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第5話「隣国との危機(後編)」

6. 彩花の高校入学


【数日後・藤堂家】


朝の食卓。

「お父さん、今日は彩花の入学式よ」

美咲が言った。

「あ...」

藤堂は顔を上げた。

「そうだった」

「お父さん、来られないの?」

彩花が少し寂しそうに言った。


「ごめん、彩花」

藤堂は申し訳なさそうに言った。

「今日は国会で重要な質疑があって...」

「分かってる」

彩花は笑顔を作った。


「お父さん、総理大臣だもんね」

「彩花...」

「大丈夫。お母さんが来てくれるから」

美咲が彩花の肩に手を置いた。


「写真、たくさん撮ってくるわね」

「ああ、頼む」

藤堂は立ち上がった。

「彩花、高校生活、楽しんでくれ」

「うん」

________________________________________

【夕方・藤堂家】


藤堂が帰宅すると、美咲と彩花が待っていた。

「お帰りなさい」

「ただいま。彩花、入学式どうだった?」

「うん、楽しかった」

彩花が笑顔で言った。

「友達もできたよ」


「そうか、よかった」

藤堂は安堵した。


「ほら、写真」

美咲がスマートフォンを見せた。

桜の木の下で、制服姿の彩花が笑っている。

「綺麗だな」

藤堂は娘の成長を感じた。


*もう高校生か*

時が経つのは早い


「あ、それとね」

彩花が言った。

「新しい友達、すごく明るくて面白い子なの」

「そうか」

「朝霧陽菜(ひな)ちゃんって言うんだけど...」


藤堂の箸が止まった。

「朝霧...陽菜?」


「うん。同じクラスになったの」

彩花は気づかずに続けた。

「すごく話しやすくて、もう仲良くなっちゃった」


藤堂は動揺を隠した。


*朝霧陽菜*

*俺の妹が、彩花の友達に?*


「お父さん?」

彩花が不思議そうに見た。


「あ、いや」

藤堂は笑顔を作った。

「いい友達ができてよかったな」


「うん!明日も一緒に帰るって約束したの」

________________________________________

【その夜・書斎】


「アル」

「何?」

「彩花の友達に、朝霧陽菜という子がいるんだ」

「...」

アルは一瞬、沈黙した。

「調べて」

「分かったわ」


しばらくして、アルが答えた。

「朝霧陽菜、15歳」

「母親は朝霧美和子、父親は朝霧健一」

「住所は...」

アルが続けた。

「翔、間違いないわ」

「やはり...」

藤堂は深く息をついた。

「俺の妹だ」

「ええ」


藤堂は立ち上がった。

「今まで、正体を明かせない辛さもあって、敢えて旧家族のことは考えないようにしていた」

「でも...」

「でも、今は違う」

藤堂は拳を握った。


「朝霧家のみんなは、元気にしているんだろうか?」

「翔...」

「様子を見てくる」

アルは心配そうに言った。

「危険よ。もしバレたら...」

「大丈夫だ。夕方帰宅時に、こっそり見に行くだけだ」

藤堂は決意した顔をしていた。


アルは何も言わなかった。

ただ、そっと寄り添っていた。

________________________________________

7. 家族に会いたい


【翌日の夕方・朝霧家付近】


藤堂は総理専用車の後部座席に座っていた。

「この辺りで徐行してくれ」

運転手が速度を落とした。

助手席のSPキャップが振り返った。

「総理、何か?」

「いや、少し懐かしい場所があってな」


藤堂は窓の外を見た。

*実家だ*


門の外から見える庭。

手入れが行き届いている。

*父さんも母さんも、元気にしているんだな*

藤堂は安堵した。


庭には、母が大切にしていた花壇。

父が植えた木。

全て、変わらずそこにあった。


*俺がいなくなっても*

*家族は、ちゃんと生活しているんだな*

藤堂は胸が熱くなった。


その時。

向こうから、制服姿の少女が歩いてきた。


*陽菜...!*

藤堂の心臓が跳ねた。


妹。少し身長が伸びた?

