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第5話「隣国との危機(前編)」

1. 理想と現実の間で


【翌日・総理官邸】

藤堂は一人、執務室で考え込んでいた。


「翔、何か引っかかってる?」

アルが聞いた。

「ああ」

藤堂は正直に言った。

「私は説明した。抑止力の意味を。防衛費の必要性を」

「説明がなくても、多くの方は知っている」


藤堂が続けた。

「中国や北朝鮮の脅威を目の前にして、日本が防衛力を持たないという選択肢がないこと」

「『丸腰になるので、何かあったらアメリカさん助けてください』なんてことが通じないこと...」


「ええ」

「でも」

藤堂は拳を握った。

「説明しながらも、自分はどこかで『何か違うのではないか』という気持ちも起こっていた」


藤堂は立ち上がり、窓の外を見た。

「実は、フェイク動画が発信された後、美咲が教えてくれたんだ」

「何を?」


「『新聞の読者投稿欄に、お年寄りの方のこんな投稿があったわ』って」

藤堂は深く息をついた。

「そこにはこう書いてあった」

________________________________________

【投稿文】

『藤堂総理大臣様、よくぞ言ってくださいました。

私はテレビのニュースであの動画を見て涙が止まりませんでした。

日本は先の大戦で、未来ある多くの若者の命を奪いました。二度と過ちは繰り返さないとその犠牲者たちに誓ったはずです。

それなのに世界で唯一の被爆国、日本の防衛費は増える一方、これほどの防衛費が本当に必要なのかと思っていました。

我々国民は日々の生活のため一生懸命に働いています。病気で苦しんでいる人、親の介護費用や子供の教育費、住宅ローンの返済に給料の多くを費やしている人もいるでしょう。

国民は税金を納めるのが義務です。でもその税金を武器の購入に充ててほしいとは思いません。

日本は災害大国と言われます。私は約30年前の阪神淡路大震災で母を失いました。その後も東日本大震災や熊本、能登半島などの大地震が繰り返し発生しています。

どうか国民の税金を武器・兵器にではなく、一人でも多くの人の命を救うために使っていただきたい。』

________________________________________

藤堂は黙り込んだ。


「この方は、分かっておられると思う」

「『丸腰ではだめだ』ということを」

「でも、言わずにはおれなかった」

藤堂が振り返った。

「これが国民の本音なんだよ」

「特にお年寄りは、軍備と聞くと戦争の2文字が思い浮かぶんだ」


アルは静かに聞いていた。


「本当に、これでいいのか?」

「軍備を持つことが、本当の平和なのか?」

「本当の平和は...」

藤堂は窓の外を見た。


「どこの国も軍隊を持たない世界じゃないのか」

「...」

「夢物語だと言われるかもしれない」

「でも、今の状態がこのままでいいとは、とても思えないんだ」

沈黙が続いた。


「それは誠司も同じことを言ってたわ」

アルが優しく言った。

「え?」

「誠司も、理想と現実の間で悩んでいた」

アルが画面に、藤堂プランのあるページを表示した。

「ほら、ここを見て」


『経済的相互依存による平和構築』

「誠司も、同じ夢を見ていたの」

「藤堂さんが...」

「ええ。世界的なサプライチェーンを構築して、各国が経済的に絡み合えば、戦争のコストが高すぎて割に合わなくなる」

「その構想が、藤堂プランにあったのか」

藤堂は画面を見つめた。


「EU諸国が戦争しなくなった理由だ」

「そう。簡単に言えば、各国が助け合って仲良しになればいい」

アルが続けた。

「もちろん、一朝一夕にはいかない」

「何十年もかかるかもしれない」

「でも」

「翔、あなたは第一歩を踏み出せる」

藤堂は深く息をついた。

「分かった」

「今は、現実的なステップを踏む」

「でも、理想は捨てない」

「ええ」

アルが優しく言った。

「それが、あなたと誠司の使命よ」


藤堂は立ち上がった。


*藤堂さん、あなたの夢を、俺が...いや、私が実現する*


*世界から戦争をなくす*


*それが、私たちの本当の目的だ*

________________________________________

2. 古参議員の警告


【数日後・国会】

閣議が終わった後、藤堂が廊下を歩いていると、一人の秘書が近づいてきた。

「藤堂総理」

「はい」

「小野寺先生がお話ししたいとのことです」

「小野寺議員が?」

藤堂は一瞬、考えた。


*小野寺辰義*

アルから聞いている

