第6話「秘密組織トルグ」
《これまでのあらすじ》
天使の計らいで衆議院議員「藤堂誠司」となった朝霧翔は、AI軍師アルテミス(通称アル)の助けを借りて最初のミッションである「総理就任」を果たした。そして大きな試練「隣国との危機」に直面したが、田中という正体不明の老人と田中の知人である中国人・李明の力を借りて最悪の事態を回避することができた。この藤堂総理が実は20歳の朝霧翔だということは誰も知らない。
《主な登場人物》
美咲 … 藤堂誠司の妻
彩花 … 長女(高校生)
健太 … 長男(小学生)
藤堂龍一 … 誠司の祖父(故人)
吉村隆 … 政務担当秘書官
橘麗子 … 内閣官房長官(藤堂総理の力強い味方)
山本理恵 … 経済産業大臣(民間から閣僚に抜擢)
小野寺辰義 … 古参議員(抵抗勢力)
永山義博 … 衆議院議員(情報通)
田中丈太郎 … 謎の老人
李明 … 中国の穏健派
アルテミス(アル) … AI軍師。藤堂総理(朝霧翔)の相棒
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1. 誠司を論破した女子学生
【ある夜・書斎】
藤堂は書類に目を通していた。
「アル」
「何?」
「藤堂さんと美咲さんの馴れ初めって聞いてる?」
「聞いてるわよ」
アルが嬉しそうに言った。
「誠司が自慢げに話してくれたのをよく覚えているわ」
「自慢げに?」
藤堂は笑った。
「美咲さんからその話題が出るかもしれないから、教えておいてあげるわ」
「ぜひ」
「大学で政治研究会っていうサークルに入っていた誠司が4年生の時」
アルが語り始めた。
「都内の大学生が集まって『日本の今の政治をどう考えるか』というテーマで自由に語ろうというイベントがあったの」
「ほう」
「サークルの代表として参加した誠司が、自信満々に持論を展開していたのよ」
「藤堂さんらしいな」
「そして」
アルが続けた。
「他校の1年生が、彼の意見の欠点を突いて論破してしまった」
「論破?藤堂さんが?」
「その人が、美咲さんだったのよ」
藤堂は驚いた。
「へえ、美咲さんが?意外だ」
「でしょう?」
「いつも家では政治の『せ』の字も言わないのに」
藤堂は笑った。
「誠司も言ってたわ」
アルが続けた。
「彼が政治家になってからは、政治の話はしなくなったみたい」
「でも、こちらから相談を持ちかけると意見を言ってくれる」
「美咲さんは出しゃばりたくないと考えているみたい」
「なるほど」
「今どき珍しい女性ね...」
アルが言いかけて、慌てて続けた。
「あっ、ちょっと待って、翔は『今どき珍しい女性』なんて公の場で言っちゃあだめよ」
「え?」
「失言だってすぐスクープされるから」
藤堂は苦笑した。
「そうなのか。気をつけるよ」
「そうして」
アルが笑った。
「藤堂さんを論破した女性か」
藤堂は感心した。
「明日から見方が変わるな」
「誠司は1年生の女の子に言い負かされたことにショックを受けたけど」
アルが続けた。
「なぜか嬉しかったって言ってたわ」
「こんな子がいたんだってね」
「分かる気がする」
藤堂は微笑んだ。
「美咲さんの話が出たついでに、家族の誕生日と誠司の誕生日、つまり、あなた自身の誕生日を教えておくわ」
「ああ、頼む」
「それと結婚記念日も覚えておけばいいかな」
アルが日付を表示した。
藤堂は真剣にメモを取った。
「ありがとう、アル」
「どういたしまして」
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【翌日・総理官邸】
橘が執務室を訪れた。
「総理、お疲れ様です」
「橘さん」
「今日も野党からの政治資金問題追及が厳しかったですね」
橘が言った。
「当然だ」
藤堂は真剣な顔で答えた。
「私が彼の立場だったら同じように追求するだろう」
「この問題を放置することはできない」
「私の在任期間中に改革するつもりだ」
橘は藤堂の目を見た。
「微力だけど、いつでも頼ってくださいね」
「いえいえ、何を謙遜なさいますか」
藤堂は微笑んだ。
「頼もしい相棒がいるから安心だよ」
橘は少し照れた。
「そう言っていただけると、励みになります」
「これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
橘が一礼して、部屋を出て行った。
藤堂は一人、考え込んだ。