明るい笑顔で、友達と話しながら歩いている。


*元気そうだな*

藤堂は思わず窓に手をついた。


*会いたい*

*俺だよ、陽菜*

*兄貴だよ*

だが、車から降りることはできない。


陽菜は気づかず、藤堂の車の横を通り過ぎた。

ほんの数メートルの距離。

手を伸ばせば届きそうな距離。

でも、藤堂は動けなかった。


藤堂は振り返って見送った。

陽菜が家の門をくぐる。


*元気でな、陽菜*

車は、ゆっくりと走り去った。


「総理?」

運転手が心配そうに聞いた。

「ああ、大丈夫だ」

藤堂は目頭を押さえた。

「行ってくれ」

________________________________________

【その夜・書斎】


「アル...」

「見ていたわ」

「辛いな」

「ええ」

「妹が、目の前にいるのに」

藤堂は拳を握った。

「何も言えない」

「翔...」

「でも」

藤堂は深く息をついた。

「元気そうでよかった」

「家も、ちゃんと手入れされていた」

「父さんも母さんも、普通に生活しているんだな」


藤堂は少し微笑んだ。

「それだけで、十分だ」


「翔...」

アルの声が優しい。


「俺は、藤堂誠司として生きる」

「朝霧翔は、もう死んだんだ」

「でも」

藤堂は窓の外を見た。

「家族のことは、忘れない」

「ええ」

「心の中で、いつも一緒だ」

藤堂は拳を握った。


*父さん、母さん、陽菜*

*元気でいてくれ*

*俺は、ここで頑張るから*


静かな夜だった。

藤堂の心には、切なさと温かさが同居していた。

________________________________________

8. 外交危機の深刻化


【数日後・総理官邸】


藤堂が執務室で書類に目を通していると、吉村が緊迫した顔で入ってきた。

「総理、中国が動きました」

「何があった?」

「予告通り、尖閣諸島周辺で軍事演習を開始しました」


藤堂は立ち上がった。

「規模は?」

「艦艇12隻、航空機20機以上」

吉村が報告した。

「過去最大規模です」

「すぐに危機管理センターに閣僚を集めてくれ」

________________________________________

【30分後・官邸危機管理センター】


大型モニターに、リアルタイムの映像が映し出されている。

中国の艦艇が、尖閣諸島周辺を航行している。

上空には、軍用機が飛び交っている。


「総理」

北川外務大臣が報告した。

「中国外務省は『正当な軍事演習だ』と主張しています」

「日本の抗議に対しては『内政干渉だ』と反発しています」


「国際社会の反応は?」

藤堂が聞いた。


「アメリカは強く懸念を表明しています」

「EUも声明を出しました」


「しかし」

北川が続けた。

「中国は聞く耳を持ちません」


橘が口を開いた。

「総理、このままでは偶発的な衝突が起きる可能性があります」


「分かっている」

藤堂は真剣な顔で言った。


「海上保安庁と自衛隊に指示を」

「不測の事態を避けるため、中国側と一定の距離を保つこと」


「ただし」

藤堂が続けた。

「日本の領海を侵犯した場合は、毅然と対応する」


「了解しました」

________________________________________

【その日の夜・ニュース】


各局が緊急特番を組んだ。

「尖閣諸島周辺、緊張高まる」

「中国軍、大規模演習」

「日中関係、最悪の状況」


コメンテーターたちが次々に発言した。

「これは非常に危険な状況です」

「一歩間違えば、軍事衝突に発展しかねません」

「藤堂総理の手腕が問われています」

________________________________________

【総理官邸・深夜】


藤堂は一人、執務室に残っていた。

大型モニターには、現場の映像が流れ続けている。


「アル」

「ええ、見ているわ」

「中国の狙いは何だと思う?」

「いくつか考えられるわ」

アルが分析を表示した。

「一つは、国内向けのアピール」

「二つ目は、藤堂総理の反応を試している」

「三つ目は...」


アルが続けた。

「本気で領土を取りに来ている可能性もあるわ」


「...」

藤堂は黙り込んだ。


「翔、大丈夫?」


「ああ」

藤堂は頷いた。


「でも、プレッシャーは大きい」

「一つの判断ミスが、戦争に繋がるかもしれない」


「そうね」

アルが優しく言った。

「でも、あなたなら大丈夫よ」

「冷静に、毅然と対応すればいい」


「ありがとう、アル」

________________________________________

【翌日・国会】


野党が一斉に攻撃を開始した。

「総理!中国の軍事演習をどう止めるのですか!」

「このままでは、日本の主権が脅かされます!」

「総理の外交手腕が問われています!」


藤堂は冷静に答えた。

「中国の行動は、国際法に反しています」

「日本は引き続き、外交ルートで抗議を続けます」

「同時に、同盟国アメリカとも緊密に連携しています」


「しかし総理!」

野党議員が声を荒げた。

「抗議だけで中国が引くと思いますか!」

「もっと強硬な措置が必要ではないですか!」


藤堂は一呼吸置いた。

「強硬な措置とは、具体的に何をおっしゃっていますか?」

「それは...」

野党議員が詰まった。


「軍事衝突を望むのですか?」

藤堂が静かに問いかけた。


「いや、そういう意味では...」


「ならば、外交努力を続けるしかありません」

藤堂は毅然と答えた。


「ただし」

「日本の領土・領海は、必ず守ります」

「そのために、自衛隊は万全の態勢を取っています」


議場が静まり返った。

________________________________________

【その夜・SNS】


国民の反応は二分していた。


【支持派】 「藤堂総理、冷静だ」 「戦争を避けようとしている」 「これが正しい対応だ」


【批判派】 「弱腰すぎる」 「もっと強く出るべきだ」 「中国になめられている」

________________________________________

【総理官邸・深夜】


橘が執務室を訪れた。


「総理、まだ起きていたんですか」

「橘さん」

「国民の反応、見ましたか?」

「ええ」

藤堂は頷いた。


「批判も多いですね」

「でも」

橘が微笑んだ。

「総理の判断は正しいと思います」

「ここで感情的になれば、中国の思うつぼです」


「ありがとうございます」


「総理」

橘が真剣な顔になった。

「この状況、どう打開するおつもりですか?」


藤堂は少し考えた。

「私に考えがある」


「分かりました」

「お休みになってください。明日も長い一日になりますよ」


「はい」

________________________________________

【書斎・深夜】


藤堂は田中に電話をかけた。

「総理か」

田中の声が聞こえた。

「夜分に申し訳ありません」

「構わん。中国の件だろう」

「はい」


藤堂は状況を説明した。

「なるほど」

田中が言った。


「お前は、よくやっている」

「冷静で、毅然としている」


「でも、これ以上どうすれば...」


「焦るな」

田中が言った。


「お前には、切り札がある」


「切り札...ですか?」


「また連絡する」

田中は電話を切った。


藤堂は携帯を見つめた。


切り札?

何のことだ?