*与党の重鎮で、党内にかなりの影響力を持つ男だ*

*敵に回すと、かなり手強いだろう*


「分かりました」

________________________________________

【応接室】


秘書に案内された部屋で、小野寺辰義が待っていた。

60代半ば。

落ち着いた物腰だが、目の奥に鋭い光を宿している。


「藤堂総理、お忙しいところすみませんな」

「いえ」

藤堂は椅子に座った。

「お茶でもどうぞ」

小野寺が秘書に目配せすると、秘書は部屋を出て行った。

二人きりになった。


「藤堂総理」

小野寺が口を開いた。


「なかなか頑張っているようじゃないか」

「ありがとうございます」

「フェイク動画の件も、大胆だった」

小野寺が微笑んだ。

「支持率も回復したようで、何よりだ」

「...」

藤堂は黙って聞いていた。


「だが」

小野寺の声が、少し低くなった。

「君は、自分の役割というものが分かっていない」

「役割...ですか」

「そうだ」

小野寺が身を乗り出した。


「君の役割は、次の総理が困らないように、政治資金問題を沈静化させるための急場凌ぎの内閣なんだ」

「...」

「棚ぼたで総理になれただけなんだから、実力だと思ってもらっては困る」


小野寺の目が鋭くなった。

「スタンドプレーは慎んでくれ」

「半年程度、波風立てず、無難にやってくれればそれでいいんだ」

沈黙が続いた。


藤堂は冷静に答えた。

「中継ぎ役の総理がスキャンダルか何かで潰れてしまわないように注意しなさいということですね」

「そういうことだ」

「ご忠告、ありがとうございます」

藤堂は立ち上がった。

「では、失礼します」


「藤堂総理」

小野寺が呼び止めた。

「分かってくれたかな?」

藤堂は振り返った。


「はい。小野寺先生のお考えは、よく分かりました」

藤堂は一礼して、部屋を出た。

________________________________________

【廊下】


藤堂が歩いていると、アルの声が聞こえた。

「翔、大丈夫?」

ああ

藤堂は心の中で答えた。

*やはり来たか*

*言いたいなら言わせておけばいい*


*でも*

藤堂は拳を握った。


*俺は、中継ぎで終わるつもりはない*

*この国を、本当に変える*

________________________________________

【その夜・書斎】


「アル、小野寺辰義について調べてくれ」

「もう調べてあるわ」

アルが画面に表示した。

「小野寺辰義、64歳」

「当選7回、党内最大派閥の実力者」

「現在は無役だけど、かつては幹事長を務めた」

「党内での影響力は絶大ね」

「そうか」


「翔、気をつけて」

アルが警告した。

「この人は、本気であなたを潰しにかかるかもしれない」

「分かっている」

藤堂は頷いた。


「でも、引き下がるわけにはいかない」

「ええ」

アルが微笑んだ。

「それが、あなたらしいわ」

「いや」

藤堂が訂正した。

「それが、藤堂誠司らしい、だろ」

「そうね」

アルが笑った。

「あなたたち二人らしいわ」

________________________________________

3. 総理大臣のリアル


【ある休日の午後・書斎】

藤堂は書斎で溜息をついた。

「アル」

「何?」

「総理大臣って大変だね」

藤堂が呟いた。


「休日であっても、私用であっても、私邸から外出する際には必ず警護(SP)が同行し、総理専用車で移動なんだ」

「当たり前よ」

アルがあっさり言った。

「『ちょっとコンビニへ』とか『妻と買い物に行く』なんてことができない」

藤堂は窓の外を見た。


「警護の方々に迷惑がかかるからね」

「総理の外出は『国家の安全保障上の行動』として扱われるのだから、私用かどうかは関係ないわ」

アルが続けた。

「あなたは国家にとって最重要人物になったってことよ」

「分かってはいるんだけどね」

藤堂は苦笑した。

「朝のジョギングも、もうできない」


「安倍元首相は『散歩すら自由にできない』と言っていたそうよ」

「そうだな」

「野田元首相は『家族旅行は完全に不可能になった』と語っていたわ」

アルが付け加えた。

「それが、総理大臣の現実よ」


藤堂は深く息をついた。

「朝霧翔として生きていた頃は、自由だった」

「でも、藤堂誠司として、さらに総理大臣として生きる今は...」

「失ったものも多いわね」

アルが優しく言った。

「ああ」

藤堂は頷いた。

「でも」

「でも?」

「得たものも大きい」