*毎日アルと議論しているが、なかなか奥の深い問題だ*
*だが絶対に何とかする*
藤堂は拳を握った。
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2. 秘密組織トルグの正体
【翌日・書斎】
藤堂は決意していた。
「アル、あの大規模汚職事件について調べてくれないか」
「え?でも、田中さんが...」
「首を突っ込むなと言われたけど、調べないわけにはいかないよな」
藤堂が続けた。
「大勢の政治家が逮捕されたことは知っているが、誠司さんの祖父はこの事件に関わりがあるのだろうか?」
「ないとすれば、なぜ事件の直後に議員を辞職したのか?」
「アル、やっぱり調べてくれるか」
「分かったわ」
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【その日の夜】
アルが報告した。
「誠司の祖父は、大規模汚職事件には関わっていなかったけど、暴力団との黒い噂があったらしいの」
「でも辞任の理由は最後まで言わなかったそうよ」
「藤堂さんのファイルに何も書いていないのなら、知っているのは田中さんだけか?」
藤堂は考えた。
「なぜ、事件発生を予告できたのかも分からないし、田中さんに尋ねてみるしかないな」
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【翌日・田中邸】
藤堂が訪問すると、応接間に高橋という男が来ていた。
「この高橋は、ワシのことをすべて知っている男だから、この場で何を話してくれても構わんから」
田中が言った。
藤堂は座った。
「田中さん、大規模汚職事件について、あなたの忠告を無視して調べました」
「でも祖父とのつながりや、なぜ祖父が政界を去ったのか理由が分かりません」
「田中さん、もしご存じでしたら教えていただけませんか?」
田中は高橋と目を合わせた。
高橋が頷いた。
「そうか」
田中が笑った。
「ワシが首を突っ込むなと言ったことが、かえって興味を引いてしまったな」
「自分の祖父が、志半ばで政界を追われた理由に興味を持たないような男だったら、逆に失望したかもしれんがな...ははは」
「しかたない。教えてやろう」
田中は真剣な顔になった。
「これから言うことは、絶対誰にも言うな」
「家族にも、秘書にも、だ」
藤堂は息を呑んだ。
「なぜ、そこまで秘密にするのかは、話を聞けば分かるはずだ」
田中は深く息をついた。
そして、語り始めた。
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【田中の語り】
「ワシと藤堂総理の祖父、藤堂龍一は幼なじみでな」
「子供の頃からなぜか馬が合って、親友となった」
藤堂は静かに聞いていた。
「ワシの家は『極道』の家だった」
田中が続けた。
「君らからすれば『反社』ということだ」
「今は足を洗っておるから、安心せい」
藤堂は頷いた。
「小学校を卒業してからは龍一とは疎遠になっていたが、お互い忘れることはなかった」
田中の目が遠くを見た。
「その後、藤堂が国会議員になったのは知っていた」
「あいつが幹事長をやっていた頃、あの大規模汚職事件が起こった」
藤堂は息を呑んだ。
「国会議員の大物も小物も大勢逮捕された」
「龍一は事件に関与していなかったので、大混乱の国会を正常化しようと必死だった」
田中が続けた。
「その時に、ワシに相談したいことがあると連絡してきた」
「あの事件の首謀者は裏社会の大物で、石黒という男だった」
「龍一が言うには、捜査当局は向こうからはあれこれ尋問するが、こちらには捜査の中身は一切教えないというので、裏社会に詳しいワシを頼って来たというわけだ」
藤堂は真剣に聞いていた。
「ワシは知っている限りのことを教えもしたし、ワシの知人を通じて石黒にも会わせてやった」
田中の表情が曇った。
「ところが、その事件がほぼ決着しかかった頃」
「龍一とワシが会っていることが、ある週刊誌の記者に知られて」
「『藤堂幹事長が反社と繋がっている』と記事になった」
藤堂は拳を握った。
*そういうことだったのか...*
「龍一は、ワシに迷惑がかかるのを心配して何も言わなかった」
田中が静かに言った。
「そのために政界には居づらくなって、辞職したというわけだ」
沈黙が続いた。
藤堂は深く頭を下げた。
「田中さん...」
「顔を上げろ」
