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第18話「エージェントはロックミュージシャン」

1.陽菜ちゃんのお気に入り

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【夜・自宅】


藤堂は今日も仕事で遅くなり、一人で夕食をとっている。

リビングルームから、彩花の楽しそうな声が聞こえてきた。

「今すごく人気なのよ、お母さん」

彩花が言った。

「イギリスの女性ロックバンド、SUNNY DAYっていうの」

「聴いていて、すごく元気が出る曲ばかり」

「リーダーはレモンっていう子なんだけど」

「ドラムスを叩いているのが、すごくかっこいい」

「陽菜ちゃんから教えてもらったんだけど」

彩花が続けた。

「もともと、バーチャルYouTuber、略してVチューバーっていう」

「アバターを使って配信する人がすごく人気があって」

「そのレモンっていうVチューバーが、カリスマ的な存在だったらしいの」

「生配信中にチャットでやりとりして」

「相談に乗ってくれたり、元気づけてくれたり」

「若者たちから、すごく慕われてたんだって」

「ある日」

彩花が興奮した声で言った。

「そのVチューバーのレモンと」

「SUNNY DAYのドラムス担当が同一人物だってわかって」

「すごく話題になったんだって」


「それと、SUNNY DAYの5人のメンバーは全員」

「60年から70年代に一世風靡したロックバンドの孫なんだって」

「ビートルズとか、レッド・ツェッペリンとか...」

「お母さん知ってる?」


「名前は聞いたことがあるけど」

美咲が答えた。

「私はよく知らないわね」

美咲が微笑んだ。

「お母さんの時代は、もう少し落ち着いた音楽が流行ってたから」

「でも、彩花が楽しそうなら、いいわね」

「今度、日本のロックフェスのゲストとして出演するのよ」

彩花が言った。

「陽菜ちゃんと行ってもいい?」

「いいわよ」

美咲が答えた。

「気をつけて行ってらっしゃい」

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【藤堂の回想】


藤堂は、その話を聞いていて思い出した。

*そういえば、親父(朝霧翔の父)の部屋に

たくさんCDがあった*

*その中に、ビートルズとか

レッド・ツェッペリンとかもあったな*

*若い頃、よく聴いていたらしい*

*部屋には、ギターもあって

時々弾いてたな*

*親父は、元気にしてるんだろうか?*

*もう何年も会っていない*

*翔として死んだ今

会うこともできない*

*でも、いつか...*

藤堂は、箸を置いた。

窓の外、月が出ていた。

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【その夜・書斎】


「アル」

藤堂が聞いた。

「イギリスの女性ロックバンド、SUNNY DAYって知ってる?」

「ああ、知ってるわ」

アルが答えた。

「若者に大人気よ」

「リーダーのレモンって子」

藤堂が聞いた。

「どんな人なんだ?」

「...面白い子よ」

アルが微笑んだ。


「あなたも会えるかもしれないわね」

「えっ?」

藤堂が聞き返した。

「どういう意味?」

「そのうちわかるわ」

アルが笑った。

藤堂は、不思議そうな顔をした。

*アルが、こんな言い方をするなんて*

*何か、知ってるのか?*


窓の外、東京の夜景が広がっていた。

*SUNNY DAY*

*レモン*

*会えるかもしれない?*

*どういうことだ?*

藤堂は、考え込んだ。

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2.欧州での難民受入問題

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【早朝・某所にて】


トルグの日本国内における拠点は、田中丈太郎の自宅だが、リモートで会話する際は、田中が以前、組事務所として使っていた建物内の一室だ。

この建物は、組を解散して何年も放置されていたため、外観は使用感がなく目立たない。

まさか、この建物内で諸外国のエージェントと機密情報のやりとりが行われているとは、誰も思わない。

今日は、トルグの高橋が、イギリスのエージェントであるレモンとリモートで情報交換していた。

トルグの高橋と磯村は、エージェントを探す過程では頻繁に現地を訪れていたが、エージェント契約後、通常の情報交換はリモートで行っている。

イギリスと日本の時差は9時間あり、リバプールが夜の場合、日本は早朝となる。

通常、レモンの都合を優先して交信時間を決めている。

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【SUNNY DAYとレモン】


女性5人組のロックバンド、SUNNY DAYが大人気となっている。

メンバーそれぞれが異なった音楽性を持っており、それが融合することで、特に若者の耳に響く素晴らしい曲を数多く作り出していた。

各メンバーは、担当する楽器の演奏技術はもちろん、全員がボーカリストとして抜群の歌唱力を持っている。

そのため、特にライブでは圧倒的なパフォーマンスを見せた。

本国でナンバー1ヒットを連発した後、世界中でヒットチャートの常連となりつつあった頃、これまで誰も知らなかった各メンバーの素性が、ネット上で明かされた。

実は、メンバー全員が、ブリティッシュ・ロックの黄金期を支えた伝説のロックバンド——ビートルズ、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ピンク・フロイド、クイーンに所属していたメンバーの孫たちであった。

メンバーの素性が明かされた頃から、歌詞はメッセージ色が強くなり、公式SNSから発信されるメッセージの内容も明らかに変わった。

かつてジョン・レノンが歌っていた曲に呼応するように、世界平和を願う言葉が多くなり、若者たちの大きなムーブメントを作っていった。

実は、このバンドのリーダー、レモン22歳(本名ではなく、Stage name=芸名)は、トルグのエージェントである。

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【キャヴァーン・クラブの向かいのパブ】


レモンが高橋とリモートで話しているこの場所は、1960年代、イギリス・リヴァプールにおけるロックンロール界の中心地となった「キャヴァーン・クラブ」の向かいにあるパブ。

