愛しの彼への想い
オスクリタ海底に戻ると、グレールがお出迎えしてくれた。
「時間稼ぎは済みましたか?」
「時間稼ぎ言うな、そんなんじゃねぇよ」
「そうですか。では、さっそく明日、作戦を実行しましょう」
「…………」
…………まさか、こいつか?
アマリアが言っていた、修業に適した人物って。
この、ストーカー、強いのか?
そんなことを考えていると、すぐに城にたどり着いた。
中に入ると、ロゼ姫とヒュース皇子と合流出来た。
せっかくだし、部屋に戻る間に聞いてみるか。
「なぁ、ロゼ姫様」
「はい」
「お前の執事であるグレールなんだが、戦闘能力ってどのくらいなんだ?」
「グレールは、冒険者のランクで例えると確か……SSランクだったはずですよ」
「SSランク!?」
SSランクって……。
俺は確かSランク。そこからランクは上がっていない。
チート魔力をゲットしている俺より強いのか?
アマリアが言っていたのは確実にグレールだな。良い修業相手。
「なぜいきなりそのようなこと?」
「アマリアから聞いたんだよ。オスクリタ海底に、いい修業相手がいるよってな」
素直に言うと、ロゼ姫様が目を開き驚いた。
「まさか、本当に管理者であるアマリア様とお話しできたのですか?」
「まぁな。俺が来ることもわかっていたみたいで、待機していたよ」
またしてもロゼ姫様が驚いてしまった。
まぁ、驚くか、普通。管理者と普通に話せる一般人なんてなかなかいないだろうし。
「アマリアと話したのはこの際いいとして。グレール、今回の件が終わったら、修業相手に付き合ってもらってもいいか? もっと強くならんといけないらしいから」
「ロゼ姫が許可をしてくだされば」
またかい、めんどくさいな。
ロゼ姫様を見ると、まだ驚いてはいるが話は聞いてみたいで、小さく頷いた。
「付き合ってあげなさい、グレール」
「わかりました。では、今回の婚約の件が終わり次第、お付き合いします。…………無事に終われば」
「怖いことをボソッと言わないで!!」
マジで俺、めっちゃ、怖いんだからな!!
「あ、あの…………」
「いかがいたしましたか?」
ん? リヒトが手を上げた?
どうした?
「あの、その作戦と言うのがなにかわからないのですが、私では無理ですか?」
「え、リヒトが?」
思わず聞いてしまった。
な、なんでいきなりそんなことを聞くんだ?
「…………リヒト様でも大丈夫かと思いますが……」
グレールが俺を見る。
あの作戦は、流石にリヒトには刺激が強いだろうなぁ。
「リヒト、今回は嫌だが、本当に、嫌だが、俺が行く。無理すんな」
「…………無理しているのは、カガミヤさんではありませんか……」
「え?」
「なんでもありません」
あっ、リヒトが俺の隣を通りすぎ、前に出てしまった。
なにかを察したのか、ロゼ姫が「私に任せてください」と、リヒトを一つの部屋へと案内し始める。
残された男どもは、グレールに一つの部屋に案内され、そのまま放置されました。
な、なんやねん……。
※
リヒトをひとつの部屋に案内し、ロゼ姫は二人っきりの空間を作り出した。
リヒトはなんとなく気まずそうに、案内された部屋の中で立ち尽くす。
そんな彼女の隣に移動し、ロゼ姫は問いかけた。
「リヒトさん、貴方はチサトさんがお好きなんですね」
「へっ!? す、好きというかなんと言いますか! い、いや、好きですが―――って、好きというのはそういう好きではなくてですね!?」
顔を赤面させリヒトはごまかそうとするも、気持ちが前面に出すぎてしまい、言わなくても良いことまで言ってしまった。
そんなリヒトを、ロゼ姫は無表情のまま見つめている。
「あ、いや、その…………。すいません…………」
「いえ、私も唐突に変な質問をしてしまいました、申し訳ありません」
「い、いえ!! こちらこそです、すいません!!」
ロゼ姫が頭を下げ謝罪したことにより、リヒトは逆に平謝り。
慌てて顔をあげさせた。
「話は座りながらで」と、ロゼ姫はリヒトを一つのベッドに案内し、座らせた。
自分も隣に座り、前を向き話し出した。
「私が聞きたかったのは仲間として、友人として。あのお方がお好きなのかだったのですが、先ほどの反応でわかりました」
「うっ……」
最後の言葉でリヒトは肩を落とし、赤い顔を両手で隠す。
何とか冷まそうと頬をムニムニしているとロゼ姫が微笑み、リヒトの方に顔を向けた。
「貴方は、チサトさんが好きで。だからこそ、無理をしてほしくないのでしょう?」
「……はい。カガミヤさんは、めんどくさがったり、報酬がもらえないとなると全然やる気を出さない駄目な人なのですが…………」
今の言葉には、さすがにロゼ姫も何も言えず苦笑いを浮かべる。
彼女の困惑など気にせず、リヒトは言葉を続けた。