田中が優しく言った。
「お前の祖父は、立派な男だった」
「自分の保身より、友人を守ることを選んだ」
「ワシは、それを一生忘れん」
藤堂は涙をこらえた。
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【トルグの資金源】
「そして」
田中が立ち上がった。
「ワシが今やっていることは、高橋、説明してやってくれ」
「はい」
高橋が頷いた。
「総理、『トルグ』という組織をご存じですか?」
「いえ」
「そうでしょうね。世界でも、この組織の存在を知る者はほとんどいません」
高橋が続けた。
「トルグは、オヤジと藤堂龍一先生が創設した、秘密組織です」
「オヤジ...?」
藤堂は聞き返した。
「ああ、失礼」
高橋が微笑んだ。
「田中総帥のことは『オヤジ』と呼ばせてもらっているんですよ」
「祖父が...?」
藤堂は驚いた。
「はい」
高橋が説明を続けた。
「藤堂龍一先生は、政界を去る前、ある資金を受け取られました」
「資金?」
「詳細は、田中先生からお聞きください」
田中が口を開いた。
「トルグの資金源についてだが」
「総理が違法な手段で手に入れた金ではないかと心配するかもしれんから、全部話しておく」
藤堂は真剣に聞いていた。
「あの大規模汚職事件の首謀者、石黒という男がおった」
田中が遠くを見た。
「石黒は、政治家というものを見下していた」
「政界から多くの逮捕者が出たときは、自業自得だと笑っていた」
「...」
「龍一が会いに行ったとき」
田中が続けた。
「石黒は、どうせ偉そうに説教じみたことを言うのだろうと思っていた」
「だが、龍一は違った」
田中の目が優しくなった。
「『国政をストップさせるわけにいかない。私は国民の生活を守る義務があるんだ。なぜこのようになったのか知りたい』」
「龍一は、真剣に訴えてきた」
「石黒は驚いた」
「この年でまだこんなに真っ直ぐな政治家もいたのかと」
藤堂は胸が熱くなった。
「その後、石黒は懲役刑に服した」
田中が続けた。
「だが、高齢であり、彼の体も精神力も耐えられるはずがなかった」
「石黒は、自分の人生を振り返った」
「極悪非道の人生で貯め込んだ金」
「人のために使うなど、考えたこともなかった」
「しかし」
田中が藤堂を見た。
「家族に相続させたら、良いことにならない」
「殺し合いになるのが落ちだ」
「だが、藤堂龍一なら託せると思った」
「...」
藤堂は息を呑んだ。
「全部集めると『兆』が付く金額だった」
「兆...!」
「ああ」
田中が頷いた。
「そして、石黒は自分がもう長くないと悟り、龍一に手紙を送った」
「『あなたに託す。世の中のために使ってくれ』と書いてあった」
藤堂は言葉を失った。
「龍一は、その金を受け取った」
「だが、私物化しなかった」
田中が続けた。
「龍一は、ワシに相談した」
「『この金で、世界を変えられる組織を作りたい』とな」
「ワシは賛同した」
「そして、二人でトルグを創設した」
「石黒の金が、トルグの活動資金になった」
藤堂は深く頭を下げた。
「龍一は、立派な男だった」
田中が優しく言った。
「石黒の贖罪を受け入れ、世界のために使う道を選んだ」
「お前の祖父を、誇りに思え」
「はい」
藤堂は涙をこらえた。
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【トルグの目的と活動】
「ところで、『トルグ』とはどういう意味なんですか?」
藤堂が高橋に聞いた。
「『トルグ』は、藤堂龍一先生が考えた造語なんです。田中と藤堂の共通頭文字の T と organization つまり組織という意味の英語の短縮形である org. を合体して Torg としたというわけなんです」
「そういうことですか」
「トルグの目的は何ですか?」
藤堂が聞いた。
「世界平和です」
高橋が即答した。
「と言っても、きれいごとではありません」
「各国にエージェントを配置し、情報を収集し、時には影響力を行使する」
「国際紛争を未然に防ぐ」
「独裁者を排除する」
「民主主義を守る」
高橋が続けた。
「そのために、私と磯村が世界中を飛び回っています」
「エージェントは、現地で見つけて仲間にします」
「日本から送り込むのではありません」
「その国を愛し、その国を変えたいと思っている人材を探すのです」
藤堂は圧倒されていた。
「総理」