________________________________________

【同時刻・中国】


北京の高層ビルの一室。


一人の男が、窓の外を見つめていた。

50代前半。

知的な雰囲気。

穏やかな表情だが、鋭い目をしている。


携帯が鳴った。

「はい」

「例の件、動き出しました」

「分かった」

男は電話を切った。


藤堂誠司

日本の新しい総理か

興味深い

男は微笑んだ。

________________________________________

嵐は、まだ続いていた。


だが、水面下では、別の動きが始まっていた。

________________________________________

9. 危機回避


【翌日・総理官邸】


藤堂の携帯が鳴った。田中丈太郎からだ。


「田中さん」


「総理、今から会えるか」


「はい、大丈夫です」


「では、1時間後に官邸で」


「官邸に...?」


藤堂は驚いた。


「ああ。重要な話がある」


田中は電話を切った。

________________________________________

【1時間後・総理官邸・応接室】


田中が到着した。

そして、もう一人。


「こちらは?」

藤堂が聞いた。


「高橋だ」


50代半ばの男が一礼した。

「高橋と申します」


「総理、この高橋は信頼できる男だ」

田中が言った。


「この場で何を話してもいい」


藤堂は頷いた。


三人が座った。


「総理」

田中が口を開いた。


「中国の件だが、解決策がある」


「解決策...ですか?」


「ああ」

田中が続けた。


「ワシには、中国に人脈がある」


「中国に...?」

藤堂は驚いた。


「詳しくは言えん」

田中が言った。


「だが、信頼できる人物だ」

「その人物が、今回の件を収束させられる」


「どうやって?」


「中国政府内部には、強硬派と穏健派がいる」

高橋が説明した。


「今回の軍事演習を主導しているのは、強硬派です」

「しかし、穏健派は、このエスカレートを望んでいません」

「彼らも、日中関係の悪化を懸念しています」


藤堂は真剣に聞いていた。


「ワシの知人は、穏健派に影響力を持っている」

田中が続けた。

「彼が動けば、中国政府内部で軌道修正が行われる」


「本当ですか...?」


「ただし」

田中が真剣な顔になった。

「条件がある」


「条件...?」


「お前が、その人物と直接話すことだ」


藤堂は息を呑んだ。

「私が...?」


「ああ」

田中が頷いた。


「彼は、お前という人物を見たがっている」

「新しい日本の総理が、どういう人間か」

「信頼できる相手かどうか」


藤堂は考え込んだ。

「分かりました」


藤堂は決意した。

「お会いします」


「よし」

田中が微笑んだ。


「さすがだ」

________________________________________

【その夜・極秘の場所】


藤堂は、SPを最小限にして、ある場所に向かった。


都内の高級ホテルの一室。

高橋が案内した。

「こちらです」


部屋に入ると、一人の男が立っていた。

50代前半。

知的な雰囲気。

穏やかな表情だが、鋭い目をしている。


「藤堂総理」

男が流暢な日本語で言った。


「お会いできて光栄です」


「こちらこそ」

藤堂は一礼した。


李明リー・ミンと申します」

男が名刺を差し出した。


藤堂は受け取った。

*肩書きはない*

だが、この人物は...