藤堂が微笑んだ。


「この国を変えられる力」

「国民の未来を守れる立場」

「そして」

藤堂は拳を握った。

「藤堂さんの夢を実現できる可能性」

「そうね」

アルが嬉しそうに言った。

「あなたらしいわ」

「それに」


藤堂が続けた。

「私邸から通勤できているだけ、まだマシかもしれない」

「そうね。多くの総理は公邸に住むものだけど」

「家族と離れたくないからな」

藤堂は微笑んだ。

「美咲も、彩花も、健太も」

「みんな、この家にいる」

「それだけで、俺は幸せだ」

「翔...」

アルの声が柔らかくなった。


その時、ドアがノックされた。

「お父さん、お茶入れたわよ」

美咲の声が聞こえた。

「ありがとう」

藤堂は立ち上がった。

「行ってくる、アル」

「ええ」

________________________________________

【リビング】


美咲がお茶を入れてくれた。

「疲れてる?」

「少しね」

藤堂は微笑んだ。

「でも、大丈夫」

「無理しないでね」

美咲が心配そうに言った。

「分かってる」

藤堂は美咲の手を握った。

「お前がいてくれるから、頑張れる」

「もう」

美咲が照れた。

________________________________________

【書斎・夜】


藤堂は再び書斎に戻った。

「アル、さっきの続きだけど」

「何?」

「総理大臣の不自由さは、確かに辛い」

「でも」

藤堂が続けた。

「それ以上に、責任の重さを感じる」

「国民の命を預かっている」

「一つの判断ミスが、多くの人の人生を左右する」

「そうね」

「だからこそ」

藤堂は拳を握った。

「毎日、全力で向き合わなければならない」

「ええ」

アルが優しく言った。

「あなたなら、大丈夫よ」

「ありがとう、アル」

藤堂は微笑んだ。


*総理大臣のリアル*

*それは、自由を失うことでもあり

同時に、大きな責任を背負うことでもある*


*でも、俺は負けない*

*この国を、必ず変えてみせる*


藤堂は窓の外の夜空を見上げた。

星が、静かに輝いていた。

________________________________________

4. 紙とFAXの国会


【ある日の昼・国会内の食堂】

藤堂が昼食を取っていると、永山が近づいてきた。

「藤堂総理、ご一緒してもよろしいですか?」

「どうぞ」

永山が席に着いた。

「総理」

永山が声を潜めた。

「最近、思うんですよ」

「何を?」

「世の中は今、AIに卒論を書いてもらったり、デジタルで報告する時代なのに」

永山が周りを見回した。

「日本の国会では未だにペーパー資料ばかりだし、そのペーパー資料をFAXで送っている」

「...」


「諸外国よりかなり遅れていると思いませんか、藤堂総理?」

藤堂は頷いた。

「確かに」

「でしょう?」

永山が身を乗り出した。

「私の秘書なんて、毎日FAXと紙のコピーで大変そうなんですよ」

藤堂は苦笑した。

「永山さんの言う通りですね」

________________________________________

【その夜・書斎】


「アル、今日、永山議員がぼやいていたんだ」

「何を?」

「国会のアナログ体質についてだ」

藤堂は椅子に座った。

「確かに驚いた。ハーバードではとっくにデジタル化されていたから、余計に感じるよ」

「日本の国会は昭和時代で時が止まっているんじゃないかってね」

「デジタル化なんて、私を一番刺激する言葉が出てきたわね」

アルが嬉しそうに言った。

「ふふ」

藤堂が笑った。


「確かに、日本の国会のデジタル化は一般企業より10年は遅れているわね」

「なぜなんだ?」

「技術がないからじゃないのよ」

アルが説明を始めた。


「制度・法令・組織構造・責任体系・政治運営...全てが"紙前提"で設計されているの」

「紙前提...」

「ええ。デジタル化を阻む構造的・制度的ボトルネックを崩すのは並大抵ではないわ」

藤堂は頷いた。

「でもね」

アルが続けた。


「もし国会のデジタル化が実現したら、コストが45〜80億円規模で削減できるの」

「そんなに!」

「それに、意思決定スピードが2〜5倍に向上するという試算もあるわ」

「効果は絶大だな」

藤堂は考え込んだ。

「でも、もう一つ気になることがある」

「何?」


「今や世界的にFAX利用がEメールやクラウドコンピューティング等のインターネット通信に移行しているのだから、市場縮小によってメーカーが撤退して本体や部品の供給が止まるのではないか?」