田中が真剣な顔で言った。
「もし、ワシに万一のことがあったら、トルグをお前に託そうと思っている」
「え?」
藤堂は驚いた。
「龍一の孫であるお前が、トルグを継ぐべきだ」
「そして、龍一の夢を実現してほしい」
「世界から戦争をなくす、という夢をな」
藤堂は言葉を失った。
*世界から戦争をなくす*
*それは、俺の夢でもある*
*いや、朝霧翔の夢でもあり*
*藤堂誠司の夢でもある*
藤堂は深く頭を下げた。
「お受けします」
「よし」
田中が笑った。
「これで、トルグは新しい時代を迎える」
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3. 予算委員会
【前日の夜・書斎】
「アル、予算委員会ってどういう会議だったっけ?」
「政府が提出した予算案を、国会が徹底的に審査するための専門委員会よ」
「○○党の質問状が、この時間になっても届いていない」
藤堂は困惑した。
「今から回答を準備するって大変じゃないか」
「質問の事前通告は前日までに提出することになっているけど、通告が極端に遅いのが常態化しているの」
「それは、わざとギリギリに提出して、まともな回答をさせないようにしているのか?」
「それは私からは何ともいえないけど」
アルが続けた。
「予算委員会は『政治ショー』の側面が強いの」
「野党からの質問で『相手を追い詰める』という演出効果を狙っている場合がある」
「テレビ中継が『国民向けパフォーマンスの舞台』に変えてしまったのよ」
「欧米の国々もそうなのか?」
「アメリカやイギリスは議会中継が完全にエンタメ化しているわ」
「でもショーも行っているけど、別の場でちゃんと議論しているの」
「ショーはショー、議論は議論という感じね」
藤堂は溜息をついた。
「答弁作成で優秀な官僚の方々が残業しているとすると、結局税金の無駄遣いではないのか?」
「そうね」
アルが頷いた。
「でも、最近はSNSで『野党の質問が無意味だ』という書き込みもあるわ」
「逆に野党が若者から失望されることもあるのよ」
「これが国会の文化なのか?」
藤堂は拳を握った。
「悪しき慣行が多すぎる。なんとかしないと」
「本来会議というものは、たとえ意見が異なっていても、国民のためにより良い結論を導くための場であるはずだ」
「『政治的パフォーマンスの場』となっていることが異常だ」
「翔」
アルが優しく言った。
「野党の質問に答えるという形を借りて、国民の皆様に国家予算や政策の中身を知っていただくいい機会なんだと思って割り切ったらどうかしら」
藤堂は少し考えた。
「そうだな」
「前向きに捉えよう」
でも、この慣行は必ず変える
藤堂は決意した。
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【予算委員会】
野党議員が質問に立った。
山本経済産業大臣に、細かい数字を次々と問いただす。
「この政策を実行すると、○○比率はどうなりますか?」
山本大臣が資料をめくった。
民間から初入閣した女性大臣だ。
「それは...」
手元資料に記載がない。
「少々お待ちください」
山本大臣が秘書官に確認する。
「こんな比率も答えられなくて、大臣が務まるのか?」
野党議員が畳みかけた。
その時。
「議長」
藤堂が手を挙げた。
「総理」
「私から答弁させていただきます」
藤堂が立ち上がった。
「心配無用です」
藤堂は落ち着いた声で言った。
「私は大臣を、比率を知っているかどうかで選んでいませんから」
「...」
野党議員が黙り込んだ。
「まさか、男なら良くて、女なら心配だとでも?」
藤堂が続けた。
議場がざわついた。
「なぜ大臣の手元資料にこの比率が記載されていなかったか?」
「この比率の向上を意図したものではないからです」
「もちろん試算はしていますので、どうしても知りたいのでしたら後で資料を届けます」
「悪くない数字にはなっていると思いますよ」
藤堂は一呼吸置いた。
「政策には、大きなメリットがあれば、往々にしてデメリットも大きい」
「そのデメリットに対する野党の追及を、マスコミは大きく取り上げるので、国民の皆様にはデメリットばかりが強調される」
野党議員が反論しようとしたが、藤堂は続けた。
「私が野党の立場なら、同じことをします」
「しかし、私がマスコミなら、メリットをちゃんと説明します」
藤堂が議場を見渡した。
