第15話「最終決着」
________________________________________
1.地方遊説とSNS
________________________________________
【奈良駅前・特設ステージ】
総裁選告示から一週間。
藤堂誠司は、地方遊説の初日を迎えていた。
奈良駅前の広場には、平日の昼にもかかわらず、若者を中心に人が集まっている。
「総理...すごい人数です」
吉村が言った。
「地方遊説で、こんなに若者が集まるなんて...」
「SNSの力だな」
藤堂が答えた。
「若者が政治に興味を持ち始めている」
橘官房長官が腕を組んで言った。
「あなたの『デジタル論』が刺さったのよ」
「若者は、未来を語る政治家を求めているわ」
「そうか...なら、応えないとな」
藤堂が微笑んだ。
橘はわずかに微笑んだ。
*若者の反響は大きいわ*
*あなたの強みが生かせるはずよ*
________________________________________
【藤堂の演説】
ステージに立つと、広場が一気に静まり返った。
「今日は、未来の話をしに来ました」
藤堂の声は、マイク越しに広場全体へ響いた。
「日本は今、少子高齢化、デジタル化の遅れ、国際競争力の低下...」
「多くの課題を抱えています」
若者たちが真剣に耳を傾ける。
「でも、悲観する必要はありません」
藤堂が続けた。
「日本には、まだ『伸びしろ』がある」
「それを引き出すのは、政治の役目です」
藤堂は、まっすぐに若者たちを見つめた。
「行政手続きはすべてオンラインに」
「教育は個別最適化」
「医療はデータ連携で効率化」
「AIとロボットで、働き方を変える」
若者たちの目が輝き始める。
「未来は、作れる」
藤堂が力強く言った。
「そのために、政治が変わらなければならない」
広場が揺れた。
「藤堂さん、頑張って!」
「未来を語れる政治家はあなたしかいない!」
「デジタル化、絶対に必要!」
歓声が広がる。
吉村は、その光景を見て震えていた。
「...総理、すごいです」
吉村が言った。
「若者が、こんなに...」
「若者は、未来を求めている」
藤堂が答えた。
「それに応えるのが政治だ」
SNSで「藤堂旋風」が起ころうとしていた。
________________________________________
【SNSの反応】
遊説の様子は、若者たちが次々とスマホで撮影し、SNSに投稿していった。
《藤堂総理、奈良市で神演説》
《政治に興味なかったけど、この人は違う》
《未来を語れる政治家って初めて見た》
《デジタル化、マジでやってほしい》
トレンドには、次々と藤堂関連のワードが並ぶ。
「総理!」
吉村が興奮した声で言った。
「『藤堂旋風』が全国トレンド1位です!」
「そうか...だが、浮かれるなよ」
藤堂が言った。
「浮かれていいわよ」
橘が言った。
「これは『本物の支持』よ」
「橘さん...珍しく褒めるな」
藤堂が微笑んだ。
橘はそっぽを向いた。
「...別に褒めてないわよ」
「事実を言っただけ」
________________________________________
【諏訪部派本部】
「なんやこれは...」
諏訪部が叫んだ。
「SNSが藤堂だらけやないか!」
「若者の支持が急上昇しています」
秘書が報告した。
「地方遊説の動画が拡散されて...」
「若者なんぞ、選挙に来んやろ!」
諏訪部が吐き捨てた。
「総裁選は党員票もありますので...」
秘書が言った。
「若者党員の動きが...」
「くそっ...」
諏訪部が拳を握った。
「ネットなんぞ信用ならん!」
*完全に時代遅れだ*
秘書は心の中でそう思った。
________________________________________
【ホテルラウンジ・結城陣営】
「藤堂さんは勢いがありますね」
結城が言った。
「でも、勢いだけでは勝てません」
「結城さんはどう動くおつもりですか?」
中堅議員が聞いた。
結城は微笑んだ。
「私は、静かに票を積み上げます」
「派閥にも、若手にも、中堅にも」
「『無難な選択肢』として」
*漁夫の利を狙っている*
議員は心の中でそう思った。
