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第20話「アジアへの旅路」

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1.中東エージェント

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【某日・官邸】


トルグの高橋が、厳しい表情で藤堂を訪ねてきた。

「総理、

中東への訪問を予定していると聞いておりましたが

今日は、中止をお願いしに来ました」


「どういうことですか?」

藤堂が聞いた。


「中東のエージェントからの情報ですが」

高橋が説明した。

「今、イランとイスラエルが一触即発の状況にあって」

「どちらかが武力行使に打って出る可能性があります」

「外務省でも、キャッチしているかもしれませんが...」


「そうですか」

「それでは、今回の中東行きは取りやめにしましょう」

「情報を、ありがとうございました」


「ところで」

藤堂が続けた。

「折角の機会なので、中東のエージェントの話を少し伺ってもいいですか?」

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【中東エージェント・ジャリー】


「ジャリーという、アラブ人なんですが」

高橋が説明した。

「一カ所にとどまると、全体が見えないということで」

「中東地方を転々としています」

「ジャリーは、もともとイスラム教徒ですが」

「宗派を問わず、地域住民にも武装勢力にも好かれており」

「うまくやっています」

「彼は、人々をありのままに受け入れるというやり方を通しています」


「つまり、武装を否定したり」

「宗教を必要以上に語ったり、説教したりしないで」

「聞き役に徹しています」

「そして、為政者の肩を持つことはせず」

「庶民の方を向いています」


「中村哲さんの考えと、共通するところがあるみたいですね」

藤堂が言った。

「そういえば、以前中東の大使の人たちと会食をした際に」

「最近、人々に笑顔が見られるようになったと言っていた方がおられましたが」

「ジャリーの影響かもしれませんね」

高橋は、微笑んだ。

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【アジア訪問へ】


藤堂は早速、中東行きを取り止めると吉村秘書に伝えるとともに、アジア方面への訪問を計画するよう指示した。


*中東は、まだ時期尚早だ*

*ジャリーに任せよう*

*今は、アジアだ*

*アジア諸国との連携を強化する*

*それが、日本の経済安保の要になる*


藤堂は、決意を新たにした。

窓の外、東京の空が広がっていた。

*アジアへの旅路が*

*今、始まる*


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2.アジア諸国との連携強化策

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【その夜・書斎】


「アル」

藤堂が言った。

「中東行きはやめたが、アジア各国を回ろうかと思う」

「アジア関係で、我が国が進めている施策と」

「これから進めるべき施策を、整理してくれるかな」

「経済的なつながりだけでは、戦争を防ぐことはできないが」

「経済安保は、我が国の大きな課題であることには変わりないからな」


「いいわ、少し待ってね」

アルが答えた。

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【日本のアジア戦略】


「日本は今」

アルが説明した。

「『脱・過度な中国依存』を進めるために」

「アジアで、複数の協力ネットワークを同時に構築している最中よ」

「アジア内での主要な協力体制としては——」

アルが続けた。

「ASEAN(東南アジア諸国連合)」

「インド」

「オーストラリア」

「IPEF(インド太平洋経済枠組み)」

「韓国」

「などとの連携強化を進めているところね」

「日本がさらにやるべきことは、5つあるわ」

アルが整理した。

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【日本がやるべき5つのこと】


「1つめは」

アルが説明した。

「ASEANでの部材・素材産業の育成」

「日本企業の支援を強化することよ」

「具体的には、日本の技術を使って」

「東南アジアの国々で、部品や材料を作れるようにする」

「そうすれば、中国だけに頼らなくて済むわ」