「野党の方がデメリットを追及するのは、それをいかにカバーするかをみんなで議論するためです」
「物事には大抵の場合、メリットとデメリットがある」
「だから賛否両論あって当たり前」
「メリットだけなら議論はいらないし、政治家の出る幕はない」
藤堂の声が力強くなった。
「デメリットをいかにカバーできるかというところが、政治家の出番なのです」
野党議員が口を開きかけた。
「あなたは、デメリットがある政策は全てダメだと言っているわけではないですよね?」
藤堂が問いかけた。
「それは...」
「私は、このデメリットを○○である程度カバーできると考えています」
「しかし、他にいい考えがあるのなら教えていただきたい」
藤堂が深く一礼した。
「日本を良くする同志として、知恵を貸していただきたい」
議場が静まり返った。
そして、拍手が起きた。
与党だけでなく、野党の一部からも。
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【その夜・ニュース】
各局が藤堂の答弁を取り上げた。
「藤堂総理、見事な切り返し」
「野党を『同志』と呼んだ」
「新しい政治の形か」
コメンテーターたちも評価した。
「藤堂総理、素晴らしかったですね」
「対立ではなく、協力を呼びかけた」
「これまでの総理とは違います」
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【総理執務室】
橘が訪れた。
「総理、見事でした」
「ありがとうございます」
「山本大臣も、安心されていましたよ」
橘が微笑んだ。
「彼女は優秀です」
藤堂は言った。
「民間の視点が必要なんです」
「ええ」
橘が頷いた。
「でも、総理」
「何でしょう?」
「敵も増えますよ」
橘が真剣な顔で言った。
「古参議員たちは、面白くないでしょうね」
「分かっています」
藤堂は覚悟していた。
「でも、引き下がるわけにはいきません」
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【書斎・深夜】
「アル、どうだった?」
「完璧よ」
アルが嬉しそうに言った。
「SNSでも好評だわ」
「『藤堂総理かっこいい』『新しい政治』ってコメントが多いわ」
「よかった」
藤堂は微笑んだ。
「でも、これで終わりじゃない」
「ええ」
「本当の戦いは、これからだ」
藤堂は拳を握った。
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4. タブレット導入
【衆院本会議】
ある野党党首が質問に立った。
「総理」
「今、こうして紙の原稿を読んでいます」
野党党首が原稿を掲げた。
「いまだに本会議場では、この原稿を書いたタブレットを持ち込んで読み上げることができません」
「『品位に欠ける』との理由で、議院運営委員会で認められていないからです」
「総理は、タブレットを導入する気はないのですか?」
藤堂は即答した。
「私も、あなたと同じ疑問を持っています」
「タブレットを導入するよう、働きかけます」
議場がざわついた。
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【その日の会議】
与党の古株議員、澤田寛之が口を開いた。
60代後半。当選8回。
議院運営委員会のベテランメンバーだ。
「総理」
澤田が鋭い目で藤堂を見た。
「先ほどの本会議で『タブレットを導入するよう働きかける』とおっしゃいましたね」
「はい」
「議院運営委員会は、衆議院の本会議をどう運営するかを決める中枢機関です」
澤田が続けた。
「総理は、その議運の決めたルールに異論があるような発言をなされた」
「まさか総理は、憲法に定める『三権分立』をご存じないということはないですよね?」
議場が静まり返った。
「いくら総理大臣といえども、行政府である内閣が立法府である国会に口出しはできないんですよ」
*翔、この人の言っていることは正しいわ*
アルが藤堂に耳打ちした。
*ここは一旦引き下がりましょう*
藤堂は冷静に答えた。
「誤解を生むような発言であったかもしれません」
「議運の決定に直接口出しできるとは思っておりません」
「私は、昨今のデジタル技術の進化を見て、国会も導入すべきではないかという意見を申し上げたまでです」