この店は、レモンが経営している店だ。

店舗の奥、関係者以外立ち入り禁止の一室、レモンがテレビ電話でトルグの高橋と話をしている。


「今日は、難民受入問題について詳しく教えてくれるかな」

高橋が聞いた。

「いいわよ」

レモンが答えた。

「高橋さんも知ってるとおり、難民は今も増え続けている」

「理由は、ウクライナもそうだけど」

「もっと前から、紛争や戦争が繰り返されていること」

「それと、迫害・人権侵害や治安悪化」

「そして、洪水や干ばつなどの気候変動などが、難民を生み出している」

「それで、これまでにヨーロッパの特に西欧・南欧が多くの難民を受け入れていて」

レモンが続けた。

「中でも、ドイツが特に多く受け入れているんだけど...」

「難民受け入れによって、様々な問題が発生したため」

「政策転換を迫られている国が多いようね」

「どのような問題が発生したのかな?」

高橋が聞いた。

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【難民受入の6つの問題】


「大きな問題は、6つね」

レモンが説明を始めた。

「1つめは、治安・安全保障上の問題」

「一部の難民・移民が関与したテロ事件が、社会不安を増幅したこと」


「2つめは、社会統合の失敗」

レモンが続けた。

「教育・雇用・福祉ね」

「大量受け入れ後、教育・雇用・福祉の統合が追いつかず」

「社会的摩擦が発生したこと」


「3つめは、政治的影響」

「右派台頭・社会の分断」

「難民問題は、欧州政治を根底から揺るがす争点になっている」


「4つめは、EU制度の限界」

レモンが説明した。

「ダブリン規則の破綻・加盟国の対立ね」

「『ダブリン規則』とは、難民は最初に到着したEU加盟国で庇護申請を行うというEUの基本ルール」

「この仕組みで、地中海沿岸国のギリシャやイタリアに負担が集中してしまった」

「つまり、『最初の国に全責任を押し付ける仕組み』が」

「大量流入と加盟国の分断によって、維持不能になったということ」


「5つめは、受け入れ国の都市インフラの逼迫」

「住宅不足・家賃高騰問題や、仮設キャンプが恒常化による衛生・治安問題など」


「6つめは、社会的摩擦・文化的対立」

「宗教・生活習慣の違いから、地域コミュニティとの摩擦が増加したこと」


「それで、各国は」

レモンが結論づけた。

「難民受け入れに制限をかける方向になりつつあるという状況になっている」

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【イギリスの状況】


「イギリスにおける難民受け入れ状況はどうなのかな?」

高橋が聞いた。

「イギリスは、EU加盟国ではないことと」

レモンが答えた。

「欧州大陸との間に英仏海峡があるということが、他の欧州諸国と違っているんだけど」

「イギリスでも、コロナ禍以後、移民の流入が止まらず」

「EU離脱前より増えているわ」

「特に、イギリス独自の事情としては」

「『ルワンダ移送政策』の失敗が尾を引いている」


「ルワンダ移送政策とは」

高橋が説明した。

「イギリスに不法入国して亡命申請した人々を、東アフリカのルワンダに移送し」

「同国で難民申請手続きを行うという政策だね」


「英国最高裁が『ルワンダは安全でない』と判断し、違法と判決が降りているし」

レモンが続けた。

「難民の人権侵害、違法であるとして、人権団体や欧州人権裁判所から批判されている」


「それで、どうなった?」

高橋が聞いた。


「これまで移民を推進してきた労働党が」

レモンが答えた。

「ルワンダ移送政策を撤回して、新たな移民政策を発表したの」

「労働党政権は、移民政策の失敗を正式に認めて」

「反移民に政策転換したわ」

「だから、ここ最近のイギリスの有権者が最も重要視する課題は移民政策になっていて」

「労働党の支持率が下がっている」

