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第17話「八重樫との対話」

________________________________________

1.国内軍需産業の問題

________________________________________

【閣議後】


木村環境大臣が、藤堂総理に声をかけた。

「美波さんを雇っていただき、ありがとうございました」

「仕事ぶりの方は、いかがでしょうか?」

「今はまだ吉村さんからレクチャーを受けているところですが」

藤堂が答えた。

「吉村さんが『神宮寺さんは飲み込みが早い』って言っていましたよ」

「そうですか。それはよかったです」

木村が安堵した。

「私は推薦者ですから、気になってるんですよ」

「大丈夫ですよ。彼女なら問題ないです」

藤堂が微笑んだ。

「神宮寺さんをよく知ってるみたいな口ぶりですね」

木村が言った。

「いえいえ、私も総理大臣として色々な方と日々接していますから」

藤堂が答えた。

「人を見る目が養われてきましてね」


「それにしても、若いっていいですね」

「官邸内がすごく明るくなりました」

「総理」

木村が笑った。

「今の言葉は、全閣僚の過半数を敵に回しますよ」

「用心してください」

「あなたまで、橘さんみたいなことを言うのですか?」

藤堂が苦笑した。

「失礼しました。冗談が過ぎました」

木村が謝った。


「ところで総理、環境省が進めている脱炭素先行地域の選定の件で」

「兵庫県姫路市の取り組みについてなんですが...」

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【その夜・官邸】


藤堂はアルと、「朝霧翔として」学生時代に神宮寺とボランティア活動をしていた頃の思い出話をしていた。

「彼女は、人種も言葉も宗教も異なる、どんな人に対しても」

藤堂が言った。

「いつもフレンドリーに接して、すぐに仲良くなれる能力の持ち主でしたよ」

「それじゃあ、官僚たちともうまくやれるかもしれないわね」

アルが言った。

「そうだな」

藤堂が頷いた。


「あの頃、彼女が」

藤堂が続けた。

「『お金を持っている国々は、人を殺すための兵器に莫大なお金を使っている』」

「『それを苦しんでいる人々に回すことはできないのかしら』と言っていたのが」

「一番印象に残っているんだけど」

「日本の防衛費も増える一方だからね」

「安保政策上やむを得ないことはわかっているが」

藤堂が考えた。

「兵器を少しでも安く手に入れる方法はないのかな?」

「日本の防衛産業は、新規参入が難しい業界であり、企業数が限られる」

「国が上得意先だから、競争が働かず、効率化が進まないのではないか」

「それが故に、価格が高くなりやすい構造になっているのではないか?」


「完全な言い値ではないけれど」

アルが答えた。

「競争が弱く、価格が高くなりやすい構造ではあるわね」


「でもね」

アルが続けた。

「実は長年手付かずになっているのには、大きな理由があるの...」

________________________________________

【翌日】


藤堂は、関係省庁に対して、内々に実態の調査を命じた。

ところが、この動きは「総理の考え方は、何も事情を知らない素人の考え方だ」と、業界および専門家たちの猛反発を受けることとなり、マスコミも一斉に酷評した。

マスコミが騒いだことは、藤堂の耳にも入っていた。

「内々に出した指示が、何故漏れるのだろう?」

藤堂が呟いた。

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【官房長官の訪問】


官房長官が、心配して総理官邸に駆けつけた。

