純粋が一番怖いかも
――――っ。
光がだんだん落ち着いてきたな。
恐る恐る目を開けると、草原に立たされていた。
何もない、地平線しか見えない。
あれ、ダンジョンはどこに? 消えた……のか?
「カガミヤさん、大丈夫ですか?」
「あ、リヒト。うん、だいじょ――――」
後ろから声が聞こえ、振り向くと大きな建物。
なるほど、向いていた方向が逆だっただけか。
やべっ、普通に恥ずかしい。
「どうしたんだ、カガミヤ。早くここから離れないと危ないぞ」
え、危ない?
「それって、どういうことだ?」
「ダンジョンは、冒険者がクリアすると崩れちゃうんだ」
え、崩れる?
マジか、それなら確かに早く離れた方がよさそうだな。
「でも、アルカ。魔力は残ってる?」
「少しだけ。でも、ワープを使える程ではない」
「私もあまり残ってない…………」
…………めっちゃ二人が俺を見てくるんだけど。
「…………”アビリティ”」
俺が使える魔法って、たくさんあり過ぎて逆に覚えられねぇんだよ。
さっき、二人は当たり前のようにワープと言っていたなぁ。
誰もが持っている魔法なんだろう。
魔法一覧のページをめくると、あった。
最後の方にワープって書かれている。
どうやって使えばいいんだろう、どこにワープすればいいんだ?
「どこにどうやってどうすればいいの?」
「セーラ村に戻りたいから、それを頭に描き、唱えてくれ」
「俺はその村を知らんのだが? いけるか?」
「わからない。でも、やってみてくれないか?」
「わかった」
あいまいだなぁ、言われた通りにするしかないからやるけどよ。
「セーラ村へ、ワープ」
唱えると、足元からいきなり炎が渦を巻くように現れ、俺の近くにいる人達を全て包みこむ。
驚く間も与えず、身体が浮遊感に襲われ視界が真っ黒になった。
※
ドン!!
――――――っいた!!!!!
腰が、腰が……。
腰に大ダメージ、くっそ、なるほどな……。
ワープって、体を魔力で包み込み、目的の場所へ飛ばすのか。
瞬間移動という訳じゃないから、着地の際に足から体全体に衝撃が伝わっちまうと。
くそ、おじさんの身体への負担を考えろよ。
見た目は若く見えても体は衰えるんだぞ、二十八歳でも腰へのダメージは駄目だって。
若い二人はダメージを一切感じさせることなく、リヒトが駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか、カガミヤさん」
「大丈夫ではない。ここまで衝撃が強いなんて聞いてないぞ、事前に教えてくれ」
「まさか、そこまで痛がるとは思っていなくて、すいません……」
リヒトが肩を落とし謝罪をしてくれたのだが、ただの八つ当たりなんだよ俺のは。本気で落ち込まれると心苦しい。
苦笑いを浮かべていると、俺のことなどまったく気にしていないアルカが村の中に入ろうと呼んできた。
「何してんだよ、カガミヤ、リヒト。早く行こうぜ!!!」
俺の姿が見えてないのか?
もう少し俺を気にしろ、労われよ。
「まったく……。痛みも治まってきたからいいけどよ」
さてさて、村の中はどんな感じだぁ~??
――――人が沢山居て、めっちゃ賑わっている明るい村という印象だな。
三角屋根の建物が並び、通路の端には野菜や果物が売られている。
村の人達はみな仲がいいのか楽しそうに話し合い、笑い合っていた。
す ご く う る さ い。
耳が痛い、入りたくない、気持ち悪い、人酔いしそう。
俺の髪を掴んでいた精霊は、たくさんの人に驚き姿を消してしまった。
「おーい、早く行こーぜ!!」
「わかったって……」
行くしかねぇか。行って、早く報酬をもらいたい。
もらいたいんだが、俺は、人混みが大の苦手。
一度人混みの中に入ると、胃の中にあるものが込み上げてくんだよ。
そんなんだから同僚の前で吐いて、めちゃくそ心配されたんだよなぁ。いい思い出だ。
わかったと言いながら動こうとしない俺を、リヒトが覗き込んできた。
「カガミヤさん、顔青いですが大丈夫ですか? やはり、無理をさせすぎてしまったのでしょうか」
「ダンジョンの件はどうでもいい。この村が俺を殺しにかかっているだけだ」
「え、もしかしてモンスターの気配を感じているのですか!? どこ? 今すぐに対処しなければこの村の人達が危険に晒されちゃう!! ただでさえ盗賊とか他にも危険がたくさんあるのに!!」
杖を強く握りしめ直し、村へと強い眼差しを向けるリヒト。
ふざけているわけではないらしい。
本気でこの村にモンスターがいると信じているみたいだ。
これに関しては、俺が悪い。
「すまん、そういうわけではない」
「え、でも、顔色悪いですよ? 無理しないでください」
っ、ちょ、人との距離近すぎない?
いきなりリヒトが俺の頬に手を添えてきたんだけど? 不安そうに見上げてくるんだけど?
リヒトは見た目、普通に可愛い系の女子。
こんなことされたら男としてはテンション上がるシチュエーションじゃないか? 餓鬼に興味ない俺みたいなおじさん以外なら。
いや、今はそんなことを考えている暇はないか。
リヒトの手を離させ、心配いらないと納得してもらわないと。
「単純に人の集まる場所が苦手なだけだ。人酔いって知ってるか?」
「あ、そうなんですね。でも…………」
先に行ってしまったアルカを心配しているのか、リヒトが視線を彷徨わせる。
ここで立ち止まっていても仕方がないし、行くしかないか。
「はぁ、行くぞ」
「でも…………」
「報酬を貰わなきゃだろうが。金の為に、俺は生きる」
村の中に足を踏み入れ歩き出すと、後ろから足音が聞こえ始めた。
ちらっと横目で見ると、リヒトがしっかりと付いて来ている。まだ不安そうだけど。
まったく……、不安がりすぎだってぇの。
今日出会ったばかりの俺なんて、どうなろうがお前には関係ないだろう。
なんでこんなに心配されないといけないのよ。
なんか、むずがゆい。
「本当に、そんな心配しなくてもいい。今日出会ったばかりの奴がどうなろうと、お前には関係ないだろう。それか、力が欲しいのか? それならお前らから今離れるのは俺も得策ではない。今のところは一緒にいるぞ」
言うと、さらに不安そうに眉間に深い皺を寄せてしまった。
って、なんか、泣きそう!? なんで!?
「私は、ただ心配なんです。力なんて関係ない。貴方が辛そうだから、私は不安なんです」
本当に、純粋だな。
こんなに純粋な奴、今まで出会ったことがない。
どう接すればいいんだ?
「……今の俺は人に酔っているだけだ、命にかかわる病気とかではない。だから、心配無用、休めばよくなる」
優しく撫でてあげると、震えていたリヒトの身体が、徐々に落ち着いてきた。
良かった良かった。
「ほれ、もう行くぞ。アルカが多分待ってる。早く道案内してくれ」
「わかりました」
まだ少しだけ不安そうだけど、道案内はしてくれるみたいだ。
純粋って、本当に怖い。
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