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第21話「NGOとの連携」

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1.藤堂の告白と決意

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【あの夜、藤堂の書斎・ドアの前】


「美波...さん」

藤堂が言った。

「今の話、聞いていたのか?」

美波は、膝を畳んで書類を拾い上げながら答えた。

「すみません」

「聞いてしまいました」

「全部、聞こえたのか?」

藤堂が聞いた。

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【美波の問い】


「藤堂さん...」

美波は、真剣な表情で言った。

「お聞きします」

「あなたは...朝霧翔さん、ですか?」


藤堂は、息を呑んだ。

「なぜ、そう思う?」


「AIのアルが、『翔』と呼んでいました」

美波が答えた。

「そして、『あなたが朝霧翔だということ...』と」

「言っているのが聞こえました」

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【美波の調査】


「前から、気になっていました」

美波が続けた。

「藤堂さんの英語の発音」

「アメフトの知識」

「最近、私、なぜだか知らないけど」

「朝霧翔君のことを、思い出すことが多くなって...」

「その上、実の妹さんに」

「藤堂さんのご自宅で、偶然会ったり...」


「それで、調べてみたんです」

美波が説明した。

「藤堂さんが病気から回復した時期と」

「朝霧翔さんが亡くなった時期が、一致しています」

「朝霧翔君は、ハーバード大学の学生で」

「アメフトの事故で亡くなった」

「その三日後、藤堂さんが目覚めた」

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【藤堂の告白】


藤堂は、静かに目を閉じた。

*もう、話すしかない*

藤堂は、覚悟を決めた。


「これ以上、ごまかし通すことはできそうにないな」


「では...」

美波が促した。


「ああ」

藤堂は頷いた。

「君の推理は、正しい」

「その通りだ」

「私は、朝霧翔だ」

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【すべての告白】


藤堂は、すべてを話した。

誠司の病気のこと。

翔のアメフトの事故のこと。

憑依のこと。

誠司と翔の約束のこと。

そして、世界平和への誓いのこと。

美波は、黙って聞いていた。

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【美波の衝撃】


美波にとって、この数日の出来事は衝撃の連続だった。

偶然、藤堂の自宅で翔の妹に出会ったかと思うと、その場で翔の死を知らされた。

そして実は、今美波が秘書として仕えている藤堂総理が、翔だった。

その翔と、毎日一緒に仕事をしていた。


「驚かせて、すまなかった」

藤堂が言った。

「このことは、他人に絶対知られてはいけなかったんだ」

「だから申し訳ないが、黙っていた」

「絶対に、誰にも話さないでほしい」

「藤堂の家族にも、朝霧の家族にも」

「トルグや国会内の人にもだ」


「わかりました」

美波は、涙で目を潤ませながら答えた。

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【美波の質問】


短い沈黙の後、気を取り直して美波が聞いた。

「藤堂さん」

「では、一つお聞きしてもいいですか?」


「はい」

藤堂が答えた。


「私を秘書に雇ったのは、なぜなんですか?」


「これは、信じてもらえないかもしれないが」

藤堂が説明した。

「私が秘書を探しているとき」

「木村大臣が薦めたのが、君だったんだよ」


「どれもこれも、信じられないことばかりです」

美波が呟いた。

「朝霧翔さんは、何かSF的な能力を持ってるんですか?」


「そんな能力は、持っていませんよ」

藤堂が笑った。

「もし持っていたなら」

「総理大臣として、もっと活躍しているはずだろ?」


「...」

美波の頭の中は、混乱が続いていた。

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【藤堂の野望】


藤堂は、意を決したように切り出した。

「美波さん」

「私の秘密を知ってしまったからには」

「単なる総理と秘書という関係というわけには、いかなくなった」

「どういうことですか?」

美波が聞いた。

「私の野望を果たすための、協力者になってもらうよ」

藤堂が答えた。

「野望?」

美波が驚いた。

「野望って、なんですか?」

「今、大国が核の脅威でお互いを牽制し合い」

藤堂が説明した。

「別の国々は、大国に押しつぶされないために核の開発を急ぐ」

「多くの人々の苦難を経て」

「悲願のNPT(核兵器不拡散条約)が締結されたが」

「未加盟国が核を保有し」

「元々の保有国も、核削減を進めていない」


「美波さんは、カンボジアで言っていた」

藤堂が続けた。

「『貧困に苦しむ人々を助けることをしないで』」

「『武器の開発競争に明け暮れる大国』」

「この、どう考えても異常な世の中を変えたい」

「だが、私が総理でいられる期間には限りがある」

藤堂が真剣な顔で言った。

「『戦争や紛争のない世の中にする』のは」

「口で言うのは容易いが、茨の道だ」

「こういう夢を語ったとき、人は言う」

「『お花畑理論』だと」

「そう言って笑う人々に、教えたい」

藤堂が続けた。

「アルから教えてもらった、藤堂誠司さんの座右の銘」

「ネルソン・マンデラの言葉だ」

"It always seems impossible until it's done."