「総理」

橘が言った。

「八重樫幹事長が、私のところに来てこう言ったのよ」

「『総理は思い込みですぐに動くタイプなのか?』」

「『簡単に手を出すと大変な事になるんだ』」

「『大きなリスクがあるんだぞ』と」


「大丈夫だ」

藤堂が答えた。

「話が整理できたら説明する」

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【八重樫の視点】


八重樫幹事長も、かつて日本を変えてやると高い志を持って政界入りした。

そして、理想と大きく異なる現実世界を思い知る。

そして今、藤堂に、かつての自分の姿を見ていた。

*あの頃の俺も、こうだった*

*理想を掲げて、突っ走った*

*そして、何度も失敗した*

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【実態】

実は、日本の防衛産業には、制度的、構造的要因があり、企業が効率化しても利益が増えにくい構造になっていたため、やり方を誤ると産業基盤が崩壊する恐れがあった。

藤堂総理が、マスコミ報道を無視したまま、一定期間が経過した。

実はリスクがあることをアルから聞いていたので、調査を指示した際も、それを踏まえて「慎重に頼む」と釘を刺していた。

が、総理は、マスコミの執拗な問いかけに「ノーコメント」を押し通した。

テレビでは、軍事評論家が「安保の素人総理大臣だ」と酷評した。

そして、ある時。

マスコミからのインタビューに答えて、こう言った。

「方向性が固まった」と。

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【アルの説明】


実は、最初にこの話題になったとき、官邸の執務室でアルは言った。

「防衛産業の効率化による単価の引き下げの問題が」

「長年手付かずになっているのには、大きな理由があるの」

「日本の防衛産業は、『競争が弱く、効率化のインセンティブが低い』構造にある」

アルが説明した。

• 言い値ではないが、価格が高くなりやすい

• 効率化が進みにくい制度

• コスト削減の余地はある

• ただし産業基盤を壊さないバランスが必要


「そして、もっと大きな問題がある」

アルが続けた。

• 日本の防衛産業は「撤退リスク」が高い

• 企業が撤退すると、修理・補給ができなくなる

• 結果として防衛力が弱まる

「つまり」

アルが結論づけた。

「安くしすぎると、逆に国の安全保障が危うくなる」

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【藤堂の準備】


藤堂は、このアルの説明を受け、『藤堂プラン』を確認した。

藤堂誠司も、同じようなことを考えて検討していた。

そこには、藤堂誠司が考えた解決案と、力になってくれる企業コンサルタントの名前などがあった。

そして、藤堂総理が実態調査を命じたとき、「製造単価を下げられない要因は何か?」とともに、「簡単に解決できない特殊要因があるのではないか?」ということも含めて調べるよう命じていた。

そして、実態調査の結果を受けて、「コスト削減だけを追うと、とんでもないことになりかねない」ことを踏まえて、アルと相談の上、関係各省庁と議論を重ねて、改革案を練り上げたのである。


《改革案》

① 武器輸出の拡大(量産効果でコストを下げる)

② 国際共同開発(F-35方式)

③ 原価計算方式の見直し(効率化した企業が利益を得られる仕組みへ)

④ 民生技術の活用デュアルユース

⑤ 中小企業の参入促進


藤堂は結論づけた。

この問題は、現状ではサプライチェーンの効率化という側面で考えるべきであり、防衛費を削減するためには、その根本的な問題、つまり世界的な軍縮のような大きな問題を解決しないといけないのだと。

