イケメンな俺が悪いのか周りの人が悪いのか……
それからは――本当に最悪だった……。
「はぁぁぁぁぁぁあああ……」
「お疲れ様です」
「グレール。思っていた以上なんだが? お前、わざと軽く話しただろう」
あれがグレールの言っていた“作戦”。
いや、作戦というより――結末だ。
確かにあれは、俺も全力で避けるべきだった。
今さらながら、心の底から後悔している。
婚約破棄まで話を持っていき、王妃から解放された俺は、部屋へ戻る途中だった。
ロゼ姫は申し訳なさそうな顔をしており、グレールは俺の肩を担いで支えてくれている。
ヒュース皇子はホッと胸をなでおろしているが――
おい。
お前の安心のために俺が犠牲になったんだぞ。
そこは少しは申し訳なさそうにしろ。
部屋に戻ると、落ち着きなく待っていたアルカとリヒトが、すぐに駆け寄ってきた。
「どうだったんだカガミヤ!!」
「お話はできましたか!?」
だが、俺はすぐに答える気力がない。
視線だけで一番冷静そうなヒュース皇子に助けを求め、そのままベッドにダイブした。
「あぁぁぁああ……」
「相当疲れているみたいだが、本当に何があったんだ?」
「それが…………」
ヒュース皇子が代わりに説明してくれた。
さっきまでの出来事を。
「実は、王妃は面食いらしくてな。イケメンや可愛い者に目がない。そのため、見た目だけはいいチサトは、頬や髪などを揉みに揉まれ、体力を削られたようだ」
やめろ。思い出したくない。
「それだけでなく、王も王でなぜかチサトに激怒し、『人妻に手を出すなど!!』と怒鳴り散らしていた」
知らんがな。
「何とか宥めたのだが、チサトはすでにボロボロ。最後の力を振り絞って婚約破棄の話だけを終わらせた。ちなみに、婚約破棄は成功だ。私が女性というだけで論外。さらにチサトの見た目のおかげで王妃の機嫌も良く、お咎めもなしだった。――報酬も、王が怒ってしまったため、なしになってしまったが」
はぁぁぁああ……。
報酬、五十万。二百万ほしいと願っていたら、五十万すらもらえなくなってしまった。
なんで、俺は何のために顔をもみくちゃにされたんだ?
意味は? 何のために俺はここまで疲れているんだ?
「なぜ婚約破棄が成功したのかは謎ですが……成功したのなら良かったです」
「よくわからないな……。そんな簡単に婚約破棄だのなんだのと決めてもいいのか?」
リヒトとアルカの疑問はもっともだ。
俺も、よくわからない。
「今回は無事に終わったけど、また次がありそうじゃない? 冗談抜きに、知里をロゼ姫の婚約相手にしようとしているみたいだったし」
「え!?」
アマリアの言葉に、真っ先に反応したのはリヒトだった。
慌てて俺とロゼ姫を交互に見ている。
――やばい。
リヒトが暴走する。
「それは絶対にありえません」
「それは絶対にありえない」
……声がかぶった。
ロゼ姫と俺が同時に否定すると、周囲はぽかんと口を開けて固まった。
アマリアだけが腹を抱えて笑っている。
「はぁ、はぁ……。あー、おかしい。うん、ありえないよね」
「笑いすぎだぞアマリア、このやろー」
まあいい。
婚約破棄はできた。報酬は、もらえないみたい、だけど……。
いや、待て。
「ヒュース皇子は、今回の結末、満足だろ?」
「そうだな。婚約破棄もできて、感染症もどうにかなった。感謝してもしきれんかもしれんな」
そうか、その言葉、絶対に忘れさせないからな。
「感謝なら、わかってるよなぁ? なぁぁああ!!」
「目が、怖いんだが……?」
ヒュース皇子に詰め寄り、言う。
仕方がないだろ、俺はいま心で血の涙を流しているんだから。
「そうだな。一応父に話す。報酬は出してくれるだろう」
「いくらだ!!」
「百万は約束する。それ以上はわからん」
百万、か。
まぁ、いいか。
本当は二百万ほしいくらいだが、今回は疲れもあるしここまでにしといてやる。
…………フェアズとの戦闘よりきつい。
「あの、チサト様」
「ん?」
「冒険者とは、危険と隣り合わせなのですか?」
「え? いきなりどうしたんだ?」
ロゼ姫の質問に少し驚く。
「まあ、ダンジョン攻略は命がけだし、管理者に目をつけられている俺と行動すれば、今回みたいにアマリアやフェアズみたいな化け物と戦うこともある。命がいくつあっても足りないくらいだ。それがどうした?」
なぜそんなことを聞くんだ?
すると――
「私も、冒険者になってみたいです」
「え? な、なんで!? 今、命の危険があるって言ったよな!? なんでそんな目を輝かせてるんだ!?」
助けを求めるようにグレールを見ると、肩をすくめた。
「ロゼ姫は、これまで周囲に守られて生きてきましたから。刺激のあることをしてみたい願望があるようです」
つまり――
遊び感覚で冒険者になりたいってことか?
それはさすがに無謀だろ……。
「……あっ、もしかしてロゼ姫様。前にお話ししてくださったことですか? 私たちが羨ましいと仰っていた……」
「あら、覚えてくださっていたのですね、リヒトさん」
ロゼ姫はリヒトの手を取り、無表情のまま目を輝かせた。
「やはり可愛らしい方は心も澄んでいますね。他人の何気ない言葉まで覚えていてくださるなんて、素敵です」
「え、い、いえ……ロゼ姫様のお言葉だったので覚えていたと言いますか……」
「それはつまり、リヒト様は私のことを意識してくださっているということでしょうか?」
「い、いや、それはまた別といいますか……」
……めちゃくちゃ困ってるじゃねぇか。
リヒトの手を握り、無表情で迫るロゼ姫。
完全にたじたじのリヒト。
やめてやれ。
「それで、羨ましいって何の話だ?」
助けを求めるようなリヒトの視線を受け、話題を強引に戻す。
ロゼ姫の肩を軽く叩き、俺は問いかけた。
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