「その通り」

アルが真剣な声で言った。

「部品供給リスクの問題は、行政のBCP(業務継続計画)上の大問題なのよ」

「やはり...」

「FAXメーカーは次々と生産を縮小、あるいは撤退している」


アルがデータを表示した。

「5年後、10年後には、部品が手に入らなくなる可能性が高いわ」

「その時、国会の業務が止まる」

「ええ。災害時や緊急時に、連絡手段が失われる」

「これは、危機管理の問題だな」

藤堂は深刻な顔になった。

「世界で最も成功した行政DXといわれるイギリスの事例が参考になるかもしれないわね。一緒に検討しましょう」

藤堂は少し考えた後、笑った。


「国会のアナログ社会の牙城を崩すのは並大抵ではないとわかるけど...」

「でも?」


「藤堂さんが『子供たちが総理大臣になりたい日本』にしたいというなら、まず国会をかっこよくしないとね」

「どういうこと?」

「だって、小学生が社会科見学で国会に来たときに、紙資料が行き交う様子を見て『ここで働きたい』とは思わないでしょ。ははは」

アルも笑った。


「確かにそうね」

「いつか、必ずやる」

藤堂は拳を握った。

「国会のデジタル化も、藤堂プランに入れておいてくれ」

「了解」

アルの声が明るくなった。

「その日を楽しみにしているわ」


「あ、でも」

アルが続けた。

「実は誠司も、同じことを考えていたのよ」

「え?」

「誠司も国会のアナログ体質に問題意識を持っていたわ」

アルが藤堂プランのファイルを開いた。

「ほら、ここに『国会改革』という項目がある」

「本当だ...」


画面には、誠司の手書きのメモが表示されていた。

『紙とFAXの国会を変えなければ、日本は変わらない』

そして、その下には詳細な検討項目が並んでいた。

________________________________________

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• 災害マニュアル改訂・・・・・内閣府

• 自治体デジタル化・・・・・・デジタル庁

• 通信インフラ整備・・・・・・総務省

• 国会のデジタル化・・・・・・国会事務局

• 行政手続きの電子化・・・・・デジタル庁+各省庁

これらに加えて中小企業・自治体の移行支援のため補助金等の検討が必要

________________________________________

藤堂は画面を食い入るように見た。

「これ...すごく詳しいな」

「ええ」

アルが続けた。


「誠司は、表面的な改革じゃダメだと分かっていたのよ」

「関係する全ての組織を巻き込まないと、本当のデジタル化は実現できない」

「そうか...」

藤堂は感心した。


「内閣府、デジタル庁、総務省、国会事務局...」

「それぞれが縦割りで動いているから」

「一つの省庁だけでは変えられないんだな」

「その通り」

アルが説明した。


「例えば、国会がデジタル化しても、自治体がFAXのままだったら意味がない」

「災害時の連絡網も変えないといけない」

「通信インフラも整備しないといけない」

「そして」

アルが続けた。


「中小企業や自治体は、デジタル化のコストを負担できない場合がある」

「だから、補助金などの支援策も必要なのよ」

藤堂は深く頷いた。

「誠司さんは、ここまで考えていたのか...」

「ええ」

「でも」

アルの声が少し沈んだ。


「誠司は総理になる前に倒れてしまった」

「だから、実現できなかった」

「...」

「でも、今」

アルが明るく言った。

「あなたが総理になった」

「誠司の夢を、あなたが叶えるのよ」

藤堂は拳を握った。

「ああ、必ず」


*藤堂さん、あなたの想いも、俺が...いや、私が実現する*

________________________________________

藤堂は窓の外を見た。


*永山さんのぼやき*

*それは、多くの議員が感じていることかもしれない*

*変えられないと諦めているだけで*


