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第12話「娘との約束・長崎へ」

________________________________________

1.長崎旅行

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【ある日・自宅】


妻と2人きりのリビングルーム。

藤堂が言った。

「美咲、彩花との約束のことなんだけど」

「長崎旅行ね」

美咲が答えた。

「でも気にしなくていいのよ」

「あの頃は、彩花もあなたが総理大臣になるなんて思ってなかったんだもの」

「総理が家族旅行に行くのがどれだけ大変なのか、彩花もよくわかってるから」


「それでも約束したことなんだから」

藤堂が言った。

「連れて行ってやりたいんだ」

「それで、彩花の夏休みはちょうど国会閉会中だから」

「いくつか候補日を勝手に決めて、宿を押さえてるんだ」

「予定を空けておいてくれるか」

美咲は微笑んだ。

「わかったわ」

「彩花と健太には、長崎旅行とは言わないで空けておくように言っておく」


「そうはいっても、行けるかどうかはなんとも言えないが...」

藤堂が申し訳なさそうに言った。

「もし行けなくても、あなたのせいじゃないわ」

美咲が言った。

「それくらい彩花もわかってる」

「もう高校三年生なんだもの」


藤堂は、美咲の手を握った。

「ありがとう」

________________________________________

【数日後・官房長官室】


「橘さん、来月上旬」

藤堂が相談した。

「比較的スケジュールが空いているんだが...」

「家族旅行を、予定したいんだ」


橘は微笑んだ。

「いいじゃない!どこへ?」

「長崎だ」

藤堂が答えた。

「娘との約束で...もう何度も延期してしまって」


「そう」

橘が立ち上がった。

「じゃあ絶対に行きなさい」

「こっちのことは気にしないで」

「思いっきり家族とのひとときを満喫してきて」

「でも...」

藤堂が言いかけた。

「大丈夫よ、任せて」

橘が藤堂の肩を叩いた。

「私がいる間は、何も起こらせないから」

「総理だって人間よ」

「家族との時間は大切にしなさい」


藤堂は深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「いいのよ」

橘が微笑んだ。

「娘さんによろしくね」

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【閣議後】


他の閣僚たちも集まってきた。

「総理、長崎旅行、楽しんできてください!」

「お土産待ってます」

「カステラお願いします!」


藤堂は皆の顔を見回した。

*この人たちに支えられている*


「ありがとうございます」

藤堂が言った。

「行ってきます」

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【彩花に報告】


「彩花」

藤堂が娘を呼んだ。

「何?お父さん」

「来月、長崎に行くぞ」

藤堂が言った。

「家族4人で」


彩花の顔がパッと明るくなった。

「本当!?」

「ああ。約束を守る」

彩花が飛び跳ねた。

「やった!」


その笑顔を見て、藤堂は胸が温かくなった。

*待たせてしまったけど、行けることになった*

*藤堂さん、約束、守りますよ*

________________________________________

【出発の日・羽田空港】


7月のある朝。

藤堂家4人は、羽田空港にいた。


「お父さん、早く早く!」

彩花がはしゃいでいる。

「彩花、走っちゃダメよ」

美咲が注意した。

「でも嬉しいんだもん」

健太も笑っている。

「俺も楽しみ」


藤堂は家族の様子を見て、微笑んだ。

*こんな光景、いつぶりだろう*

*総理になってから、初めてかもしれない*


周囲には、控えめに配置されたSPたち。

一般の乗客に気づかれないよう、距離を保っている。

「藤堂総理」

SPのリーダーが近づいてきた。

「搭乗の準備が整いました」

「ありがとう」

藤堂が頷いた。

「でも、できるだけ目立たないようにお願いします」

「承知しております」

SPが下がった。


「お父さん」

彩花が藤堂の腕を引いた。

「飛行機、乗ろう!」

「ああ、行こう」

藤堂は娘の手を取った。

*今日から2泊3日*

*総理ではなく、父親として過ごす時間だ*

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【機内】


窓側の席に座った彩花が、外を眺めている。

「お父さん、雲がきれい」

「そうだな」

藤堂が答えた。

美咲が隣で微笑んでいる。

「久しぶりね、家族旅行」

「ああ」

藤堂が言った。

「本当に、久しぶりだ」

健太がイヤホンで音楽を聴いている。


*こんな平和な時間*

*これが、俺が守りたいものだ*

藤堂は窓の外を見た。

青い空が広がっていた。

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【長崎空港到着】


「着いた!」

彩花が喜んだ。

「長崎だ!」

「彩花、声が大きいわよ」

美咲が笑った。

藤堂家は、空港からタクシーに乗り込んだ。

SPの車が、さりげなく後ろをついてくる。

「お父さん、どこ行くの?」

健太が聞いた。

「まずは、平和記念公園だ」