________________________________________
【夜・ホテル・スイートルーム】
遊説を終え、ホテルに戻った藤堂は、窓の外の夜景を見つめていた。
「総理...今日の反応、すごかったです」
吉村が言った。
「ああ」
藤堂が頷いた。
「だが、ここからが本番だ」
橘が近づき、静かに言った。
「...あなたの戦いは、もう『党内の戦い』じゃないわ」
「どういう意味だ?」
藤堂が聞いた。
「あなたは今、『国民の支持』を背負って戦っている」
橘が答えた。
「これは、総裁選という名の...『国民投票』よ」
藤堂は、ゆっくりと頷いた。
「なら、勝つしかないな」
橘は微笑んだ。
「...ええ。あなたなら勝てるわ」
窓の外、夜景が広がっていた。
*未来を語る*
*それが俺の戦い方だ*
*そして、勝つ*
藤堂は決意を新たにした。
________________________________________
2.投票の行方
________________________________________
【党本部・総裁選会場】
総裁選当日。
党本部の大ホールは、張り詰めた空気に包まれていた。
国会議員票と党員票——
合計約760票。
1回目の投票で過半数に届かなければ、上位2名による決選投票となる。
「それでは、第一回投票の結果を発表します」
司会者が言った。
会場が静まり返る。
________________________________________
【第一回投票結果】
スクリーンに数字が映し出される。
諏訪部泰介—— 圧倒的な議員票
藤堂誠司 —— 圧倒的な党員票
結城宏明 —— どちらもそこそこ
吉村隆は息を呑んだ。
「総理...!」
吉村が言った。
「議員票では負けていますが、党員票では圧勝です!」
「わかってる」
藤堂が答えた。
「問題は...結城さんの票がどちらに流れるかだ」
橘官房長官が腕を組んで言った。
「結城さんは『無難な選択肢』として票を集めた」
「その票がどちらに流れるかで、勝敗が決まるわ」
「...結城さんは、どちらを選ぶ?」
藤堂が聞いた。
橘は少しだけ目を細めた。
「あなたの『未来』か、諏訪部さんの『安定』か」
「どちらを選ぶかで、彼の政治家としての本質が見えるわね」
________________________________________
【諏訪部の動揺】
第一回投票が終わり、決選投票に向けて各陣営が慌ただしく動き始めていた。
諏訪部泰介は、結果が映し出されたスクリーンを見つめながら、眉間に深い皺を刻んでいた。
*議員票は圧倒的なはずだった*
*なのに、数字が微妙に「足りない」*
*おかしい。誰かが裏切っとる*
その瞬間、側近が耳打ちした。
「諏訪部先生...」
側近が小声で言った。
「若手の一部が『藤堂さんに流れる』という噂が...」
諏訪部の表情が変わった。
*結束が崩れ始めとる*
*このままでは、藤堂に持っていかれる*
諏訪部は、静かに立ち上がった。
________________________________________
【党本部・別館応接室】
夜の党本部は静まり返っていた。
その静けさの中、諏訪部は結城宏明を呼び出した。
結城は穏やかな表情で迎えた。
「諏訪部さん。こんな時間に...どうされました?」
結城が聞いた。
諏訪部は椅子に腰を下ろすと、いきなり本題を切り出した。
「結城くん。単刀直入に言うで」
諏訪部が言った。
「わしに票を回してくれんか?」
結城は驚いたように眉を上げた。
「...私に、ですか?」
「ああ。君の票だけやない」
諏訪部が続けた。
「君を支援しとる議員にも声をかけてほしい」
結城は黙って聞いている。
諏訪部は続けた。
「閣僚の椅子を約束する」
「外務でも厚労でも、好きなポストをやる」
「君の実務能力は認めとる」
結城の目が細くなった。
「...諏訪部さん。どうして私に?」
結城が聞いた。
諏訪部は、少しだけ視線をそらした。
「...君のところの若手が、藤堂に流れとる」
諏訪部が言った。
「わしの派閥でも、何人か怪しい動きがある」
結城は静かに頷いた。
*情報は耳に入っていた*
*結束の乱れ...*
*諏訪部さんも気づいているのか*