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【記者会見】


やがて、藤堂総理は記者会見した。

新しい政策を説明するということではなく、報道による誤解を解いてもらうための説明を行った。

もちろん、安保政策上の機密事項には触れることなく、わかりやすい説明を心がけた。

「私が防衛産業の効率化について調査を命じたことが」

藤堂が説明した。

「『素人の考え』と批判されました」

「しかし、私は何も考えずに動いたわけではありません」

藤堂が続けた。

「日本の防衛産業には、特殊な構造があります」

「企業数が限られ、競争が働きにくい」

「しかし、だからといって、安易にコスト削減を求めれば」

「企業が撤退し、修理・補給ができなくなる」

「結果として、国の防衛力が弱まる」


記者たちが、真剣にメモを取る。

「私が調査を命じたのは」

藤堂が言った。

「この構造を理解した上で」

「どうすれば、産業基盤を守りながら」

「効率化できるかを考えるためです」

「そして、改革案をまとめました」


藤堂が説明した。

① 武器輸出の拡大

② 国際共同開発

③ 原価計算方式の見直し

④ 民生技術の活用

⑤ 中小企業の参入促進

「これらは、産業基盤を守りながら」

藤堂が続けた。

「効率化を進める方法です」

「私は、国の安全保障を守りながら」

「無駄を省く」

「その両立を目指しています」

記者席から、拍手が起きた。

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【八重樫幹事長の訪問】


八重樫幹事長は、この記者会見を聞いて知った。

「藤堂総理は、後先考えずに突っ走っている訳ではないのだ」と。

そして、官邸に藤堂総理を訪ねた。


「総理」

八重樫が執務室に入った。

「八重樫さん」

藤堂が立ち上がった。

「どうぞ、お座りください」

「いや、座っては言えない」

八重樫が言った。

「立ったまま、失礼する」

「...?」

藤堂が不思議そうに見る。

「あなたのことを、誤解していた」

八重樫が深く頭を下げた。

「私は、あなたが思い込みで動く人だと思っていた」

「理想論だけで、現実を見ていないと」

藤堂は黙って聞いていた。

「しかし、違った」

八重樫が顔を上げた。

「あなたは、リスクを理解した上で」

「慎重に、確実に、改革を進めていた」

「私が見誤っていた」

「申し訳ありませんでした」


「八重樫さん」

藤堂が言った。

「頭を上げてください」

「あなたの懸念は、正しかったんです」

「えっ?」

八重樫が驚いた。

「防衛産業の改革は、確かにリスクが大きい」

藤堂が説明した。

「あなたが『大変なことになる』と警告してくれたから」

「私も、より慎重に検討できた」

「ブレーキをかけてくれる人が、必要なんです」

藤堂が続けた。

「だから、あなたに幹事長をお願いした」


八重樫は、言葉を失った。

「私は...」

八重樫が呟いた。

「あなたを止めようとしていたんですよ」

「知っています」

藤堂が微笑んだ。

「でも、それが正しかった」

「あなたがいなければ、私は暴走していたかもしれない」


八重樫の目が潤んだ。

「総理...」

「八重樫さん」

藤堂が真剣な顔で言った。

「あなたには、これからも」

「私にブレーキをかけてほしい」

「私が間違った方向に行きそうになったら」

「遠慮なく、止めてください」

「それが、あなたの役目です」

八重樫は、深く頷いた。

「...わかりました」

「あなたの暴走を、私が止めます」

「ありがとうございます」

藤堂が言った。

二人は、握手を交わした。

その瞬間、アクセルとブレーキが、一つのチームになった。

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【その夜・書斎】


「八重樫さんとの関係が、深まったわね」

アルが言った。

「ああ」

藤堂が頷いた。

「彼は、私に必要な人だ」

「突っ走る私を、止めてくれる人」


「でも」

アルが言った。

「あなたも成長しているわ」

「リスクを理解して、慎重に動けるようになった」

「まだまだだよ」

藤堂が微笑んだ。

「これから、もっと大きな挑戦が待っている」


窓の外、東京の夜景が広がっていた。

*防衛産業の改革*

*これは、ほんの始まりだ*

*本当の戦いは、これからだ*