藤堂が答えた。

「それから、原爆資料館」

「明日は、五島列島に行く」

「五島列島!」

彩花が目を輝かせた。

「楽しみ!」


タクシーの窓から、長崎の街が見えた。

*この街も、かつては戦火に包まれた*

*でも、今はこんなに平和だ*

藤堂は、家族の笑顔を見た。

*この笑顔を守るために、俺は戦っている*

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【平和記念公園】


藤堂家は、平和祈念像の前に立った。

静かな公園。

観光客がまばらにいる。


「お父さん」

健太が小さな声で聞いた。

「ここで、原爆が落とされたの?」

「ああ」

藤堂が頷いた。

「1945年8月9日」

「たくさんの人が亡くなった」

彩花が祈念像を見上げている。

「...」

美咲が藤堂の手を握った。

「平和って、当たり前じゃないのよね」

藤堂は頷いた。

「ああ」

「だから、守らなければならない」

4人で、黙祷を捧げた。

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【原爆資料館】


資料館の中は、静かだった。

展示を見ながら、4人は無言で歩いた。

焼け焦げた衣服。

溶けたガラス瓶。

被爆者の写真。

彩花の目に、涙が浮かんでいた。

「お父さん...」

「彩花」

藤堂が娘の肩を抱いた。

「こういう歴史があったから、今の平和がある」

「忘れてはいけないんだ」

彩花は頷いた。

「うん」


健太も、真剣な顔で展示を見ている。

*子供たちに、伝えなければならない*

*平和の尊さを*

藤堂は決意を新たにした。

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【その夜・宿】


長崎の夜景が見える部屋。

「きれい...」

彩花が窓から夜景を眺めている。

「長崎の夜景は、世界新三大夜景の一つなんだよ」

藤堂が言った。

「すごい」

彩花が感動している。


「明日は、五島列島だぞ」

藤堂が言った。

「楽しみ!」

彩花が笑った。


美咲が部屋の奥から声をかけた。

「お風呂の準備できたわよ」

「やった!」

健太が飛び跳ねた。

藤堂は、家族の笑顔を見た。

*この時間が、何よりも大切だ*

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【翌日・長崎の街】


長崎の街を歩きながら、藤堂は健太に語りかけた。

「健太、坂本龍馬は知っているか?」

「うん、授業で習ったよ」

中学生の健太は、父と一緒に歩きながら答えた。

「龍馬は、薩長同盟締結の立役者となった男だ」

藤堂が説明した。

「この長崎は、その坂本龍馬のゆかりの地なんだよ」

「へえ」

「ここ長崎で『亀山社中』という商社を設立してな」

藤堂が続けた。

「武器調達などの貿易の傍ら、西洋の進んだ技術や情報を取り込んだんだ」

藤堂は海を見つめた。

「坂本龍馬は、28歳で脱藩し、33歳で暗殺されるまでの約5年間...」

*そう、たったの5年間*

10年が短いだなんて言ってられないな

「たったの5年間で、日本を変えている」

藤堂は健太の肩に手を置いた。

「健太も、これから高校、大学と進むだろう」

「自分が何をやりたいのか、少しずつ考えていくといい」

「うん」

健太は真剣な顔で頷いた。


*これから成長するにつれて分かってくれるだろう*

藤堂は微笑んだ。

________________________________________

【五島列島】


翌日。

五島列島の古びた教会。

彩花が静かに祈りを捧げていた。


「彩花」

藤堂が声をかけた。

彩花が振り返った。

「彩花はここにもう一度来たいと言ってたんだよな」

藤堂が聞いた。

「うん」

彩花が答えた。

「この場所、すごく印象に残ってる」

彩花は教会を見上げた。

「小さい頃ここに来て、なぜ印象に残ったのか」

「今わかった気がする」

「...」

藤堂は静かに娘の言葉を待った。

「私たちが今、幸せに暮らせているのは」

彩花の声が、静かに響いた。

「過去の人たちのおかげだと思うの」

「弾圧に苦しんだ潜伏キリシタンの人たち」

「世の中を変えようとして、抵抗に遭った人たち...」

「ああ」

藤堂が頷いた。


「この古びた教会を見ると」

彩花が続けた。

「『歴史』だけじゃなく、『人々の悲哀』も感じたのかな」

藤堂は、娘の成長を感じた。


「彩花は、将来何をしたいと考えているのかな?」

「お父さんみたいに、政治家になりたい」

藤堂は驚いた。

「本当か?」

「うん」

彩花が答えた。

「お父さんは言ってたでしょ」

「『子供たちの未来を明るくするために、日本という国を立て直す』って」

「ああ...」

「未来がどうなるかは、今生きている私たちにかかっているのよね」

藤堂の目に、涙が浮かんだ。

「そうか、政治家になりたいか」


「いえ、でもお父さんみたいじゃないな」

彩花が笑った。

「橘官房長官みたいに、格好いい女性になりたい」

「お父さんみたいにじゃないのか?」

藤堂が言った。

二人は顔を見合わせて笑った。

少し離れたところで、美咲も健太も笑った。

温かい笑い声が、教会に響いた。

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【その夜・宿】


藤堂は一人、窓の外を眺めていた。

*誠司さん、あなたとの約束は果たせたかな?*

*家族を大切にする。彩花に勉強を教える。健太と遊ぶ*