「2つめは」

アルが続けた。

「インドとの協力を『実働レベル』に落とし込むこと」

「制度、物流、税制を整えて」

「実際にビジネスがしやすくする」

「インドは巨大な市場だから、とても重要よ」


「3つめは」

「重要鉱物の共同備蓄・共同調達の仕組みづくり」

「レアメタルなど、重要な資源を」

「アジアの国々と一緒に確保する仕組みを作るの」

「これも、中国への依存を減らすために必要よ」


「4つめは」

「日韓の経済安保協力の安定化」

「韓国とは、政治的には難しい面もあるけど」

「経済安保では協力できる分野がたくさんあるわ」

「特に、半導体や電池の分野でね」


「5つめは」

アルが締めくくった。

「中国との『競争と協調の線引き』を明確化すること」

「中国とは、競争する分野と協力する分野を」

「はっきり分けることが大事よ」

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【バランスが重要】


「つまり」

アルが結論づけた。

「『中国と完全に切らないが、依存しすぎない』」

「このバランスを設計することが、肝要ね」


「なるほど」

藤堂が頷いた。

「『完全に切らないが、依存しすぎない』のバランスか」

「なかなか難しいな」


「でも、それが一番現実的よ」

アルが言った。

「中国は巨大な市場だし、経済的に完全に切ることは不可能」

「でも、依存しすぎると、安全保障上のリスクになる」

「だから、バランスが大事なの」


「わかった」

藤堂が決意した。

「アジア諸国を回って、このバランスを作り上げよう」

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【翌朝・官邸】


藤堂は、美波を呼んだ。

「美波さん」

「聞いていると思うが、中東行きは取りやめにした」

「それで、アジア諸国を回って」

「経済安保の強化を図っていこうと思う」


「先日、君が言ったように」

「アジア諸国との連携は重要だからな」

「そこで美波さん」

「今度は、経済産業省に行って」

「アジアの国々について、レクチャーを受けてきてもらおうかな」


「かしこまりました」

美波が答えた。

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【美波の決意】


*また勉強か*

*でも、これも大事な仕事*

*藤堂さんが、アジアを回るなら*

*私も、しっかり学ばないと*

美波は、決意を新たにした。


窓の外、東京の空が広がっていた。

*アジア諸国との連携*

*経済安保*

*難しいけど、大事な仕事*

*頑張ろう*

美波は、前を向いた。


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3.アジア諸国歴訪

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【シンガポール・ASEAN特別会合前夜】


政府専用機が、チャンギ空港に着陸した。

タラップを降りる総理の後ろで、美波は緊張で手のひらが汗ばんでいた。

前を歩く藤堂は、いつもの落ち着いた声で言う。

「美波さん」

「総理の秘書としての海外出張は初めてだから、緊張するかもしれないが」

「いつも通りでかまわない」

「吉村さんの指示に従って動けば大丈夫だ」

「『現場を感じる』ことが、貴重な経験になる」

「はい」

美波が答えた。

「勉強させていただきます」

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【ASEAN特別会合・控室】


控室では、各国の資料がテーブルに広げられている。

美波は、各国の立場をまとめたブリーフを総理に手渡す。

「総理」

美波が説明した。

「インドネシアは、資源政策で強硬姿勢が予想されます」

「ベトナムは日本に前向きですが、中国の影響を懸念しています」


「全員が味方になる必要はない」

藤堂が答えた。

「ただ、『アジアは一国に依存しない』という方向性だけ」

「共有できればいい」

藤堂は資料を受け取り、美波を見て微笑む。

「よく整理できている」

「ただ、会議では『言葉に出ない空気』も読む必要がある」

「それは、現場でしか学べない」


美波は、深くうなずいた。

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【会議場にて】


円卓に、各国の閣僚が並ぶ。

シンガポール、ベトナム、インドネシア、インド、オーストラリア...