「ですが、一度自分で決めたことには最後まで責任をもってやりきるんです。なんでも、一人でやってしまうんです」
「お一人で、ですか?」
「はい。口ではめんどくさいだの、やりたくないだの言っており、顔にもそう書かれていますが、結局はやってしまうんです。それも出来てしまうので、私がいる必要がないんですよね」
リヒトは、情けない自分を誤魔化すように顔を伏せた。
彼女の様子を見て、ロゼ姫は首を傾げた。
「私はチサトさんとは初対面に近いです。なので、まだわからないことが多く、何も言えません。なので、代わりに質問をさせてください」
膝の上に置かれ、震えているリヒトの手を握り、微笑みながら顔を上げさせた。
「貴方は、何故あのお方とチームを組んでいるのですか?」
「え? それは、流れといいますか。カガミヤさんがこちらの世界に召喚され、ここに来た時に偶然私達が近くにいたから……」
「つまり、貴方達が居なければ、チサトさんは冒険者としてここまで上に登り詰められなかった。というということでしょうか?」
「それは結果論にすぎません。私達でなくても、カガミヤさんならここまで来ていたかと思います」
リヒトはどうしても、自分が知里と共に行動するに値しないという考えを改められず、悲し気に眉をひそめた。
今まで自分が役に立ったのは指で数えられる程度。
アルカは戦闘の補助や今まで勉強してきた知識で知里を助けている。だが、リヒトは回復くらいしか出来ていない。
時々拘束魔法で倒しやすくなどはしたがが、それくらい。
自分を認められず、悲観していた。
「私は、何も出来ていないのです。ただの役立たず。それは、私が弱いからなんです。弱いから、カガミヤさんが抱えてしまうんです。なので、私がもっと強くなれば、カガミヤさんは無理をしなくていいんです」
「…………それは、違うと思います」
目線だけを落としていたリヒトは、ロゼ姫の言葉に顔を上げた。
彼女の藍色の瞳を見て、何も話せなくなってしまった。
「私は、チームや仲間がわかりません。今まで、様々な方に守られて生きてきたため、冒険者の方達がどのような道を歩み、どのような苦難を乗り越え今に至るのかも想像すら出来ません。ですが、外から見ていた私からでも、言えることがあります」
一拍置き、ロゼ姫は口を開いた。
「冒険者は、誰か一人が強くなればそのチームが強いという訳ではない。仲間を心から信じ、お互い高め合えてこそ、本当の強さ。これだけは、私でも言えます」
「な、何故そう言い切れるのですか?」
「冒険者は皆、お互いを守っているように見えるからです。お互いに支え合い、高め合い。時には喧嘩をし、それでも仲間で乗り越えていく。そのような光景を、私は数々見てきたのです。そんな、素晴らしい世界を見てきたのです。なので、貴方達もそうなんだと思っております」
ここで一度言葉を切り、リヒトの紅色の瞳を見つめる。
すると、ロゼ姫は温かみのある柔和な笑みを浮かべた。
「貴方達三人は、お互いに高め合い、支え合えるチームと私は思っております。チサトさんも、何でも一人でやるのは不可能ですよ。必ず、貴方達の手が必要です。なので、役立たずなどと言わないでください。信じてください、仲間を。信じてください、貴方の愛しの人が信じている、自分自身を――………」
ロゼ姫の言葉に、リヒトは目を大きく開き、輝かせた。
先程までの不安は今の言葉により流れ落ち、下げられていた口角は微かに上がる。
顰められていた眉は元の整った形に戻り、下を向いていた紅色の瞳は真っすぐ、ロゼ姫を捉えた。
「そうですよね。仲間とは、お互い支え合う物。私、勘違いしていました。カガミヤさんに無理をさせたくない気持ちでいっぱいになっていました。助言をありがとうございます」
「いえ、お役に立てたのなら良かったです」
笑みを浮かべたロゼ姫につられ、リヒトもまた笑う。
クスクスと、安心したような笑みを浮かべ、二人は笑い合う。
「ふふっ。リヒトさん、私は貴方が羨ましいです。そこまでチームのために悩める貴方が」
「え、なんでですか?」
「先ほども言った通り、私は外で見ていることしか出来ません。冒険者達の戦いやチームの尊さを自身で感じられないため理解が出来ないのです。本当は、自身で感じて、冒険者の大変さを知り、命の大事さを感じたいのですが、私の立場ではそれは出来ません」
軽く笑うロゼ姫に、リヒトはなんと声をかければいいのかわからず、眉を下げ目線をさ迷わせていると、急にロゼ姫が立ち上がる。
「では、明日に備えて、今日はもう寝ましょう」
「は、はい」
まだ聞きたい事があったリヒトは、もう聞くことができなくなり、部屋から居なくなるロゼ姫をただただ見つめる事しか出来なかった。
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