表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/645

人間から神へ

 森の中で一人、傷ついた体を引きずりながら歩いている女性がいた。


 体の至る所には火傷の跡があり、黒いローブはぼろぼろ。

 足取りもおぼつかず、視界も歪んでいた。


「ちょっと、しくじったわね…………」


 憎しみの込められた言葉を吐き捨て、舌打ちを零す。

 体力の限界というように、木に背中を預け荒い息を整える。


 そんな彼女に、一つの影が近づいていく。


「こんな所で何しているの、フェアズ」


 上から降ってきた声に、フェアズは苛立ちながらも顔を上げた。


「貴方こそ、こんな所で何をしているのかしら。もしかして、笑いに来たの? 貴方にそのような趣味あったかしら」


 少年姿のアマリアを目の前に、フェアズはバツが悪そうに目を逸らす。


「まさか、君がここまでやられるなんてね。知里は強いけど、まだ実力は僕達に遠く及ばなかったはず。戦闘魔法をあまり持っていないフェアズでも、余裕で倒せるはずじゃん。なんで、ここまでやられたの?」


 アマリアが目を細め、問いかけた。


「話す必要はないわ。それと、私に関わらないでくれるかしら。今は気分が悪いの、貴方の顔を見たくないわ」


 体を引きずらせアマリアの隣を通り過ぎようとするが、手首を掴まれてしまった。

 舌打ちを零し、アマリアを睨みつけた。


「なによ」

「君、また一人で行動するつもり? さすがにこれ以上、勝手なことはされたくないんだけど」

「ギルドには一切迷惑かけていないと思うのだけれど? 知里に関しては、貴方が縛っていい人物ではない。なんで、そこまで言われないといけないのかしら」


 お互い睨み合う。

 何も言わないアマリアに対し、フェアズは言葉を続けた。


「誰も私を止められない。たとえ、《《元恋人》》の貴方でも、ね?」


 今の言葉に一切反応を見せなかったアマリアは、掴んでいた手を離す。


 すると、魔力が足元から舞い上がり、アマリアを包み込む。

 次に姿を現した時には、青年の姿へと変わっていた。


 ローブの中には、黒いスーツ。

 革靴を鳴らし、フェアズの隣に立った。


 急に青年姿へとなったアマリアに頬を染めるフェアズだが、すぐにかぶりを振り気を取り直す。


「な、なによ。まだ、何かあるの?」

「別に。ただ、さすがにその怪我をほっておくのは僕が嫌なだけ」


 言いながらさりげなくフェアズを横抱きにし、その場から歩き出した。

 スムーズすぎて反応出来なかったが、フェアズはすぐに現状を把握し、暴れ出した。


「ちょっと!! 下ろしなさいよ! 私は貴方にもう頼らない。貴方も私に構わないで!!」

「暴れると体に悪いよ。それに、僕なら普通に落とす。傷が悪化すると思うけど、大丈夫?」


 左右非対称の瞳に見下ろされ、暴れていたフェアズの頬がまたしても赤く染まる。

 うるさく鳴る心臓を誤魔化すように顔を逸らし、大人しくなった。


「ん、いい子」

「私はもう貴方と別れたの。貴方も、私がやっていたことに対して怒っていたじゃない。なんで、今更……」

「僕は振られた側だからねぇ。まだ未練たらたらなんだよ」

「それを本人目の前にして言えるのが貴方の凄い所よね……」

「事実だからね、嘘を言う必要性もないし」


 フェアズは言い返すのも馬鹿馬鹿らしくなり、もう、何も言わなくなった。

 その後は二人、何も話さずアマリアが歩く足音だけが響く。


 途中で雨が降り始め、アマリアが自身のローブをフェアズの身体にかけてあげた。


「ちょっと、余計な事しないでくれない?」

「僕はまだ君に未練があるの。このくらいはさせてほしい」

「必要ないわ、迷惑よ」

「傷に雨は駄目だよ。悪化するかもしれない」

「もう、本当に迷惑なの、辞めてくれないかしら!」


 我慢の限界というように怒りの形相で叫ぶフェアズを見下ろし、アマリアは取り乱す事はせず、目を合わせた。


「ずっと気になっていたのだけれど。君はなぜ、土地への執着がここまで強くなってしまったの?」


 アマリアから放たれた言葉に、フェアズは一瞬戸惑いを見せる。だが、すぐに気を取り直し鼻を鳴らした。


「当たり前でしょ? 村や国、町を管理するのが私の仕事だからよ。その中に、"人を守る"は入っていない。私は自分が守れるものが少ないから、優先して守っているだけ」

「それがおかしいんだよね」


 首を傾げながら、アマリアがフェアズの顔を覗き込む。


「な、なにがよ」

「君、昔はここまで割り切れる性格ではなかったでしょ? 管理者に入る前はもっと――……」


 アマリアが言うと、フェアズが突如、彼の胸ぐらを掴み、顔を青くし甲高い声で叫び出した。


「黙れ!!! それ以上口にするな!!」


 息を切らし、目を血走らせる。

 彼女の豹変に動揺することなく、アマリアは安全面を考え一度足を止めた。


「私達管理者は、クロヌ様に拾われた。死ぬ直前に、拾われたでしょ。その時、私達はクロヌ様の言葉に頷いたじゃない。『何を失ってでも、お前達は生きたいか』と聞かれた時に、迷わず」


 顔を俯かせ、胸ぐらを掴む手は微かに震える。


「…………私は、この選択を間違っていないと言い切れるわよ。命を失ってしまったら何も出来ない。私達を殺そうとした村の人達に、復讐が出来なかったじゃない」


 歯ぎしりをし、アマリアの胸ぐらを掴んでいた手がするりと落ちた。

 アマリアは目を細め、「そうだね」と、一言、言葉が落ちた。



 管理者になる前、家に火がつけられ同居をしていた二人、フェアズとアマリアは逃げ遅れ、焼かれてしまいそうになる。

 そんな二人の目の前に、一人の老人が姿を現した。


『何を失ってでも、お前達は生きたいか』


 その質問に、迷わず頷いたのは、フェアズだった。

 アマリアも遅れて頷くと、老人は二人に(魔石)を与えた。

 力を、魔力を与えた。


 二人はこの時から"人間"を捨て、"神"になる道を歩むこととなった。


 それにより、フェアズは性格が豹変。

 人間の頃では考えられない力を手に入れ、傍若無人となってしまった。


 アマリアは人間の時とは変わらず、手に入れた魔力も必要最低限でしか使っていない。


 フェアズの自由をアマリアは何度も叱り、喧嘩をした。

 そのうち、二人は別れてしまった。


 だが、アマリアにはまだ気持ちが残っており、今もこうして、フェアズを助けようと手を伸ばし続けている。


 そんな彼の手を弾き、手を取らないフェアズは、ただただアマリアの想いから逃げ続けていた。



「貴方は、なぜ恨まないの。私達は何もしていないのに殺されかけたのよ?! ただの妬みだけで!!」

「証拠がなかった。もしかしたら事故かもしれないし、不注意だったかもしれない。もう、三百年も前の話だ、今更どうでもいいよ」


 いつでも冷静なアマリアは、フェアズの言葉にも淡々と返し、再度歩き始めた。


 彼の言葉に、フェアズはもう何も返さず、ただただ運ばれる。

 下唇を強く噛んでしまっているため、血が流れ出ていた。


「私は、強いのよ。もう、誰にも負けない、殺されるなんて、ごめんよ」


 憎しみの込められた言葉に対し、アマリアは何も言わず、瞬きをした一瞬のうちに姿を消した。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