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【その他の問題】


「移民政策以外で、何か情報があるかな?」

高橋が聞いた。


「追加で言うなら、デモの話かな」

レモンが答えた。

「イギリスでは最近、環境やLGBTQ、BLM、パレスチナ支援などを巡って」

「様々なデモが起きていて」

「暴力的な活動も少なくないわ」

「これも大きな問題ね」


「BLMとは」

高橋が説明した。

「ブラック・ライブズ・マター、つまり『黒人の命は大切だ』という運動だね」


「そうよ」

レモンが頷いた。

「2020年にアメリカで黒人男性が警察官に命を奪われた事件を発端に広がっている」

「人種差別抗議運動のこと」


「なるほどね」

高橋が言った。

「日本ではあまり報道されていないから」

「一般の人は知らない話ばかりだ」

「日本のマスメディアの報道には、問題があるように思えるな」


「今日は、このくらいにしておく?」

レモンが聞いた。

「そうだな」

高橋が答えた。

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【日本訪問の話】


「ところで」

レモンが言った。

「今度、私たち日本へ行くのよ」

「高橋さんもよかったら、演奏を聴きに来てよ」

「日本に来るのか」

高橋が驚いた。

「コンサートは若い人ばかりなんだろ?」

「行けたら行くよ」


「ところで」

高橋が提案した。

「日本に来るのなら、藤堂総理に会ってみないか?」

「レモンと考え方の通じるところがあると思うよ」

「日本の総理大臣か」

レモンが興味を示した。

「興味あるわね」

「じゃあ、藤堂総理に話してみるよ」

高橋が言った。

「スケジュールの都合もあるだろうしね」

「OKよ」

レモンが微笑んだ。

画面が消えた。

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【高橋の独白】


高橋は、画面を見つめた。

*レモンと藤堂総理*

*この二人が会ったら*

*何が起きるだろうか*

*面白いことになりそうだ*


高橋は、微笑んだ。

窓の外、東京の空が明るくなり始めていた。

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3.レモンの心を動かしたスピーチ

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【官邸・応接室】


トルグの高橋が、藤堂総理を訪れた。

高橋の肩書きは、フリー・ジャーナリストということにしている。

高橋も磯村も、時々藤堂総理に海外のエージェントから聞いた情報を伝達するために官邸を訪れている。

この日、高橋は一通り情報を説明した後、レモンが来日する話をした。


「総理」

高橋が言った。

「エージェントのレモンが、SUNNY DAYっていうロックバンドのリーダーだってことご存じですか?」

「レモンがトルグのエージェントだってことは知りませんでしたが」

藤堂が答えた。

「SUNNY DAYは知ってますよ」

「実は娘がファンなんです」

「そうなんですか」

高橋が驚いた。

「それならちょうどいい」

「先日、リモートで話をしたときに」

高橋が続けた。

「SUNNY DAYが世界ツアーの途中で、来日公演の予定があると聞いたので」

「レモンに、是非藤堂総理と会ってみませんかと勧めたら」

「会いたいと返事をくれたんですよ」

「どうでしょうか?」

「トルグのエージェントで、ロックバンドのリーダーというのは興味ありますね」

藤堂が答えた。

「是非会わせてください」

「来日公演が来週の土曜日夜なのですが」

高橋が聞いた。

「スケジュールの都合はいかがですか?」


藤堂は、スマホでスケジュールを確認し、答えた。

「その日の夜なら、今のところ空いていますよ」

「それでは、レモンとアポとっておきます」

高橋が言った。