藤堂は決意を新たにした。

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2.藤堂家での歓迎会

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【藤堂家・夕方】


「我が家でお客様と食事をするなんて、随分久しぶりね」

美咲が言った。

「新しい秘書って、どんな方なのかしら?」

「会えばわかるよ」

藤堂が答えた。

「お父さんの新しい秘書さん」

「秘書さん?」

彩花が目を輝かせた。

「おじさん?」

「いや、若い女性だよ」

藤堂が答えた。

「えー!」

彩花が叫んだ。

「お父さん、若い女性の秘書?」

健太が意味深な笑みを浮かべた。

「い、いや、そういうんじゃなくて」

藤堂が慌てた。

「優秀な人だから、秘書として雇っただけで...」

「ふーん...」

美咲が言った。

「お父さんが我が家に招くなんて、気になるわよね」

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【美波の到着】


ピンポーン。

ドアホンが鳴った。

「私が出る!」

彩花が走っていく。

ドアが開く。

「こんにちは」

美波が笑顔で立っていた。

手には、お菓子の箱を持っている。

「わあ、きれい!」

彩花が声を上げた。

「はじめまして」

美咲が玄関に出てきた。

「お父さんの秘書さんって、こんなに若いの?」

「はじめまして」

美波が答えた。

「神宮寺美波です」

「美波って呼んでください」

「美波さん、どうぞ上がって」

藤堂が迎えた。

「お邪魔します」

美波が靴を脱ぐ。

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【リビング】


「これ、つまらないものですが」

美波がお菓子の箱を差し出した。

「わあ、ありがとうございます!」

彩花が受け取った。

「美波さん、座ってください」

藤堂が言った。

「ありがとうございます」

美波がソファに座る。


「美波さん」

美咲が聞いた。

「美波さんは、海外でボランティア活動を長くなさっていたと聞いてるけど」

「どこに行ってたんですか?」


「アフリカとか、アジアとか」

美波が答えた。

「発展途上国ばかりです」

「すごい!」

彩花が目を輝かせた。

「どんなことをしてたんですか?」

「困っている人を助ける仕事をしてたの」

美波が説明した。

「井戸を掘ったり」

「学校を作ったり」

「病院で看護の手伝いをしたり」

「色々ですね」

「井戸?」

彩花が聞いた。

「うん」

美波が頷いた。

「水が無いところでは、井戸を掘ることがとても大事なの」

「水があれば、野菜が育つし」

「病気も減るし」

「生活が良くなるの」

「すごいね!」

彩花が言った。

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【夕食】


テーブルに、料理が並ぶ。

「美波さん、どうぞ」

美咲が言った。

「いただきます」

全員で手を合わせた。

「美味しい!」

美波が言った。

「奥さん、料理上手なんですね」

「いえいえ」

美咲が答えた。

「たいしたものは作っていませんよ」

「藤堂がそれでいいというので」

「やっぱり、家庭の味っていいですね」

美波が微笑んだ。


「発展途上国って、便利悪いんじゃないの?」

健太が聞いた。

「日本に比べたら、便利悪い面はあるけど」

美波が答えた。

「慣れたら大丈夫よ」

「贅沢しなきゃね」


「健太くんは、カンボジアって国、知ってる?」

美波が聞いた。

「お父さんから聞いたことない?」

藤堂はドキッとした。

*何でカンボジアのことを聞くんだ?*

「特に聞いたことはないけど...」

健太が答えた。

「カンボジアって、日本の人は暑い国っていうイメージを持っている人もいると思うけど」

美波が説明した。

「住んでみると、結構快適なのよ」

「日本みたいな猛暑はないし、極寒もないから」

「冷暖房があまり必要ないのよ」

「スーパーでは、日本人の口に合った惣菜やお弁当も売ってるし」

「日本人の医者がいる病院もいくつかあるわ」

「へえ、そうなんだ」

健太が言った。


「彩花さんにも、健太くんにも、知っておいて欲しいことがあるの」

美波が真剣な顔で言った。

「10年前に発表された、ある報告書には」