「わしは勝ちたいんや」
諏訪部が続けた。
「このままやと、藤堂に持っていかれる」
「君の力が必要なんや」
________________________________________
【結城の決断】
結城は、ゆっくりと深呼吸した。
そして、穏やかな声で言った。
「諏訪部さん。お気持ちは理解します」
「ですが——」
結城の目が鋭く光った。
「私は、閣僚の椅子のために政治をしているわけではありません」
「...!」
諏訪部が息を呑んだ。
「私を支援してくれた議員たちも同じです」
結城が続けた。
「『未来をどうするか』を考えて投票します」
諏訪部は焦りの色を見せた。
「結城くん...君は現実主義者やろ?」
「藤堂は理想論や。君ならわかるはずや」
結城は静かに首を振った。
「藤堂さんは理想論ではありません」
「『必要な改革』を語っているだけです」
結城は、諏訪部の目をまっすぐ見つめた。
「諏訪部さん。私はあなたを尊敬しています」
「政治家としての経験も、組織力も」
「ですが——」
結城の声は、静かだが揺るぎなかった。
「あなたの政治は、もう時代に合っていません」
「私は、未来に投票します」
諏訪部は息を呑んだ。
「ですから...」
結城が言い切った。
「あなたのご提案は、お受けできません」
諏訪部は、しばらく何も言えなかった。
________________________________________
【諏訪部の矜持】
やがて、諏訪部はゆっくり立ち上がった。
「...そうか。君は、そういう男やったな」
諏訪部が言った。
「申し訳ありません」
結城が答えた。
諏訪部は、苦笑いを浮かべた。
「いや...謝る必要はない」
「君の言う通りや」
「わしの政治は、昭和のままやったんかもしれん」
「...」
結城は黙って聞いていた。
「結城くん。君はええ政治家になるで」
諏訪部が言った。
「わしが保証するわ」
そして、静かに部屋を出ていった。
その背中には、敗北の悔しさではなく、政治家としての"矜持"があった。
________________________________________
【結城の独白】
諏訪部が去った直後。
結城は深く息を吐いた。
*これで、私の役割は終わった*
*あとは藤堂さんに託すだけだ*
________________________________________
【藤堂陣営・永山議員の訪問】
その頃、藤堂の控室では——
ドアがノックされ、吉村秘書が顔を出す。
「総理...永山議員が、お会いしたいそうです」
吉村が言った。
「永山さんが?」
藤堂が聞いた。
「はい...是非お伝えしたいことがあると」
吉村が答えた。
藤堂は頷き、「どうぞ入ってください」と声をかけた。
ドアが開き、永山義博が入ってきた。
スーツは上質だが、どこか落ち着きがない。
「そ、総理...いや、藤堂先生」
永山が言った。
「ちょっと...内緒でお伝えしたいことがありましてね」
「どうしたんですか、永山さん。そんなに慌てて」
藤堂が聞いた。
永山は周囲を見回し、吉村に目で「席を外してくれ」と合図する。
吉村は一礼して部屋を出た。
永山は声を潜めた。
「...諏訪部派の結束が、崩れ始めています」
永山が言った。
「...どういうことです?」
藤堂が聞いた。
永山は喉を鳴らし、さらに声を落とした。
「テレビ討論ですよ。あれを見て...」
「『諏訪部さんでは勝てない』と判断した議員が出てきたんです」
「...」
藤堂は黙って聞いた。
「特に若手と中堅」
永山が続けた。
「『昭和の政治』に未来はない、と」
「あなたの言葉に心を動かされた議員が」
「諏訪部派の中からも出てきている」
「...離反が?」
藤堂が聞いた。
永山は深く頷いた。
「はい。決選投票では、諏訪部さんに入れない議員が一定数出るでしょう」
「私の耳に入っただけでも...十数人はいます」
「十数人...」
藤堂が繰り返した。
「ええ。つまり『諏訪部さんでは未来がない』と」
永山が言った。
「そう判断した議員が、静かに動き始めている」
藤堂は腕を組み、しばらく黙った。
「藤堂先生のお役に立てたでしょうか」
永山が聞いた。
「永山さん。ありがとうございます」
藤堂が答えた。