「座ってください」

李明が微笑んだ。


二人が向かい合って座った。


「藤堂総理」

李明が口を開いた。


「今回の件、お困りでしょう」


「ええ」

藤堂は正直に答えた。


「率直に申し上げて、打開策が見えていません」


「正直ですね」

李明が微笑んだ。


「私は、その正直さを評価します」


「...」


「藤堂総理、あなたは若い」

李明が続けた。


「そして、理想を持っている」

「フェイク動画の実験、見事でした」


「ありがとうございます」


「あなたは、この国を変えようとしている」

李明が真剣な顔になった。


「私も、同じです」


「同じ...?」


「私は、中国を変えたいと思っています」

李明が言った。


「今の中国は、強硬派が力を持ちすぎている」

「対外的に攻撃的になり、国内では統制を強めている」

「これでは、中国の未来はありません」


藤堂は静かに聞いていた。


「私は、中国を開かれた国にしたい」

「民主化とまでは言いませんが、少なくとも国民の声を聞く国にしたい」

「そして、近隣諸国と協力し、共に発展する道を選びたい」


李明が藤堂の目を見た。


「あなたと、同じ夢を見ているのです」


藤堂は深く頷いた。


「李さん」


「はい」


「今回の件、どうすれば収束できますか?」


「簡単です」

李明が微笑んだ。


「中国政府内部で、穏健派が声を上げればいい」

「『これ以上のエスカレートは、中国の国益に反する』と」


「あなたが...?」


「私には、その力があります」

李明が頷いた。


「ただし」


「ただし...?」


「あなたも、譲歩してください」

李明が真剣な顔で言った。


「公式の場で、『日中両国は対話を続ける』と表明してください」

「中国政府に、メンツを保たせるのです」


藤堂は少し考えた。

「分かりました」


「よろしい」

李明が立ち上がった。


「藤堂総理、あなたは信頼できる人だ」

「今後も、協力させていただきたい」


「こちらこそ」

藤堂は握手を求めた。


李明は笑顔で応じた。


「田中さんによろしくお伝えください」


「はい、必ず」

________________________________________

【2日後・中国外務省】


中国外務省が声明を発表した。

「軍事演習は予定通り終了した」

「日中両国は、対話を通じて問題を解決することで一致した」

________________________________________

【同日・総理官邸・記者会見】


藤堂が記者会見を開いた。

「中国との間で、対話を継続することで合意しました」

「尖閣諸島は日本固有の領土です。この点は変わりません」

「しかし、中国は重要な隣国です」

「対話の扉は、常に開いています」


記者たちが質問を浴びせた。

「総理、これは譲歩ではないですか?」


「いいえ」

藤堂は即答した。


「日本の立場は何も変わっていません」

「対話を続けることは、譲歩ではありません」

「むしろ、成熟した国家の姿勢です」

________________________________________

【その夜・ニュース】


各局が報じた。

「尖閣危機、収束へ」

「藤堂総理の外交手腕」

「冷静な対応が功を奏した」


コメンテーターたちも評価を変えた。

「藤堂総理、見事でした」

「強硬にならず、かといって弱腰でもなく」

「絶妙なバランスでした」

________________________________________

【総理官邸・夜】


橘が執務室を訪れた。


「総理、お疲れ様でした」


「橘さん」


「見事な手腕でしたね」

橘が微笑んだ。


「どうやって、中国を動かしたんですか?」


藤堂は少し考えた。


「それは...言えません」


「そうですか」

橘は深く追求しなかった。


「でも、これで国民も安心するでしょう」


「ええ」

________________________________________

【書斎・深夜】


「アル、終わったな」


「ええ、よく頑張ったわ」


「李明という人物...」

藤堂が呟いた。


「あの人は、本気で中国を変えようとしている」

「そうね」

「田中さんは、あの人とどういう関係なんだろう」

「それは、いずれ分かるわ」


アルが優しく言った。

「今は、休んで」

「ああ」

藤堂は深く息をついた。


*危機は去った*