「何事も成功するまでは、不可能に思えるものである」

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【美波の決意】


「美波さんなら」

藤堂が言った。

「この私の思いを、理解してくれるよね」

「はい」

美波が答えた。

「私の考えは、カンボジアにいた頃から」

「少しも変わっていません」

「あの頃、翔君は高校生だったけど」

美波が続けた。

「何かをやり遂げるんじゃないかと思っていました」

「それが今や、日本の総理大臣なんですもの」

「きっと、あなたならやれますよ」

「協力してくれるね」

藤堂が確認した。

「もちろんです」

美波が微笑んだ。

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【美波の想い】


美波は思った。

*今夜は、とてもじゃないけど*

*眠れそうにないな*

*翔君が、生きていた*

*いえ、藤堂総理として*

*世界を変えようとしている*

*私も、一緒に戦おう*

*世界を変えるために*


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2.天使の反応(再び)

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【美波が藤堂邸を出た後】


「アル」

藤堂が言った。

「とうとう、知られてしまった」

「まさか、美波さんが廊下に立っているなんて」

アルが答えた。

「思いもしなかったわね」


「美波さん、混乱しているだろうな」

藤堂が呟いた。

「そうね」

アルが言った。

「でも、さっき翔が言っていたとおり」

「大きなミッションを果たすためには」

「協力者が多いに越したことはないわ」

「そうだな」

藤堂が頷いた。


「ところで、例の天使は今も私を監視しているのだろうか?」

「口外しない約束を破ったら、即天国行きなんでしょ?」

「あの天使なら、何とか大目に見てくれないかな」

藤堂が不安そうに言った。

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【天国の入り口】


天使が、再び記録を見ていた。

「また!?」

「今度は、秘書に...」

詳しく見る。

「え?」

「秘書が推理して、本人は認めただけ?」

天使は、頭を抱えた。

「これも...ギリギリセーフ?」

「許してあげよう」

レッドカードには、手を伸ばさなかった。

「...今更レッドカードを出すわけにもいかないわよね」

天使が呟いた。

「あんなに頑張ってるんだもの」

天使は、小さくため息をついた。

「次は本当にないわよ、朝霧翔」

そして、地上の藤堂を見守った。

「でも...」

天使が微笑んだ。

「よくやってるわ」

「頑張りなさい、翔」

天使の目には、温かい光が宿っていた。


*翔*

*あなたは、本当によくやっている*

*誠司さんとの約束を*

*きっと果たせるわ*

*私も、見守っているから*

天使は、優しく微笑んだ。


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3.あきらめない人々

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【翌朝・官邸】


美波が、総理執務室に来て挨拶をした。

「おはようございます」

「そ、総理」

美波の目の下に、「クマ」ができていた。

藤堂は、悟った。

*昨夜は、眠れなかったんだな*

「おはよう、美波さん」

藤堂が言った。

「今まで通り、藤堂さんでいいよ」

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【美波の提案】


「ところで」

美波が言った。

「昨夜、考えたのですが...」

「あなたと同じように、世の中を諦めていない人は」

「たくさんいます」

「NGOの代表をされていらっしゃる木村大臣が」

美波が続けた。

「そういう人たちを何人も知っているので」

「総理自らお会いになって、話を聞くというのも」

「いいと思うのです」

「きっと、藤堂さんも大きな刺激を受けるし」

「お互いが勇気づけられるのではないかと...」


「それはいいね」

藤堂が頷いた。

「美波さんから、木村大臣に話してみてくれるかな」

「かしこまりました」

美波が答えた。

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「あっ、そうだ」

ちょうど通りかかった吉村秘書に、藤堂が言った。

「吉村さん」

「実は昨日、私が美波さんに少しキツいことを言ってしまったせいで」

「美波さんは、あまり眠れなかったらしいんだ」

「申し訳ないが、今日は仕事のきりのいいところで」

「彼女を早めに帰宅させてくれますか」


「藤堂さん」

美波が慌てた。

「そんな冗談言ったら、吉村さんが本気にするじゃあないですか」

「了解しました」

吉村が答えた。

「早めの帰宅命令をいたします」

吉村は、小さく笑った。

*二人は、いいコンビになってきたな*


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4.ICAN事務局長との会談

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【環境省・大臣室】


首相官邸・環境大臣室。

窓から、柔らかい午後の日差しが差し込み、机にはNGO時代の資料が積まれている。

木村優子環境大臣は、スマホを耳に当てながら、手元のメモに走り書きをしていた。

電話を切ると、部屋に入ってきた神宮寺美波に微笑む。


「大臣、ICAN側の反応はいかがでしたか?」

美波が聞いた。

「上々よ」

木村が答えた。

「事務局長のアリア・サンディパル氏」

「『日本の総理大臣と会ってお話ができるなんて、願ってもないことです』って」

「ちょうど来週来日するので」

「スケジュールさえ合えば、会談をセッティングしましょう」

美波の目が、輝く。

「よかった...!」

「きっといい会談になると思います」

木村は頷き、資料をまとめながら言う。

「総理は、外交・経済で忙しいけれど」

「『核兵器のない世界』は、日本が避けて通れないテーマよ」

「あなたの提案、私もうれしいわ」

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【ICANとは】

ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)