「その情報、確かに受け取りました」
永山は安堵の息をついた。
「い、いえ...私はただ...」
「あなたのような人が総理でいてくれた方が」
「この国のためになると思っているだけです」
*この人らしいな*
藤堂は心の中で思った。
*永山さんは例によって見返りを口に出さない*
*友人としては好感が持てるが*
*政治家としては物足りない*
*もっとしたたかであるべきだ*
藤堂は微笑んだ。
「永山さん。これからも、よろしくお願いします」
永山は深く頭を下げ、控室を後にした。
________________________________________
【風向きが変わる】
吉村が戻ってくる。
「総理...永山さん、何を?」
吉村が聞いた。
「...風向きが変わり始めているらしい」
藤堂が答えた。
「風向き...?」
吉村が聞き返した。
藤堂は静かに言った。
「諏訪部派の結束が、崩れ始めている」
吉村は息を呑んだ。
「...総理...それって...!」
「ああ」
藤堂が頷いた。
「決選投票...勝てるかもしれない」
控室の空気が変わった。
「孤立無援」だった戦いが、「時代のうねり」へと変わり始めていた。
________________________________________
3.決選投票
________________________________________
【党本部・総裁選会場】
「それでは、決選投票の結果を発表します」
司会者が言った。
会場が静まり返る。
橘官房長官は、腕を組んだまま藤堂を見つめていた。
「大丈夫、あなたなら勝てるわ」
橘が言った。
「橘さん...ありがとう」
藤堂が答えた。
吉村は祈るように手を握りしめている。
スクリーンが切り替わる。
________________________________________
【結果発表】
◆国会議員票
藤堂誠司 :179票
諏訪部泰介:116票
◆都道府県連票
藤堂誠司 :39票
諏訪部泰介: 8票
藤堂誠司、総裁選圧勝
歓声が上がる。
会場が揺れた。
「藤堂さん!」
「おめでとうございます!」
「未来が始まる!」
若者たちが、中堅議員たちが、党員たちが、拍手を送る。
藤堂は支持者に挨拶した。
「皆さん、ありがとうございます!」
橘が藤堂の肩に手を置いた。
「...おめでとう」
橘が微笑んだ。
「日本の未来があなたを選んだのよ」
藤堂は静かに目を閉じた。
「...ここからだ」
「日本を変えるのは」
「おめでとう。やったわね」
アルが言った。
「お疲れ様」
「ありがとう」
藤堂が答えた。
「君のレクチャーのお陰だよ」
「あなたの実力よ」
アルが言った。
「他の2人とは迫力が違ったもの」
「誠司さんから受けた、日本を変えるという使命」
藤堂が言った。
「その力が、私を動かしてくれたんだと思う」
________________________________________
【その夜・ホテルの部屋】
藤堂は窓の外を見た。
*誠司さんとの約束*
*それは総理になることじゃない*
*日本を、そして世界を変えることだ*
*誠司さん、見ていてくれ!*
*俺はやる*
夕方まで降っていた雨が上がり、雲間から月が顔を出していた。
________________________________________
【翌朝・首相官邸】
藤堂はいつもの通り、吉村秘書からのレクを受けていた。
本日の日程、議題となっている政策の背景、動向、政府の公式見解など。
必要事項をわかりやすく、簡潔に伝えてくれる。
いつもと変わりない日常だと、藤堂は思っていた。
*誠司さんは、いい秘書を見つけたものだな*
藤堂は心の中でそう思った。
________________________________________
【その日の午後】
藤堂は閣議を終えて、官邸に戻った。
すると、事務秘書官の浅沼が駆け寄ってきて、藤堂に言った。
「総理、吉村さんが...」
「えっ?」
________________________________________
第15話 完
次回:第16話 「総理大臣の秘書」
________________________________________