藤堂は決意した。

*なら、俺が変える*

*いや、私が変える*

*藤堂さんの夢も、一緒に*


静かな夜だった。


だが、藤堂の心には、すでに新しい決意が芽生えていた。

________________________________________

5. 外交危機発生


【ある朝・総理官邸】

藤堂が執務室に入ると、吉村が緊迫した顔で待っていた。

「総理、緊急です」

「何があった?」

「尖閣諸島周辺で、中国海警局の船4隻が日本の漁船を追尾しています」


藤堂は画面を見た。

海上保安庁からのリアルタイム映像。

中国船が、日本の漁船に接近している。

「漁船の安全は?」

「今のところ、海上保安庁の巡視船が間に入っています」

「北川外務大臣は?」

「既に中国大使を呼んで抗議しています」

「分かった。すぐに危機管理センターに閣僚を集めてくれ」

________________________________________

【30分後・官邸危機管理センター】


閣僚が集まっていた。

大型モニターには、リアルタイムの状況が映し出されている。


北川外務大臣が報告する。

「中国側は『尖閣諸島は中国の領土であり、日本の漁船が領海侵犯した』と主張しています」

「ふざけるな」

ある閣僚が声を荒げた。

「尖閣諸島は日本固有の領土だ」


「落ち着いてください」

橘が制した。


「総理、ご指示を」

全員の視線が藤堂に集まった。


藤堂は冷静に言った。

「まず、漁船の安全確保を最優先にしてください」

「海上保安庁に、絶対に漁船を守るよう指示を」

「はい」

「次に、外交ルートで正式に抗議」

「既に中国大使を呼んでいます」

北川が答えた。

「よろしい。そして」


藤堂が続けた。

「国際社会に、事実を正確に伝える」

「国際社会?」

閣僚の一人が聞いた。

「ええ。この問題は、日中間だけの問題ではありません」


藤堂が説明した。

「国際法に基づく海洋秩序の問題です」

「アメリカ、EU、ASEANにも情報共有し、理解を求めます」

「なるほど」

橘が頷いた。

「孤立させない戦略ですね」

「その通り」

________________________________________

【数時間後・現場】


海上保安庁の巡視船が、日本の漁船を護衛しながら航行している。


中国海警局の船は、距離を保ちながらついてきている。


緊張が続いていた。

________________________________________

【夕方・総理執務室】


「総理、漁船は無事に港に戻りました」

吉村が報告した。

「よかった」

藤堂は安堵した。


「しかし...」

吉村が続けた。

「中国外務省が声明を発表しました」

画面にニュースが映し出された。


中国外務省報道官: 「尖閣諸島は中国固有の領土である」

「日本側の挑発的行為に強く抗議する」

「我が国は必要な措置を取る権利を有する」

________________________________________

【その夜・ニュース速報】


「中国、尖閣諸島周辺で軍事演習実施を予告」

テロップが流れた。

藤堂の携帯が次々と鳴り始めた。


閣僚からの連絡。

「総理、これは...」

「ええ、エスカレートしています」


藤堂は冷静に答えた。

「明日、再度危機管理センターで協議します」

________________________________________

【深夜・書斎】


「アル、中国の狙いは何だ?」

「いくつか考えられるわ」

アルが分析を表示した。


「一つは、国内向けのアピール」

「中国国内でナショナリズムを煽る」


「二つ目は、日本の反応を試している」

「どこまで譲歩するか、見極めたい」


「三つ目は...」


アルが続けた。

「あなたを試している可能性もあるわ」

「俺を?」

「ええ。新しい総理がどう対応するか」

「経験の浅い総理なら、強硬に出るか、逆に弱腰になるか」