*でも、これで終わりじゃない*

*むしろ、始まりかもしれない*


藤堂は窓の外を見た。

静かな夜。


だが、藤堂の心には、新しい決意が芽生えていた。


*李明さん*


あなたと一緒に、世界を変えられるかもしれない

________________________________________

10. 藤堂、再び田中邸訪問


【数日後・田中邸】


藤堂は再び、田中丈太郎を訪ねた。


「ようこそ、総理」

田中が微笑んで迎えた。

「お茶をどうぞ」

________________________________________

【応接間】


「よくやった」

田中が笑った。

「お前は正しい判断をした」

「ありがとうございます」

藤堂は頭を下げた。

「でも、田中さんのおかげです」

「李明さんがいなければ、解決できませんでした」

「ふむ」

田中が頷いた。


「李明は、信頼できる男だ」

「ワシも、長い付き合いでな」

「どういう...関係なんですか?」

藤堂が聞いた。


田中は少し考えた。

「総理」

「はい」

「お前は、李明という人物をどう見た?」


藤堂は答えた。

「聡明で、理想を持っている」

「そして、本気で中国を変えようとしている」

「そうだ」

田中が頷いた。


「あの男は、いずれ中国のトップになる」


「え?」

藤堂は驚いた。


「今はまだ、表舞台には出ていない」

「だが、着実に力をつけている」

田中が続けた。

「あと10年、いや、もっと早いかもしれん」

「李明が、中国を率いる日が来る」


藤堂は息を呑んだ。

「田中さん、あなたは一体...」


田中は微笑んだ。

「いずれ分かる」


「...」

藤堂は黙って聞いていた。


「総理、今日はこれで失礼する」

田中が立ち上がった。

「お前の働きぶりを、ワシは見ている」

「これからも、頑張ってくれ」

「はい」

藤堂は深く頭を下げた。


*田中さんは、まだ何かを隠している*

*でも、それが何なのか...*

________________________________________

【帰路・総理専用車の中】


藤堂は考え込んでいた。


「アル」

「何?」

「田中さんは、何か大きな秘密を持っている」

「そうね」

「李明さんとの関係も、ただの知人ではない」

「ええ」

「いったい、何なんだ?」

藤堂は呟いた。

「分からないわ」

アルが正直に言った。

「でも、田中さんはあなたを見ている」

「試している...のか?」

「そうかもしれないわね」

アルが続けた。

「あなたが本物かどうか」

「信頼できる人間かどうか」


藤堂は窓の外を見た。


*田中さん*

*あなたは、何者なんだ?*

*そして、俺に何を期待しているんだ?*

________________________________________

【その夜・書斎】


藤堂は藤堂プランを開いていた。

誠司の手書きのメモ。

詳細な計画。


*誠司さんは、なぜ田中さんに会うように言ったんだろう*


藤堂は考えた。


*何か、大きな秘密を持っている*

*それは間違いない*


「アル」

「何?」

「誠司さんは、田中さんについて何か言っていなかったか?」

「『総理大臣になったら会いに行くように』としか聞いていないわ」

アルが答えた。

「それ以上のことは?」

「何も」

「そうか...」


藤堂は考え込んだ。

*誠司さんは、何を知っていたんだろう*

*なぜ、田中さんに会うように言ったんだ*


藤堂は窓の外を見た。

*田中さんは、何者なんだ*

*いつか、分かる日が来るのだろうか*


静かな夜だった。


藤堂の心には、疑問と期待が入り混じっていた。

________________________________________

11. 陽菜が自宅に来る


【数日後の休日・藤堂家(私邸)】


藤堂は書斎で書類に目を通していた。


リビングから、彩花の声が聞こえる。

「お父さーん!」

「何だ?」

藤堂が顔を出すと、彩花が友達を連れていた。

「友達が遊びに来たの。紹介するね」


少女が立ち上がった。

明るい笑顔。

大きな瞳。


*陽菜(ひな)...!*

藤堂は思わず息を呑んだ。


「朝霧陽菜です」

陽菜が丁寧にお辞儀をした。

「初めまして、総理大臣」


「あ、ああ」

藤堂は努めて冷静を装った。


「彩花と仲良くしてくれているそうだね」


「はい!彩花ちゃん、すごく優しくて」