*そして、長崎にもう一度連れてくる*

*全部、できたよ*

藤堂の頬を、涙が伝った。

*あなたの家族と、いい思い出が作れた*

*ありがとう、誠司さん*

月明かりが、静かに部屋を照らしていた。

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【帰路・長崎空港】


帰りの飛行機を待つロビー。

「楽しかったね」

彩花が言った。

「うん」

健太も頷いた。

美咲が藤堂の手を握った。

「いい旅行だったわ」

「ああ」

藤堂が答えた。

「本当に、来て良かった」

「お父さん」

彩花が言った。

「また来ようね、家族みんなで」

「ああ」

藤堂が微笑んだ。


「また来よう」

*約束を守れた

彩花の笑顔が見られた*

*これが、俺の幸せだ*

藤堂は、家族の顔を見た。

*誠司さん、見ていてくれたかな*

*あなたの家族は、幸せですよ*


搭乗アナウンスが流れた。

「さあ、東京に帰ろう」

藤堂が立ち上がった。

「うん!」

家族4人は、ゲートへ向かった。

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【翌日・総理官邸】


「総理、お帰りなさい」

橘が微笑んだ。

「ただいま」

藤堂が答えた。

「どうでした?」

「最高でした」

藤堂が言った。

「娘が、政治家になりたいと言ってくれて」

「まあ!」

橘が目を輝かせた。

「それは嬉しいわね」

「でも、橘さんみたいに格好いい女性になりたいって」

「私のようなではなく」

藤堂が笑った。

「あら」

橘が笑った。

「それは光栄ね」

「今度、娘さんと会わせてください」

「ええ、是非」

藤堂が頷いた。


「さあ」

橘が真剣な顔になった。

「休暇は終わり。ここからが本番よ」

「総裁選が、近づいてきている」

藤堂は頷いた。

「ああ」

「始めましょう」


窓の外、東京の空が広がっていた。

*家族との時間を大切にしながら*

*日本の未来のために戦う*

*それが、俺の使命だ*

藤堂は決意を新たにした。

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2. どうしてそんなに頑張れるの?

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【数日後・深夜の執務室】


藤堂は、家族旅行の余韻に浸ることなく、山積している公務を捌くため、連日深夜まで官邸に残っていた。

そこへ、橘官房長官が資料を持って入ってきた。

「先日はお土産をありがとうございました」

橘が言った。

「閣僚のみんなも喜んでいましたよ」

「まだ仕事してるの?」

藤堂は書類から顔を上げた。

「橘さんもでしょう」

「私は官房長官だから」

橘は椅子に座った。

「でもあなたは...」


「藤堂総理、一つ聞いてもいい?」

「何ですか?」

藤堂が答えた。

「あなたをそこまで突き動かしているものは何?」

橘が真剣な顔で聞いた。

「どうしてそんなに頑張れるの?」


藤堂は少し考えた。

「祖父のことは、橘さんも知っているでしょう」

「ええ」

橘が頷いた。

「道半ばで政界を追われた...」

「その無念を晴らしたい」

藤堂が言った。

「それも確かにあります」

藤堂は窓の外を見た。

「でもそれだけじゃない」

「...というと?」

橘が聞いた。

「過去の総理大臣を見ていると」

藤堂が続けた。

「総理になることがゴールだと勘違いしている人が何人もいた」

藤堂は橘を見た。

「そうじゃない」

「総理大臣になって何を成し遂げるか。それが全てです」

「総理大臣になることは、大きな使命を果たすための手段に過ぎない」

橘は黙って聞いていた。

「私は病気で、死の淵まで行った」

藤堂の声が低くなった。

「あの時死んでいたら、何もできないまま人生が終わっていた」

「...」

橘は静かに藤堂を見つめた。

「幸運にも生き延びた」

藤堂が続けた。

「ならば、やるしかないでしょう」

藤堂は苦笑した。

「それに、あの病気は再発の可能性が高い」

「のんびりしているわけにはいかないんです」


橘は深く息をついた。

「あなた、本当に...」

「おかしいですか?」

藤堂が聞いた。

「いいえ」

橘は微笑んだ。

「あなたは、私が今まで見た中で、最高の総理大臣よ」

藤堂は少し照れくさそうに笑った。

「買いかぶりすぎです」

「いいえ、本当よ」

橘は立ち上がった。

「でも、無理はしないで」

「あなたが倒れたら、この国が困るんだから」

「はい、気をつけます」

藤堂が答えた。

「じゃあ、私は帰るわ」

橘が言った。

「あなたももう寝なさい」

「もう少しだけ...」

藤堂が書類に目を戻した。

橘は呆れたように首を振った。

「本当に頑固ね」

そう言って、橘は部屋を出た。


一人残された藤堂は、再び書類に目を落とした。

*10年。俺に与えられた時間は、たった10年*

*手を止めるわけにはいかない*

窓の外、東京の夜景が広がっていた。

そして、彼には数ヶ月後、総裁選という大仕事が待っていた。

________________________________________

第12話 完

次回:第13話「二度目の総裁選」

________________________________________


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