第16話「総理大臣の秘書」
《これまでのあらすじ》
「藤堂誠司」として総理大臣就任を果たした朝霧翔は、族議員の実態暴露を行うなど国内の改革を進めていった。続いて日米首脳会談を成功させ、経済安全保障への取り組みとして外交にも力を注いだ。そして田中丈太郎が総帥を務める秘密組織「トルグ」の全貌が明らかとなり、藤堂との協力関係が築かれた。ところが、その藤堂が二度目の総裁選で勝利を手にした直後、信頼している秘書官の吉村が過労で倒れた。
《主な登場人物》
アルテミス(アル) … AI軍師
美咲 … 藤堂誠司の妻
彩花 … 長女
健太 … 長男
吉村隆 … 政務担当秘書官
橘麗子 … 内閣官房長官
藤堂龍一 … 誠司の祖父(故人)
田中丈太郎 …龍一の友人でトルグの総帥
ミネルヴァ(ミネル)…トルグのAI
高橋俊介…トルグのメンバー
磯村匠海…トルグのメンバー
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1.政務秘書官 吉村隆
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【閣議後・官邸】
事務秘書官の浅沼が、悲痛な顔で言った。
「総理、吉村さんが倒れて救急車で運ばれました」
「えっ、どうしたんですか?」
藤堂が聞いた。
「総理もご存じの通り」
浅沼が説明した。
「吉村さんのような政務秘書官は、日常的にとてもハードな仕事なのですが」
「特にこのところ忙しくされていて」
「休日返上で毎日夜遅くまで仕事をされていたので心配はしていたのですが」
「極度の過労で、とうとうダウンされたようです」
「付き添った者の話では」
浅沼が続けた。
「幸い命に関わる状態ではないようですが」
「数日間休養が必要だと医者は言っているそうです」
「今は病院で点滴を受けています」
「そうだったのですか」
藤堂が言った。
「そんなに働き詰めだったとは」
「私の配意が足らなかった」
「大変申し訳ないことをした」
吉村秘書は、幸いにも軽症だった。
医師は、一時的な過労であり、休養が一番の薬であると言った。
総裁選後当面のスケジュールは、吉村が書面に記載してあった。
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【その夜・書斎】
「党内人事は前もって決めているので問題なし」
藤堂が言った。
「次は国会での首相指名・総理就任だが」
「それまでには吉村さんも復帰できるだろう」
「それまでは、アルに秘書をしてもらおう」
「いいけど、給料は高いわよ」
アルが答えた。
「アル、私が今更こんなことを聞くのはおかしいんだけど」
藤堂が聞いた。
「総理大臣の政務秘書官って、どんなことをしているのかというと...?」
「翔は吉村秘書の仕事ぶりを見ているから」
アルが説明を始めた。
「吉村秘書のやり方は別として」
「一般的な政務秘書官の実務を説明するわね」
「まず第1は、総理の政治判断の補佐」
「重要政策の方向性を助言したり」
「国会情勢などを分析して報告し」
「総理の意思決定を支える政治参謀の役割ね」
「総理の政治判断を支えてくれている」
「第2は、官邸と与党・官僚組織の調整役」
アルが続けた。
「各省庁の局長・審議官からの報告を整理して」
「総理に必要な情報を取捨選択して伝達してくれている」
「秘書官室の秘書たち全員を束ねるのも政務秘書官の役目」
「第3は、総理のスケジュール管理」
「これにはスケジュールをこなせるように時間配分をする」
「言い換えると、スケジュールを設計するという役割も含まれる」
「それと会議の設計もしているわね」
「第4は、危機管理対応」
アルが続けた。
「災害・事件発生時に、色々な段取りあるいは調整を行って」
「総理の補佐を行うのよ」
「第5は、機密事項の管理」
「機密文書の取り扱いはもちろん」
「総理の指示内容の秘匿や」
「外交・安全保障情報の管理などもやってくれている」
「第6は、総理の意思を官邸全体に伝達する司令塔の役割」
アルが締めくくった。
「これらが全部、吉村秘書の仕事よ」
「重要で難易度の高い仕事ばかりだから」
「単なるマネージャーとは全くレベルが違うわね」
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【資料の表示】