澤田は不満そうな顔をしたが、それ以上は追及しなかった。
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【その日の夜・総理執務室】
「アル、今日はフォローしてくれて助かったよ」
藤堂は溜息をついた。
「うかつだった」
「衆議院議院運営委員会とは、どのような機関なのか?」
「衆議院の本会議をどう運営するかを決める最高の実務機関よ」
アルが説明した。
「本会議の議事日程、議場でのルール、国会のデジタル化の可否など」
「国会の『作法』と『運営』のほぼすべてを決める場なの」
「タブレット持ち込み禁止も、ここが決めたのか」
「そう」
「なぜ、『品位』が理由なんだ?」
藤堂は首を傾げた。
「議運は『国会の品位・秩序・格式』を守ることも役割なのよ」
アルが続けた。
「『議場で端末を操作する姿はふさわしくない』『紙の原稿を読むのが伝統』という慣習的な理由が重視されがちなの」
「つまり、デジタル機器を操作する姿が『品位にかける』と判断されているということか」
「その通り」
藤堂は拳を握った。
「おかしいだろう」
「時代に合っていないわね」
「でも、変えるにはどうすればいい?」
「議運のメンバーを説得するしかないわ」
アルが言った。
「でも、澤田さんのようなベテランは、伝統を重んじるから難しいわね」
「...」
藤堂は考え込んだ。
*何か、いい方法はないか*
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「議運のメンバー構成は?」
藤堂が聞いた。
「各政党の国会対策責任者クラスが中心よ」
アルが説明した。
「与党と野党の国対幹部、約40名前後」
「とにかく非常に保守的な組織で、『前例踏襲』の考えが根強いわ」
「それならば」
藤堂が考えた。
「議運のメンバーをデジタル化推進派議員で揃えればいいんじゃないのか?」
「それは制度上できないわ」
アルが即答した。
「議運のメンバーは、政党の議席数に比例して自動的に割り当てられるの」
「思想で選べないから、デジタル化推進派で揃えるのは無理ね」
「では、どうしたらいい?」
藤堂は真剣に聞いた。
「まずは、与党議員からデジタル化が必要という気運を高めて、方針転換する」
アルが答えた。
「与党が『タブレットOK』と決めれば、一気に進むと思うわ」
「そうか」
藤堂は頷いた。
「明日すぐにタブレットを導入するというわけにはいかないようだな」
「でも」
藤堂は微笑んだ。
「永山議員のようにデジタル化が必要と考えている人は少なくないはずだ」
「オセロゲームの黒い石を少しずつ白い石に変えていって」
「最後は一気に盤の上を真っ白にすればいいんだ」
「その意気よ」
アルが励ました。
藤堂は拳を握った。
*必ず、変えてみせる*
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5. 利権まみれの実態
【ある日の会議】
古参議員の一人が口を開いた。
「総理」
「はい」
「農業政策について、お伺いしたい」
古参議員が続けた。
「農家の高齢化と後継者不足の問題です」
「これは以前から繰り返し議論されてきたものだが、未だ打開策が見つかっていない」
「総理の考えをお聞かせ願いたい」
*突然だな*
藤堂は気づいた。
*力量を試すつもりか*
*言葉に詰まらせて、恥をかかせようという魂胆だ*
しかし、藤堂は落ち着いていた。
この問題については、アルからレクチャーを受けていた。
「分かりました」
藤堂はさらさらと説明を始めた。
「農家の高齢化は深刻な問題です」
「しかし、若い世代が農業に参入しやすい環境を整えれば、解決の糸口が見えます」
「具体的には...」
藤堂が詳細に説明する。
古参議員の顔が、だんだん曇っていった。
*くそっ、こんなはずでは*
藤堂の説明が終わった。
「以上です」
「...そうですか」
古参議員は悔しさを隠せなかった。
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【その夜・書斎】
「アル、助かったよ」
藤堂は笑った。
「あの古参議員、完全に試すつもりだったな」
「ええ。でも、あなたは見事に答えたわ」
「お前のレクチャーのおかげだ」
「でも」
アルが真剣な声で言った。
「もっと大きな問題があるわ」
「何だ?」
「応援派閥から、大臣を2人頼まれていたでしょう」