議長のシンガポール代表が、開会を宣言する。

「本日の議題は、『アジアのサプライチェーン強靱化』」

「日本から、新たな提案があると聞いています」


藤堂が、ゆっくりと立ち上がる。

会場の空気が、変わった。

「皆さん」

藤堂が言った。

「アジアは今、世界の工場であり、世界の市場です」

「しかし、我々の供給網は、一本の細い糸に頼りすぎている」

インドネシア代表が、眉をひそめる。

中国依存を暗に指していることは、明らかだった。

「だからこそ」

「日本は『アジア多層サプライチェーン構想』を提案します」

スクリーンに、3つの円が映し出される。


1. ASEAN製造ネットワークの強化

2. インド・豪州との戦略物資連携

3. 日米韓台の先端技術圏との接続

「これは『反中国』ではありません」

藤堂が強調した。

「『アジアが自立するための選択肢』を増やす構想です」

その言葉に、会場の空気がわずかに和らぐ。

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【各国の反応】


「日本の提案は理解しますが」

インドネシア代表が強い口調で言った。

「我々は、資源を国家戦略として扱っています」

「日本がどこまでコミットするのか、具体性が必要です」


「我々は、日本の技術と投資を歓迎します」

ベトナム代表が前向きに言った。

「サプライチェーンの多角化は、ASEAN全体の利益です」


「しかし、中国との関係も重要です」

マレーシア代表が慎重に言った。

「日本の構想が、『どこまで中立的』なのか...」

会場が、ざわつく。

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【会議場の片隅で】


会議が始まると、美波は吉村の隣で各国代表の表情を観察していた。

インドネシア代表が、強い口調で発言すると、美波は小声で吉村に尋ねる。

「どうして、あんなに強硬なんでしょう...?」


「表向きは、資源ナショナリズム」

吉村が答えた。

「でも本音は、『日本の本気度を試している』」

「外交は、言葉より『動機』を見るんだ」


美波は、メモを取りながら、「外交は心理戦」という言葉の意味を理解し始めていた。

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【藤堂の反論】


藤堂は、一歩前に出る。

「皆さん」

「アジアの未来を、アジア自身が決められない状況こそが」

「最大のリスクです」

「日本は、どの国の主権も侵さない」

「ただ、『選択肢を増やす』だけです」

その瞬間、空気が変わった。

シンガポール代表が、静かにうなずく。

「藤堂総理の言う通りです」

「依存ではなく、選択肢を増やすことが重要です」

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【休憩時間の裏交渉】


廊下で、インドネシア代表が藤堂に声をかける。

「藤堂総理...」

「日本は本当に、我々の資源開発に『共同投資』するつもりがあるのか?」

藤堂は、迷いなく答える。

「もちろんだ」

「採掘から精錬、環境保全まで、すべて共同でやる」

「インドネシアを、『ただの供給国』にはしない」

インドネシア代表の表情が、変わる。

その瞬間、交渉の流れが動いた。

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【合意形成】


会議室に戻ると、議長がまとめに入る。

「本日の議論を踏まえ」

議長が宣言した。

「『アジア多層サプライチェーン協力枠組み』の設立を」

「検討することで一致しました」

会場に、拍手が広がる。


藤堂は、静かに息をつく。

しかし、その目は次の戦いを見据えていた。

*アジアは動き始めた*

*だが、これからが本当の勝負だ*

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【夜・ホテル屋上】


会合後、藤堂はホテルの屋上で夜風に当たっていた。

美波が、隣に立つ。

「総理...」

美波が言った。

「今日は、大きな一歩でしたね」

「いや、まだ始まりだ」

藤堂が答えた。

「アジアの未来をつなぐ鎖は」

「これからもっと強くしなければならない」

夜景の向こうに、アジアの巨大な市場と、複雑な政治の影が広がっていた。

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【翌日・ベトナム・ハノイ国家迎賓館】


ベトナム首相との会談。

ロン首相が言った。

「日本の技術と投資は、我々にとって不可欠です」

「しかし、中国からの圧力も強まっています」


「だからこそ」

藤堂が答えた。

「ベトナムと日本が、『共に立つ』必要がある」

「サプライチェーンは、依存ではなく協力で作るものです」


ロン首相は、静かにうなずく。

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【美波の成長】


美波は、総理の背後で通訳のタイミングや相手の反応を細かく観察していた。

会談後、吉村が静かに言う。

「美波さん、今の会談で何を感じた?」

「ベトナムは、日本に期待している...でも」

美波が答えた。

「『日本がどこまで本気で寄り添うか』を」

「見ているように感じました」


吉村は、満足そうにうなずく。

「その通り」