「総理大臣の秘書の種類や人数などは」
アルが言った。
「誠司さんの資料を画面に出すから見て」
画面に資料が表示された。
《総理大臣の秘書》
総理大臣の秘書の人数は公式には公開されていないが、推定される人数は次の通り。
① 内閣総理大臣秘書官(官邸側)
「官邸に所属する秘書官」で、国家公務員
内訳:
- 政務秘書官:1名または2名
- 事務秘書官:6名程度
(外務省、財務省、厚生労働省、経済産業省、防衛省、警察庁の各省庁から1人ずつ出向)
② 議員秘書(総理の議員事務所側)
総理は同時に「衆議院議員」でもあるため、議員としての秘書もいる
人数(法律で決まっている):
- 公設秘書:3名
- 公設第一秘書
- 公設第二秘書
- 政策秘書
- 私設秘書:人数制限なし(通常2~5名程度)
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【藤堂の気づき】
「私には大勢の秘書がいるが」
藤堂が言った。
「中でも吉村さんが担当している政務秘書官が」
「やはり一番重要だということは知っている」
「吉村さんにものすごく支えられていたことを」
「今回のことで実感したよ」
「それと同時に、彼の能力の高さにも感心した」
藤堂が続けた。
「今更こんなことを言ったら、幻滅されるだろうな」
「今頃気づいたのかと思われるから」
アルが笑った。
「ここだけの話にした方がいいわね」
「でも、折に触れて感謝の気持ちを表すことが必要かもしれない」
「吉村さんの激務を少しでも軽くするために」
藤堂が言った。
「早めに秘書を雇うようにしよう」
「私もそれがいいと思うわ」
アルが頷いた。
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【吉村秘書業務復帰の日】
「吉村さん、申し訳ありませんでした」
藤堂が言った。
「あなたが激務に追われていたことに」
「全く気づいていなかった訳ではありませんが」
「甘えてしまっていました」
「いえ」
吉村が答えた。
「かえって心配をおかけしてしまいました」
「私は大丈夫です」
「藤堂先生が、まるで自分の人生をすべて注ぎ込むように」
吉村が続けた。
「この国を変えようと突き進んでいる時に」
「私も休むわけにいきません」
「私は生まれてこの方」
「今ほど充実した日々を送れたことはありません」
「これからも私の力の及ぶ限り」
「誠心誠意職務を全う致します」
「ありがとうございます」
藤堂が言った。
「私はあなたのような秘書官と共に仕事ができて」
「本当によかった」
「いつも感謝しています」
「でも、あなたは真面目すぎます」
藤堂が続けた。
「自分の体も労ってください」
「これからは無理をなさらず」
「体調管理をしながら仕事をしてください」
藤堂が一呼吸置いて言った。
「先日もお伝えしましたが」
「もう一人、政務秘書官を雇います」
「どういう人がいいとか、希望はありますか?」
「藤堂先生がいいと考えた方なら」
吉村が答えた。
「異論は申しません」
「仕事に誠実な方なら、それで構いません」
「ありがとうございます」
藤堂が言った。
「それでは、私の方で探させていただきます」
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【その日の午後・官邸】
藤堂は、橘官房長官と話していた。
「吉村さんは退院されましたが」
藤堂が言った。
「今後あのようなことにならないよう」
「もう一人、政務秘書官を雇おうかと思っているんです」
「過去の総理でも、政務秘書官を2名おいている方が多いみたいなので」
「それはいいと思います」
橘が答えた。
「吉村さんは一人で大変そうですからね」
「誰かがこき使っているみたいだし...」
「私が振り回していたことは確かだね」
藤堂が苦笑した。
「吉村さんの助けになる政務秘書官となると」
藤堂が考えた。
「国政に関与した経験があって、専門的な知識があるとか」
「連絡・調整能力があるとか」
「そういった人物を探す必要があるんだろうな」
これに対して、橘は意外なことを言った。
「吉村さんを二人作る必要はないんじゃないでしょうか」
「えっ?」
藤堂が聞き返した。
「吉村さんは経験豊富で優秀な方です」
橘が説明した。
「政治のこと、政治家のこと、国会のこと」