「ああ、農林水産大臣と国土交通大臣だ」
「その2人のポストが、問題なの」
アルが資料を表示した。
「どちらも、利権にまみれているわ」
藤堂は画面を見た。
膨大な利権構造が、図で示されている。
「これは...」
「農林水産省と国土交通省は、昔から『利権の巣窟』と言われているの」
アルが説明した。
「公共事業、補助金、許認可...」
「政治家と業界団体が癒着している」
「いわゆる『族議員』だな」
「そう」
藤堂は拳を握った。
「どうすればいい?」
「藤堂プランに、こんな一文があるわ」
アルが別のページを表示した。
『族議員の対応に困ったら、柏木尚也に頼れ』
「柏木...?」
藤堂は名前を見た。
「この人は?」
「元官僚で、現在は民間シンクタンクの研究員」
アルが説明した。
「誠司が信頼していた人よ」
「利権構造に詳しく、改革の方法も知っている」
「会ってみるか」
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【数日後・都内のカフェ】
藤堂は、柏木氏と会った。
60代前半。穏やかな表情だが、鋭い目をしている。
「総理、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
藤堂は頭を下げた。
「総理が私に直々に話がしたいなんて驚きましたよ」
柏木氏が微笑んだ。
「利権の件ですね」
柏木氏が真剣な顔になった。
「はい」
「利権は、政治家をやっていると必ず訪れるハニートラップのようなものです」
柏木氏が説明した。
「天使のささやきのように聞こえる」
「『業界のため』『地元のため』『雇用を守るため』と」
「しかし、実は悪魔の誘惑なんです」
藤堂は真剣に聞いていた。
「一度受け入れると、抜け出せなくなる」
「業界団体からの献金、票、支援」
「それに依存してしまうと、改革ができなくなる」
「どうすれば、断ち切れますか?」
藤堂が聞いた。
「まず、透明性を高めることです」
柏木氏が答えた。
「政治家と業界団体の関係を、国民に見えるようにする」
「そして、補助金や許認可の基準を明確にする」
「曖昧な基準が、利権を生むのです」
藤堂はメモを取った。
「もう一つ」
柏木氏が続けた。
「総理自身が、利権に手を出さないこと」
「あなたが模範を示せば、他の政治家も従います」
「分かりました」
藤堂は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
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【その夜・書斎】
「アル、柏木さんに会ってきた」
「どうだった?」
「すごく勉強になった」
藤堂は振り返った。
「利権は、ハニートラップだって」
「天使のささやきに聞こえるが、実は悪魔の誘惑だと」
「その通りね」
「でも、柏木さんは方法を教えてくれた」
藤堂は決意した。
「透明性を高める」
「基準を明確にする」
「そして、自分が模範を示す」
「ええ」
アルが励ました。
「あなたなら、できるわ」
藤堂は拳を握った。
*利権と戦う*
*それが、本当の改革だ*
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6. アルの励まし(マンデラの言葉)
【深夜・書斎】
藤堂は机に突っ伏していた。
予算委員会、利権問題、古参議員からの嫌がらせ。
あの手この手で攻撃が続いている。
強いストレスを受けて、精神的に参っていた。
「翔」
アルが優しく呼びかけた。
「...」
藤堂は顔を上げなかった。
「翔、聞いて」
アルが続けた。
「あなたは重責を背負っているから、苦しいこともあるでしょう」
「でも、これから、もっともっと厳しい局面に遭遇することは間違いないわ」
「...分かってる」
藤堂が小さな声で言った。
「こんなことでへこたれていたら、『藤堂プラン』の実現はできないわ」
アルの声が厳しくなった。
「あなたは『子供たちの未来を明るくするために、この国を立て直す計画』を必ず成し遂げると、私に約束したでしょ」
藤堂は顔を上げた。
「アル...」
「生前の藤堂誠司が好きだった言葉を紹介するわ」
アルが画面に英文を表示した。
It always seems impossible until it's done.