「詳しいことは、後ほど電話連絡しますのでよろしくお願いします」

「了解しました」

藤堂が頷いた。

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【コンサート終了後の楽屋】


藤堂は、高橋に指定された時間に楽屋を訪れた。

バンドの他のメンバーは既にホテルに向かっており、レモン一人が待っていた。

小柄で可愛らしい顔だが、キリッとした鋭い眼差しでこちらを見ている。


藤堂は「娘がファンで、いつもあなた方の曲を聴いてますよ」などの雑談から入り、本題に移った。

「レモンさんは」

藤堂が言った。

「音楽活動を通じて若者の絶大な人気を得ていますが」

「音楽を通じてメッセージを届けるだけでなく」

「慈善活動を熱心にされているそうですね」

「テイラー・スウィフト、ビヨンセ、リアーナ、レディー・ガガなど」


レモンが答えた。

「災害支援や慈善活動をしてるアーティストは大勢いらっしゃる」

「私の寄付は、そうした人たちに比べるととても少ない金額だわ」

「特にテイラー・スウィフトはすごい方なの」

レモンが続けた。

「あれほど世界中で人気を得ているにもかかわらず」

「それにおごることなく、匿名で継続的に支援していらっしゃる」

「本人が公表していないので推測ベースになるけど」

「支援した国の数は10カ国を超え」

「金額は累計で少なくとも5,000万ドルを超えているそうよ」


「あなたも、テイラー・スイフトさんの影響で、そういった活動を始めたのですか?」

藤堂が聞いた。

「私は音楽が好きで、ミュージシャンになった」

レモンが答えた。

「だから曲作りも演奏も歌も、全部楽しいわ」

「でも、ミュージシャンは人気が出れば出るほど」

「音楽を届けるだけではいけないと思うようになった」

「その大きなきっかけは」

レモンの目が輝いた。

「ある人のスピーチを聞いたことなのよ」

「ある人とは?」

藤堂が聞いた。

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【ムーティのスピーチ】


「ここで私が『その方がこんな話をしました』と要約して説明することもできるけど」

レモンが言った。

「私には、このスピーチのすべての言葉が刺さるの」

「藤堂さんに、このときの動画をお見せするから」

「本人の声を全部聞いてもらいたい」

そう言って、彼女はスマホを操作しながら話を続けた。


「藤堂さんはご存じかしら?」

「毎年1月1日に、ウィーン・フィル・ニューイヤーコンサートという」

「世界最高峰のクラシックコンサートがオーストリアで行われて」

「世界中に中継されるの」

「その日の指揮者は、世界的指揮者の中から事前に選ばれるのよ」

「2021年の指揮者は」

レモンが説明した。

「イタリアが生んだ世界的マエストロの、リッカルド・ムーティ」

「この年は、コロナ禍のせいで」

「歴史上初めての無観客配信で演奏が行われたの」

「プログラムにある全曲の演奏が終わり」

「普通なら観客席から大きな拍手が起こって」

「いつもならアンコール曲へと続くところ」

「この日は、拍手も歓声もなかった」


「ムーティは、指揮台から降りると」

レモンが続けた。

「空っぽの客席に向き合い」

「しかしテレビカメラ越しに繋がっている数千万人に向かって」

「力強い声で語りかけた」


彼女は、YouTubeを開いて藤堂に見せた。

「英語でのスピーチだから、藤堂総理も問題ないわね」

すると、そのときのスピーチが再生された。

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リッカルド・ムーティの語り

「昨年1年間が人類全てにとって厳しい年であったことは、改めて申すまでもないでしょう」

「ラテン語では、horrendus annusもしくはhorribilis annusと表現します」

「しかし今、私たちはここにいて」

「音楽が運んでくれるメッセージを信じて演奏しています」