「総理大臣のことに詳しい人が、既にいらっしゃる」
「それなら、別のタイプの人を選んで補完する」
橘が続けた。
「つまり、もう一人は」
「総理の考えを理解して動ける人」
「いちいち指示されなくても」
「総理のやるべきことを踏まえて」
「総理がやりやすいように動ける人...」
「藤堂総理はこれまでの総理大臣とはひと味違うので」
橘が微笑んだ。
「その藤堂総理と波長が合う人であれば」
「経験云々はいらないんじゃないの」
「なるほどな」
藤堂が頷いた。
「ひと味違う総理に、ひと味違う秘書官か...」
窓の外、東京の空が広がっていた。
*私と波長が合う人*
*総理の考えを理解して動ける人*
*そんな人が、いるだろうか*
藤堂は考え始めた。
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2.新秘書 神宮寺美波
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【数日後・官邸】
藤堂が、木村大臣と打ち合わせをしていた。
木村優子環境大臣。
民間人閣僚で、NGO代表。
「橘官房長官から伺ったのですが」
木村が言った。
「総理は政務秘書官をお探しらしいですね」
「私の知り合いで、適任じゃないかと思う人がいるんです」
「神宮寺美波という人なんですが」
「考え方が総理によく似ていて」
「ぴったりなんじゃないかと...」
「彼女は学生の頃から、途上国支援のボランティア活動を長年やっていて」
木村が説明した。
「私のNGOとも関わりが深いので、よく知っているのですが」
「とにかく真っ直ぐな性格で」
「それでいて、自分のことは放っておいてでも」
「困っている人を助けたいという、『利他』のお手本のような方だし」
「私たちNGOにとっては、その精神を人格化したような感じの方なのです」
木村が続けた。
「それでいて、辛い労働も笑顔でこなす」
「とってもいい子なんです」
「ちょうど先日、活動先の仕事が節目を迎えて」
「日本に帰っているんですよ」
「先日、都内で彼女と会う機会があったので」
木村が言った。
「『長年、あなたは十分すぎる貢献をしたのだから』」
「『そろそろ日本に落ち着いて、私と一緒に仕事をしない?』って誘ったんです」
「すると彼女は『まだまだやり残していることがたくさんある』と言いながらも」
「『親も結婚のことを心配してるしな』と言って」
「まんざらでもなさそうだったんです」
「うちのNGOに来てくれると、すごくうれしいと思っていたのですが」
木村が続けた。
「昨日、橘官房長官との話の中で」
「総理が秘書を探されていると伺って」
「それなら、全世界に目を向けている藤堂総理と一緒に仕事をする方が」
「すごくやりがいがあるんじゃないかと思ったんです」
「よろしければ、一度会ってみられてはどうでしょうか?」
木村が提案した。
「神宮寺美波?」
藤堂が聞き返した。
*ひょっとして、あの人か?*
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【その夜・書斎】
「アル、神宮寺美波という人を調べてくれ」
藤堂が言った。
「分かったわ」
アルが答えた。
数分後。
「28歳。NGOで活動中」
アルが報告した。
「評価は高いわ。どうしたの?」
「彼女を、私の秘書にしたい」
藤堂が答えた。
「なぜ?」
アルが聞いた。
「...昔、一緒にボランティアをした仲間なんだ」
藤堂は画面を見つめた。
「彼女なら、私の理念を理解してくれる」
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【数日後・官邸】
「木村環境大臣からお話をいただきまして、参りました」
神宮寺が言った。
「神宮寺美波と申します」
「木村大臣には『私には総理大臣の秘書なんて務まりそうにないです』と」
「お断りしたのですが」
「藤堂総理にお目にかかって決めたらどうかと、薦められまして...」
「あなたは大学3年生のとき」
藤堂が言った。
「カンボジアで途上国支援活動をしていましたね」
美波は驚いた。
*なぜ知っているの?*
朝霧翔は、その時、高校3年生。
一緒にボランティア活動をしていた。
「途上国の悲惨な様子を見て」
藤堂が続けた。
「『苦しんでいる人々を助けたいけど、お金が全く足りない』」