「『世界で最も裕福な62人が持つ資産の合計は』」

「『経済的に不遇な下位部分の36億人の総資産にほぼ等しい』と書かれていたの」

「つまり、世界における貧富の差がとても大きいこと」

「そして、生活に苦しんでいる人の数がものすごく多いということなのよ」

彩花と健太は、真剣に聞いていた。


「彩花さん、健太くん」

美波が続けた。

「もしも機会があったら、海外に行って自分の目で世界を見てほしい」

「もちろん、ニューヨークやパリに行くのも勉強になるけど」

「アジアやアフリカへ行けば」

「今の自分がどれだけ恵まれているか、よくわかるはずよ」


藤堂は、黙って聞いていた。

*美波さん...*

*変わってないな*

*昔と同じだ*


「仕事は辛くなかったの?」

彩花が聞いた。

「...正直、辛いときもあったわ」

美波が答えた。

「でも、助けられた人の笑顔を見ると、うれしいから」

「頑張れるの」

「それに、私には家族がいるから」

「日本で待っていてくれる人がいるから」

「頑張れました」

彩花は、何かを感じ取ったようだった。

*この人、優しい人だな*

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【美波の帰り際】


「今日は、ありがとうございました」

美波が玄関で言った。

「いえ、こちらこそ」

藤堂が答えた。

「美波さん、また来てね!」

彩花が言った。

「はい、また来させてください」

美波が微笑んだ。

「いつでもどうぞ」

藤堂が言った。

「それでは、失礼します」

美波が頭を下げた。

ドアが閉まる。

彩花が、藤堂に小声で言った。

「お父さん、美波さんのこと、好きなの?」

「えっ!?」

藤堂が驚いた。

「そ、そんなわけないだろ」

「ふーん...」

彩花が言った。

「でも、お父さん、美波さんを見る目が優しかったよ」

「そ、そうか?」

藤堂が動揺した。

「まあ、いいけど」

美咲が微笑んだ。


藤堂は心の中で思った。

*私は誠司さんに家族を任されている*

*ほかの女性に特別な感情を抱いていない...はず...*

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【翌日・党本部】


藤堂が、八重樫の部屋を訪れた。

ノックする。

「どうぞ」

八重樫の声。

「八重樫さん、お邪魔します」

藤堂が入った。

「総理」

八重樫が驚いた。

「どうされました?」

「いえ、近くに来たので」

藤堂が答えた。

「ちょっと雑談でも」

「雑談?」

八重樫が不思議そうな顔をした。

「珍しいですね」

「総理が雑談に?」

「たまには、いいじゃないですか」

藤堂が微笑んだ。

「座ってください」

八重樫が勧めた。

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【八重樫の部屋】

藤堂が、ソファに座る。

八重樫が、お茶を淹れた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

藤堂が受け取った。


「八重樫さん」

藤堂が聞いた。

「八重樫さんは、なぜ政治家になったんですか?」

「...突然ですね」

八重樫が驚いた。

「でも、いい質問だ」

八重樫は、少し考えた。

「私も、日本を変えたかった」

「あなたと同じです」

「でも、変えられなかった?」

藤堂が聞いた。

「...そうです」

八重樫が頷いた。

「現実の壁に、何度もぶつかった」

「そして、諦めた」

八重樫の目が、遠くを見ていた。

「私は、慎重すぎたんです」

「リスクばかり見て」

「挑戦できなかった」

「失敗を恐れて」

「何もできなかった」

「...」

藤堂は黙って聞いていた。

「だから」

八重樫が続けた。

「あなたを見て、羨ましかった」

「恐れずに、突き進む姿が」

「でも、今は?」

藤堂が聞いた。

「...今は、違います」

八重樫が微笑んだ。

「あなたを見て、思い出したんです」

「あの頃の、熱い想いを」

「私が諦めた、夢を」

「あなたが、叶えようとしている」

「八重樫さん...」

藤堂が言った。

「総理」

八重樫が真剣な顔で言った。

「あなたは、諦めないでください」

「私の分まで、突っ走ってください」

「私が、ブレーキをかけますから」

「もちろん、あなたが走るのをやめさせるという意味ではないですよ」