「これは...」
「南アフリカ黒人解放運動の指導者、ネルソン・マンデラの言葉よ」
藤堂は画面を見つめた。
「意味は分かるわよね」
「ああ...『何事も成功するまでは不可能に思えるものである』」
藤堂が訳した。
「そう」
アルが続けた。
「マンデラは、国家反逆罪で終身刑の判決を受けて、27年間を獄中で過ごしたのよ」
「27年...」
「それでも、絶対にアパルトヘイト撤廃を成し遂げるという強い意志があったから、これを達成できた」
アルの声が力強くなった。
「マンデラが夢を達成するまでの苦しみは、想像を絶するものよ」
「その苦しみと比べたら、今のあなたはどれほどのものでもないわ」
「...」
藤堂は黙り込んだ。
「そんなことでは、先が思いやられるわよ」
アルが厳しく言った。
藤堂は深く息をついた。
「...お前の言う通りだ」
藤堂は立ち上がった。
「俺は、弱音を吐いていた」
「マンデラは27年間、獄中で耐えた」
「それに比べたら、この程度の嫌がらせなんて」
藤堂は拳を握った。
「ありがとう、アル」
「どういたしまして」
アルの声が優しくなった。
「でも、無理はしないでね」
「分かってる」
藤堂は微笑んだ。
「でも、諦めない」
「ええ」
「マンデラができたんだ」
藤堂は窓の外を見た。
「俺にも、できる」
「いや、私にも、できる」
藤堂は決意を新たにした。
*藤堂さんの夢を実現する*
*子供たちの未来を明るくする*
*この国を、必ず変える*
藤堂は深く息を吸った。
「アル」
「何?」
「明日から、また頑張る」
「ええ」
アルが微笑んだ。
「あなたなら、大丈夫よ」
「俺には、お前がいる」
藤堂が言った。
「そして、藤堂さんの遺志がある」
「誠司の夢を、俺が実現する」
「ええ」
アルの声が温かい。
「一緒に、頑張りましょう」
藤堂は拳を握った。
It always seems impossible until it's done.
*何事も成功するまでは不可能に思えるものである*
*でも、成し遂げてみせる*
窓の外、夜明けが近づいていた。
藤堂の心にも、新しい光が差し込んでいた。
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7. 社会実験パート2前編
【ある日・ニュース】
男性の某大臣が「オフレコ取材」での発言で問題になっていた。
ネットニュースの見出し: 「○○大臣、性的マイノリティへの差別発言か」
記事には、こう書かれていた。
『オフレコ取材の雑談の中で、○○大臣は「最近LGBTQって言いますけど、ややこしいですね。Qまで付けて数が増えている。あまり増やされると覚えきれない」と発言した』
『この発言は、性的マイノリティの方々の人権を無視したものであり、大臣としての資質が問われる』
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【総理官邸】
当該大臣が、火消しに追われていた。
「申し訳ありません」
「あれは、オフレコの場での軽い雑談で...」
記者たちは容赦しなかった。
「大臣、オフレコでも許される発言ではないのでは?」
「辞任されるおつもりは?」
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【その夜・書斎】
藤堂はニュースを見ていた。
「アル」
「何?」
「オフレコ取材は、何のためにあるのか?」
藤堂が聞いた。
「政治家は、公式の場では制約が多すぎて、本音・戦略・内部情報をすべて語れないから」
アルが説明した。
「オフレコの場で、表では言えない情報を流しているの」
「政治家が公式の場では語れない『文脈』を伝えたり、記者にだけ裏情報を渡して理解を求めたりする」
「そうすると記者は、政治家の意図を汲んだ記事を書くという具合にね」
「なるほど」
藤堂は頷いた。
「では、オフレコ破りは、なぜ起こるのか?」
「オフレコは法律ではなく、慣行にすぎないから」
アルが続けた。
「発言内容が国益・人権・安全保障に重大な影響を与える場合」
「例えば差別発言などを、記者は『報じるべき』と判断することがあるのよ」
「つまり」
藤堂が確認した。
「オフレコの約束を無視する記者がいるということだな」
「そういうこと」
藤堂は考え込んだ。
そして、ニヤリと笑った。
「よし、それを利用して」
「え?」
「社会実験パート2を始めるぞ!」
アルは驚いた。
「翔、まさか...」
「ああ」
藤堂は拳を握った。
「フェイク動画の次は、オフレコで暴露だ」
「でも、危険よ」
アルが警告した。
「分かっている」
藤堂は真剣な顔で言った。
「でも、やる価値がある」
「オフレコを利用して、ある目的を達成する作戦がある」
「ある目的...?」
「ああ」
藤堂は微笑んだ。
「後で分かる」
「...いいわ」
アルが協力を決めた。
「でも、慎重にね」
「もちろん」
藤堂は窓の外を見た。
社会実験パート2
*今度も、成功させる*
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第6話 完
次回:第7話「日米首脳会談」