「『なのに、お金を持っている国々は、人を殺すための兵器に莫大なお金を使っている』」
「『やりきれない思いだわ』と」
「いつも言ってたそうですね」
美波は息を呑んだ。
*なぜ、そんなことまで...*
「私もあなたと同じ意見だ」
藤堂が続けた。
「兵器にお金を使う、今の世の中を変えたい」
「私だけでは微力かもしれないし」
「日本だけで出来ることでもないけれど」
「少しでも世の中を変えたいと思っている」
藤堂の目が真剣だった。
「協力してくれないか?」
「今の世の中、どこかおかしいと気づいている人は多いが」
「この世の中を変えるのは無理だと思いこんでいる」
「あなたには、忌憚のない率直な意見を聞かせてもらい」
「参考にしたい」
美波は、なぜ総理が自分のことを知っているのか不思議に思いつつ、彼の熱意を感じた。
「私に出来ることは限られてますが」
美波が答えた。
「協力させていただきます」
*どうして、朝霧翔しか知らないようなことを知っているのか*
*すごく気になる*
彼女は、藤堂が朝霧翔だということを知らないまま、強い要請を受け、秘書となった。
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【ある日・官邸執務室】
神宮寺は藤堂総理の政務秘書官となり、吉村から毎日指導を受けている。
「藤堂先生、資料をお持ちしました」
神宮寺が書類を差し出した。
「神宮寺さん」
藤堂は真剣な顔で言った。
「私を先生と呼ぶのは、やめてくれませんか」
「え?」
美波は驚いた。
「私は教師でもないし、医師でもない」
藤堂が言った。
「あなたの師匠でもありません」
「だから、あなたに先生と呼ばれる理由はない」
「でも、皆さん先生と...」
美波が言いかけた。
「先生と呼ばれるのが当たり前になると」
藤堂の目が鋭くなった。
「相手を見下してしまう」
「お世辞ばかり言う人の話ばかり聞くようになったら」
「終わりだと思う」
神宮寺は息を呑んだ。
「藤堂さん、でいい」
藤堂が言った。
「...分かりました、藤堂さん」
美波が答えた。
「それでは、藤堂さんも私のことは『美波』と呼んでください」
美波が提案した。
「『神宮寺』って響きが、すごく堅いと思いませんか?」
「いつも海外で仕事しているときは」
「『美波さん』とか『美波ちゃん』とか呼ばれていたんで」
「そのほうが慣れてるんですよ」
「わかった。そうするよ」
藤堂が微笑んだ。
「美波さん」
*そうだった*
藤堂は心の中で思った。
*俺も、美波先輩って呼んでたな*
神宮寺は深く頭を下げた。
*この人...*
*今までの政治家と違う*
窓の外、東京の空が広がっていた。
*新しい秘書*
*新しい仲間*
*そして、新しい戦いが始まる*
藤堂は決意を新たにした。
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3.第2次藤堂内閣始動
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【首相指名選挙】
数日後、衆議院・参議院で首相指名選挙が実施された。
どちらも藤堂が過半数を獲得して、指名が確定した。
そして皇居での首相親任式・閣僚認証式を経て、第○○代内閣総理大臣に正式に就任し、同日夜、前内閣が総辞職し、第2次藤堂内閣が発足した。
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【首相官邸・記者会見室】
カメラのフラッシュが一斉に光る。
壇上には藤堂誠司総理。
背後には、橘官房長官をはじめ新閣僚たちが整然と並ぶ。
女性閣僚が半数以上を占め、民間出身の顔も見える。
前列中央には、八重樫仁幹事長の姿。
その落ち着いた表情が、政権の安定感を象徴していた。
藤堂総理が、自信あふれる堂々とした口調で言った。
「本日、第2次藤堂内閣を発足させました」
「前回の内閣を、私は『ベストチーム』と呼びました」
「しかし今回は、さらに一歩進めます」
記者たちがざわめく。
藤堂は一拍置いて、言葉を続けた。
「この内閣は——『フロンティアチーム』です」
「『フロンティアチーム』とは、どういう意味でしょうか?」
記者が質問した。
「前回は、理想の布陣を整えることが目的でした」
藤堂が答えた。