八重樫が続けた。

「事故を起こさないように速度調整したり」

「時には回り道を勧める場合もあるでしょう」

「遠慮なく意見を言わせてもらうつもりなので」

「安心して、アクセルを踏んでください」

藤堂の目が、潤んだ。

「ありがとうございます、八重樫さん」

「いえ」

八重樫が首を振った。

「私こそ、あなたに感謝しています」

「あなたが、私の夢を叶えてくれる」

二人は、笑顔で握手した。

その瞬間、二人の絆が、さらに深まった。

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【帰り道】


藤堂が、党本部を出る。

空を見上げた。

青空が広がっていた。

*八重樫さん*

*あなたの夢も、私の夢も*

*同じなんだ*

*なら、一緒に叶えよう*

藤堂は、前を向いて歩き出した。

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【その夜・官邸】


「八重樫さんとの関係が、さらに深まったわね」

アルが言った。

「ああ」

藤堂が頷いた。

「彼は、私のパートナーだ」

「アクセルとブレーキ」

「二人で一つのチーム」

「でも」

アルが言った。

「八重樫さんは力強い味方になりそうね」

「でも、厳しい意見にも耐えなきゃだめよ」

「わかってる」

藤堂が答えた。

「覚悟はできてる」


窓の外、東京の夜景が広がっていた。

*今日は、温かい一日だった*

*家族との時間*

*八重樫さんとの絆*

*でも、明日からまた戦いだ*

藤堂は決意を新たにした。

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3.経済的協力の限界

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【ある日・官邸】


このところ、八重樫幹事長は官邸に頻繁に訪れるようになっていた。

藤堂総理と政策議論などを行って、考え方のすり合わせを行っている。


「ところで」

八重樫が言った。

「藤堂総理は就任早々、例のフェイク動画で大騒動を起こしましたが」

「あれはそもそも、何がしたかったのですか?」

「あれは社会実験ですよ」

藤堂が答えた。

「日本の安全保障や日米同盟について、世間の人はどれだけ関心があるのか」

「あのフェイク動画で、どれだけの反響があるのか」

「マスコミの反応も含めて、見てみたかったんです」

「総理大臣自ら社会実験を」

八重樫が驚いた。

「しかも、取り上げた問題もあのような重い内容...」

「さすが藤堂総理」

「あなた以外に、あんなことをする人はいないでしょうね」

「それで」

八重樫が続けた。

「武力放棄だとか、永世中立国だとかの話にした理由はあるんですか?」

「私の大きな夢は」

藤堂が真剣な顔で言った。

「世界から戦争をなくすことなんです」

「もちろん、簡単なことではありません」

「私がいくら頑張ったところで、在任期間中に成し遂げられるようなことでないのは」

「重々承知しています」

「しかし、この問題から逃げたくはないのです」

藤堂が続けた。

「世界をつなげば、戦争は避けられるはずだ」

「相互依存が深まれば」

「誰も戦争なんてできなくなる」

八重樫は、しばらく黙って藤堂を見つめた。

そして、ゆっくりと口を開く。

「総理...」

「その考え方では、戦争は防げませんよ」

「それは、どういう意味ですか?」

藤堂が聞いた。

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【八重樫の論理的説明】


八重樫は、まるで講義のように、しかし厳しく語り始めた。

「総理が信じているのは、『リベラリズム』です」

「民主主義、貿易、国際機関...」

「それらが平和をつくるという考え方です」

「私も、かつてそれが正しいと思っていました」

藤堂はうなずく。

「しかし現実には」

八重樫が続けた。

「経済的相互依存が深まっても、戦争は起きる」

「第一次世界大戦前の欧州は」

「当時としては世界で最も相互依存が進んでいました」

「それでも戦争は起きた」

藤堂の表情が曇る。

「国際政治は、『無政府状態』です」

八重樫が説明した。

「つまり、国家を強制的に止める『世界政府』は存在しない」

「だから国家は」

「どれだけ貿易していても」

「安全保障上の脅威を感じれば、戦争を選ぶ」