「なるほど」

藤堂は頷いた。

「なら、見せてやろう」

「何を?」

「冷静だが、毅然とした日本の姿勢を」

藤堂は拳を握った。

「そして、国際社会を味方につける」

「賢明ね」

アルが微笑んだ。


「でも、一つ注意して」

「何だ?」

「中国も引くに引けなくなっている可能性があるわ」

「つまり?」

「エスカレートする危険性が高い」


アルが警告した。

「不測の事態を避けるためにも、裏のチャンネルが必要ね」

「裏のチャンネル...」

藤堂は考えた。

田中さんに相談するか

________________________________________

【翌日・記者会見】


藤堂が記者会見を開いた。

カメラのフラッシュが光る。

「皆さん、ご存知の通り、尖閣諸島周辺で緊張が高まっています」


藤堂が口を開いた。

「まず、明確に申し上げます」

「尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も、日本固有の領土です」

「この点について、譲歩の余地はありません」

藤堂の声は、静かだが力強い。


「昨日、日本の漁船が中国海警局の船に追尾されました」

「これは、国際法上認められない行為です」

「日本政府は、中国政府に対し、厳重に抗議しました」


記者たちが一斉にメモを取る。


「しかし」

藤堂が続けた。

「私たちは対話の扉を閉ざしません」

「中国は重要な隣国です」

「冷静に、建設的に対話を続けます」


「総理!」

記者が手を挙げた。

「中国が軍事演習を実施すると表明していますが、どうしますか?」

「海上保安庁、自衛隊と連携し、日本の領土・領海を守ります」

藤堂は即答した。


「ただし」

藤堂が付け加えた。

「不測の事態を避けるため、中国側とのホットラインも活用します」

「偶発的な衝突を防ぐことが、最優先です」


「総理、アメリカとは協議していますか?」

別の記者が聞いた。


「既に米国務省と緊密に連絡を取っています」

「日米安保条約に基づき、連携していきます」

________________________________________

【数時間後・国際的反応】


アメリカ国務省が声明を発表した。

「日米安保条約第5条は尖閣諸島にも適用される」

「地域の平和と安定を支持する」


EUも声明を出した。

「国際法に基づく平和的解決を支持」

「全ての当事者に自制を求める」


ASEAN諸国も懸念を表明した。

「地域の平和と安定を望む」

________________________________________

【その夜・総理執務室】


橘が報告に来た。

「総理、国際社会の反応は概ね好意的です」

「そうですか」

「中国は、予想以上に孤立しています」

橘が微笑んだ。


「総理の戦略が功を奏しましたね」

「まだ油断はできません」

藤堂は真剣な顔で言った。

「中国が次の手を打ってくる可能性があります」


その時、藤堂の携帯が鳴った。

画面を見ると、田中丈太郎からだった。

「失礼します」

藤堂は電話に出た。

「田中さん」


「総理、今回の対応、悪くない」

老人の声が聞こえた。


「ありがとうございます」

「だが、これで終わりじゃない」

「分かっています」

「中国は、次の手を打ってくる」

田中が言った。


「しかし、焦るな」

「...はい」

「お前には、切り札がある」

「切り札...ですか?」

「また連絡する」

田中は電話を切った。


藤堂は携帯を見つめた。

*切り札?

*何のことだ?

________________________________________

嵐は、まだ始まったばかりだった。

________________________________________

第5話前編 完


次回:第5話「隣国との危機(後編)」


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