「音楽家には武器があります」

「これは人を殺さない、花ともいうべき、音楽という武器です」

「音楽は、喜びや希望、平和、兄弟愛」

「そして何よりも、大文字のLで始まるLOVE(愛)を」

「みなさまにお届けすることができます」


「音楽が大切なのは」

「よくいわれるようにエンターテインメントであるからではありません」

「私たち音楽家にとって、音楽は仕事ではなく、使命なのです」

「その使命を伝えるために、音楽家は働いているのです」


「では何の使命か?」

「それは、この社会をより良いものにする、という使命です」

「新しい世代の若者にとって、この1年は」

「物事を深く考えられないままに過ぎてしまいました」

「自分の健康のことを始終考えていなければならなかったからです」

「身体の健康は大切ですが、精神の健康も同じくらいに大切です」

「音楽は、その精神を健康に保つのに必要なのです」


「世界中の知事、大統領、首相のみなさまに」

「私からお願いしたいことがあります」

「将来社会を良くするためには」

「音楽という文化は欠かすことができない要素であるという点を」

「どうかお考えください」

「この思いを込めて『美しく青きドナウ』を演奏いたします」

「この美しい曲の音の波の中に」

「喜びと悲しみが、生と死がいっぱいに詰まっていることをお聴きください」

「今年はいい年になりますように!」

「私の仲間のウィーン・フィルのメンバーとともに」

「彼らの美しいドイツ語で新しい年のご挨拶を申しあげましょう」

「新年あけましておめでとうございます!」

________________________________________

【藤堂の感動】


「どうですか?」

レモンが聞いた。

「藤堂さんには響きましたか?」

「すごく響きましたよ」

藤堂が答えた。

「クラシック音楽の巨匠が、このようなスピーチをしたんですね」

「我々と同じ思いを持っている」


「ムーティは、この時」

レモンが言った。

「世界中の知事、大統領、首相に語りかけた」

レモンは」

レモンが続けた。

「国を治める者は、その国に暮らすすべての人々を幸せにする義務があると思っているの」

「それをしないで、力ずくで領土を広げようとしたり」

「他国に干渉したりする姿を見ていると」

「とても悲しくなるの」


「藤堂さんのことは」

レモンが言った。

「トルグの高橋さんや磯村さんから聞いているわ」

「『世界を変えたい。戦争のない世の中にしたい』と」

「いつもおっしゃっていると」

「私も同じ思いなの」

「私は、若者を扇動したいとか」

レモンが続けた。

「プロパガンダを流布したいなどと思っている訳ではない」

「音楽で世界中の人たちとつながって」

「同じ思いを共有したい、それだけよ」


「あなたの言葉にも感動しました」

藤堂が言った。

「是非一緒に世界を変えましょう」

「世界中の子供たちが幸せに暮らせる世の中にしましょう」

そして、二人は再会を約束して別れた。

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【藤堂の独白】


藤堂は思った。

*今日、レモンさんに会ってよかった*

*彼女なら、きっと世界中の若者の心を一つにできる*

*平和のメッセージを届ける音楽の力*

*音楽家というのも、素晴らしい仕事だ*

*先日の八重樫幹事長の指摘で

少しショックを受けたが*

*今日、図らずも若い女性に勇気づけられたな*


窓の外、東京の夜景が広がっていた。

*レモン*

*世界中の若者とつながる力*

*音楽という武器*

*一緒に世界を変えよう*

藤堂は決意を新たにした。

________________________________________

第18話 完

次回:第19話「神宮寺美波の声」

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