「外交は、『相手の期待と不安』を読み取ることから始まる」


美波は、自分が少し成長した気がした。

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【インドネシア・ジャカルタ大統領宮殿】


インドネシアは、資源大国。

ここでの交渉は、最も難しい。

迎えるのは、強硬派として知られる大統領、アリフ・サントソ。

「日本は、我々のニッケル・コバルトに興味があるようだが」

サントソ大統領が言った。

「インドネシアは、『資源ナショナリズム』を掲げている」


「承知しています」

藤堂が答えた。

「だからこそ、採掘から精錬、環境保全まで」

「『共同開発』を提案します」


サントソは、目を細める。

「日本は、本気か?」


「本気です」

藤堂が答えた。

「インドネシアを、『ただの供給国』にはしない」


その言葉に、サントソの表情がわずかに緩む。

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【美波の観察】


インドネシア大統領との会談は、緊張感が漂っていた。

美波は、総理の表情の変化、相手の声の抑揚、吉村がさりげなく差し出すメモ——

そのすべてを、目に焼き付けていた。

会談後、美波は吉村に言った。

「吉村さん...」

「総理は、相手が強硬でも一歩も引かないんですね」


「引かないんじゃない」

吉村が答えた。

「『引くべきでないところを知っている』んだ」

「それが、国家のトップの仕事だ」

美波は、総理の背中の重さを初めて理解した。

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【ASEAN諸国歴訪】


藤堂総理は、その後もASEAN諸国を歴訪し、経済安保協力に関して大きな成果を納めた。

そして、最後にインドに立ち寄った。

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【インド・ニューデリー大統領府の迎賓ホール】


藤堂総理は、赤い絨毯の先でインドの首相、ラージェシュ・カプールと固い握手を交わす。

「東アジアの中心国からの訪問を歓迎します、藤堂総理」

カプール首相が言った。


「こちらこそ」

藤堂が答えた。

「インドは日本にとって、未来を共に作る最重要パートナーです」

カプールは、一瞬だけ目を細める。

その言葉の裏にある「対中国戦略」を、読み取ったのだ。

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【インド首相との会談】


会談は、重要鉱物と半導体協力が議題だ。

会談中、美波はインド側の資料に誤訳を見つけ、吉村に小声で伝える。

「吉村さん、この部分...」

「『供給保証』ではなく『供給努力』です」

吉村は、即座にメモを総理に渡す。

藤堂総理は、その情報を使い会談の流れを修正した。

会談後、吉村が美波に言う。

「よく気づいた」

「あれは、会談の方向性を左右する重要なポイントだった」

美波は、驚きと喜びで胸が熱くなる。

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【共同声明】


会談は、藤堂のペースとなり大きな成果を挙げた。

夕方、両首脳は記者会見し、共同声明を発表した。

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【インド外相との出会い】


記者会見終了後、インドの外相アニル・ラージャンが近づいてきて美波に話しかけた。

「今回、北川外務大臣はお見えになっていないのですね」

「残念です」

「G7外相会合では、久しぶりに話すことができたんですが」

「今回も来られるのかと思っていました」

「実は私は、日本の京都が大好きで」

ラージャンが続けた。

「若い頃、何度も行ってるんですよ」

「それで、宿泊場所はいつも北川麻衣さんのゲストハウスだったんです」

「北川さんは、その頃学生さんだったのですが」

「手伝いをしていて、宿泊者のみんなにいつも明るく、愛想よく接してくれるので」

「みんなのアイドルみたいな存在だったんですよ」

「そうなのですか」

美波が答えた。

「日本に帰ったら、ラージャンさんが会いたがっておられたことを必ず伝えます」


〔このインド外相アニル・ラージャンが、やがて日本の強い味方となることは、このときの美波には知るよしもなかった〕

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【美波の成長】


その夜、美波は吉村に言った。

「私...少しは役に立てましたか?」

「もちろんだ」

吉村が答えた。

「今日の君は、『随行者』ではなく『総理秘書官』だった」


美波の目に、静かな決意が宿った。

*私は、ここにいていいんだ*

*藤堂さんの秘書として*

*日本のために*

*世界のために*

*働けるんだ*


窓の外、インドの夜景が広がっていた。

美波は、決意を新たにした。


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4.美波の疑念

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【ある日・官邸】


「美波さん」

藤堂が言った。

「私が家に置いてきた資料を、もう一度確認したいので」

「悪いが、取りに行ってきてくれないか」

