチした。

「いいプレーだ!」

「最高だ!」


国を超えた友情。

ハーバードで育まれた絆。

そして、新しい時代の日米関係。

すべてが、このスタジアムにあった。


試合は、カウボーイズの勝利で終わった。

三人は抱き合って喜んだ。


「最高な一日だった!」

大統領が言った。


「ええ」

藤堂は頷いた。

「これからも、共に歩みましょう」


「もちろんだ」

大統領が握手を求めた。

ケニーも加わった。

三人の手が重なった。


*新しい時代が、始まっている*


藤堂は確信した。


*そして、俺たちが、それを作っていくんだ*


スタジアムに、歓声が響き渡っていた。

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第7話 完


次回:第8話「トルグとの協力」


※参考文献:上杉隆著『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』PHP新書 

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