「今回は、未知の領域に踏み出す覚悟を示すチームです」
「行政改革、デジタル化、人口減少対策、外交の再構築——」
「どれも前例のない挑戦です」
「その最前線に立つ人材を集めました」
「閣僚20名中、女性が12名」
藤堂が続けた。
「民間出身が3名」
「前回と同じく、専門性と多様性を重視しました」
「ただし、派閥からの要請で指名した2名については、今回は外しました」
「政権運営において、しがらみを排し、純粋に能力で選ぶ体制にしました」
「派閥との関係が悪化する懸念は?」
別の記者が質問した。
「派閥の意向よりも、国民の期待に応えることが優先です」
藤堂が答えた。
「それが私の政治の原点です」
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【八重樫幹事長の発言】
八重樫が静かに頷く。
彼の存在が、藤堂の言葉に重みを与えていた。
「八重樫幹事長、総理の方針をどう支えますか?」
記者が質問した。
「藤堂総理の改革は、理想論ではなく現実的な設計図です」
八重樫が答えた。
「私は慎重な性格ですが、今回は迷いません」
「この『フロンティアチーム』を、確実に前へ進めるのが私の役目です」
その言葉に、記者席の空気が変わる。
慎重派の八重樫が「迷わない」と言い切った瞬間、政権の方向性が明確になった。
「この国は、変化を恐れてはいけません」
藤堂が続けた。
「私たちは、未知の領域に挑む『フロンティア』です」
「国民の皆さんとともに、新しい時代を切り拓いていきます」
カメラのシャッター音が再び響く。
その瞬間、第2次藤堂内閣の幕が正式に上がった。
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【翌朝・官邸記者会見室】
官邸のロビーには、報道陣がずらりと並んでいた。
新内閣発足の翌日、注目は藤堂総理の次に——橘官房長官へと向けられている。
カメラのライトが点灯し、橘が登壇する。
黒のスーツに白のブラウス、髪を後ろでまとめた姿は、まるで戦場に立つ司令官のようだった。
「おはようございます」
橘が言った。
「第2次藤堂内閣の発足を受け」
「本日より新体制の運営を開始いたします」
記者たちのペンが一斉に走る。
橘は一瞬も視線を逸らさず、淡々と、しかし力強く言葉を紡ぐ。
「総理は、前例のない課題に挑む覚悟を示されました」
「この内閣は、未知の領域に踏み出す『先駆者』の集まりです」
「それが『フロンティアチーム』という名に込められた意味です」
「前回、派閥要請で入閣した2名を外したことが波紋を呼んでいますが?」
記者が質問した。
「総理は能力本位で人事を決められました」
橘が答えた。
「派閥の意向よりも、国民の期待に応えることを優先した——」
「それが藤堂政権の原則です」
記者席がざわめく。
橘は一歩も引かない。
その声には、藤堂の信念が宿っていた。
「『多様性』を重視する姿勢は継続ですか?」
別の記者が質問した。
「はい」
橘が答えた。
「多様性はこの政権の『エンジン』です」
「異なる視点が政策を強くする。それが藤堂総理の考え方です」
「官房長官として、政権の『顔』をどう務めますか?」
さらに別の記者が質問した。
「私は総理の言葉を補い、時に守り、時に前に出ます」
橘が答えた。
「情報を正確に伝えることが、国民との信頼を築く第一歩です」
「最後に、官房長官として一言お願いします」
記者が言った。
橘は一瞬だけ微笑み、カメラをまっすぐ見つめた。
「この政権は、挑戦を恐れません」
「『フロンティアチーム』は、国民とともに未来を切り拓く」
「そのために、私はここに立っています」
フラッシュが一斉に光る。
その瞬間、橘麗子は「政権の盾」から「政権の矛」へと変わった。
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窓の外、東京の空が広がっていた。
*第2次藤堂内閣*
*フロンティアチーム*
*新しい戦いが始まる*
藤堂は決意を新たにした。
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第16話 完
次回:第17話「八重樫との対話」
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