「かしこまりました」

美波が答えた。

「じゃあ、すまないがお願いするよ」

藤堂が言った。

「美咲に電話しておくから」

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【藤堂の私邸】


美波が玄関のドアホンを鳴らすと、藤堂の娘、彩花が出迎えた。

「美波さん。いらっしゃい」

彩花が言った。

「今日は、どうしたんですか?」

「総理から、書類を取りに行くよう頼まれたの」

美波が答えた。

「奥様は、いらっしゃる?」

「いますよ」

彩花が言った。

「ちょっと待ってください」

そう言うと、大声で2階の美咲を呼んだ。

「お母さん、美波さんが来られてるよ」

「はーい」

美咲が返事をした。


「今日は、試験が午前中で終わったので」

彩花が説明した。

「友達とうちで話していたの」

「その友達は、朝霧陽菜さんって言うんだけど」

彩花が続けた。

「陽菜のお兄さんも、以前カンボジアでボランティア活動をしていたことがあるそうなのよ」

「もしかしたら、知ってる人だったりして?」

そう言って、陽菜を側に呼び、美波に紹介した。

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【衝撃の出会い】


「この子が、朝霧陽菜さんよ」

彩花が言った。

「お兄さんの名前は...」

「兄は、朝霧翔といいます」

陽菜が答えた。

美波は、驚いた。

「えっ!」

「あなたは、翔君の妹さん?」

「お兄さんがカンボジアに行ったのは、高校3年生の頃ですか?」

「はい、そうです」

陽菜が答えた。

「翔君は、今どうされているの?」

美波が聞いた。

「アメリカの大学に留学したってところまでは知ってるんだけど...」


「えっと...」

陽菜が、答えに詰まった。

彩花が、代わりに答えた。

「陽菜のお兄さんは、事故で亡くなられたの」

「えっ!」

美波が叫んだ。

「亡くなられた?」


「5年前です」

陽菜が答えた。

「アメリカのハーバード大学留学中に...」

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【美波の動揺】


「そうだったんですか...」

美波が呟いた。

「彼とは、カンボジアのボランティア活動で一緒だったわ」

「翔君は高校生だったけど」

「すごく真剣に活動に取り組んでた」

「翔君がアメリカに留学する前までは」

美波が続けた。

「時々、連絡を取り合っていたんだけど」

「その後は、お互いが忙しくなって」

「連絡が途絶えてしまって...」

「でも、信じられない」

美波が震える声で言った。

「あの元気な翔君が...まさか...」


「カンボジアで一緒だった人の妹と」

彩花が言った。

「こんなところで偶然会うなんて」

「なんだか、すごい巡り合わせね」

「そ、そうね」

美波が答えた。


美波は、美咲から書類を受け取り、藤堂邸を後にした。

しかし、頭の中が真っ白になったままだった。


*翔君が...*

*死んだ?*

*信じられない...*

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【数日後の夜・官邸】


美波は、一人で残業をしていた。

パソコン入力作業を終え、書類整理中に手が止まった。

「あっ、そうだ」

「この書類を、今日藤堂さんに渡しておくのを忘れていた」

「帰りに、自宅に届けておこう」

「電話で連絡を...まあいいか」

「まだ就寝時刻でもないし」

書類を鞄に入れて、タクシーで藤堂邸に向かった。

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【藤堂の私邸】


美波秘書を、藤堂の妻・美咲が出迎えた。

「美波ちゃん、こんな時間にどうしたの?」

「この書類を、総理にお渡しできてなかったので

お持ちしました」


「じゃあ、直接渡してちょうだい」

美咲が言った。

「2階の書斎にいるから、どうぞ上がって」

「それでは、お邪魔します」

美波が答えた。

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【衝撃の真実】


美波は、階段を登った。

ドアの前で、中から声が聞こえた。

*藤堂総理が、女性と話をしている?*

*ああ、そうか*

*アルと話しているんだ*


「アル、先日まずいことを言ってしまったよ」

藤堂の声。

「美波さんに、朝霧翔とは連絡を取らない方がいいって」

「気をつけてね、翔」

女性の声——アルの声。

「あなたが朝霧翔だってことを知られたら」

「大変なことになるんだから」


美波は、ついつい聞き耳を立てていた。

*総理の声*

*そして、もう一人の女性はAIのアル*

美波は、混乱した。

*AIが総理を『翔』と呼んでいる?*

*『あなたが朝霧翔』????*

*えっ、まさか?*


美波の手から、資料が滑り落ちた。

バサッ!

「誰だ?」

ドアが開いた。

藤堂総理が、立っていた。

「美波...さん」

藤堂が呟いた。

「今の話、聞いていたのか?」


美波は、言葉を失った。

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第20話 完

次回:第21話「NGOとの連携」

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