International Campaign to Abolish Nuclear Weapons

世界的な市民社会ネットワークとして、核兵器の全面禁止を目指す活動を展開してきた団体。

2007年に、オーストラリアと国際赤十字の関係者らによって設立され、現在は100か国以上のNGOが加盟している。

2017年、ICANは核兵器禁止条約成立への貢献が評価され、ノーベル平和賞を受賞した。

ICANの特徴は、政府ではなく市民社会が主導する核軍縮運動であること。

その理念は、「安全保障よりも人間の尊厳を守る」という一点に集約されている。

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【官邸】


木村は、官邸の総理執務室へ向かった。

扉をノックすると、吉村秘書官が出迎えた。

「木村大臣、総理はすぐにお会いできます」

木村は軽く会釈し、執務室へ入る。


「木村さん、どうかしましたか?」

藤堂が聞いた。

「総理」

木村が説明した。

「ICANの事務局長、アリア・サンディパル氏が近々来日します」

「美波さんの提案もあり」

「『核兵器削減に尽力する人々の声を、直接聞いてほしい』と思いまして」

「美波さん、早速手配したんだね」

藤堂が言った。

木村は、続ける。

「サンディパル氏は、核兵器禁止条約の交渉にも深く関わった人物です」

「総理が会えば、日本の姿勢を世界に示すことにもなります」

藤堂は、静かに頷いた。

「わかった」

「時間を作ろう」

「木村さん、段取りを頼む」

木村は、微笑む。

「承知しました」

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【翌週・都内の国際会議センター・小会議室】


藤堂総理が入室すると、黒髪を後ろで束ねた女性が立ち上がった。

ICAN事務局長、アリア・サンディパル。

落ち着いた瞳と、強い意志を感じさせる佇まい。


「お会いできて光栄です、藤堂総理」

アリアが言った。

「こちらこそ」

藤堂が答えた。

「あなた方の活動は、世界の核軍縮に大きな影響を与えている」

二人は、席に着く。

美波は後方でメモを取り、吉村は静かに全体を見守っている。

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【条約成立の経緯】


「アリアさん」

藤堂が聞いた。

「あなたは、核兵器禁止条約の成立に深く関わったと伺っています」

「あの条約は、どうやって生まれたのですか」

アリアは、一瞬だけ目を閉じ、遠い記憶を呼び起こすように息を吸った。

「最初は...」

アリアが語り始めた。

「誰も私たちを相手にしませんでした」

「『核兵器を禁止する条約なんて不可能だ』」

「そう言われ続けました」


映像が切り替わるように、アリアの脳裏に当時の国連会議室が浮かぶ。

* 大国の代表が冷たい視線を向ける

* 会議の発言権すら与えられない

* NGOは「理想論」と切り捨てられる

「私たちは、国連の廊下で各国代表を待ち」

アリアが続けた。

「立ち話の数分に、すべてを賭けていました」

「『核兵器は人道的に許されない』」

「その一点だけを、必死に伝え続けたんです」

美波は、息を呑んだ。

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【被爆者の証言】


アリアの表情が、柔らかくなる。

「転機は、被爆者の方々の証言でした」

「広島、長崎の方々が」

「痛みを抱えながら、世界に語ってくれた」

アリアの記憶の中で、一人の被爆者の女性が涙をこらえながら語る姿が浮かぶ。

「私たちの苦しみを、次の世代に背負わせないでください」

「その言葉が、各国の心を動かしたんです」

アリアが言った。

「『核兵器は安全保障の道具ではなく』」

「『人間を破壊する兵器だ』と」

藤堂は、深く頷く。