陽菜が笑顔で言った。


藤堂はその笑顔を見つめた。

*陽菜も高校生になったんだな*


「朝霧さん、ご両親はお元気?」

藤堂は思わず聞いていた。


「はい、元気です」

陽菜が答えた。


「お父さんもお母さんも、藤堂総理を応援してるって言ってました」


藤堂は胸が熱くなった。

*父さん、母さん...*


「そうか。ありがとう」

藤堂は微笑んだ。


「ゆっくりしていってくれ」

「ありがとうございます!」

陽菜が嬉しそうに言った。


「お父さん、大丈夫?」

彩花が不思議そうに見た。


「あ、いや」

藤堂は我に返った。


「では、失礼するよ」

藤堂は書斎に戻った。

________________________________________

【書斎】


ドアを閉めた瞬間、膝から力が抜けた。

椅子に座り込んだ。


「アル...」

「見ていたわ」

アルの声が優しい。

「辛かったわね」

「ああ...」

藤堂は拳を握った。

「妹が、目の前にいるのに」

「何も言えない」

「翔...」

「でも」


藤堂は深く息をついた。

「元気そうでよかった」

「父さんも母さんも、俺を応援してくれているんだな」


藤堂は目を閉じた。


*ありがとう

そして、ごめん*

________________________________________

【リビング】


彩花と陽菜が楽しそうに話している。


「なんでお父さん、『ご両親はお元気?』なんて聞いたんだろう?」

彩花が不思議そうに言った。


「え?」


「普通、友達の親に初対面で聞く?」


「まあ、総理大臣だから、丁寧なのかな」

陽菜が笑った。


「そうかもね」

彩花は首を傾げたが、すぐに話題を変えた。


「陽菜ちゃんのお父さん、どんな人?」


「うん、優しいよ」

陽菜が笑顔で言った。


「お母さんも優しいし」

「いいなあ」

「でもね」

陽菜の笑顔が少し曇った。


「お兄ちゃんが亡くなってから、お母さん、たまに寂しそうなの」


「お兄ちゃん?」


「うん。私が中学生の時に、事故で」

陽菜は目を伏せた。


「お母さん、たまにお兄ちゃんの部屋で泣いてるの」


「そうなんだ...」

彩花は優しく言った。


「辛かったね」


「でも」

陽菜が笑顔を取り戻した。


「お母さん、頑張ってるから」

「私も頑張らなきゃって思うの」


「陽菜ちゃん、強いね」


「ありがとう」


二人は笑い合った。

________________________________________

【書斎】


藤堂は、二人の会話を聞いていた。


*母さんが、泣いている*

俺のことで

藤堂は涙をこらえた。


*ごめん、母さん*

*ごめん、陽菜*


でも、俺は...

藤堂は拳を握りしめた。


*俺は、この国を変えなければならない*

*そのためには、朝霧翔のままではいられない*

*藤堂誠司として、生きるしかない*


窓の外、夕日が沈んでいた。

藤堂の心にも、静かな痛みが沈んでいった。

________________________________________

【夕方・玄関】


陽菜が帰る時、藤堂が見送りに出た。


「朝霧さん、また来てくれ」

「はい!ありがとうございました」

陽菜が笑顔で一礼した。


「気をつけて帰りなさい」

「はい」


陽菜が門を出て行く。


藤堂はその背中を見送った。


元気でな、陽菜

いつか、本当のことを話せる日が来るだろうか

いや、来ないかもしれない


でも、お前が幸せなら、それでいい


藤堂は深く息をついた。


俺は、ここで頑張るから

________________________________________

【その夜・書斎】


「翔、大丈夫?」

アルが心配そうに聞いた。


「ああ、大丈夫だ」

藤堂は微笑んだ。


「辛かったけど、会えてよかった」

「陽菜が元気で、本当によかった」


「そうね」


「これで、心置きなく前に進める」

藤堂は拳を握った。


「家族のために」

「国民のために」

「そして、未来のために」


藤堂は窓の外を見た。


星が、静かに輝いていた。

________________________________________

第5話後編 完


次回:第6話「秘密組織トルグ」


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