「これが、リアリズムの核心です」

「...相互依存より、恐怖の方が強いということか」

藤堂が呟いた。

「その通りです」

八重樫が頷いた。

「国家は、『生き残り』を最優先にする」

「経済よりも、安全保障が優先される」

________________________________________

【コンストラクティビズムの視点】


八重樫は、さらに踏み込む。

「そして、もう一つ」

「国家は、『利益』だけで動くわけではない」

「歴史、アイデンティティ、ナショナリズムが」

「戦争を引き起こすこともある」

「これが、コンストラクティビズムの視点です」

「...つまり」

藤堂が言った。

「『経済的合理性』だけでは、国家は動かない、ということか」

「ええ」

八重樫が頷いた。

「人間も国家も、感情や物語に動かされる」

「相互依存がどれだけ深まっても」

「『相手を許せない』という感情があれば」

「戦争は起きる」

________________________________________

【藤堂の苦悩】


藤堂は、椅子に深く座り込み、天井を見上げた。

「...では、どうすればいいんだ?」

藤堂が苦しそうに言った。

「経済でも、歴史でも、感情でも戦争は起きる」

「何を信じればいい?」

八重樫は、少しだけ表情を和らげた。

「総理...」

「『ひとつの理論で世界を説明しようとする』から迷うんです」

「戦争を防ぐには」

八重樫が続けた。

「複数の理論を組み合わせた、『多層的な秩序』が必要です」

「経済だけでもダメ」

「軍事だけでもダメ」

「価値観だけでもダメ」

「多層的な...秩序...」

藤堂が繰り返した。

「ええ」

八重樫が説明した。

「国連の限界を理解しつつ」

「地域機構、分野別ルール、危機管理...」

「それらを組み合わせる、『新しい秩序』です」

藤堂は、ゆっくりと息を吐いた。

________________________________________

【新しい決意】


「...私は」

藤堂が言った。

「世界をつなげれば、戦争はなくなると信じていた」

「だが、それだけでは足りないのか」

「ならば...」

藤堂の目が、光を帯びた。

「『どう組み合わせればいいのか』を」

「考えなければならない」


八重樫は、静かにうなずく。

「その通りです、総理」

「それを考えられるのは」

「今の世界で、藤堂総理だけです」

「私も応援します」


藤堂は、机に置かれた世界地図を見つめた。

その目には、迷いと同時に、新しい決意が宿り始めていた。

*経済的協力だけでは足りない*

*軍事力だけでも足りない*

*価値観だけでも足りない*

*ならば、すべてを組み合わせる*

*多層的な秩序を*

*それが、私の答えだ*


窓の外、東京の空が広がっていた。

藤堂は立ち上がり、世界地図を手に取った。

「八重樫さん」

藤堂が言った。

「これから、新しい戦いが始まります」

「世界をつなぐだけでなく」

「世界を守る仕組みを作る」

「それが、私の使命です」

八重樫は、深く頷いた。

「私も、共に戦います」

「あなたのブレーキ役として」

「そして、あなたのパートナーとして」

二人は、固く握手を交わした。

________________________________________

【その夜・書斎】


「八重樫さんの指摘は、厳しかったわね」

アルが言った。

「ああ」

藤堂が頷いた。

「でも、正しかった」

「私は、経済的協力だけで世界が平和になると思っていた」

「でも、それは甘かった」

「どうするの?」

アルが聞いた。

「多層的な秩序を作る」

藤堂が答えた。

「経済、軍事、価値観」

「すべてを組み合わせる」

「そして、世界を守る仕組みを作る」

「...大変な道になるわよ」

アルが言った。

「わかってる」

藤堂が微笑んだ。

「でも、やるしかない」

「誠司さんとの約束だから」


窓の外、月が輝いていた。

*新しい戦いが始まる*

*多層的な秩序を*

*世界平和への道を*

藤堂は決意を新たにした。

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第17話 完

次回:第18話 「エージェントはロックミュージシャン」

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