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【大国の反発】


アリアの声が、少し低くなる。

「しかし、大国は強く反発しました」

「『核兵器は必要だ』」

「『現実を見ろ』」

「そう言われ続けました」

アリアの記憶の中で、会議室で大国代表が机を叩く。

条約草案が何度も破棄される。

交渉が深夜まで続き、アリアは椅子に座ったまま眠り込んだこともあった。

「でも、私たちは諦めませんでした」

アリアが続けた。

「小さな国々が、次々と賛同してくれたんです」

「『核兵器を持たない国こそ、声を上げるべきだ』と」

その連帯が、世界の空気を変えていった。

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【条約採択の瞬間】


アリアの瞳が、わずかに潤む。

「2017年7月7日」

「国連総会で、核兵器禁止条約が採択されました」

「122か国の賛成でした」

その瞬間の記憶が、鮮明によみがえる。

* 会場に響く拍手

* 涙を流す被爆者

* 抱き合うNGOスタッフ

* アリア自身も、声を上げて泣いた

「私は思いました」

アリアが言った。

「『これは終わりではなく、始まりだ』と」

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【現在へ戻る】


アリアは、藤堂を見つめる。

「藤堂総理」

「条約は成立しましたが、核兵器はまだ世界に存在します」

「核兵器は『安全保障』の名のもとに正当化されてきました」

「しかし、実際には人道的にも、環境的にも」

「そして政治的にも、破滅をもたらす存在です」

「だからこそ、日本の役割は大きいのです」


「日本は、唯一の被爆国だ」

藤堂が答えた。

「その責任をどう果たすべきか、常に考えている」

「あなたの話を聞いて」

「『理想』がどれほどの努力で支えられているか、分かりました」

「日本も、その努力に応えたい」

アリアは、微笑む。

「ありがとうございます、藤堂総理」

「あなたのような指導者がいることが」

「私たちの希望です」

美波は、胸が熱くなるのを感じた。

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【会談後】


会談が終わり、アリアが退室した後、美波は静かに藤堂に言った。

「藤堂さん...」

「ありがとうございました」

「今日の対話は、きっと大きな意味を持つと思います」

藤堂は、柔らかく微笑む。

「美波さんの提案がなければ、この会談はなかった」

「よくやった」

美波の頬が、わずかに赤くなる。

吉村は、そんな美波を見て、「若いっていいな」とでも言いたげに小さく笑った。

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5.ピースボート代表との会談

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【ある日・午後】


午後の柔らかな光が差し込む中、木村環境大臣はスマホを耳に当てていた。

「ええ、総理が直接お話を伺いたいと」

「...はい、もちろん」

「では明日の午後、官邸で」

電話を切ると、美波が控えめに入室する。

「大臣、ピースボートの方は...?」

美波が聞いた。

「来てくださるわ」

木村が答えた。

「代表の高瀬アキラさん」

「世界中で被爆者の証言を届けてきた人よ」

美波の表情が、明るくなる。

「総理にとっても、きっと大きな意味があります」

木村は、微笑む。

「あなたの動きが、官邸を少しずつ変えているわね」

美波は、照れながらも誇らしげに頷いた。

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【ピースボートとは】


ピースボート(Peace Boat)

•1983年に設立された日本のNGO。

•「地球一周の船旅」を通じて平和・人権・環境・持続可能な社会をテーマに国際交流を行う。

•ICANの創設メンバーの一つであり、日本国内での核兵器禁止条約推進活動の中心的存在。


主な活動

* 広島・長崎の被爆者を乗船させ、世界各地で証言を行う「ヒバクシャ地球一周プロジェクト」。

* 国連や各国政府との対話を促進し、核兵器禁止条約(TPNW)への理解を広める。

* 若者向けの平和教育プログラムを展開(大学・高校との連携も多い)。

* ICANの国際会議や条約締約国会議に代表を派遣し、政策提言を行う。

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【首相官邸・応接室】


翌日。

美波が、来客を応接室に案内した。

ピースボート代表、高瀬アキラ(45歳)。

日焼けした肌、穏やかな目。

世界を旅してきた人間特有の「柔らかい強さ」をまとっている。

まもなく藤堂総理が姿を見せ、二人は握手を交わした。

「遠いところを、ありがとうございます」

藤堂が言った。

「こちらこそ、お時間をいただき光栄です」

高瀬が答えた。

美波と吉村も、控えめに会釈する。

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【証言のファイル】


席に着くと、高瀬は一冊のファイルを取り出した。

「これは、私たちが世界各地で集めた『証言』です」

高瀬が説明した。

「被爆者の方々だけでなく」

「核実験被害を受けた地域の声も含まれています」

藤堂は、ファイルを手に取りページをめくる。

* マーシャル諸島の住民

* カザフスタンの核実験跡地

* オーストラリアの先住民コミュニティ

* 広島・長崎の被爆者

その一つひとつに、「核兵器がもたらす現実」が刻まれていた。

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【高瀬の語り】


高瀬は、静かに語り始めた。

「藤堂総理」

「核兵器の議論は、軍事や外交の枠に閉じ込められがちです」

「しかし、実際に影響を受けるのは『普通の人々』です」

藤堂は、真剣に耳を傾ける。

「私たちは、世界中で『声を届ける旅』を続けてきました」

高瀬が続けた。

「その中で痛感したのは、日本が発する言葉の重さです」

藤堂の表情が、わずかに変わる。

「日本が『核兵器のない世界を目指す』と明確に言うだけで」

高瀬が強調した。

「アジアの国々は動きます」

「世界も耳を傾けます」

美波は、その言葉に深く頷いた。

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【藤堂の決意】


藤堂は、ファイルを閉じゆっくりと口を開く。

「現実の安全保障環境は、厳しい」

「しかし、だからこそ理想を語る必要がある」

「日本がその役割を果たすべきだという、あなたの言葉」

「重く受け止めます」

高瀬は、穏やかに微笑む。

「ありがとうございます」

「私たちは、政府と対立したいわけではありません」

「『未来を守るために協力したい』だけです」

藤堂は、深く頷いた。

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【会談後】


高瀬が退室した後、美波は静かに藤堂に近づく。

「藤堂さん...」

「決してあきらめない人たちの想いが、届きましたか?」

「届いたよ」

藤堂が答えた。

「美波さん、そして木村さんが繋いでくれた縁」

「それが、今日の対話を生んだ」

美波の胸が、熱くなる。


吉村は、そんな二人を見て思った。

*美波さんは、私ができなかったことをしてくれている*

*官邸が、少しずつ変わりつつある*


窓の外、東京の空が広がっていた。

*諦めない人々*

*一緒に戦おう*

*世界を変えよう*

藤堂は、決意を新たにした。


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6.外務省との摩擦

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【外務省・国際会議室】


薄暗い会議室。

外務省アジア大洋州局の幹部たちが、分厚い資料を前に険しい表情を浮かべていた。

机の中央には、「官邸・市民団体との接触状況」というタイトルの文書。

「ICAN事務局長との面会...」

外務省局長・黒川が言った。

「そしてピースボート代表との官邸会談」

「これは『外交案件』だ」

「市民団体と直接やり取りされては、困る」

「核軍縮は、微妙なテーマです」

外務省審議官が続けた。

「官邸が独自に動けば、国際交渉の整合性が崩れます」

黒川は、深くため息をつく。

「総理の周りに」

「誰か『理想論』を吹き込んでいる者がいるな」

その言葉に、若手職員が小声で答える。

「...神宮寺美波秘書官かと」

黒川の目が、鋭く光った。

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【官邸・総理秘書官室】


美波は、ピースボート代表・高瀬から受け取った資料を整理していた。

そこへ、吉村が入ってきた。

「美波さん」

吉村が言った。

「外務省が、ざわついている」

「市民団体との接触を『官邸の越権』と見ているようだ」

美波は、驚いた表情を浮かべる。

「でも...」

「総理は『声を聞くことが大事だ』と...」

吉村は、静かに頷く。

「その通りだ」

「だが、外務省には外務省の論理がある」

「彼らは『外交は官僚の領域』だと考えている」


*私が、間違ったことをしたの?*

*いいえ*

*藤堂さんは、正しいと言ってくれた*

*諦めない人々の声を、届けることが*

*間違っているはずがない*


美波は、拳を握りしめた。


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第21話 完

次回:第22話「外務省との軋轢」

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